愛は世界を救う ~※ただし手の届く範囲に限る ~   作:とり

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途中まで。
内容の都合で微妙に以前の話の台詞をいじったりしたけど大した問題ではないはず


開戦待機②・前

 

 

 

 

英雄王ギルガメッシュ。

 

 

古代ウルクの王にして、世界の全てを掌握した最古の大英雄。

 

英雄とは(すべから)く己が関わる世界を背負わねばならない存在だが、数多の英雄の中でも唯一世界の全てと関わっている彼は、この世全てを背負う最大最古、そして最強の英雄だ。

彼は己をそう定めているし、事実彼はそう在り続けている。

 

 

ギルガメッシュという存在を理解するうえで、彼を『善』『悪』で括ろうとすることは最大の失敗となる。

 

人が苦悩する様を見て悦び、人を殺し犯すことに躊躇いを持たないその姿勢。

それを見て彼が『悪』に見えることもあるだろう。

 

あるいは彼の伝承を知り、民を守るために恐ろしい怪物に立ち向かった姿から、『善』に見る者もいるかもしれない。

 

だが、それはどちらも誤解でしかない。

 

 

彼は善でもなければ悪でもない。中庸という言葉も合わないだろう。

彼は、『王』だ。

 

 

彼は民を愛し臣を守る。だがそれは善意からではなく、『王』であるからだ。

彼は人を殺し国を壊す。だがそれは悪意からではなく、『王』であるからだ。

 

全ての民を慈しみ、全ての財を奪い集め、全ての女を蹂躙し、全ての宿業を認め(がえん)ずる。

彼はこの世全ての守護者であり、支配者であり、所有者であり、観察者であり、肯定者であり、使役者であり、消費者である。

そこに善も悪もなく、当然の理として彼は人と財の全てを掌握し()で尽くす。

 

彼より後の世において国を統べた王は数多かれど、人という種を統べた彼はそれら有象無象と一線を画す。

いかな大国の王といえど、彼と同じ視点に立てる者など居はしない。

 

 

人の暴走を危ぶんだ星の意思によって人を御し抑える存在として望まれ、神の愛を受け神の血を持つ神に近き人として生まれ、そして人の中で人の苦楽を知り成長し民を愛し民に愛され、星や神の思惑を打ち破り唯一にして真なる人の王へと至った原初の伝説。

 

全ての系譜の起点たる原典は全て彼の所有物であり、全ての生は彼の支配を起源とする。

 

ゆえに彼が全ての所有者であることは事実であるし、人の王たる彼は人の全てを肯定する。

 

 

 

そして、そんな彼であるからこそ、現代の無駄と淀みは許容できない。

 

彼が生きそして支配した時代は、無駄なものなど何一つなかった。

ただの奴隷であっても世界には必要な存在であり、欠けてはならぬ一片だった。

無駄なことがないからこそ人は純粋であったし、その純粋から生まれる愉悦や苦悩は美しかった。

 

だが、人が無為に増え、物は雑多に溢れ、意味無く使い潰しては捨て置くこの時代。

雑多な日常に人の心は淀み、価値無き人間が意思無き蟲の如く無意味に生まれ喰い排泄し増殖しては死んでいく。

 

 

そこに彼の知る人の美しさはなく。

それは彼が愛した人という存在への侮辱でしかなかった。

 

 

こんな世界は滅ぶべきだと彼は思う。

そして同時に、真なる王たる己が手ずから引導を渡す価値もない世界だとも思う。

侮辱であれどそこに意思はなく、ただの汚泥であるのだから。

ウルクの民が愛した王は、断じて汚物の掃除屋などではない。

かすかに彼が愛したものの残滓が残っていたことも、彼を留まらせただろう。

 

 

彼は王たるが故にこの世界を嫌悪し、そして王たるが故に破壊もしない。

 

それが現代に受肉した、ギルガメッシュという王の立ち位置────

 

 

 

 

わずかに残る人の美しさの残滓を慰みに、酷く苛立ちながらもこの世界を生きるギルガメッシュ。

 

その彼は、今。

 

 

 

 

「刮目せよ雑種共! これこそ王者の証よ!」

「あー! マツザカのスーパーキラ!?」「すげー!」「またかよーギルばっかずりー」「かつもくー?」「かつもくー!」

「ふはははは! 真の王には素晴らしき宝は自然と寄ってくるもの。当然の摂理よ! 貴様らも我を見習い精進するのだな! ははははははは!」

「ギル!ギル!マツイと交換!交換!」「すげー!」「ギルーレアたくさんもってるならちょこっとくれよー!」「しょうじんー?」「しょうじんー!」

 

 

 

無邪気な子供たちに囲まれる中、現代風の衣服でキラめくトレーディングカードを片手に王者の貫禄を見せつけていた。

 

それはもう楽しそうに。

 

 

 

......................................................

 

 

 

 

「兄さん、サラダはできました」

「おう、こっちも完成だ。つーことで……おーい! 運ぶの手伝ってくれー」

 

調理場から食堂を覗くと、いつも通り子供たちと王様が騒がしくはしゃいでいる。

もちろん騒がしい原因は真ん中で胸を張っている金髪の青年だ。

 

「争うでない、貴様らが我が宝を下賜されるだけの偉業を成せば……む、ようやくか。待ちくたびれたぞ嗣郎! ()く献上せよ!」

「ギル!ギル!おれこないだかけっこで一番…すげーいいにおい! カレー!?」「はらへったー!」「オレ漢字テストで満点とったぞ! でもいまはカレー!」「しろーおにーちゃーん」「はこぶよー!」「あ、カレーのお鍋は熱くて危ないから、あなた達はこのサラダ持っていってくださいね」「わかったさくらおねーちゃん!」「はこぶー!」

「はいはい、献上しますよ王様。おおう、足元危ないからちょっと離れてくれ」

「にーちゃんはやくー!」「はやくー!」「ごはんー!」「カレー!」「ふむ、薫りだけでも逸品と分かる。もたもたするでない早く並べよ!」「みんなよんでこよー」「よばなくてもきたよー」「いいにおいー!」「カレー!?」「カレーだ!」「カレー!」「はいサラダー」「サクラねーちゃんのサラダきたー!」「わたしこれ好き」「おいしいもんね」「サラダなのにな」「サラダは普通美味しいんですよ?」「えー」「そんなことないよー」「サクラねーちゃんのサラダだけだよ」「カレー!」「肉ー!」

 

 

 

学園が休みである今日、嗣郎が桜と共に訪れているのは、冬木を東西に分ける未遠川を跨いで文字通り冬木の中心に鎮座する巨大公園、通称『大公園』。

 

冬木市の公式二大公園である冬木中央公園や海浜公園を遥かに凌ぐ巨大『公園』の『大公園』だが、実際はその呼び名に反し完全な私有地である。

 

七年ほど前に常識破りの速さで建造され、人造の土地とは思えぬ程自然に溢れ、なぜか公園外とは空気すら違い、川を跨ぐ異様に優美な空中庭園を擁するこの大公園。

敷地内や隣接地に孤児院や幼稚園や保育園、小学校が並んでおり(建造時()()()校舎移転ラッシュがあった)、広大で美しく子供たちの遊び場となっているこの大公園。

冬木に滞在しているとある大富豪が趣味で造らせたものである。

 

建造に際し謎の道具で謎の奇跡を起こしたりもしたその大富豪。

彼は名前を名乗ることはなく、ただギルと呼ばれている。

 

 

「……美味。まさに我の口に相応しき逸品よ。褒めて遣わすぞ、嗣郎とその妹よ」

「ありがたきしあわせ(棒読み)」

「ありがとうございます(いつまで経ってもオマケ扱いです……)」

 

冬木の財政と経済を一挙に潤し、あらゆる有力者達(遠坂当主含む)が交誼を得ようと必死に奔走しすげなく袖にされ頭を抱えているような大富豪の褒め言葉に、嗣郎は礼節程度だけで適当に返す。

むしろ「うめー!」「さすがにーちゃんたちだ!」「肉!肉!」と無邪気に騒いでいる子供たちの反応の方が嬉しく思えるのは、嗣郎が飯を作っているつもりの主賓は子供たちだからだろうか。王様はオマケである。

確かな舌をもつギルガメッシュに認められるのが嬉しくないわけではないのだが。

 

 

 

嗣郎が今のように大公園で子供たち(+英雄王)に手料理を振舞うようになったのは、ぶっちゃけ成り行きだ。

 

 

......................................................

 

 

 

父・衛宮切嗣は家事能力が壊滅的だった。

 

まともな家庭というものを幼くして失い長らく戦いを日常としてきていたのだから当然ではあるのだが、とにかく父は平和な家庭を築く能力、特に料理の能力が悲しいほどに欠如していた。

フライパンを使えば炭とコゲを量産し、鍋を使えばなぜか爆発し、なんとか食えるものと言えば食材の形そのままで生煮えな妙に不味い物体……。

父を台所から追い出して嗣郎が料理を覚えるのは必然だった。

 

 

父はなんとか父として良い格好をしたがっていたが才が無く、最悪出前や外食で……などとほざいていたが、嗣郎は十年後を見据えて身体も成長させておきたかったし、さらにイリヤや桜を引き取ることは当時から予定していたのだ、まだ見ぬ無垢な姉妹たちにそんな偏った食生活を押し付けるなど嗣郎には許せなかった。

 

幸いエミヤシロウには図抜けた料理の才があり、さして時間も掛けずに父が落ち込む速度で衛宮家の台所番として成長。

その後もせっかく才があるのだからと料理の腕は磨き続けていた。

 

 

アインツベルンからイリヤスフィールを奪取し、マキリから桜をぶんどってしばらくして、二人の成長を見守っている中で言峰綺礼に幼く純朴なカレンの教育を任せるのが不安になり、時折カレンを衛宮家で預かるようにしたのがある意味転換点。

 

兄を手伝ううちに料理に純粋な興味を持った桜、錬金術の起源とも言われる料理に魔術的な興味をもったイリヤ、髪の色かカリスマかイリヤに懐いてイリヤの真似をするようになっていたカレン。

それぞれの理由から衛宮家の台所には四人の子供が入り乱れるようになった。

料理の時間は父はいつも所在なさげだった。

家族で一人だけ何もしていないのだ、カレンが『どうしておじさんだけ何もしないの?』と純粋な疑問を呈したときはいろいろと大変だった。

 

少し悪いことをしたかもしれないと思ったが桜は純粋に父のために、イリヤはそれプラス錬金術師の成果発表のように料理を作って、それぞれ笑顔で父に差し出していたのだから父も幸せだったと思う。

それにカレンが成長して包丁を持つころには言峰綺礼も居間で待つようになっていた。最初こそ険悪(父が一方的に)ではあったが少しずつ話すうち、勝手に育つ子供に思うところのある父親同士として通じるものがあったのか、親しくはなくとも同じ空間を共有するに抵抗のない間柄にはなったようだ。桜やイリヤが父に対するようにカレンもまた綺礼に手料理を供していたのを見ての心境の変化もあっただろう。

 

 

カレンが一流といえる腕に至ってからしばらくして、嗣郎はカレンに拉致された。

……原作とは全く違う環境で育ってきたはずなのに原作カレンのような雰囲気を纏いはじめた幼カレンに言峰の血の罪深さを感じながら、嗣郎が連れて行かれたのは大公園の孤児院。

そこでは黄金の英雄王が待っていた。

 

話を聞けば、カレンは英雄王に出張料理を強制されているという。

 

当時言峰教会の食卓はカレンの手料理になっていた。当然言峰教会にも出没する英雄王が口にすることもある。

そこでカレンの料理を気に入った英雄王は、自分のお気に入りの場所である大公園でこの料理を食べることに決めた。美味い料理は気分の良い空間で食いたいと。

他人の都合を慮らぬ英雄王のこと、当然カレンを強制的に攫い大公園孤児院での調理係に任命する。

だがカレンからすればそんな任命は嬉しくもない。

 

 

そも、カレンはファザコンである。

あまり表現こそしないが実は父愛娘である。

 

 

彼女が料理をするのは父のためであって、断じて慢心王ごとき…もとい、英雄王や見知らぬ子供のためではない。

 

子供達を慈しむ聖職者のような心も持ち合わせているとはいえ、父に捧ぐことを主目的としている料理という行為はある意味で彼女の聖域である。その聖域は彼女にとって慈悲の心程度でばら撒くようなものではない。

いずれ聖女にもなれるだろう彼女ではあるが、未だ父に甘える幼い少女でもあるのだから。

その甘え方は基本的に分かりにくいものであるのだが。

 

 

とにかく、カレンは英雄王の強制をひどく嫌がった。

だが英雄王が相手の拒絶程度で自分の我儘をおさめるはずもない。

 

そこでカレンは一つの策を案じ、英雄王に具申した。

すなわち ─── 自分より自分の師の方が美味しい料理を作るわよ、と告げたのだ。

 

そのカレンの師にして実質ただの人身御供が衛宮嗣郎だった。

 

 

 

当然嗣郎も身代わりとして差し出されることに思うところもあったが、もはや妹の一人のように思っている少女の内心も理解できていたし、一方で他人に料理を振舞い笑顔にすることは嗣郎の性質に合致することでもあった。

それに大公園の建造を英雄王に提案したのも嗣郎であり、カレンに料理を教えたのも嗣郎であり、自分が問題の大元なような気もしたこともあったりする。

 

そういうわけで、孤児院で子供たちに料理を振舞い、英雄王にもついでに献上することになったのだ。

当初は毎日三食全てを命令されたが、カレンの口八丁と挑発で『(たま)に食べることこそ真の贅沢』と週一での担当に収まった。

カレンも嗣郎を気遣いはしたのだ。自分や父より優先度は低いが。

 

 

まぁ子供たちの笑顔は良いものであるし、提供のたびに英雄王から褒美として下賜される財宝は予定外の幸運だった。

衛宮家の家計や聖杯戦争の準備にかかる資金を補ったし、それを売り払ったアインツベルンが神代の財宝を活用して魔術家門としての地位を上げ人脈を広げ研究を進め素材を生み出し、さらに衛宮からアインツベルンへの影響力も自然と高まったのだし。

道具作成スキル用に大量の素材を買い揃え他でも魔眼殺し製作など金を湯水のように使ってきた今でも、いきなり倍以上になった食費や服代に全く困らない程度の蓄えはある。というか毎週貯金残高は増えている。

ちなみに遠坂が知ったら血涙を流して妬まれそうなので秘密にする方針である。

 

 

 

最初こそ孤児院のメンバーと英雄王だけだったのだが、英雄王や子供たちが大公園で遊んでいる他の子供たちを連れてくるのでその人数はどんどん増え、一人では量を揃えるのが大変になったのでその頃から桜も調理に加わっている。

イリヤは英雄王と仲が悪く、それに料理も英雄王の口に合わないということで参加はしない。錬金術を追い求めているうちにどんどん奇抜な料理に進化していったのだ。普通の料理も作れるはずなのだが。

最近はもう満足したらしく家でも嗣郎と桜任せである。

 

 

 

「そういえばギル、土曜以外は教会でカレンの手料理食べたりしないのか?」

 

「ふん、何故王たる我がわざわざ出向かねばならんのだ。それに奴は最近な……」

 

「カレンがどうかしたのか?」

 

「…………逸品の中に味覚を破壊する地獄の具現を紛れ込ませるようになったのだ……」

 

「……ああ……なるほど……」

 

言峰綺礼(超激辛党)のための料理だしな。

というか食べにいったんじゃねーか。

 

「彼奴の料理はもはや安心して食えん……」

 

言峰教会の食卓はもうあの父娘だけの安らぎの場になっているようである。

 

 

 

 




桜:嗣郎の料理を参考に様々なアプローチ(味付けや調理法)を試し見た目は基本で味は独特な料理
イリヤ:レシピ通りに作るがそもそも作ろうとするものが錬金術的な何か
カレン:父が悦びそうなもの。見た目は普通で味が煉獄麻婆だったりする

嗣郎:創造の理念を鑑定し基本となる骨子を想定し構成された材質を選別し製作に及ぶ技術を模倣し成長に至る経験に共感し蓄積された年月を再現することで料理の理想値を顕現させる
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