「おっはよー衛宮くん」
「おはよー佐々木、相変わらず気さくで好ましいなー」
「でしょー?」
「おはよー」
「おはよー清水、ヘアゴム赤になってるな。黒よりアクセントあってちょっと可愛いぞー」
「ちょっととは失礼な……」
「あははっ衛宮くんひどーい」
「いつもの可愛さプラスってことだよ」
「知ってるー」
「知ってるー」
「イリ姉ぇの真似すんな!」
「「あははっ!」」
「よー衛宮、俺は?」
「よう近藤、なんだ、可愛いって言われたいのか」
「んなわけねーだろ!? イケメンかってことだよ!」
「ああ髪切ったのな。いかがですかお嬢様がた」
「「びみょー」」
「っておいぃぃぃっ!?」
「「「あはははっ!」」」
令呪こそ現れたが学校はいつも通り。
会った人全員に挨拶しつつ良いと思った女の子には思ったままのことを言う。
全員褒めてる気もするが。
男も別に嫌いでもないので普通に話す。
他の生徒の数倍は時間をかけて教室にたどりつけば、友人の柳洞一成がすでに来ていた。顔をしかめて何もないところを見ている。
「おはよー一成。機嫌悪そうだな、何か悪霊的なものでも見えるのか?」
「む、おはよう衛宮。今は見えんがつい先ほどまでその同類がおったわ」
「冗談だったんだが本当にいたのか……」
「ああ、遠坂という女怪がな」
「あーなるほど」
聖杯戦争は近い。御三家の一角である遠坂も当然それを察知している。
そして冬木の地で魔術師として登録している数少ないひとりが衛宮シロウだ。
自然とマスター候補として捕捉されていて、最近は頻繁に様子を見に来るのだ。
隠そうとしているようだが明らかにこちらの手の甲を確認している。
とはいえオレは家でどれだけ姉妹とじゃれつくか、そしてイリヤの気分次第で学校に来る時間もルートもかなり変わるので遭遇しないことも多いが。
とにかく、遠坂凛を蛇蝎の如く毛嫌いしている一成からすれば毎日何度も遠坂を視界に収めねばならず結果として気が立っているのだろう。
「まったく、何の腹積もりか度々クラスの前を通っては横目で教室内を漁っておるのだ。本当に何を企んでおるのだか……」
「まあまあ一成、実はこのクラスに気になる人がいるけど恥ずかしくて偶然を装ってその人を見に来てる純情な女の子だと思えば」
「やめいっ!? 似合わなすぎて怖気が走るわっ!?」
「ひどいな一成」
完璧を装おうとして見事な猫を被りつつ、ところどころでうっかりボロを出して必死に誤魔化そうとするところとか可愛いじゃないか。
昔面と向かって言ったらなんだか引かれてそれ以来あまり話す機会がないけど。
正直に言っただけなんだが。
「第一彼奴は昔からだな……」
「はいはい、止められるまで止まらない遠坂談義はいいから。最近寺でなんか面白いこととかないの? 零観さんとか葛木先生に恋人ができたとか」
「んん? 突飛なことを言う。全くもってそんな気配はないぞ。柳洞零観はともかく、宗一郎兄に至っては一生で
「いくらなんでもひどいだろその言い草」
一人の女性に関われば一生を添い遂げるような人だぞあの先生。
笑いながら、一応の確認を済ませた。
アインツベルンとマキリの知識と助力もあり戦争の開始よりも早めに令呪を得られたが、他の参加者も早期に獲得している可能性もあった。
少なくともまだキャスターが柳洞寺に転がり込んでいたりはしないようだ。
「まあ実際寺の日々は平穏太平、あり難いことに代わり映えせぬよ」
話しているうちにチャイムが鳴り、
どどどどどどどどどどどどどどどど………
バアァァァンッッ!!!!
「おっはよーーーーーみんなーーー!!!!」
我らが藤村教諭である。
「おはよー藤ねぇ、その服新しいね」
「え、えへへ。そうなのよーこの間友達に似合うってすすめられて」
「うん、似合うよ。藤ねぇの明るさに似合うだけじゃなくて、このあたりのシックさが大人らしさも添えてて年相応の色気みたいなものがあるよ」
「ふふーん♪ そうでしょそうでしょ! なんせわたしももう大人の女だもの! しろーも惚れた? 惚れちゃった? わたしのミリョクにメロメロ?」
「うん」
「えっ」
「藤ねぇには昔から惚れてるよ「うぇっ!?」明るくて周りを幸せにする普段の藤ねぇも大好きだし、誰かが困ってたら自分のできる限りのことをしようとする優しさも大好きだし、自分の力不足でその人を助けられなくて悩んだりするところなんて正直放っておけないよ「うぅっ!?」藤ねぇを女らしくないなんて言う人もいたけど、こんなに優しくて献身的な女性が女らしくないはずないよね「う…」それに藤ねぇはいつも元気一杯だけど、それが藤ねぇの全部じゃないもんな。他のクラスじゃみんなの見本になるように教師としてしっかりしてるのも知ってるし、それで気疲れしたり人の悩みを解決できなくて落ち込んだりしてることも知ってるよ「そ、そんな」それでもそういうの見せないようにがんばって元気にやってるせいで、子供っぽいとか悩みなさそうとか言われてるけど、俺は知ってる。そんな風に心から優しくあれる
「衛宮ーセンセーナンパすんなー」
「センセー時間時間ー衛宮くんとキス直前になってていいんですかー」
ナンパなんかしてないぞ。
「はっ!? し、しろー!席!席もどりなさいっ!」
「あ、ごめん藤ねぇ」
「いや~今日のタイガーは可愛かったな、ちょっと惚れそうだったぞ」「俺も俺も。あれはヤバい」「私もなんかあの表情キュンってきちゃった」「アタシは先生がうらやましかったかも」「わかるわかる、あんなふうに愛されたい」「えーでも私は私だけ愛してほしいなー」「誰にでも愛ふりまく衛宮に愛されても」「でもあんなに真剣に見てくれるのって」「え、ミキもしかして」「きゃーっ」「そそそういうわけじゃなくって!」「というかタイガーもそろそろ慣れてもいいだろうに」「ほら、藤村先生単じゅ…純粋だから」「まあ見る分には面白いからいいんじゃないか」「廊下で衛宮に口説かれてる先生を見て陥落した他クラスのやついるらしいぜ」「あー知ってる藤村先生結構告白されてるらしいね」「マジで!? 」「職員室で口説いたら先生達の大人のドラマが発生するんじゃね?」「もうしてるぞ?」「マジで!?」
「別に口説いてないんだが」
「いや、誰が見てもあれは口説いてるとみられると思うぞ衛宮」
「思ったまんまに好意を表現してるだけだ」
「はぁ……まぁ同窓の皆や他の女性教諭は慣れているにしても、誰彼構わず好意を表現するのはあまり好ましいことではないと俺は思うぞ?」
「そうか?」
「とにかくほどほどにしておきたまえ」
ぶっちゃけた話、『泥』のせいで行動に異常が出ている自覚はあるので助言には従いたいところなのだが、思ったことを口に出さないのはかなり悶々とする。
女性を見るたびにそんな気分になるのは耐え難いものがあり、その助言を遂行するのは難しい。
「ま、忠告ありがとな一成。できるだけ気にするよ」
「そうしてくれ。お前への告白の仲介をするのも疲れた」
「俺もお前への告白の仲介してるだろ」
本来の歴史では間桐慎二と柳洞一成が女生徒の人気を二分していたという。
間桐慎二がこの学校に入学していないこともあって、あのワカメ分の女生徒の人気が俺に来ている気がする。女の子は大好きなので特に問題はない。金づる役は絶対にしてやらんが。
「さて、授業授業、と」
授業が終われば遠坂に捕まる可能性も高い。
今のうちに平和な時間を堪能しておくとしよう。
そして予想通り放課後、遠坂凛に捕獲された。
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