愛は世界を救う ~※ただし手の届く範囲に限る ~   作:とり

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戦闘や超シリアス以外だとなかなか筆(指?)が進まないので、後日談で出すつもりだったやつを勢いで書いた。反省はしていない。でも本編を期待した人はすみません。

ネットで見たvita版fateのOPが3種類とも素敵すぎてやばい。vita買うか迷うレベル。スタイリッシュバビロンかっこよす


外伝 燃えるワカメ

 

 

 

少年は天才と言われていた。

 

大体のことはやってみればできたし、少し手を出しただけで人より優れた結果を出せることも珍しくなかった。

努力と無縁と言ってもいいその才能は確かに天才と呼ばれるに相応しかっただろう。

勿論努力を全くしなかったわけではないとはいえ、それでも他人が必要とする絶対量よりはるかに少なくて済んだのだから。

 

少年は自分に自信があった。

大体のことで人より優れているのだから。

さらにいえば家は幾多の土地を所有する名家、その資産や威厳も少年に自負を与えた。

 

 

そんな少年にあるとき、妹ができた。

 

人見知りで、内気で、気弱な妹だった。

放っておいたらひとりであらゆるもの怯えるだけの少女だった。

一人っ子だった少年も、そんな少女が妹になれば『おにいちゃん』としての義務感に目覚める。

慣れない気遣いもして、強引にでも手を引いて、頼れる『おにいちゃん』であろうとした。

そのうち妹も、臆病なのは変わらなかったけれど、家族の中では少年に一番心を開くようになっていたと思う。

他の家族とは仲は良くなくて、少年にとっては気前の良いだけの祖父をなぜか最も恐れていたけれど。

兄妹として、確かに信頼関係を築けていたのだ。

 

 

そんな妹は、出会ったときと同じように、唐突に少年の隣からいなくなった。

 

 

 

 

何が起きたのかを、少年は知らない。

ただ、祖父が死んで、家が無くなって、父が情緒不安定だったことしか知らない。

 

そして、妹はいなくなった。

 

 

少年の名前は変わった。引っ越した先の町の名前だ。

家も変わって学校も変わって、資産も威厳もなくなった。

でもそんなことは大した問題じゃなくて。

なんで妹が一緒に居ないのかが、一番大事な問題だった。

 

父に訊いても、その答えは分からない。

父はただ、仕方なかったんだ、と怯えるだけだった。

しつこく追及すれば父は大声を出して錯乱してしまう。

 

 

怖かった。

 

情緒不安定な父もだが、その父の言葉の端々から感じられる……妹の危機が。

父が妹を無事な筈がないと確信しているらしいことが。

 

具体的なことは何ひとつわからなかったけれど。

……自分達が、妹をイケニエにして助かったのだということを、少年は理解してしまった。

 

 

 

 

 

───── だめなおにいちゃんで、ごめん。

 

少年は悔いた。自分が知らないところで、あんな非力で気弱な妹を犠牲にしてしまったことを。

 

 

───── なにもできなくて、ごめん。

 

少年は嘆いた。多少なりと自分を頼ってくれていた妹を、守ることができなかったことを。

 

 

───── ごめん、ごめん、ごめん…………

 

少年は誓った。

 

 

───── ……ぜったい、たすけるから。桜。

 

妹を救い出すことを。

 

 

 

 

 

 

少年はヒーローを目指した。

強くて、頭が良くて、弱い人を助けられるヒーローを。

そうなれば妹を助けられるような気がしたから。

 

少年は天才だったから、強くなるのは簡単だった。

あらゆる道場に通って、朝早くも夜遅くも、何度も倒れながら体を鍛えた。

何をどうすればいいかもわからなかったから、何でも、必死で。

一日のうち一秒たりとも、力を抜きはしなかった。息を切らして倒れても、必死の形相で立ち上がった。

あらゆるものに手を出して、いつしか武芸百般に通じた。

 

少年は天才だったから、頭だって良かった。

学校の勉強は何年も先に進められたし、授業で躓くことなんてあり得なかった。

何度も教師や学校と衝突することもあったけれど、必死の訴えで何度も乗り越えた。

小学校を卒業する頃には、高校生並の知識があった。

 

 

 

でも、少年は、馬鹿で愚かで……無能だった。

 

 

 

小学校の卒業を機に、少年はかつての地元へ旅立った。

絶対にそれを許さないだろう父には隠れて、強くなったという自信を胸に。

妹を救うんだと、少年らしい決意を抱いて。

 

 

…………待っていたのは、当たり前の結果。

ただ喧嘩が強くて学校の成績が良いだけの子供が町に入ったって、何ができるわけもない。

何が知れる、わけもない。

 

 

考えてみれば本当に当たり前で。

でも少年には分かっていなかったことで。

それに気付いたとき、少年は……自分が馬鹿だと、知った。

 

 

 

 

失意のままに家に帰り、三日三晩、まるで父のように癇癪を起こして、眠れぬ夜を過ごし、疲弊しきって気絶した。

一日眠る少年は、妹の夢を見る。

 

いつも手を引いていた。

なのに、夢の中では妹に手が届かない。

声すらも届かない。

少年は泣き叫ぶ。絶望する。渇望する。自己嫌悪する。様々なものを憎悪する。

無力を呪う。膝をつく。自分の馬鹿さに、三年の無駄さに、悪態をつき続ける。

 

けれど。

夢の最後で、再生されるかつての記憶。

人見知りで、気弱で、臆病で、無口で、無表情な妹。

 

その妹が、少年にだけ、時折見せた……無防備な、微笑みの気配。

 

 

少年は、目を覚ました。

心配する父を視界に入れながら、少年は考える。

馬鹿で無能で阿呆な、それでも天才だった少年は考える。

 

 

少年は、諦めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

少年は人脈を求めた。

自分が知らないことなら、人に聞けばいい。

父はなにがなんでも語ろうとしないから、他の人。

けれど訊けるような人はいないから、まずはそこから。

資産家だった実家の事情を知る為に……少年は資産家を目指す。

 

少年は頭が良く、それなりの金運があり、そして身の程を正しく弁えていた。

子供である少年が、それまで資産を喰い潰すだけだった父を隠れ蓑に、金の流れを作り出すのには少々の時間でこと足りた。

さほど大きなものではなくとも、足がかりとしては十二分。

少年は知性的に、資産家への道を歩み出す。

 

自己鍛錬に費やす時間は格段に減りはしたが、なくなりはしなかった。

少年の抱くヒーロー像は、失望を経ても、壊れきってはいなかったから。

できるだけ時間は使わず技量を伸ばすべく、効率を追い求めた。

 

学校は休みがちになりながらも、勉強も続けた。

出席日数や授業態度を問題にはされつつ、成績は維持して。

人心を掌握する練習も兼ねて、生徒全員を友達にするべく励み、特にいじめの撲滅に力も注いだ。

文武両道才色兼備、並ぶ者なきカリスマとしてその姿を知らしめた。

 

時折かつての地元に寄っては情報を集めるも、めぼしい手がかりは無い。

役所で情報を漁るもかつての家は完全に断絶しており、妹どころか少年や父の情報も存在していなかった。

少年の生まれは今住む町ということになっていることを知り、予想以上に大きな力が働いていることを確認した。

父から情報を引き出すことも今なら可能だが、それは必死に息子を守ろうとする父の唯一と言っていい誓いを破らせることであり、父の愛を理解し同時に父を愛せるようになった少年には、妹と同様に家族である父の大事なものを踏みにじるような手は取れなかった。

自力で、父以外の道から辿り着くことにする。

妹を探して学校などもうろつくが、既に五年。それも成長期だ。面影で探すにも無理がある。

おそらくかつての知り合いが今の少年を見ても分かりはしないだろう。名前のこともあるし、見た目も雰囲気も違うだろう。五年もあれば、人は変わる。

それでも可能性が無いわけではないと見学の名目で捜索していた。

妹は見つかりはしなかったが、尋常でない弓の腕を持つ少年に出会えたこともあったり、何も得られないわけではなかった。

その妙に親近感の沸く赤毛の少年の指導を受けて、少年は射において壁をいくつか越えられた。

 

「……お前、かなり筋が良いよな。覚えるの早過ぎないか?」

「覚えるのは得意なんだ。そういうお前だって、僕の格闘術をあっさり覚えたじゃないか」

「まぁ、俺も得意ではあるな。……なんていうか、俺達似てる気がするな」

「なにか妙な親近感があるのは確かだね、妹が居たりするかい、衛宮」

「ああ、いるが……なんで妹なんだ、三咲?」

「ふっ……なんでもないさ。というか、苗字は女の名前みたいで好きじゃないんだ。名前で頼むよ」

「そうか、了解したよ、慎二」

「僕も嗣郎と呼ぶことにするよ。さぁ、これで僕らは友達だ」

「ははっ、いいな。友達だしこの後家で飯でも食ってくか? 妹や姉も紹介するぞ」

「ありがたい申し出だけど、そろそろ帰らないとでね。それに他の兄妹を見るのはどうも、ね」

「……そうか、悪い」

「……お前はやけに鋭いみたいだな。まぁいいさ、嗣郎、僕みたいなこともある……妹は大事にしろよ」

「言われなくとも」

 

 

 

父名義の企業の拡大を進め、知人の知人の知人を辿るような人脈の広げ方を学び、複数の武芸において一流に足を踏み入れる少年。

かつての地元に、そして今居る地元に、奇妙な『何か』があることに確信を持ち始めた頃。

 

『それ』が、始まった。

 

 

 

......................................................

 

 

 

 

 

「……連続猟奇殺人事件、か……」

 

三咲町を騒がせる、『吸血鬼』の噂。

 

「普通に考ればあり得ない。だけど……」

 

 

 

 

「…………本当に、血が、無い……」

 

少年の知人さえも犠牲になるその事件は。

 

「……ふざけるな……」

 

 

 

 

「悪い、少し時間を貰えないか? ああ、ナンパじゃない……」

 

少年を『そちら』の舞台へ……辿り着かせる。

 

「君に訊きたいことがあってね。遠野さん」

 

 

 

 

......................................................

 

 

 

 

 

 

「これは、また……怖いイメチェンですね。……あなたが『吸血鬼』なんですか、先輩」

 

 

 

 

 

「……こんな、オカルトが…………まさか、桜も……?」

 

 

 

 

 

「弓塚先輩だけじゃなく、あなたもですか……遠野先輩」

 

 

 

 

 

「……気に入らない。気にいらないよ、遠野志貴…………妹が、いつまでも元気でいるなんて妄想は、捨てたほうがいい」

 

 

 

 

 

「ここのカレーが素晴らしいのは分かったので。さっさと情報とやらをくれませんかね?」

 

 

 

 

 

「それで? 『吸収』の魔術特性とやらは、僕とさつき先輩にどう役立つと?」

 

 

 

 

 

「信じてやれ、遠野秋葉。『おにいちゃん』には……やらなきゃいけないときがあるのさ」

 

 

 

 

 

「ハッ……! 本当に役に立たないな、僕の六年は……ッ!」

 

 

 

 

 

「……ああ…………死に、たくない、絶対に、死にたくない……まだ、まだなんだ……っ!」

 

 

 

 

 

「僕は諦めない。絶対に諦めない。だから、あんたも諦めるな、弓塚さつき──っ!」

 

 

 

 

 

「……僕じゃあ、ヒーローにはなれないけど。こんな身体になってしまったけど。それでも…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ────さあ、来いよ狩人。脇役は脇役同士……仲良く殺し合おうじゃないか 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血みどろの群像劇。

泥まみれの英雄譚。

外れたモノに身を堕とす脆弱な脇役が、死に物狂いで生きた記録。

 

 

『月姫』 異譚、魁想(かいそう)譚 『 ()()() 』、近日公開──────────

 

 

 

 




されません。

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