各地の迷宮に潜り、世界中を旅する存在、『冒険者』。
ある時は洞窟や古代の遺跡へ、またある時は山に森に、世界中のあらゆる場所がまるで彼らの庭。
年頃の少年少女ならば一度は憧れる彼ら冒険者を養成する学校の一つ、それがこのクロスティーニ学園だ。
この日は真新しい制服に身を包んだ少年少女達でいつにない賑わいを見せていた。そう、この日は年に1度の大イベント。
「ねね、あなた一人?もうすぐ入学式が始まるよ!一緒に行こうよ!」
冒険者を目指して学園に集った新たな冒険者の卵達の入学式の日だ。この快活なヒューマンの少女が声をかけたバハムーンの少女、カンナもまたその一人だった。
「あ、あたし?それはいいけど…」
「やった!私はオリーブ。よろしくね!」
入学式が行われる体育館へ向かう途中で聞いたところ、二人はどうやらクラスメートになるらしい。オリーブはといえば入学前から見学を名目に何度か学園に遊びにきたことがあるようで、新入生ながら学園のことには人一倍詳しいらしい。さらに、その明るさですでに友達も多くできているようで、カンナもすぐに取り巻きとして迎えられた。
入学式を終え、生徒達はそれぞれ指定された教室へと向かうことになった。初めてクラスメート、そして担任と顔を合わせることになるホームルームが行われるのだが――
「ウソッ、マジで!!あ、ありえない…」
教室の指定が張り出された掲示板を前にオリーブが驚愕の表情を浮かべていた。
「どうしたの?まさか担任がハズレだなんて言わないわよね?」
「カンナ、そのまさかだよ…。担任があのダンテ先生だなんて…憂鬱だなぁ……。」
「ダンテ先生?そんなに悪い引きなの?」
「ハズレもハズレ、大ハズレよ!私なんか入学する前から目をつけられててさ。エラそうで、超感じ悪いし、先生だからって何様って感じ!!」
この後のホームルームでカンナを含め同じクラスになった不運な生徒達はこのオリーブの批評に何の嘘偽りも誇張もなかったことを実感したのだった。地獄のホームルームが終わり、先生が去っていった教室では生徒たちのため息と不満が響き渡った。逃げるように荷物をまとめて寮へ向かう生徒も少なくなかった。
「……っあ゛ー!!何よあいつ!何!?先生だからって調子のってんじゃないの!?根暗なディアボロスのくせにっ!!」
「でしょ!?わかるでしょ!!?あー!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムーカーツークー!!!」
オリーブ達も寮へ戻るどころではなかった。特に彼女に関しては図書委員の仕事もあるというのにクラス委員長を押し付けられ、相当ご立腹のようだ。そうでなくても「俺のクラスになった以上は軍隊に入ったつもりでかかってこい」「俺の言葉には絶対服従」などといきなり言い放つような先生に不満が起きるのは当然だ。
「うう、オイラ、パーネ先生って人のクラスがよかったよ~!」
「ああ、私の友達その先生のとこ。あ~、クラス分かれてよかったかとおもったけど、全然そんなことなかったわぁ~!もうやだ、登校拒否するわ。」
そう漏らしたのは2匹…もとい、2人のドワーフ。一人はオリーブの地元の友人だという少年コッパ。もうひとりはカンナと同じく入学式で知り合ったという少女チルル。2人ともしょんぼりと獣のような耳と尻尾をしおれさせてぼやいていた。
「噂には聞いていたが、あれはひどいな…。見ろ、不満で不良共が暴れている。」
口を開いたのはこれまたオリーブの友人、ルオーテ。彼の指す先では数人のガラの悪そうな生徒が女子生徒を取り囲んでいた。
「うげげ、あんなのも同じクラスなのね…。さよなら、私のバラ色の学園生活……って、カンナ、どこ行くの?」
「ちょっとあのバカ共シメてくるわ。」
「シメるって、ちょっと、一人じゃ危ないよー!」
不良の集団に向かっていくカンナをチルルが追って飛び出していった。不満で暴れている、というのもどうかと思うが、この状況では案外ありえなくはないから困る。おそらく憂さ晴らしか何かなのだろう。しかし、かといって女子生徒に手を出すとは、迷惑極まりない連中である。
「そのへんにしときなさいヤンキー共!すぐにその子を放しなさい!!」
「あぁ?なんだテメー、正義の味方気取りか?」
チルルが静止する間もなくカンナが割入った。リーダーと思しき赤い髪のバハムーンとのにらみ合いが始まった。
「こっちは入学早々イライラしてんだよ。それともなんだ?テメーが代わりに付き合ってくれんのかよッ!」
いきなり相手の拳が炸裂し、その不意打ちをカンナはまともに顔にくらってしまった。しかしさすが強靭な肉体を持つバハムーンといったところか。よろけながらも立ち上がり、先ほどと変わらない、いやそれ以上に鋭い目で睨み返した。
「…ああ、希望とあればその喧嘩買ってやろうじゃないの。どうやら鉄拳制裁しかないようね!!」
「なめんじゃねぇぞこのアマ!!」
ああ、もうダメだ。バハムーン同士の本気の殴り合いが始まり、いよいよチルルは見ていることしかできそうになかった。バハムーン同様ドワーフも戦闘に向く種族だが、いくらなんでもあれは無理。心なしか不良の取り巻きも若干引いているように見える。相手の少年はそれなりに場数を踏んできたのだろう。いかにも喧嘩には馴れているといったような立ち回りで、格闘家科あたりにいてもおかしくなさそうだ。そして驚くべきはカンナ。相手の動きに対して決して劣ってはいない。こちらはこちらでいろいろあるのだろう。次第にエキサイトする喧嘩にいつの間にか野次馬が集まってきていた。
さすがにもう見ていられない。手遅れになる前に止めないと、そう思ってチルルが飛び出そうとしたところ――
「うわっ、熱ッ!!なんだ!?」
「だいぶ楽しませてもらったが、…さすがに飽きた。」
冷ややかな声が響き、その主を中心に人ごみが割れる。声の主は金髪に長い耳が特徴のエルフの少年だった。
「テメー、魔法使いか?そんなひょろひょろに用はねぇんだ、死にたくなきゃ引っ込んでろ!」
「どうだか。いいか、魔法とペンは拳より強い。覚えておけ。」
その瞬間、相手の周りに火柱が立った。おそらく「ファイア」の魔法だろうが、威力何割か増しに見える。先ほど彼をひるませたのも同じ魔法のようだが、ここまで効果を制御できるということはかなり熟練の魔法使いなのだろう。魔法に縁のないチルルには難しいことはわからないが、思いがけず助太刀が入り少し安心した。
「クソッ、相手が悪いや、今回は見逃してやる!覚えとけよ!!」
そしてお決まりの捨て台詞を残して不良達は退散していった。
「ふふん、正義は必ず勝つのよ!」
「今回は確かに勝ったかも知れないけど…、だいぶ危ないところだったよ。見ててヒヤヒヤしたもん、もう…」
美味しいところは持って行かれたものの、カンナはすっかり勝ち誇った顔をしている。
「まったく…。ねぇ、きみ、大丈夫だった?怪我はない?」
「え、ええ…。助けてくれてありがとうございました……あの、それと、すみません、ご迷惑をおかけして…」
「いいの!きみも新入生、だよね?これから寮に戻るところ?よかったら送って行こうか?」
「えっ、そんな、そこまでご迷惑をかけるわけには…」
不良に絡まれていたのはノームの少女。ノームとしては珍しい派手なピンク色の髪に、チルル達の着ているような制服とは違うどちらかといえばステージ衣装に近い服装からアイドル科の生徒だろう。おずおずした態度と消え入りそうなか細い声からはステージで歌ったり、ましてや魔法の一つとはいえシャウトしたりする姿は想像できないが。
「遠慮なんてしなくていいって!それに、また何かあったら大変でしょ?大丈夫、私もカンナちゃんも戦士科だし、また悪い虫がついてもバシっと追い払ってあげるよ!」
「そうね。それに魔法使いもついてるしね。」
カンナの視線の先には野次馬に紛れて去っていこうとする先ほどの少年。「は?」と言いたそうな表情でこちらを見ている。ついでにチルルも若干表情が引きつっているような気がする。
「あなた、さっきはありがとうね。…あ、もしかして上級生……?」
「…これでも一応新入生。」
「なんだ、そうだったの!ねえ、よかったら一緒にこない?」
こうして4人はノームの少女、シュラインを寮の部屋へ送って行き、ひとまずその日はそれで解散となった。
翌日――
「あっ、カンナにチルル!もう、昨日結局あのまま戻ってこないから心配してたんだよ!?」
「ああ、ごめんねー。ちょっとバハムーン同士の喧嘩を止める勇気はさすがになくて…。っていうかあれもう喧嘩とかじゃないよね、共食いだよね。」
「どういう意味よそれ。でもこの通りピンピンしてるから全然平気よ。」
いよいよ今日から本格的に授業が始まる。つまり学園生活はここからということになるが、昨日の騒ぎがあってかクラスの雰囲気はカンナ達の馴染める状態ではなくなっていた。「強すぎてこいつと関わったら喰われる」。言い表すならそんな感じ。すっかり畏れの対象となってしまったようだ。
そして彼女とは別の意味で馴染めていないのがもう1人。入学二日目だというのにカンナ同様あちこちを絆創膏と包帯でコーディネートした赤い髪のバハムーン。昨日の不良だ。
「なんだろう、私やっぱりクラス委員無理かも。図書委員の仕事があるからとかじゃなくて、何このアクだらけのクラス……」
「オリーブちゃん、心中お察しするよ。私もめっちゃ怖い。」
オリーブとチルルが嘆いたそんな雰囲気のまま朝のホームルームが始まり、午前中の授業を終え昼休みになった頃、カンナとチルルを訪ねてある人物が教室を訪れた。印象的なピンク色の髪のノームの少女、シュラインだ。二人に話があるということで、さすがに教室内に昨日の騒動を思わせるメンバーを揃えるわけにはいかず一行は屋上へと向かった。
「あのっ、昨日は助けていただいてありがとうございました。それで、その……、私とパーティを組んでください!!」
彼女の話というのは自分とパーティを組んで欲しいというものだった。助けてもらったお礼として自分が二人を助けたいというのである。確かにアイドル科の歌魔法は補助に特化した魔法ではあるが、仮にもアイドルともあろう者がサポートに徹するためにパーティを組もうというのはアイドルとは、と考えさせられる気がしないでもない。しかし、二人の返事は
「何よ、あんなの全然気にすることないわ。でもパーティは歓迎!」
「以下同文!むしろアイドル1人いるだけで心強い!よろしくね!」
どちらが迎え入れられた形かはさておき、3人によるパーティが成立した。
そんな彼女たちの昼休み。ここで終わっていればいい話で済んでいたのだ。
「ちょいと邪魔するぜ!」
突如ドアを破り文字通り邪魔者が入ってきた。彼の姿を見た瞬間、怯えるシュラインと威嚇の体勢をとるカンナ、そして呆れ顔のチルル。
「うーわー、また出たよ。そして私以上に空気も読めないと見た。」
「うっせー、わんこは黙ってろ!俺が用あるのはそのバハムーンだけだ!」
チルル曰く自分以上に空気の読めない侵入者は昨日の不良だった。昨日のことを根にもっての復讐だろうか。もっとも根に持っていないという方が恐ろしいが。
「何よ、またボコされたいの?」
「昨日のは邪魔が入ったせいだ、決着は着いてねぇ。タイマンでも俺が負けるようなら手を引いてやるし何でも言うことは聞く。ただし、俺が勝ったら――俺もあんたのパーティに入れろください!!」
想定外の不意打ちに相対するカンナだけでなくチルルとシュラインを含めその場の空気が凍った。こいつは一体何を考えているんだ。何が目的なんだ。混乱するカンナの口からは一言しか出てこなかった。
「ふざけてんの?」
「俺がふざけてるように見えるか?いたって真面目、大真面目だ!ダチとは手を切る、そんでお前のパーティに入れろください。そんだけだ。」
「えーっとね、まず話を聞こうか。じゃないとたぶんきみこの場で灰だよ?」
チルルがその場を収めて状況を整理しようとするが、相手はカンナ以外とまともに取り合う気はないようだ。頭に血が昇っているのもあるだろうし、こういう時に典型的なバハムーンの高圧的な気質は非常に面倒くさい。仕方なくチルルは怯えるシュラインを宥めながら空気になることに徹した。
「仮にパーティに加わるとして、まず昨日いじめたシュラインに謝罪をすべきじゃないの?」
「テメーの指図は俺が負けるまで受けねぇ。いいか、俺はいくら邪魔が入ったとはいえ女相手に手こずったのが納得いかねぇの。地元じゃあ負け無しで通ってきた俺、ヴァズ=リンフォルツァンドの名に傷が付くんだよ。だから昨日のは何かの間違いだってのを証明してやる。負けたらそのあたりはきちんとケジメつけっからよ。」
「…なるほどね、言いたいことはわかったわ。けど、あたし達のパーティに入りたいっていうのには繋がらないわよね?」
「そ、それは……、そりゃあ、最終的に俺が勝ったとはいえ?この俺の手を焼かせた相手だし?強いものに学べって言うだろ?」
「うわ、ほの字だ。こいつカンナちゃんにベタ惚れだよたぶん。」
「そ、そうなんですか?」
「いちいちうるせーんだよそこの犬っころ!!焼くぞ、マジ俺様自慢のブレスで焼くぞ!?」
チルル仮説の真偽はともかくとして、彼の目的は結果はどうであれカンナと決着をつけることらしい。騒ぎを大きくしたせいでカンナにとばっちりがいった結果とすら言えるが筋が通っていないわけではない。それに、カンナが勝てば二度と近づくなと追い払うことも可能だ。その辺どうするかは現在心象最悪の彼が戦いを通して株価をあげられるかにかかっている。
「わかった、受けて立つわ。今日の放課後、体育館裏あたりでどうかしら?」
「話がわかるじゃねぇか。絶対逃げるなよ。…あ、あと昨日のあの魔法使い呼んだらマジタダじゃおかねえからな!!」
そう言い残してヴァズは屋上から去っていった。あの魔法使いは偶然居合わせただけでこっち側じゃないんだけどなあ、というのはまああえて伝えることではないだろう。
「い、いいんですか?あんな約束しちゃって……」
「大丈夫よ。あたしだってあんなのに負けるほどヤワじゃないし、何よりあなたの目の前であいつを土下座させるまで絶対許さないから。」
不安げな2人に対してカンナはすっかりやる気だ。
そうして時は過ぎ、その日の放課後がやってきた――
「おい待て、確かに見たところ昨日の魔法使いはいねぇが…なんだこれおかしくないか?」
「これに関してはあたしも知らない。まあカボチャか何かとでも思ってればいいんじゃないの?」
カンナが決闘の舞台として指定した体育館裏にいるのは対峙する2人のバハムーンと、立会人にされてしまったチルルとシュライン、そしてどこからか噂を嗅ぎつけてやってきた大量の野次馬。カンナとしては人目につかず思い切り暴れられる場所としてこの場所を指定したらしいが、その配慮に何の意味も見いだせない状況になっている。逆に場所が場所なせいで万が一先生に見つかりでもしたらこの上なく面倒だ。しかしバハムーン達はお構いなしだった。
「かかってきな!レディーファーストとかいらないから!」
「っしゃあ!遠慮はしないぜ!!」
チルルが開始の合図を出すと二人はダガーを手にお互いの懐めがけて突っ込んだ。
今回使用するのは戦士科で支給された大型のナイフ、ダガー。もちろん実戦で使える真剣だ。ナイフとはいえ、そもそも力の強いバハムーンが使えば十分な威力になる。それだけ2人は本気だった。
2人の戦いぶりは昨日も見たところだが、相変わらずチルルの「共食い」という形容が大袈裟なものではないほどに壮絶だ。ヴァズの方はさすが負け無しを自称するだけはあり、おそらくまともに組み合ったらよほど力のある種族でもない限り勝ち目はないだろう。見ているだけでも圧倒的な腕力が伝わってくる。一方のカンナはさすがに力では劣っているように見えるもののそれを戦略で補っている。すべての攻撃を受け止めていては勝ち目はない。流すべきところは流す。相手の動きが単純な分、隙はいくらでも狙える。
「いやー、すごいねぇ。抜きつ抜かれつのデッドヒート……はまたちょっと違うか。とりあえずあれだ、語彙力喪失って感じだね、シュラインちゃん…あれ?」
チルルが呆れ気味に感想を述べる。しかし話を振るつもりだった少女の姿はそこになく、いつの間にかフェアリーの少年とすり替わっていた。
「あ、ども、お邪魔してます。」
「誰よあんた。」
「いいぞ!やっちまえー!!」
突如現れた少年に気を取られてしまったが、観衆からあがった声でチルルは我にかえって決闘の真っ最中の2人に目を戻した。その力に押し負けてしまったのかカンナの手からナイフが消え、少し離れたところに刺さっていた。嘘だろ、これまずいんじゃないの?カンナが相手の動きを警戒しながら武器を取り戻しに行こうとするもヴァズがブレスで行く手を阻む。あれが自慢のブレスか。確かにバハムーンだから吐くとは思ったがまさか本当に吐くとは。
「こんの…野郎ッ!!」
武器の回収を諦めたカンナが素手でヴァズの鳩尾を狙った。予想外の反撃にヴァズは避ける間もなくそのまま崩れ落ちた。
「!!えっと…そこまで!!カンナちゃんの勝ち!!」
チルルが宣言すると決着の瞬間に一瞬静まり返った観衆のボルテージは最高潮に達した。もう先生に見つかっても何の文句も言えないレベルの盛り上がりだ。見事逆転勝利を果たしたカンナへの歓声はもちろん、負けたヴァズへも健闘を讃える声が送られた。
「ちくしょう!!俺の無敗伝説もここまでか、好きにしやがれ!!」
善戦ではあったが負けは負け。大の字に転がってヴァズが半ばヤケのような状態で言い放つ。
「じゃあ約束は約束よ。まずシュラインに土下座で頭を深々と垂れて謝りなさい。って、あれ?チルル、シュラインはどこ行ったの?」
「いや、それが私も気づかないうちに…」
「すみません、こっちです!」
声がしたのは分厚い観衆の壁の方。見るとシュラインが手をピョコピョコと挙げてアピールしながら一生懸命人ごみを掻き分けてカンナ達の方へ向かってきていた。
「すみません…、どうしても気になったことがあって……。それで、結果は…もしかしてこれって…?」
「ええ、この通りちゃんと勝ったわ。ほら、あんたはちゃんと頭を地にこすりつけて謝る!」
「あだだだだだだッ!!テメッ、いくらなんでも調子のんなよ!!」
「カンナさん何もそこまでしなくてもいいですから…。でも、よかったです、ご無事のようで……。」
こうして体育館裏での決闘は終わり、ヴァズがシュラインに土下座をして、自体は一通りの収束を見た。そして彼らを取り囲んでいた野次馬達は去り、その場には数名の生徒だけが残った。今回の騒ぎの中心となったカンナとヴァズ、そして巻き込まれたチルルとシュライン、そしてもう2名。
「いやあ、熱戦でした!ボクも野次馬のつもりでしたけど、見入っちゃいました!」
シュラインがいなくなっている間にチルルと共に決闘の行方を見守っていたフェアリーの少年だ。
「……で、あんたは誰なの?」
「ボクはレンジャー科のエストレーシャ。お気軽にエストとお呼びください!ボクも皆さんにお供したい所存にございます!」
どうやら純粋に野次馬の1人だったようだが、バハムーン同士の決闘にすっかりテンションが上がってしまったらしい。もの好きというかなんというか……。しかしひとまず彼のことは置いておくことにする。何故なら――
「「テメー(あんた)は何でここに?」」
「お前らに興味があるわけではないがシュラインが来いというから。」
昨日のあのエルフの少年がそこにいた。あの人ごみだったから最初からいたのかはわからないが、本人曰く今回は手出しはしていないそうだから問題はないだろう…おそらく。とはいえヴァズとチルルが露骨に嫌そうな表情を向ける。
「えっと、これどういう状況?」
「すみません、お2人の戦ってる間に彼の姿を見かけましてそれで……」
「たぶんお前らもそうだろうがパーティに誘われた。…まあ断る理由はないからな、よろしく頼むぜ。ああ、赤い方のバハムーンはどうだか知らないが。」
「「えええええええええええええ!!?」」
控えめな印象の彼女だが思っている以上に行動派なのかも知れない。本人は申し訳なさそうにしているが、カンナ達はそんなシュラインに驚きを隠せずにいた。
「シュラインちゃん、本気?」
「ええ、彼も私を助けてくれた仲間ですから。必ず恩返しをするつもりです。」
「そういう堅苦しいのはいいって言ってるんだがな…。で?その赤い方はどうするつもりだ?」
「おいエルフテメーその呼び方やめろ。ま、負けちまった以上俺はカンナのことは諦めるぜ。もう近づかねぇからそいつらと仲良くやってくれや。」
十分休んだと判断したのだろうか、ヴァズはそれだけ言い残すとその場を去っていった。そういえばそろそろ日も落ちて体育館裏はだいぶ暗くなってきた。
「さて、ボク達もぼちぼち寮に帰りましょうか!特にカンナさんはお疲れでしょうし!」
「……そうね。」
寮に戻ってからエストがささやかなパーティ結成祝いでもしようかと提案してきたが、カンナはそれを断った。そもそもエストが本当にこのパーティのメンバーなのかというあたりから怪しいのだが、それを除いても引っかかることがあるのだそうだ。
そんな中、翌日の放課後にカンナ達は正式にパーティとしてクエストに出ることになった。クエストの内容は校長直々のおつかいで、学園からほど近い迷宮『初めの森』を抜けた先、ジェラートタウンで特産品であるお酒を買ってきて欲しいということだった。校長が生徒にお酒を買いに行かせるというのもどうなのかという気はするが…。
そして気になるのがこのパーティのメンバー。パーティを組むきっかけとなったのはシュラインの方だが、なんだかんだでリーダーはカンナということに落ち着いた。さすがにリーダーまでは務められる自信はないそうだ。
クエストに出る前に校門に集まったのはカンナ、チルル、シュラインに加え、昨日シュラインが誘った魔法使いシェイド、勝手にメンバーを自称していたが正式に認められたらしいエスト、そしてもう1人。
「おいおい、本当に俺も連れて行く気か?」
5人に少し遅れて現れたのは昨日以上に絆創膏と包帯のコーディネートが増えたヴァズだった。
「負けたんだからあたしの言うことはちゃんと聞きなさいよね。」
「へーへー、お前って意外ともの好きだなぁ…」
どうやらカンナの方から誘ったらしい。もともとヴァズが勝ったらパーティに入れろという約束だったはずであり、それが叶わなかった以上拒否されるものと思っていたが、カンナなりに思うことがあったらしい。
「嘘でしょ、なんでせっかく勝ったのに誘っちゃったのさ…」
「そりゃあできれば関わり合いたくないタイプではあるけどさ、このままのさばらせとくのはもったいないと思ったのよ。悔しいけど腕っぷしは本当に強いからね、こいつ。さあ、準備はいい?出発するわよ!!」
こうしてひと組の冒険者の卵達は初めてのクエストへと旅立っていった。
――一方その頃、
「隣のクラスからやばいパーティが生まれたらしいにゃ!これはみゃー達も負けてる場合じゃないのにゃ!」
放課後でほとんどの生徒が出ていった後の教室で数名の生徒を前にフェルパー族の少女が演説をキメていた。ネコを祖に持つ種族故か、その言葉にはネコ語のようなものが混じっている。
「そのやばい奴らの中にオレの幼馴染いるんだけどなぁ…。まあ実際あいつもやばいから何もいわねーけど。」
「勝つとか負けるとかの問題じゃない気がするけど、まあいいか。ところで、そのやばいパーティに君の双子のお兄さんがいるんだっけ?いいのかい、こんなところにいて…。」
「ええ…、兄には黙って入学してますし、ついてくるなって言われてたので……できれば会いたくないんです。」
「大変なんだねぇ。確かに彼は怒らせたら怖そうだしねぇ。同じ学科だけど、すでに問題児だよ。」
「にゃああああああ!おみゃー達!みゃーの話をちゃんと聞くにゃ!!」
彼女の演説を聞くのはドワーフ、クラッズ、エルフ、セレスティアの少年達。真面目に聞いているかは疑わしいところであるが…。
「ともかく!みゃー達は今日からパーティにゃ!今決めたにゃ!早速みゃー達もクエストに行くにゃ!!」
「えっ、そんな勝手な…」
「みゃーの辞書に『勝手』なんて言葉はないにゃ!ついてくるがいいにゃー!!」
もはやどちらがやばいパーティなのかわからないが、ここにもうひと組の冒険者の卵達のパーティが生まれたのだった。