愛は世界を救う ~※ただし手の届く範囲に限る ~   作:とり

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次話かと思いきや小話。入れ忘れてた。後でどっかに挟めたら挟む。
土日か月には多分次話が出せる?のでお待ちください、すいません。


挿し入れ小節 帰りの二人

 

 

 

 

「うぅん、私も学校休むべきかしら。少しでもキャスターに学べるならすごく有益なんだけど」

 

「奴はそうお人好しでもない。戦争の準備を中断してまで君にキャスターを回してくれるとは思えんが」

 

 

─────蛇が嗣郎達に絡むよりも時を遡り、時刻は夕刻。

衛宮邸での『相互援助』で半日を過ごした凛達の帰路での会話。

 

 

凛にとってこの日の数時間は非常に有意義なものだった。

普通に生きていればまず縁の無い大魔術の中で人を超えた英雄達の演舞を眺め。

神話に連なる宝具のオリジナルや模倣をとくと眺めてはその神秘の発現に感嘆し。

神代の魔術師の用いる術式を僅かながら解説まで貰いながら見させてもらい。

最後には神代の秘薬までお土産に持ち帰る充実ぶりだ。

凛の秘蔵の宝石を一つ渡したのはなかなかのコストだし、遠坂に伝わる大師父所縁の品をいくつか公開したのも結構な奮発だがリターンも十分だ。

神代の秘薬が貴重品過ぎて一見等価交換になっていないように思えるが、凛としてはさほど重要ではないとあるものがその不足分として活躍中である。

 

「そこはほら、遠坂当主の交渉力の見せどころよ。私が衛宮の家にいればあっちもアンタを活用できるし」

 

「これ以上私を貸し出し品扱いするのはやめてほしいものだ。そもそも人を貸し出して君が利益を得るのはどうなんだ」

 

「人材派遣よ人材派遣。いいじゃない、私はちゃんとあんたに魔力(きゅうりょう)払ってるし」

 

「これが不労所得というやつか……搾取されている気がしてならない」

 

そう、遠坂が衛宮に対価として提供している大部分が従者たるエミヤである。

エミヤは嗣郎に対する宝具の開帳こそ強く拒絶したが、それ以外では凛の指示の下衛宮に協力することに特に否定的でもなかった。

口では面倒がっているが本気で嫌がっているわけではないと凛は見抜き、完全な貸出(リース)品状態である。

衛宮の槍兵や剣士相手に道場や固有結界で刃を合わせ、固有結界そのものは見せなかった衛宮嗣郎に対しても投影に関する助言をしていた。

そしてそれは衛宮が希望する限り応える聖杯戦争終結までの期間契約であり、すでにエミヤの聖杯戦争は凛から衛宮に貸し出される派遣人員(ヘルパー)として過ごすことがこの時点で決定していた。

 

衛宮嗣郎はどうやら聖杯戦争終了まで学校を休んでサーヴァント相手の鍛錬と戦争の準備や警戒をするらしく、凛もそれに付き合えば嗣郎はエミヤを有効活用できてありがたいはず。凛は凛でキャスターの道具作成を見学できたらなーと思っている。まぁできたらでいいのでそこまで拘ってはいない。学園のアイドルにして優等生遠坂凛を二週間も休ませるデメリットと天秤に乗っているくらいだ。あの衛宮嗣郎と同じように休めば変な噂も立ちかねないのだし。

……噂が怖いしやっぱやめとこう、と凛は決めた。

 

 

「私はマスターでアンタは従者なんだから何もおかしくないでしょ? あ、そういえば。アンタが私を騙してた事、まだ私は許してないわよ」

 

「おや、凛にしては少し足りないジョークだな。ん、もしや本気かね? まさか遠坂凛ともあろう者がそこまで狭量なわけはないが」

 

「む」

 

「いや、従者の些細な過失も呑み込めないなどとは思っていないが……うむ、どうやら私の考えが足りなかったようだ。謝罪は必要だな。すまなかった」

 

「ええ、分かればいいのよ、分かれば。言葉での謝罪は必要だものね。ちょっとあなたの謝罪には妙に苦味がついてきてる気がするけど」

 

「気のせいではないかな」

 

「そうね、たぶん気のせいだわ」

 

良いように使われながらも、飄々とした従者。

衛宮邸での少し重い気配から元に戻った従者に、呆れながらも頬の緩む主。

 

「でもちょっと気分の口直しがほしいかもね。帰ったら甘めの紅茶を淹れて頂戴」

 

「了承した、マスター。なんなら甘めの茶菓子もつけるが?」

 

「なかなか甘い誘惑ね。レディの悩みを増やさない程度でお願いできる?」

 

「その挑戦受け取った。君の体型を崩さない絶妙な甘いケーキを作ってみせよう」

 

「じゃあよろしく。……って、え? あんたケーキなんて作れるの?」

 

「フッ、舐められたものだな。スーパーで材料を買って帰るぞ、ああついでに晩飯のもだな。特売は何があるか」

 

「ちょっと、こら、あんたどんだけ生活感溢れる英霊なのよ」

 

「晩飯は間食に合わせて洋食が良いかね? いや、奴や桜の後塵を拝してなどいないということを教えてやろう……私の 酢 豚 で」

 

「どんだけ家庭的!? ちょ、待ちなさいっ勝手に進むな!」

 

ククク、と楽しげに先行する従者を追う主。

気付けばそこには、奇妙に対等な主従の関係があった。

 

 

 

 

 


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