あの日に向かって   作:ざび

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キャラを動かすって難しい。今頃になってそう思った次第であります。
エタりはしないだろうけど、ホントにゆっくり書いてくことになりそう。


三話

「蕾実ちゃん大丈夫?」

「疲れてない?しんどいなら先生に言っておくよ?」

「昨日の分のノートとか貸そうか?」

その日。朝の教室で私の机周りにはやっぱり、というか案の定クラスメイト達が押しかけてきていた。それも3、4人では飽き足らず、大まかに見積もっても10人。クラスメイトの女子ほとんどと言っていい人数が、だ。

まだ朝のホームルームまで10分ぐらいは時間がある。時間ぎりぎりになって教室に入ってくる子も少なくないから、そのことを考えるとまだまだ増える可能性だってある。

しんどい。純粋にそう思った。

勿論周りのみんなが心配しているような体調不良とかでは無くて、精神的な方で。

人に囲まれることに慣れていない訳では無いけれど、想像して欲しい。座っている私の顔を覗きこんでくる総勢十数名の視線を。

こちらの様子を会話ついでにチラチラと伺っていたりしている周りの男子を含めればクラスの半分を占める視線が今、座っている私に向けられているのだ。疲れない筈が無かった。

まさか、これほどまでにみんなが顔色を好奇だったり心配の色に変えて来るなんて。話題の焦点は十中八九、昨日の私の奇行だろう。

一体全体、昨日の私――いや、私2号は何をやらかしたんだろうか。

周りのみんなは『困ったことがあったら何でも言ってね』と張り切っているし、まだ全貌が明らかになっていない昨日の奇行だって何故か疲れているからという理由で納得されている。男子のこちらを見る視線だって心なしか熱がこもっているような気もするし…。

ただ教室に入って席に着席しただけでこの有様なのだ。この状態で『実は昨日の記憶が無いんです』なんて言ったらどうなるかわからないし、言える筈も無かった。

「あーうん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとね」

もう何が何だかわからない。

だからこそ、ちょっと疲れた顔でそう言うのが今の私には限界だった。

 

 

 

結局お昼休みまでモヤモヤしたまま過ごした私はいつものように騒ぎ立てる教室の中、自分の席でお弁当を食べることにした。

昨日のことは気になるけれど、いつまでも引き摺っている訳にもいかないだろう。

これが脳に異常をきたしたが故の症状だったら今すぐにでも学校を早退して大きな病院への招待状を書いて貰うところだけど、今のところ問題なく思考が働いていることからその線は薄い。クラスメイトが口を揃えて言ったように、やっぱり疲れているのだろうか。

最近はわからなくなってきた授業も少なくないし、もうすぐすれば宮水神社で儀式もあるからその準備だってしなければいけない。儀式自体は私は見守るだけなのだけど、それにしたってプレッシャーが無いわけじゃない。失敗する訳には行かないのだから。

そういったちょっとずつのストレスが溜まっていった結果が、昨日の奇行なのだろうか。

覚えが無い私からは、もうその線しか思いつかなかった。

「はぁ……」

溜息を吐きながら、四葉が真心込めて作った特製弁当を口に運ぶ。

…うん、おいしい。完全に沈没している心をこうやって浮かび上げてしまう辺り、やっぱり食べ物は偉大だ。

そして、相変わらず四葉は料理上手だということを痛感する。

そりゃ私だって料理が出来ない訳じゃないけど……どう考えたって、この出来栄えと比べるのは烏滸がましいレベルでしかない。いつもは寝坊助の三葉ちゃんだって私よりも遥かに上手だ。

この弁当にしたって、『宮水の巫女の謹製弁当』とかでプロデュースしたら売れたりしそうだし。四葉に言ったらまず間違いなく止められるだろうけど。

「つ~ぼみっ、お昼食べよ!」

「あ、リンちゃん」

もし売るならどんな感じが良いかな、と弁当のパッケージを勝手ながら頭の中で思い描いていると、後ろから声をかけられた。

振り返ると目に入ったのは私と同じぐらいの背丈に、短めのスカート。綺麗な黒髪を肩先まで伸ばして前髪を髪留めで止めている彼女、越川鈴はこちらをみて屈託ない笑みを浮かべた。

「前、座るね」

その声に私が頷いて返すと、それを確認したリンちゃんは流れるように私の前の席へと腰掛ける。そうした後でお弁当箱をいそいそと取り出しながら、先程までとは違ったニヤニヤとからかっているような笑みを浮かべた。

「それで?」

「それでって……何のこと?」

「き・の・う。様子を見るに、何があったか全然覚えてないんでしょ?教えてあげようか」

「な、何でわかったの!?」

思わずそう聞き返す。誰にもそのことは言っていないのに。

朝の一件でクラスメイトから好奇の視線を浴びたのは、記憶に新しい。それで完全に面倒臭くなってしまった私は、これ以上変に心配されることのないように、昨日の記憶が無いことは伏せていたんだけれど。

「うーん……雰囲気?」

「そんな適当な…まあ、当たってるけど」

「どうする?聞きたい?」

答えは決まってるだろうけど、なんて思っているのだろうか。

ニヤリとした笑みを外さないまま首を傾げた彼女の、綺麗な黒髪が揺れる。

正直なところ、話さないで済むのならそのほうが良い、なんて思えるような内容だ。

記憶はないし、家族の話じゃ普段の私とは似ても似つかない行動の連続。

それが更に周囲に広まって、しかも記憶がないことまで知られてしまったら面倒になること必至だろう。

そう考えると、目の前で優しさと面白さ半分の笑顔でいる幼馴染に知られたことはそう悪くないことかも、なんて思えた。

 

私がリンちゃんと呼んでいる少女、越川鈴とは互いにかなり小さい頃からの仲だ。

明確にどこで会った、なんて覚えていないけど、こんな辺境だ。毎年恒例で宮水神社の境内で開かれる秋祭りの時にでも出会ったのかもしれない。

というのも、互いに初めて会った時のことなんて気にしてもいなかったからだ。

人一倍悪戯好きだった子供のころの私たちは妙に波長が合って、いつからか突然遊ぶようになった。

家がそう近いわけではなかったけれど週に二回は必ずあって遊んでいたし、小学校でも中学校でも基本的には一緒にいたし、高校生になった今でもそれは変わらなかった。

互いに気心の知れあった仲で、少なくない喜びも苦しみも一緒に乗り越えてきた。

そんな関係だったからか、やがて『初めて会ったのはいつだっけ』なんて考えた時には、初めて会った時の記憶なんてとっくに遥か彼方へと行ってしまっていた。

 

そんな彼女が目の前でいつもの表情を、大丈夫だと言うような微笑みを浮かべているのを見て、私は首を縦に振ってしまった。

もうこの付き合いも去年か一昨年に10年を過ぎたけど、一つだけ、今後も変わりそうにないことがある。

「よし、決まりだね。まず朝に会った時のことからだけど」

多分、私は今後もリンちゃんには勝てないんだろうな。

嬉々として話し始めた彼女の話を聞きつつ、なんとなく、そう思った。

 

 

 

 

夜になって私は一人、自分の部屋で今日の出来事を思い出していた。

リンちゃんから聞いた話は、大変ためになった。主に、私の精神をすり減らすのに、だけれど。

結局のところ私が変な行動をしていたということは変わらない事実らしくて、その度合いが奇行から少しマイルドになったぐらいだろうか。

朝は周囲の人に全員敬語で話し、昼ごろには元に戻ったかと思えば自分の名前もかなりあやふや。終いには帰り道がわからなくなったとリンちゃんに送ってもらってようやっと家まで辿り着けたらしい。

それに三葉ちゃんや四葉が言っていたことを足せば昨日の私の完成だ。一日中寝ぼけていたのか、なんて思われても仕方ないような行動の数々。

こんな状態だったのなら、なるほど。今朝にあれほど家族やクラスメイトに心配されたのも納得できた。

「あー、もう疲れた。今日はもう寝よ」

誰に言うでもなく、そう声を上げて布団に潜り込む。明日は土曜日。特に部活にも所属していない私には、特に用事もない、ただの休日だ。

いつもならスマートフォンを片手にちょっとの夜更かしをするところだけど、今日は生憎、そういう分にはなれないような出来事が多すぎた。

昨日の記憶が無いのに、しっかりと一日が過ぎたことになっている。

それは確かなようで、授業のノートも綺麗な字でしっかりと取られていたし、体育の授業でも私はちゃんと動けていたようだ。

ノートの字はいつもより平仮名が多くて、体育ではいつもより数倍はハキハキと動いていたらしい、なんて相違点は幾つかあるけれど。

「…やっぱり変だ」

疲れで頭がうまく回っていないのか、思い浮かんだ言葉がそのまま口を衝いて出る。

そうだ。だって、昨日…いや、一昨日の私は、翌日の記憶が丸一日吹っ飛んでしまう程に疲れてなんかいなかったはずだ。

思い返しても特別大きな出来事があったわけじゃないし、それにピッタリ一日だけ記憶が飛んでいるっていうのもおかしな話。

「…………寝よう」

考えても答えは多分出ないだろうし、それなら早めに寝るが吉だ。

今日一日を踏まえてそう判断した私はスマートフォンを枕元に置いて、改めて布団に潜り込んだ。

取り敢えず、明日は気分を晴らすためにもちょっと遠出でもして、本屋にでも行ってみよう。

願わくば、昨日みたいに変な一日を迎えることがありませんように………!

そう願って、私は眠りについた。

 

だというのに。どうにも、宮水の神様はわたしのことが嫌いらしい。

 

フカフカのベッド。

だだっ広い、きれいに整頓された部屋。

ハッキリと、それでいてけたたましくは無い音を枕元で鳴らす目覚まし時計。

そして、何より問題なのが――――

「うわ…うわぁぁ……」

端正な未だ幼い顔立ちに、少し長めの黒髪と綺麗に光る琥珀色の目。

小学校高学年か、中学一年生辺りだろうか。

鏡の前に立った自分を寸分たがわぬ視線で見つめているのは、そんな外見の()()()

つまるところ、鏡に映った冷や汗を額から垂らしているこの少年こそが、現在の私の姿という訳で。

「ど、どういうこと……?」

現状を飲み込み切れない私はただ、暫くの間鏡の前で佇むことしか出来そうになかった。

 

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