盆休みになったけどどれくらい書けるかなー
閑話はできてるけど交渉の途中に挟むのはさすがにあれだろうし
「……舐められたものね。拘束もしていないなんて」
衛宮家の居間にて、桜に膝枕された状態で目を覚ました遠坂凛の第一声。
拘束もされず魔術による制限も受けていないことが不満らしい。
相変わらず名前通りに凛々しく気高い姿勢だが、こちらは三人揃い小次郎とメデューサが控えている現状、遠坂が暴れてもどうということもないので特に縛る意味も無い。まぁその判断を不快に思っているのだろうが。
それに、
「別に遠坂なら暴れないだろ? 決着は完全についたわけだし」
「そうね、暴れる意味が思いつかないもの。でもこう、釈然と……ちょっと、桜」
「もう少し安静にしててもいいと思いますよ? 凛姉さん」
「やめなさい」
起き上がろうとする遠坂の額を指で押さえて封じる桜。
払おうとする遠坂の手をあしらう桜の手を押さえこもうとする遠坂の手から逃げる桜の手を追い込む遠坂の……と気付けばじゃれあい。
ええい!と癇癪を起こす遠坂にくすくす、と楽しげな桜。
(なんか最近桜の気遣いがイリ姉ぇに似てきてる気がする)
敵対し仲違いしてもおかしくなかったが、今のおふざけで遠坂は調子を狂わされ桜に敵対姿勢が取りづらくなっただろう。
捉えづらい好意的ないたずらで相手の調子を乱し自分のペースに巻き込むあれは、今メデューサに抱えられているロリ姉お得意のものだ。その姉は自分のお株を奪われている不満を抱くべきか妹の成長を喜ぶべきか悩んでいるようだが。
「ご希望とあれば拘束するぞ? あんな感じで」
戦いに敗れ膝枕を享受することにしたらしい疲れた顔の遠坂に部屋の隅のモノを指し示す。
───雁字搦めの鎖でこれでもかと封印された、成人男性くらいのサイズのミイラ風簀巻き。
遠坂凛は微動だにせず転がされているそれを目に入れ、
おそらくその中身だろう人物を頭に浮かべ、
どんな感覚を抱いたのか静かに目を閉じて数秒、目を開き。
「……紳士的な対応に感謝するわ」
前言を撤回した。
「完敗よ、納得は出来ないけど」
桜から解放され、あらためて向かい合った遠坂凛は疲れた息を吐く。簀巻きのことには触れない。見なかったことにしたらしい。
本来なら遠坂当主としての態度をとるのだろうが、桜にペースを狂わされたせいか微妙に砕けている。
「まあ諦めろ、戦争は数だ」
「悲しい現実ね。誇りある決闘だなんて勘違いはしてなかったけど、ルールに則った対等な儀式だと思ってたのに」
「名前が現実を表してるさ。それにルール違反はしてないぞ? 」
「分かってるわよ。それでも少しは戦いにしたかったわ。あんなに一方的だなんて」
「ウチの準備の成果ってとこだろうよ。遠坂だって先代は圧倒的だったらしいぞ、色々と」
「……あら、『先代は』なのが正直へこむけど面白そうな話ね。詳しいの?」
「それなりにな。まぁ聞きたいなら話してもいいが……今聞きたいのはそっちじゃないだろ?」
「ええ、そうね。聞かせてもらおうじゃない。わざわざ七騎出揃う前に襲撃して、サーヴァントを倒すわけでもなくマスターごと捕獲。マスターごとセイバーまで吸収でもするつもり? それとも
態度こそ砕けているが、遠坂の目は魔術師として冷めきっている。
聖杯戦争から事実上敗退したにも関わらず、勝者の勝手で無様にも未だに盤上に残されているのが不快だと、誇り高い遠坂の瞳は告げている。
「セイバーにも言われたが、そんなつもりはないさ。そんなことを要求しても言うこと聞きやしないだろ」
「当たり前でしょう。隷属なんて生き恥晒すくらいならセイバーに自害を命じるわ」
「不憫だなセイバー」
「そのときはどうせ私もすぐに後を追うことになるでしょうから、主従平等じゃない。で、そういうつもりじゃないならどういうつもりよ」
矜持を失うくらいなら死を選ぶ、それを当然のこととして扱う遠坂を綺麗だなと思うと同時に。
これならばやはり敵対しても扱い易そうだと再評価する。
アインツベルンもそうだったが、誇り高い名門はその誇りこそが取っ掛かりに使えて便利だ。今回は恐らく必要ないが。
「まあ、簡単な話だ。取引をしよう、という提案であり交渉だよ」
そもそも遠坂陣営を早々に落とすのは当初から予定していたことだった。
なにせ拠点が判明しており攻めやすいうえ、遠坂は基本的にスタンダードな魔術師。魔術師殺しの薫陶を受けているウチの面子としては非常に御しやすい。
八極拳を修めているその近接戦闘能力や嗣郎と相性の悪い呪弾などは普段ならば厄介だが聖杯戦争のメインはサーヴァント。遠坂の出番はそうそう無い。
そして御三家としての遠坂家、魔法使いの系譜としての遠坂家は衛宮にとって有用なものを複数保有しており。
さらには嗣郎にとって宝具の蔵にしか見えないエミヤまでついてくるとなればもはや垂涎ものの獲物である。
結界破壊の名手たる桜がいる以上遠坂邸は単なる狙い放題な獲物のねぐら、クーフーリンとメディアの二大超級魔術師による即席狩猟場の設計や襲撃計画は前々から準備を進めており、残るは気乗りしていない武人勢を遺恨を残さないよう説得するだけだった。
そこに機を与えたのがバゼット・フラガ・マクレミッツの到来情報だ。
嗣郎はバゼットを英雄王主従と同水準で警戒している。
原作において最弱のサーヴァントを従えてたった四日で相性の悪いヘラクレスとクーフーリン以外の五騎を降したというその能力と行動力自体も脅威的だが……何よりも、ここは原作とは違う、というのが嗣郎の不安だ。
最弱ではない強力なサーヴァントと組むことによる厄介度の飛躍的な上昇も脅威(例えば『相手の「切り札」に必ず打ち勝つ』という性質の
バゼットは原作段階でそれだけの戦闘力を持ちながら『成長途中』とされている。精神面が未熟であり本来のスペックを活かしきれていないという。精神の未熟を克服した場合、さらに数段上の怪物に到達するらしい。
そして精神というのはなんらかのきっかけで格段に成長するものだ。ならば、嗣郎の介入による影響で何かが起きていて、バゼットが現段階でその次元に到達している可能性も否定できない。その次元で上位英霊と組まれでもしたらどうなるか。
嗣郎は時計塔に幾度も訪れているし封印指定の人物や執行者に関わったこともある。可能性は低いとは思っていても影響が無いとは言いきれない。
変わっていない可能性が高いことと切り札の性質が分かっている利点を優先してバゼットの指名を依頼したが、脅威を含む不確定要素の一つではあった。
そんなバゼットが冬木に到着した。そして遠坂凛もその情報を得た。
これを放置するリスクは多大で、二組の遭遇による遠坂の脱落、あるいは衛宮を危険視しての二組の一時同盟。どちらも可能性は高く、無視はできない。
その危険性を排除するため、遠坂が行動を始める前に武人組を押しきって制圧した、というわけだ。
ちなみに捕獲したエミヤは後で武人達に献上することになっている。
とにかく、今から行うのは遠坂を捕えた目的を完遂させる交渉だ。
取引という嗣郎の言葉に遠坂は目を細め、値踏みするかのように嗣郎を眺める。
「……へえ? 力尽くで捕まえて、本拠で囲んで、取引をしましょう、ですって?」
「
何処にも属さない放浪魔術師に近い衛宮は権力に影響されることは少ないが、だからといって名門と対等というわけにはいかない。
血縁を擁するとはいえ木っ端に過ぎない一家門を、遠坂が対等の取引相手として認める理由は無い。
直接交渉すれば等価交換原則でのある程度の取引はできるだろうが、衛宮が遠坂に求めるものはもっと踏み込んだ、家門の根幹、存続に関わるような取引だ。
そんなものを力関係において遥かに劣る衛宮が提案したところで、遠坂は受け入れはしないだろう。最低でもアインツベルンやマキリのような大家相手でもなければ。
「力で降してようやく対等、ってことかしら。それはその通りかもしれないけれど、命を握れば言う事を聞く、なんてことは無いって分かってるんじゃなかったの?」
誇りを握れば案外言う事聞くけどな、と実質的に衛宮に従属している姉の生家を思い出す。
あのときはとある脅迫で交渉のテーブルにつき利益による交渉に成功したが、今回は脅迫する材料も理由も無い。
あの老翁と違い衛宮に対し中立的な遠坂相手ならばあくまで力関係のリセットで交渉のテーブルは用意できる。
「脅迫じゃあない。衛宮の力は示しただろう? 順当にいけば聖杯を手に入れられる家門、その認識を正しく持ってもらえればそれでいい」
「……なるほど、ね。聖杯の予約券を持っているに等しいから、魔法に至ることさえ可能とも言える家門。そう見れば蔑ろにはできないけれど」
第三魔法に連なり根源への道そのものでもある『聖杯』に最も近い衛宮。
これが意味するのは単なる戦闘能力の高さではなく、衛宮が魔術家門として遠坂ら魔道の名門よりも高位にある、ということだ。
名門がこの先数十年数百年の時を重ねて辿り着こうとしている魔道の目的そのものに、あと数日で手が届くのだから。
あと数日で根源に届く家門、そう考えると名門ですら対等にはなれない最上位の魔術家門だ。
「詭弁ね」
だが遠坂凛は、それを言葉遊びと切り捨てる。
「衛宮は確かに圧倒的だわ。聖杯に最も近い、そうも思える。けれど、まだ二騎が現れていない、その力関係は定まっていない。なら残る二陣営と衛宮は対等でしかないわ。遠坂が
それもその通り。その通りだが。
「遠坂の言うことも最もだ。だが極端な話、今回とんだイレギュラーが現れて俺達が不利になったとしても、そして聖杯を手に入れられなかったとしても────何の問題も無い」
「……なんですって?」
遠坂の表情が怪訝な色に染まる。
「意味が分からないわ。聖杯を手に入れられる家門であることを武器にしたいんでしょう? だったら」
「別に今回の戦争で勝たなきゃ、聖杯が手に入れられないわけじゃないだろう?」
こちらの言葉に、遠坂は正気を疑うかのように眉をひそめる。
「…………次は六十年後よ」
「冬木の戦争で、本来の規定通りに進んで、次を待つならな」
「………………」
遠坂がこちらの真意を探るように目を細める。今は高速で思考を進めているのだろう。
そこに喰らい付くように、これまで黙っていたうちの姉が『ヒント』を呟く。
「ひとつ、
都合よく、『
「ひとつ、『
遠坂が目を見開く。
幼い外見の魔術師は妖艶に笑う。
「 ひとつ、聖杯の降誕に相応しい土地は────冬木だけじゃない 」
遠坂は……『
不快感、あるいは怒りのような色がその眼には宿っている。
「……質問をしても?」
「勿論、いいさ」
「じゃあ、まず一つ。アインツベルンとマキリが影響下にあるっていうのはどういうことかしら」
「見たままだが?」
両隣に控える『アインツベルン』と『マキリ』の
「……マキリは既にアインツベルンに吸収されたとして。あの妄執の一門が弱小の新興家門に従っているとでも?」
「ええ、『ウチ』は既に衛宮の支配下にあるわ。あそこの代表である私が保証する」
「…………」
「アインツベルンに渡されたマキリの技術が衛宮の管理下にあることは、マキリの代表である私が保証します」
姉に続けて妹が遠坂を追い詰める。
わずかに苦々しげに表情を歪めながらも、遠坂は質問を続ける。
「従っている理由は?」
「家門の名誉に関わる秘事を衛宮が複数握っている、魔道の追究に極めて有益な物資を衛宮から継続的に供給されている、家門の秘奥にして聖杯降誕の枢軸である『私』が衛宮に味方している……エトセトラエトセトラ」
「……首輪と餌と手足を握っている、ってことね。錬金術の大家も無様なこと」
「安心しなさい、リン。遠坂は脅迫したりしないから」
「心配していないから大丈夫よ。遠坂に脅迫されるような醜聞はないもの」
「今はそうだな」
「……引っかかる言い方ね?」
「気にするな。それで、『状況』は理解できたか?」
「まだ訊きたいことがあるわね。もし
「理想を言えばミュンヘン、現実的にはスノーフィールド、ガグラあたりが有力候補だな」
「
「七年あればできるわ」
「ふざけた話ね。…………はぁ」
『七年あれば次の聖杯戦争が起こせる』というこちらの話に遠坂は疲れた息を吐く。
ちなみに嘘ではない。アインツベルンはこちらを信用しきらず次の聖杯を準備しているし、今回の聖杯戦争中にメディアの協力があればシステムの改善も出来、冬木の奇蹟である大聖杯の転用も不可能ではない。
アインツベルンやマキリが避けていた国家や協会との軋轢等の諸問題を無視して強引に聖杯戦争を起こすだけなら七年で出来る。その後が大問題だろうが嘘ではない。
嘘ではないが……今回失敗すれば『
これはブラフ。
遠坂に『認めさせる』ための実行するつもりのないハッタリだ。
「……根源に至る
遠坂は諦めたようにあらためて息をつく。
「…………認めましょう。衛宮は遠坂と同格以上、力ある魔道家門だと」
────やっと。交渉の前提である『対等』は成った。
「まあ、もちろん後で調べるけれど。それで? 衛宮は遠坂と何を望んでいるのかしら」
遠坂は遠坂当主としての空気になった。
こちらも気は緩めはしないが……ここからは互いに有益な話だ。それほど気を張る必要も無い。
「先に言ったように取引さ。こちらが提供し、そちらも提供する」
「ただの等価交換、という話じゃないのね?」
「ああ、もっと踏み込んで、もっと継続的な話だよ、
まあ────遠坂凛にとっては、少し大きな話になるかもしれないけどな。
「────かつての御三家のように、衛宮と遠坂で盟約を結ぼうじゃないか。
もっとも…………今の遠坂は聖杯を必要としていないんだろうけど、さ? 」