愛は世界を救う ~※ただし手の届く範囲に限る ~   作:とり

22 / 41
読みづらいかも……


開戦待機①

 

 

 

 

ギシリ、と身体中の筋肉が密集する刃となり、耳障りに擦れるのを体感し、在るがままに言霊とする。

 

 

「 ──── “ 体は剣で出来ている ” 」

 

 

言霊を呼び水(キーワード)に自身の(うち)から解析し解明し投影し構成し──ようとして、構成に失敗する。

毎夜衛宮嗣郎が引き出す、いつも通りの結果(エラー)

 

カタチを成そうとして成せず、掌から散っていく数多の光の粒。

人の肉に戻っていく己が裡の肉。

 

「……まだ、駄目か」

 

投影しようとしたのは自身の裡に眠るもの。

かつて父に埋め込まれ、無数に分解されしかし確かに在った奇蹟。

 

──── 騎士王の鞘、 “ 全て遠き理想郷(アヴァロン) ” 。

 

 

「本物の宝具を解析()たから、今日こそいけないかと思ったんだが……」

 

嗣郎は十年前から、ほぼ毎日騎士王の鞘の投影に挑んでいる。

だが、一度たりとも成功したことがない。

 

 

嗣郎が投影できるものは、一度解析し固有結界(自身の裡)に取り込んだものだけだ。

原作で多くの宝具は目にしているが、実際に解析したわけではないので投影できず、この世界で目にして解析を成功させたものしか投影できない。

 

そして宝具などというものはそうそう目にできるものではない。

 

そもそも現存しているもの自体が限られている上に、現存しているからといってそれを気軽に展示しているはずもない。

博物館などで展示されている英雄の遺物はほとんどが模造品(レプリカ)だ。解析しても意味がない。

そして運良く本物だとしても英雄の遺物が全て特別な力を持つ宝具とは限らず、ただの固い剣や頑丈な盾でしかないものも多い。

さらに本物の宝具の破片だったとしても解析して全体を投影するには情報量が足りなかったりする。

 

 

とにかく、嗣郎が解析し投影できる宝具は数少ないのだ。

アインツベルンなどの人脈を利用してなお、嗣郎がまともに投影できる有用な宝具は十も無い。

 

原作に出てくるようなランクの宝具で言えば、 “干将・莫耶” “隔たれぬ光輝(クラウ・ソラス)” 程度。

後は “括り吊る灰鉄(グラアシーザ)” が呪具として高位なくらいか。

残念ながらエミヤのような多様な手札は無いのだ。ロー・アイアスのような強力な防御手段は特に欲しいのだが……。

 

 

そんな中で、 “ 全て遠き理想郷(アヴァロン) ” はとてつもなく魅力的だ。

 

絶対的な防御…否、遮断力。そして所有者の傷を癒す治癒能力。

どちらも戦いにおける切り札になりうる強力な効果だ。

 

そんなものが他の誰でもない自分の内部に置いてあるのだから、利用したくなるのは自然なことだろう。

自らの裡にある『本物の鞘』は担い手たる騎士王がいなければただの古びた鞘だが、それを解析し投影した贋作は『嗣郎の宝具』として使えるのだし。

 

 

だが、嗣郎がいくら投影しようとしてもこれまで成功したことがない。

自分の中にあるのだ、解析そのものは不可能ではない。

だが、その神秘を再現するには……嗣郎では『足りない』。

 

 

原作の士郎は自身の裡に鞘があることは知らず、解析などしていなかったにも関わらず、それを理解したときには投影に成功していた。

それどころかセイバーから流れてきた(記憶)で見ただけで騎士王が失った真なる聖剣を投影するなど、図抜けた投影の才を見せた。

 

だが同一存在であるはずの嗣郎にはそんなことはできない。

 

 

理由は簡単で、この『二人』には大きな違いがある。

 

『起源』だ。

 

 

例えば魔術の才が全く無い人間であっても、自分の起源に従う魔術だけは多少なりと扱うことができるという。

筋力が絶望的に他人に劣る人間が特定の運動種目だけは平均以上の結果を出すような理不尽。根本的な才の無さすら無視して適性を顕すのだ。

 

それほどに起源とは魔術の才覚、魔術師としての特性に大きく関わる。

 

 

そして起源も魔術特性もただひたすらに『剣』のみに特化した衛宮士郎と、

『受容』という広範な基盤に『剣』という魔術特性を上乗せしている程度の衛宮嗣郎。

『剣』に関わる能力において、大きな差が出ることになった。

 

 

そして二人の切り札である固有結界は、凄まじく強烈な特性と心象風景でこそ力を持つ。

余人に比べれば、いや奇人ばかりの魔術師と比べても遥かに尖っている嗣郎の心と特性だが、それも『剣』一つに成っている士郎ほどの偏り具合ではない。

 

はっきり言って、嗣郎の固有結界の強度は士郎の固有結界に劣る。

 

そしてエミヤシロウの魔術は全て、裡なる世界固有結界から零れ出た破片だ。

『剣』に限らず投影能力そのものが士郎に劣るのが現実。

 

 

さらに、さらにだ。

実は嗣郎の持つ魔術回路は原作士郎よりも、少ない。

原作士郎の『魔術回路を毎日一から生成する』という修行方法が多少なりと眠っている魔術回路を活性化させたのだろうと考えているが、嗣郎はあんな自殺のような修行を行っておらず、またその有用性を認識した現在でもリスクとリターンを考えて手を出さないことに決めている。士郎が生き残れたからといって嗣郎があれをやって死なないという保障は無いのだから。

 

 

なんにせよ、固有結界という基盤強度で劣り魔術回路という出力強度でも劣る嗣郎の投影は、再現率でも神秘の上限でも士郎には届かない。

 

 

ゆえに、最高位の神秘である“ 全て遠き理想郷(アヴァロン) ”がなかなか投影できないのだ。

ちなみに同様に高位神秘である『伝承多き必中必滅の光剣』“ 隔たれぬ光輝(クラウ・ソラス) ”も投影こそ可能ではあるがかなりランクが落ちており使い勝手が悪かったりする。

 

 

「……まぁ、仕方ない。後で固有結界の中で真名発動を見せてもらおう」

 

 

原作士郎にくらべて投影能力が低いとはいえ、嗣郎の魔術技能自体は低くない。逆に原作士郎よりはかなり高い。

なので神秘を理解し学ぶことができれば高位神秘の投影も可能……なはず。

 

現存する宝具の残骸は神秘を失った遺物に過ぎず、嗣郎が投影した宝具は贋作に過ぎない。

クーフーリンのゲイボルグやメディアのルールブレイカー ───本物の神秘である力ある宝具を目にして神秘への理解は深まったのは確かだ。

それだけでは騎士王の鞘の投影には届かなかったが、あるいは真名発動での神秘の真髄を目にできれば可能性はある。

さすがに無闇に発動できるものではないので、固有結界の中でゲイボルグの対軍発動でも見せてもらおうかと考える。

 

「……ついでに手合わせしてもらうか」

 

クーフーリンに観察対象になってもらうだけというのも何だ。

全力戦闘の相手になってもらうのもいいかもしれない。絶対的な力の差があるのだから手加減も余裕だろう。姉やメディアの治癒もあるし。

嗣郎を相手にクーフーリンが楽しめるかどうかは不明だが。

 

 

まぁ、少なくとも原作士郎よりはクーフーリンの相手にはなると客観的に考える。

嗣郎は確かに投影能力で劣るが、その代わりに『受容』起源ゆえの長所もある。

 

その最大のものが衛宮の魔術刻印だ。

 

 

本来、一族の魔術刻印は血を継ぐ者にしか扱えない。

魔術刻印とは家門の積み重ねた歴史を内包し体現する『生きる記録』だ。

魔術刻印はそれそのものが一族の血に最適化しており、持ち主の身体と魔術に合わせて成長してきた内臓のようなものだ。

 

いかに血を継いだ実子だろうと先祖とは別の血も混じる別人だ、継承者は臓器移植のように、否、それ以上に必ず拒絶反応に苦しむことになる。

半分は親と同じ血である実子ですらそうなのだ。全く別の血である他人ならばどうなるか、考えるまでもないだろう。

 

 

だが、衛宮嗣郎は世界のことごとくを『受容』する。

嗣郎が何かに拒絶されることはあっても、嗣郎が拒絶することは無い。

それが嗣郎の特性だ。

 

ゆえに嗣郎は魔術刻印の継承時、拒絶反応の一切が発生せず、容易に受容した。

通常なら数回に分け数年かかることも珍しくない刻印継承だが、嗣郎は拒絶反応が起こらないことが確認できたために一月もかからなかった。

 

そのため嗣郎は衛宮の魔術が使えるし、切嗣の教えを受けているので魔術師殺しの戦闘術も継承している。

一般的な魔術の適性がないことは変わっていないので魔術刻印に内包されていない魔術はまともに使えないのだが。

 

なんにせよ、衛宮家伝の固有時制御が使えるというだけでも士郎より戦闘能力は高いし、固有時制御の発展型といえる固有結界を保持していることもあり父切嗣より時間魔術の応用力もあったりする。

投影と合わせ、それなりの戦闘能力はあるつもりだ。

剣術はまともな師がいないので完全に我流だが……

 

と、そこでふと考える。

 

「…………いや、剣技の吸収のためには小次郎か?」

 

四人の中では投影も含めた戦闘経験を積むのにはクーフーリンがベストだが、あの完全我流でありながら『剣術は英霊でも随一』と言われた剣士を相手にするのも、いろいろと吸収できるものがあるのではないだろうか。

剣技で目標となる存在が手近にいないのは悩みだったのだ。

 

「よし、そうするか」

 

聖杯戦争開始までまだしばらくはある。

いつも夜の鍛錬は一人でやっていたが、せっかく勉強になる相手がいるのだから経験にしなければ損というものだ。

 

 

 

......................................................

 

 

 

 

「イリヤ、ちょっと聞きたいのだけれど……」

 

居間で魔術の修練をしていると、最近ほとんどの時間部屋に籠っているメディアおねーちゃんが顔を出した。

 

「どうしたのー?」

 

宙空に浮かべた無数の宝石片の色を絶えることなく変化させながら、顔だけで用件を尋ねる。

む、二個色合いが多少だけどズレた。咄嗟の集中力維持がまだ甘いわね……。

 

「素材として竜の生き血って無いわよね」

「うん、もちろん無いわよ」

 

錬金術や他の魔術家門との人脈によって神代の植物や一部の幻獣を再現、再生できているアインツベルンでも、さすがに最高位の幻獣たる竜の生き血など得てはいない。骨や爪くらいならあるんだけど。ぎりぎり鱗もある。質は悪いけど。

 

「そうよねえ。やっぱり無理か」

「竜の血がないと作れない薬?」

 

今メディアは神殿構築と並行して、道具作成スキルによる神代の道具製作に入ってる。

むしろあの傲慢な王様がいるせいで神殿はあまり頼りにできないから、道具製作のほうがメインだったりする。

蘇生に近いことができる霊薬とか、かなり戦局を左右できそうよね。

ただそんなスキルがあっても素材がなければ作れるはずもないから、作れないものもあるんでしょう。

 

シロウが昔から道具作成スキルを最大限活用するために予定を立てていて、時間とお金と人脈と技術をかけて素材は準備してあるから、今この家には世界でも有数なくらい稀少素材が揃っているのだけど、さすがに現代で神代の素材を集めるのはいかに準備しようが限界がある。

 

「ええ、魔力や対魔力に関わる薬の最上級品には、どうしても竜の生き血か内臓がいるのよ。一瓶飲めば魔力が全快したり竜種並の対魔力を得られるものがあったのだけれど」

「……流石に神代の霊薬は桁が違うわね」

 

竜種並ってほとんどの魔術効かなくなるじゃない。

ちょっと驚いて四つ色合い変化がズレちゃった。平常心平常心。

 

「まぁ無いものはしかたないわね。できるだけ便利そうなもの作っておくわ」

「どんなのがつくれそうー?」

「そうねえ……不死の霊薬もどきもやっぱり作れないけれど、蘇生に近い治癒力の妙薬がいくらか作れるわよ。本人の魔力を消耗するけれど」

 

そのレベルは作れるんだ……。

本当に戦局を左右しそうね。

 

「メディアの道具作成スキルって、なんだかすごく便利ね。反則に思えるわ」

「これでも一応一流の英霊だもの、神代で人が作った薬は全て作れるくらいは当然よ。それに道具作成に限らず、ランクAのスキルなんて大概反則気味でしょう。ライダーの騎乗スキルも神獣を知る身からしたら反則極まりないわ」

「まぁ、そうね。ギルガメッシュの黄金律なんか見てて腹が立つし……クーフーリンの矢避けの加護もBランクなのに結構理不尽だし」

 

飛んでくる物なら宝具でもまず当たらないって後衛殺しにも程があるわよね。

 

「でも私の道具作成スキルが活用できるのは貴方達の準備のおかげよ。幻獣の肉や霊木の樹液なんてこの時代で手に入るとは思わなかったわ」

「わたしたち、っていうかシロウが全てね。キャスターのクラススキルをここまで活かしたのってこれが初めてなんじゃない?」

 

そもそも意図的にキャスター召喚しようとするマスターなんてまずいないでしょうし。

アインツベルンも一番最初に候補から除外してたわね。

 

本当、シロウは掟破りというか型破りというか。頼りになるわ。

……頼りになりすぎて、お姉ちゃんが困ってるの分かってるのかな?

 

 

「そういえばイリヤ。嗣郎で思い出したのだけれど」

「うん? なにー?」

 

部屋に戻る姿勢だったメディアが、言葉通り思い出したように尋ねてくる。

シロウのこと?

 

「嗣郎が聖杯に願う、『嗣郎の魂の修復』ってどういうことなのかしら」

 

 

「…………え?」

 

 

一瞬理解が追いつかない。

何の話?

 

「えっと、メディア? 何の話?」

「え?」

 

わたしの言葉にメディアも困惑したらしい。

 

「何の話って……昨日の説明で、嗣郎が聖杯に願うことのなかでそう言ってたのだけれど。貴女たちの総意ではないの?」

「…………わたしの知る限りでは、両親の蘇生と、問題がある家族の寿命の延長だけよ」

 

考える。

シロウの魂の修復?

 

……シロウの人格に軽い欠損があることは気付いてはいる。

でも、せいぜい我欲が弱いって程度でしょう?

思うことがないわけでもないけど、個性の範疇じゃない。

それを治すことを聖杯に願う?

その欠損でシロウが苦しんでるわけでも……ない……

 

 

……苦しんでる、の?

 

 

…………そう、そういうこと。

 

シロウ、随分がんばったのね。嘘下手(あなた)がこんなにもわたしたちを騙し通すなんて。

 

それだけ、深刻な話なのね。

 

それだけ……隠したくなるようなことなのね。

 

 

 

「……イリヤ?」

 

「…………隠してたことを怒るべきかしら。それともわたしたちを気遣っただろうことを、嬉しがるべきかしらね」

 

「……笑顔が怖いわ、イリヤ」

 

「うふふっ、でもねシロウ。わたしも、サクラも。……待つだけなんて、あなたに頼るだけなんて、嫌だって。ずっと前から、心の底から、思ってるのよ? ふふふふっ……あら、なんでかなぁ、笑いが止まらないわ。ふふふふふっ……」

 

「……ごめんなさい嗣郎。余計なことをしてしまったかもしれないわ……がんばって」

 

 

ああ、本当……笑いが止まらない。

まずはサクラと相談しなきゃね。ふふふふふ………。

 

 

 

......................................................

 

 

 

 

間合いに侵入されるその瞬間に、侵入者の刀を弾く。

緩く入れた追撃は素早く立て直された刀で防がれる。

 

(これは、なかなか)

 

再び間合いに入ってきた相手に同じ対処をしてみれば、

今度は刀を傾け(しの)がれる。

が、こちらも即座に持ち手を捻り、巻き取るように跳ね上げる。

追撃もできなくはないが、やってもおそらく……否、試してみよう。

 

(やはり)

 

こちらの追撃に刀を重ねその交差を盾にさらに一歩間合いに入られる。

こちらが二歩引けば容易に状況は戻せるが……これは鍛錬。

間合いの内の剣舞に付き合うのもやぶさかではない。

 

(頼まれたときにはさほど期待もしておらなんだが……、死合いではなく鍛錬で付き合うのも案外面白い)

 

今佐々木小次郎……と呼ばれている剣士が相手にしているのは、主たる魔術師衛宮嗣郎。

本来剣を握る者ではないはずだが……小次郎の間合いの中で小次郎の長刀(物干し竿)を何手も防いでいる妙技は、剣を本職とする者と比しても遜色ないだろう。

さらにいえば身体能力もおかしい。

 

(これは魔術師とやらの業のようだが……恐ろしいものよな。最早不気味よ。不気味であっても面白いことに変わりはないが)

 

嗣郎は英霊などではないただの人間のはずだが、今は人間にあるまじき速度で小次郎の高速の剣技を凌いでいる。

小次郎が本気には程遠いとはいえ、驚嘆すべきこと。

鍛錬の最初の頃に何事かまじないを呟いてから倍は素早くなった。その不自然さは魔術の業を見慣れぬ小次郎には不気味ではあったが、剣を振るう相手がこうも強くなると面白いという思いの方が強い。

 

(それに加え)

 

間合いの内での凌ぎに限界を感じたか、嗣郎が素早く間合いの外へ跳び抜ける。余裕は残していたのだろう、追撃も全て凌がれた。

そして再び嗣郎は一から小次郎の間合いに割り入ってくるのだが。

 

先ほどより一段と巧く早い。

 

 

(この呑み込みの早さよ……!)

 

鍛錬を始めた当初、嗣郎は何度も急所への寸止めを受けた。

まともに防御も回避もできない程度の剣技だったのだ。

相手が卓越した剣技を誇る小次郎だとはいえ、未熟は明らかだった。

 

だが、数合十数合と剣を合わせるにつれて、驚く程の早さで嗣郎は技術を磨いてきた。

こちらが剣を弾き続ければ易々とは弾かれぬ構えを追求し、

こちらが手数で圧殺すればこちらの手数を抑える手段を模索する。

当初三秒ももたなかったのが今ではそうそう崩れず、崩れそうと判断すれば即座に退いて戦況を立て直す。

 

このたかだか数十分の手合わせで嗣郎の剣技は明らかに成長している。

こうも目に見えて成長すると手合わせする身としても楽しみを感じずにはいられない。

 

(生前には知りもしなかったが、これが育成の楽しみか……!)

 

もっとも、ここまで成長が早い者などそうはいないのだろうが。

 

 

 

(む?)

 

思考の間にも何度も間合いに侵入しては退いていた嗣郎だが、今度は大きく退いて武器を手放した。

これまで小次郎の物干し竿と渡り合っていた刀は宙空で光の粒となり消える。

これも彼の持つ魔術の業らしいが……。

 

「どうした、主よ。もう終わりか?」

 

口にはしてみるが、未だ戦意旺盛なのは見るだけでも分かる。

 

「少し、変則的な戦い方もしてみようかと思ってさ。──装填する(バレット・オン)

 

「ほう」

 

嗣郎の手に現れたのは西洋のものと思しき片手剣。

先ほどまで使っていた刀より間合いが短そうだが?

 

「で、だ。装填する(バレット・オン)──── 鋳型固定(テンプレイティング)

 

片手剣とは反対の手に現れたのは、両端に刃のついた棒……棍か。

何をするのかと待ってみれば。

 

「 “ 偽・如意金箍棍 ” 」

 

嗣郎が宙空に踊った。

棒が瞬時に伸び、それに掴まっている使い手を上空に連れていったのだ。

棍の両端は床と天井に突き立っている。

 

「ほう」

 

それからどうするのか。上空から攻めるのかと思えば、

 

複製(アウトプット)── 」

 

飛び上がった勢いのまま宙を踊る嗣郎の手には新しい棍が。

それもまた瞬時に伸びて突き立ち、踊る嗣郎の手にすぐまた新しい棍は現れ……

 

「ほう……っ」

 

ここまで来れば予想はできる。

次々と伸びて床と天井、あるいは壁に突き立つことで道場の空を埋めていく棍。

それを足場に新しい『戦場』を組み上げていく嗣郎。

風味の違う戦いの予感に、小次郎の興は高まり、

 

「行くよ、小次郎」

 

剣持つ魔術師が、高速で小次郎に襲い来る。

 

「ふはっ……!」

 

上空から迫る剣を打ち払う。

嗣郎は凌ぐが、当然小次郎まで辿りつけるわけもなく、

 

「ふっ、」

 

だが自ら大きく弾き合うことで落ちる軌道を逸らし、棍を足場にまた跳び踊る。

 

(棍が邪魔よな……!)

 

すでに小次郎の周りには、いや道場を埋めつくすようにいくつも棍が突き立っている。

物干し竿の長さがたたり小次郎の剣には制限がかかる。

そこに矢のごとく襲い来る人外一歩手前の魔術師。

 

「ふははっ!」

 

これまでとは全く違う襲撃角度、それに合わせざるを得ない迎撃態勢。

 

剣を合わせ弾くほどに流麗になっていく魔術師の舞踊。

 

ときには新たに棍を伸ばし足場とし、こちらの不自由さを最大限に利用して、

 

縦横無尽にあらゆる角度から次々に襲い来る剣撃─────!

 

 

「ふははははははははははっっっ!!!」

 

 

加速度的に速く鋭く巧くなる()の剣。

 

慣れぬ状況に適応し制限の中で最高の迎撃を追い求める己の剣─────!

 

 

「良いっ!! 良いぞ主っ!!! これは、楽しい────っ!」

 

 

ついつい加減が緩み速くなってしまった剣に、主は素早く適応する。

 

止まらない。緩まない。

 

速く。速く。速く。

 

主は笑えるほどに成長し、加減しているはずの己すらも進歩する。

 

全力での死合いではなくとも、確かに小次郎は歓喜する─────!

 

 

 

主への確認もなく小次郎は床を蹴る。

 

手近な棍からさらに跳び間合いの重なる主と打ち合う。

 

小次郎は笑う。

 

主も苦笑を込めて笑っている。

 

すぐに主は床に弾き落とされるが、一瞬の停滞もなく跳び再び剣舞の舞台へ。

 

小次郎は嬉々として宙空の舞台にて主を待ち構える─────

 

 

「主従で舞うのも、まことに良い─────!」

 

 

 

 

 

その夜、釣られてやってきた青い槍兵が乱入するまで、道場の剣戟の音は絶えることはなかった。

 

 

 

 




実は吸収力チートな『受容』起源。
でも魔術は魔術特性の偏重のせいで魔術刻印に刻まれてるものしかまともに使えないから、魔術の手札を増やすには他人から剥ぎ取るしか(ry

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告