堕魂の棺   作:鯨屋 唐風

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結婚ラプソディ

 アークがある任務に単独で参加した時の事だった。パーティは主に新興種族であるライカン族の者で構成され、熟練度も高くはなく、任務の難易度の割に苦戦を強いられていた。ライカンの新人プリーストであるマトリンは敵雑兵の集中攻撃を受けて死亡した後、リスポーン地点から他メンバーの元へ戻るのに骨を折っていた。その結果、かつてのウィリアムのように今やリードアタッカーを務めていたアークが、回復も兼任する事態となっていた。

「アクセル、不得手なのは知ってるが、ライフセレナーデをメインメロディに!」

「風バードに無茶を言うもんだね。大して効かないのは我慢しておくれよ。それとアーク、僕の名前はアッチェレランドだからね。」

「悪いなアクセレレート、こだわってる場合じゃない。」

バードは渋面を作りつつ、一応回復魔法ライフセレナーデを奏で出す。

「ウィルカさん、俺が回復に回ったからボスの注意がそっちに向きます。ダメージに備えて。」

「ドレッタさんとカルミンさんはリスポーンついでにマトリンさんを護衛して来て下さい!」

次々と指示を飛ばしつつ、回復魔法の合間にボスへの攻撃もするアーク。目に目に恐怖の涙を浮かべながらも黙々と従うライカン達。声も枯れよと歌うバード。やがて掃討を依頼された怪物の生命力は尽きかけ、最後の力を振り絞って猛突進を繰り出した。今や目標となっていたウィルカ目がけて体当たりをくれようと突撃する。

「まずい!」

アークは咄嗟に背の十字架を外し、怪物の目の前に躍り出てそれを地面に突き立てる。

「バンクェット!」

怪物は十字架に激突した後、全身の傷から新たな血を噴き出してもんどりうつ。響く断末魔。ウィルカは思わず耳を伏せる。

「皆さん、お疲れ様です。終わりましたよ。」

やっと追い付いて来たマトリン達や腰を抜かしているウィルカをよそに、アークとアクセルは怪物の遺骸を解体し始める。

「まさかこれしきの相手に90分もかかるとはね。新人パーティ、なめていたよ」

アクセルがアークにだけ聞こえるように囁く。

「そのうちやめるか、強くなるさ。」

アークも声をひそめて返す。そしてライカン達に対して、モンスターの解体について解説し始める。

「この手の怪物は大体この辺りに……ほらあった。これがモンスターコアです。こういう出るか出ないかわからない収穫品は協会に報告する義務はありません。」

カルミン達が気持ち悪そうに顔をしかめながら、怪物の遺骸に触れる。

「怖いけど、自分でやらなきゃ……」

「そうそう、そっちを押さえて。少し力が要るよ。」

アクセルのナイフが怪物の遺骸を切り裂いて行く。

「さてここからは工芸師の腕の見せ所。アーク、頼んだよ。」

「任せてくれ。」

アークは別な器具を取り出して、慎重にコアを切り取り始める。数分後、その手には怪物の構成要素とは思えない美しい宝珠があった。

「4人でジャンケンして下さい。勝った人にあげましょう。」

「アークさん達は要らないんですか?」

「レベル6は要りません。」

「僕達は単に小遣い稼ぎにこういう依頼も受けているだけだからね。」

アークの作業を眺めていたアクセルがあくび混じりに言った。

「あ、勝った!」

ドレッタが喜びの声を上げる。

「おめでとう!」

アークがドレッタに宝珠を手渡す。ドレッタはそれを大切そうに鞄にしまい込む。

「ねえ皆、ギルドに入れば僕達みたいな熟練者が、君達の成長をサポートしてくれるよ。ぜひ流天会に。」

「血揆会も入会歓迎ですよ。」

先達二人は勧誘も忘れない。新人4人はちらちらと目を見合わせ合い、口々に「ありがとうございます」「考えます」と応える。その日は町の入口でパーティを解散し、それぞれがその帰途に就いた。

 

 数日後、アークは町中で突然声をかけられた。振り向けばそこにいたのはウィルカ。先だっての任務で同行した新人リーパーだった。

「この間はありがとうございました、本当に助かりました!」

ウィルカはわずかに緊張した面持ちで、また微かに頬を染めて話しかける。アークの方ははて誰だったか、と戸惑い、ウィルカの肩に輝く流天会のバッジを見出してようやく数日前の苦戦と相手の名を思い出した。

「ウィルカ・ナイトグリーンさんか。先日はどうも。また何か任務に参加してみましたか?」

「はい、流天会の皆さんに連れて行ってもらってます。」

「それなら安心だ。装備もすぐに揃うでしょう。」

アークはウィルカの装備品をそれとなく確かめる。ギルド支給の簡素な装備の中に、モンスターコアをあしらった生産装備が混じっている。と、アークはウィルカがオフハンドを身に着けていない事に気付いた。オフハンドは単純にアクセサリーとも呼ばれ、精通を高める性質と、高性能な物であれば防衛性能とを持つ装備品の一種であり、工芸師が製作する物だった。

「リーパーの風精通アクセ、マナ増強型なら余ってますよ。」

「か、買います! 流天会には工芸師の人がいないので……」

「はは、あげますよ。マナなんて見飽きる程できるし、部屋に置いておいても邪魔なだけだしね。」

「ありがとうございますうううっ!」

「実は新職のリーパー用のを作ってみたくて、図案が解禁された時に何個も作っちゃったんだ。」

「あは、職業病ですね!」

話をはずませながら二人は歩く。いつの間にかそこは血揆会会館の前だった。アークはウィルカを入口で待たせ、オフハンドを取りに戻る。途端、会館ロビーにいた会員達が騒然となる。

「おい、アークが女の子連れてるぞ。」

「ライカンリーパーだ。新興種族とはなかなかやるな……」

「うるさい、たまたま一緒になっただけだ。」

「ありゃ脈あるぞ。」

「お幸せに!」

アークがうんざりしながら戻って来る。

「やかましい連中ですまない。ほらこれ、着けてごらんよ。」

「気にしてません。アクセってきれいですね……。」

「ははは、気に入った? 実は外観にこだわりすぎてちょっと図案無視してるんだけどね……。」

「大事にしますうう」

「そうそう壊れる代物じゃないよ。レベルが上がってもっといいのを着けられるようになったらまた作ってあげる。」

「頑張ります!」

その後ウィルカは順調に実力を上げ、一般募集の任務ではアークと同行する事も増えていった。何かと親交を深める二人を、いつしか周囲は恋人同士と捉えるようになり、彼ら自身もお互いをそう認め合うようになっていた。そしてアークはアマンダの「結婚しちゃえばいいのに」という言葉に押されてウィルカに求婚し、見事花嫁を得る事となったのだった。

 

 だがアークは内心、常に違和感を覚えていた。生産品のモデルとしては、どうしてもシグマの方がしっくり来るのである。それに、立場上ウィルカを恋人そして妻と認識するようにはなったものの、それ以外の理由で彼女を特別視する理由にはどうしても思い当たらずにいたのだった。数いるライカンの、数いるリーパーの、数いる女性の、数いる流天会会員の一人であるとしか思えない。思わずシグマと二人で恒例の飾り物遊びをしていた折に

「なぁ、嫁ってもっと特別な物じゃないのか?」

と洩らした程である。

「見合いならともかく、恋愛結婚ならそうだと思うぞ。多少は。お前違うの?」

シグマの方も経験があるわけではないのでそう答えるが、確証を持っているわけではなかった。ところが普段はシグマの言う事を真剣に受け止めないアークが、その言葉にはより一層悩みを深める事となった。

「俺は俺、お前はお前、ウィルカはウィルカ。その認識に一切の差異が見出せないんだ。」

装飾品を着け終わったシグマを見てアークはいつものように「美しい」と呟き、ついでにウィルカだとこうは行かないんだよな、とぼやいた。シグマは脱力気味に問う。

「じゃあなんで結婚したのさ。」

「仲良いいから。」

即答である。

「ええと……ならどうして仲良くなったんだと思う?」

「一緒に行動する機会が多くて、ウィルカもよく懐いてくれたからだろうな。」

つまりウィルカはアークにとって一番近しい女性であり、それであるが故にアークはウィルカを結婚すべき対象と捉えたのだった。

「お前の方はどうなの。一緒にいてドキドキした? 欲情した?」

「しない。以前からしないし、今も触れて来られない限りしない。」

シグマがため息をつく。

「わかった。お前それ、恋してない。」

「そんな、彼女は俺の恋人だったんだぞ。」

「周りから言われるからそう思ってただけだろ。奥手もこじらすととんでもない事になるもんだな。」

アークは途方に暮れる。

「恋もしていない相手と結婚したなんて、俺は一体どうすればいいんだ……。」

シグマも困惑する。

「そんなレアケース知らねえよ。まぁ長く一緒にいりゃ、愛着湧いて特別に思えて来るんじゃね。それか子供でもできたら子供可愛さで通じ合うかも知れねえしな。」

そう言った途端、一瞬シグマは黙り込み、それから装飾品をはずし髪を編み直し服装を整え出した。

「おい、まだ続きが……。」

「今日は帰る。嫁さんと仲良くな。」

「仲はいいって」

「そういう意味じゃねえよ。」

バタンと音を立てて扉を閉め、シグマは去る。隣の自室の扉も乱暴に開け閉めする音が聞こえた。薄い壁を通してベッドに身を投げる音と、「チキショー!!」と叫ぶ声が続く。そして静かになった。

「何だあいつ、嫉妬でもしているのか?」

瞬間、アークは己の独白に戦慄を覚えた。

「シグマもウィルカが好きなのか? 俺の親友が、俺の嫁を……嘘だろう?」

自身の恋愛について話していたからと言って何でも恋愛感情と結び付けるのは浅薄というものだ。アークはそう思い直し首を振る。

「違えよ、バカ……」

幸か不幸か、シグマの呟きまでは壁越しに聞き取られる事はなかった。

 

「ねえ、まだ終わらない?」

ウィルカが声を上げる。傍らではアークが、ウィルカの髪に花を飾り付けている。

「もうちょっとだ。」

淡々と答えて、アークは作業を続ける。真剣な眼差しに、忙しなくも丁重に触れる手。始めのうちはウィルカもそれらを嬉しく思い、喜んでアークのモデルになったものだったが、最近ではそれは退屈な時間と化していた。

「できたぞ。見てくれ。」

アークは鏡の角度を変えてウィルカと向き合わせ、ウィルカの後ろに屈み込む。鏡の中には野生の女王といった趣に飾り立てられたウィルカがいた。ウィルカは興味無さそうに自身を見やり、

「どう?」

とアークに問うた。アークは角度を少し変えながらウィルカを、そして鏡の中のウィルカを一心に見つめる。だがその表情は決して喜びに満ちた物ではなく、やがて疑念の色さえ見せ始める。

「うーんおかしい……似合わないな。」

自分のデザインが悪いのか、素材がウィルカのイメージと合っていないのか、はたまた技量が足りていないのか。毎度思い通りにならない結果に悩まされてはいたが、今回ばかりはテーマから素材からウィルカを最も美しく引き立てる物を選び、一切の妥協無く仕上げて臨んだはずだった。それがなぜかうまく調和していない。実際には十分美しいのだが、アークの心の琴線には今一歩触れない。苦手な画家の絵を見ているような感覚である。その原因は決して、退屈したウィルカの憮然とした表情によるものではなかった。

「生の花が悪いのかな。花よりツタや何かの葉の方が合うのか……?」

と、スケッチブックを取り出してイメージ画を描き直し始めたアークは、ウィルカの表情の変化に気付かなかった。ウィルカはすっくと立ち上がり、装飾品を全てはずしてアークに投げ付ける。

「そっちの趣味に付き合ってるだけなのに、なんで毎度毎度似合わないとか言われなきゃならないの!」

武器である鎌を取り出すウィルカに、慌てるアーク。

「まぁ待てよ。今日のだって可愛かったし、次は絶対にもっと良くなる」

「うるさい! シックルレイド!!」

3段攻撃の絶対ダメージをまともにくらい、アークの体は腹から上下に千切れて吹き飛ばされた。

「もう知らない、死んじゃえ!」

と吐き捨ててウィルカはアークの作業場から走り去る。

「おい、今の音ケンカってレベルじゃないぞ?!」

隣室から慌てて顔を出したシグマは、室内の惨状を見てこれはまずいと思い、アマンダを呼びに通信珠を取りに走る。

「アマンダ、アークの部屋来て! 蘇生(リザ)頼む!」

「オッケー。様子見に行く所だったのよ。シグマはウィルカちゃんの方をお願い。」

「了解!」

会館の出口から、ウィルカが走り去るのが見えた。シグマは体の軽いインプに変身して窓から飛び降りる。そしてそのままウィルカの後を付け、ウィルカが歩を止めた所で変身を解いて声をかけた。

「あの朴念仁にひどい事でも言われた?」

「PK、しちゃった……」

血まみれの鎌を手に、ウィルカは呆然として呟いた。怒りに任せてアークを "殺害" した事に、ようやく気が付いたのである。

「ギルド的にマズいか。まぁその辺はアマンダが収めてくれるよ、安心して。」

シグマがアマンダと連絡を取ると、案の定アマンダは事態が極めて個人的な問題に端を発し落ち度もアークにあったと承知しており、PKの事はそれを禁じている流天会に対しては内密にすると応えた。

「昼飯まだ? 一緒に食べてこうよ。」

シグマの誘いに、ウィルカはしばし躊躇した後うなずく。シグマは手早くウィルカの鎌の血を拭い取る。二人は連れ立って近くの飲食店ののれんをくぐった。

 

 優に二人前半は平らげただろうか。それでもウィルカの手と口は止まらない。

「おかわり!」

「まだ入るの? 胃ぃ悪くするよ?!」

「だって、アークの奴、今日アレやるから朝ごはん食べるななんて言うんだもん!」

アレというのは事の発端となった飾り物遊びの事である。

「ああ、俺もよく言われるよ。こっそり食ってるけど。」

「えーっ、そうなの?」

「うん、意外とバレないよ。」

「そうだったんだ……知らなかった。」

そんな事から始まり、一しきりアークに対する不満をぶちまけたウィルカは、ふと言葉を切る。しばしの沈黙の後で、ウィルカは呟いた。

「あの人、まるで王様だよね。」

「偉そうって事?」

「ううん。王様って神様には仕えるけど、他の人には仕えないでしょ。それと同じで、アークにとっては美の神様がいて、自分がいて、その下に他の人みんながいる。ただそれだけの世界なんだ。」

「難しいなぁ。」

「要は、誰でも同じ価値にしか見えてないって事。」

「王様だって家来と民衆は区別するんじゃないの?」

「でもそこは入れ替えや取り換えが利くわけじゃない?」

「まぁねぇ。」

ウィルカは達観したように続けた。

「それでね、悲しい事にあの人に王妃様はいないんだ。」

「君がそうなんじゃないのか?」

立場上ウィルカはアークの妻であり、アークもその事は認識しているはずだ。シグマはそういう意味合いで答えたが、ウィルカには既に、そうでない事はわかっていた。

「前までそれ、そのまま返したかった。シグマ君、あなただけはアークにとって特別な人だから。」

確かにシグマは同期のヴァンパイアであるためかアークとは異様に仲が良く、頻繁に作品のモデルを務める事もあってアークが自分に甘い事もシグマは自覚していた。だがアークが特別扱いをするのは何もシグマに限った事ではなく、ウィルカや他の者に対してもそれぞれだけに許す行動があるのも事実で、総じて誰が一番特別といった事はないのだった。

「でも違う。君もそう言いたそうだ。」

「そう。違う。あの人、誰も好きじゃない。」

シグマは息を呑む。先日の恋愛不全の話を、アークはウィルカにしたというのか?! ウィルカは目を伏せて続ける。

「気付きたくなかった、どうしてわかっちゃったんだろう……」

そしてウィルカは涙をこぼす。

「愛してくれてるって、思ってたのに……」

「あいつ奥手だからさ、自分でわかってないだけだと思うよ。」

シグマは宥めようと言葉をかけるが、それは自身でも信じることのできない言葉だった。今や二人は確信に至っている。アークは人を愛する事がない。なおかつ極めて真摯に美を求め美に仕え、人を振り回すだけの存在なのだ。ウィルカは涙を流したままにっと笑みを浮かべ、シグマの耳に顔を寄せて囁く。

「お互い、大変なモノを好きになったもんだね。」

シグマは耳まで赤面して否定するが、それが嘘なのは誰の目にも明らかといった様子である。

「あたしは、リタイアするよ。一緒にいたら誰も幸せになれない。あたしも、あなたも、アークもね。」

「リタイアって……」

「開いてるうちに役場に行ってくる。手続きが済んだらエクリプス・ホロウに帰る。もうアークとは会わない。」

「せっかく強くなったのに。」

「村で自警団にでも入るよ。じゃあ、ごちそうさま。」

ウィルカを見送るシグマ。手元にはそっと置かれた伝票。ツケの効く店に入れば良かった、と、シグマは一人後悔した。

 

 妻にPKされたかと思えば役場に呼ばれ、離婚決定通知書を突き付けられ、形式的とは言えそれなりの額の慰謝料の支払い宣誓書に署名させられ、なぜかウィリアムに殴られたアークは疲れ切っていた。

「はぁ……飾りはうまく行かないし部屋は血だらけの散らかり放題、口座は空だし顔も痛え……ハゲる……」

「安心しろ、財布は俺も空だ。」

力なくそれぞれの椅子にもたれる二人。吐き出すように続けられたアークの言葉は、相変わらず的を得ていない。

「俺の装飾品制作の腕前が確かなら、こんな事にはならなかったのかな。」

「それは違うっつの。お前にゃ一生理解できねーから、もう結婚すんな。」

「ああ、こんな不条理は二度と御免だ。」

「自業自得だけど、直せるもんでもないみたいだしな。アクセルが言ってた、そういう奴もいるんだって。」

愛に敏感なエルフ達の間には、愛の在り様についての知識も広く流布している。そんな彼らにとってはアークのような存在も常識の範疇なのであった。他方アークはと言えば、話題を変えるべくこの状況でシグマに

「ところで、お前は結局誰が好きなんだ?」

と振るほどの無神経ぶりである。

「ウィルカじゃねえのはわかったらしいな。でも教えてやらない。内緒、絶対内緒。」

シグマが呆れて答える。

「そうか。そっちはうまく行くといいな。」

「いや、こっちはこっちで問題あって絶対うまく行かないけど、それは大丈夫。お前と違って自分でよくわかってるから。」

自身の恋は、それが過ぎ去るまで秘匿する。悲しい決意を伴うそれはシグマが辛い経験を積む中で身に着けた、彼なりの処世術であった。しかしアークは

「お前もちゃんと恋してないとかか?」

と、またも暴投を繰り出す。本人に実感が無いせいか、アークは恋愛の話となると真剣に話しているにもかかわらず大きく的をはずすのが常だった。シグマはうんざりして

「人の話ちゃんと聞いてるか? もー、この話なし! もうお前と恋愛の話はしねえ。久々に遺跡護衛者でも行こうぜ、金ないし。」

と誘った。体を動かしていれば、余計な事は考えずに済む。

「そうだな……。」

「新人パーティ引いても活躍し過ぎんなよ?」

「わかってる。今度は適度に調子を合わせるさ。」

その後、以前にも増して二人組で行動する機会の増えたアークとシグマを、周囲はゲイカップルと囃し立てるようになったが、今度はアークも真に受けず、粛々と役割をこなすのみに努めた。またこの頃からエルフ達の情報誌に時折、アークが飾り付けたシグマの絵姿が載せられるようになり、二人は芸術ユニットとしても知られてゆく。アークの結婚と離婚にまつわる事件は、多忙な日常の中で徐々に忘れ去られて行った。

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