堕魂の棺   作:鯨屋 唐風

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ソナタとロンドと3v3決闘大会

 血揆会会館の入口が勢い良く開き、一人のバードが駆け出して行く。

「うわぁぁあああん!!」

ロビーではつい先刻まで彼女と談笑していた会員達が、困惑または苦笑の表情を並べていた。

「ロンド、またソナタ泣かせやがって……。」

ウィリアムがため息混じりに言いかけると、ロンドと呼ばれたもう一人のバードはウィリアムの拳骨を警戒してぱっと席を立ち

「僕は悪くない!」

と言い放ち、バリスタの陰に隠れようとする。そして

「こんな時ばかり盾扱いするな。」

と、結局バリスタからごく軽く小突かれる。

「あ痛てっ!」

「あーあー、また探しに行くのかよ……。」

ブレイクが呆れ顔を見せる。このまま放って置くとソナタは間違いなく迷子になり、いずれかの時点でどこかから迎えに来るよう要請が入るため、ブレイクは能力を活かして彼女を追い、騒ぎが大きくなる前に連れ戻しているのだった。ブレイクにかかれば怒りに任せて飛び出した会員の居場所などすぐわかるのだが、面倒臭いのは追い付いた後の事である。

「この前なんか大声で変態呼ばわりされて周りの奴に警察呼ばれたんだぞ。」

頭を抱えるブレイクに、ウィリアムは軽口を投げかける。

「何言ってんだ、お前立派な変態じゃねえか。女装はうまいわ人見りゃ尾行するわクリダメ700%あるわ……。」

「全部アサシンとしての努力の成果だっ!」

上階からアークが降りて来る。

「ソナタが泣きながら出てったけどまた喧嘩か?」

「その通り。ブレイク、後は任せたぞ。ロンドも早く機嫌直して仲直りしとけよ。」

ウィリアムはおざなりにその場を仕切ると、一つ伸びをして席を立った。

「姉弟喧嘩は週1ぐらいにしとけよ、もういい歳なんだから。」

アークが何気なく言うと、その場の全員が驚愕の表情でアークに注目する。

「え、きょうだい?」

「なんでわかったの? 内緒にしてたのに!」

「恋人同士だとばかり思っていたぞ。」

アークの方も他の者の反応に困惑する。

「えー、顔そっくりじゃないか。それにこんだけ喧嘩しまくる仲って他にあるか?」

ウィリアムとバリスタとブレイクは揃ってロンドの顔を覗き込む。整った顔立ちではあるが別にそれは女顔というわけでもなく、エルフにはよくいるタイプの美男子である。そしてそれぞれがソナタの顔を思い浮かべるが、そちらは愛らしいタイプの美女であり、ロンドとそう似た所は無い。

「造形じゃなくて表情だよ。あと目の色。」

ソナタとロンドの瞳は、言われてみれば同じ緑色をしていたが、ウィリアム達にはそれはアマンダら他の翠眼のエルフの物と同じに見えた。

「アマンダの目は明るいウグイス色だけど、こいつらはもっと青味がかってるだろ。」

さも当然といった風に言うアークに、ウィリアム達は

「あ、そうなの。」

と受け入れる他無い。なるほどアークは天然の材料から同じ装飾品を量産するが、いつも使用する石の色まで寸分の差も無く仕上げている。この細やかな色彩感覚は、誰の目にでも宿る代物ではなかった。

「ロンド、ソナタ迎えに行くぞ。」

「どこ行ったかなんてわからないよ。」

「俺がわかるからお前は一緒について来りゃいいんだよ。」

ブレイクはロンドを伴って夜の町へと繰り出して行った。

「今日は何が原因だったんだ?」

アークがウィリアムに問う。

「試合の賞金、今月はソナタの方が多かったんだけど、ロンドが『ソナタがそんなに試合勝てるわけ無い』って言い出してな。後はいつも通りよ。」

「勝敗票全部見りゃ済む事だったんじゃねえの。」

「そんなもんいちいち取っとくのお前ぐらいだよアーク。」

因みに今月の二人の賞金額の差は金貨1枚程度である。

「一緒に試合出れば勝っても負けても賞金同じだろうに……。」

試合は3対3で行われるため、光バードのソナタと水バードのロンド、それに氷メイジか風リーパーでもいればしっかりしたチームが組めるように思えた。

「ソナタはバード二人のチーム嫌いだからな。ロンドもバリスタ・アマンダと組むのが一番得意らしいし。」

バリスタとアマンダは、他に誰を加えても常勝と言われるような強いコンビである。今月はアマンダがギルド運営で忙しかったためにこなせた試合数が少なく、それが賞金額に響いたのだった。

「そう言えばアーク、お前はちゃんと試合行ってるのか?」

ふと思い付いてウィリアムが問う。アークは視線を逸らして

「試合の日は会館静かで作業に向いてるんだよ……。シグマも最近はケント・ピーターのチームで行ってるし。」

と答えた。つまり行っていないのである。

「試合の賞品の装備は回復職によく合うっつってんだろ。ちゃんと行けよ。何なら連れてってやるぞ。」

「ああ、暇だったら頼むよ。今度、今度な。」

ウィリアムのため息。バリスタは

「勝つ気が無い奴なんぞ連れて行く意味は無いぞ。」

とウィリアムを諫める。だがウィリアムはアークにもクリティカルダメージに対する抵抗力を伸ばして欲しく思っており、まだ諦めた風ではなかった。

「よし、来月はブレイクと3人で10試合は行こうな。ブレイクが味方なら少なくともブレイクに一発で倒される事はねえ、安心だ。よし、約束だぞ。」

そうしてヴァンパイア二人にアサシンという一見珍妙なチームが、ブレイク不在の間に誕生した。

 

 翌月、アークは約束通りウィリアムとブレイクに連れられて試合会場に来ていた。試合は3ラウンドの2ラウンド先取方式である。

「さっさと20ラウンド終わらせて、帰って仕事の続きがしたい……。」

試合相手の予想が付かないアークには、2ラウンドストレート敗戦のイメージしか浮かばない。

「バカ、20本全部勝てるわけ無えだろ。泥仕合覚悟しやがれ。」

ウィリアムはアークが全試合ストレート勝ちするイメージを持っている物と思い、的の外れた指示をする。

「まぁ、全部が全部バリスタ相手とかいうわけじゃねえ。かなり勝たなきゃそんな化け物出て来ねえから、気楽に行こうぜ。」

準備運動をしながらブレイクがのんびりと言った。

 その日の勝敗は10戦中7勝3敗だった。特攻型ヴァンパイアのシグマと組み慣れたアークにとっては、デバフを最大限に利用してダメージを抑えてくれるウィリアムが天の恵みのように有難く、またレイシングでも最大級の対人単体ダメージを誇るブレイクが味方に付いており一撃死の心配がほぼ無いのも心強かった。ブラッドコントロールを発動したアークの回復力は基本的に相手単体の攻撃力を上回っており、それ故に複数の対戦者から標的にされる事もしばしばあったが、結果としてノーマークとなったウィリアムとブレイクが連携して相手を倒し、勝利に繋げるといった展開が多く見られた。だがアーク自身の耐久力の乏しさから、持久戦の末に一時にアークを狙われると一気に体制が崩れ、それが原因で落としたラウンドも数多い。また対バリスタ・アマンダ・ロンド戦ではアークはマナドレインの集中攻撃を受け、倒されるまでも無く魔法の発動を封じられ無力化された。

「マナはどうしようもねえけど、耐久性はまだまだ上げられる。来週になれば今週の戦果報酬で装備がもらえるはずだから、ちゃんともらって鍛えとけよ。」

「沈黙や凍結の状態異常中に削り切られないようにするのがまず第一だな。頑張れよアーク、また行こうぜ。」

ウィリアムとブレイクは戦果に満足して上機嫌である。アークは新しい装備の整備にまた痛い出費を予感して少々青ざめてはいたが、ウィリアム達はそれを試合に対する緊張が残っている物と解釈した。

「対人だったら存分に回復役できるし、慣れりゃ楽しくなるさ。」

確かに鮮血タレントのヴァンパイアは、対モンスター戦で求められる火力補佐としての動きをしても対人戦では全く役に立たない。予てより望んでいた回復主体の戦い方が役立つのはそんな時である。

「それに鮮血ヴァンパイア(血ダク)は珍しい。相手に読まれ難くていいんだぞ。」

ウィリアムとブレイクに励まされ、アークは次週以降も試合に参加する事にした。

 

 その日もソナタは血揆会会館の門を泣きながら飛び出した。ロンドより良い装備を使っているにもかかわらず、個人戦でロンドにどうしても勝てなかったのが原因だった。と言っても、ロンドの攻撃力ではソナタを倒す事もできず、40分間の泥仕合の挙句に

「バカ、チート、寄生野郎!」

とお互いに罵り合いを始め、ロンドにブスと言われたソナタが癇癪を起したのだった。

「もうお前ら個人戦すんな。絶対だぞ絶対。」

試合中から様子を見ていたウィリアムはロンドに拳骨を食らわせる。ロンドは

「なんで僕ばっかりぶつんだよう。」

と涙目である。もし飛び出したのがロンドなら、残るソナタが拳骨を頂戴するのだが、それはロンドの想定には無い事態である。ブレイクはぐったりした様子で、それでもソナタの気配を追っていた。そして

「今日は農場方面か。遠いなぁ……。」

とぼやきながら、ソナタの尾行を開始する。

「はぁ、愛とはなんとまぁ美しい物か。バードともあろう者がなんという陳腐な罵声を口にするんだろうね。」

アクセルの嘆息は根本から方向がずれている。

「あの二人はきょうだいだから、喧嘩始めると子供(ガキ)に戻っちまうんだよ。」

「どっちかギルド変えた方がいいんじゃないのかい。僕はしばらく流天会に行くから、ソナタも連れて行こうか?」

「いやー、それが普段は一緒にしとかないと、それが原因で喧嘩する連中でな……。」

ウィリアムはまたため息をつく。そもそも流天会は血揆会とは隣同士の建物なので、その二つに二人を分けたところで喧嘩が減るとは思えない。

「少し姉さん大事にしろよ。俺もソナタに、優しくしろって言っとくから。」

「ソナタが優しくなるなんて天地が引っくり返ってもあり得ないね!」

ロンドはアークにも反発する。

「そうかい。まぁ仲良くな。二人にいいアクセできたから、後で一緒に取りに来いよ。」

アークはぽんぽんとロンドの頭を軽く叩く。

「うー……。」

ロンドは少々落ち着きを取り戻しつつあった。それを確かめると、アークはロビーを後にして自室に退いた。果たして数十分後、ロンドはブレイクに連れられて帰って来たソナタを一人ロビーで迎えた。

「ソナタ……。」

「何、ロンド。」

まだ目を腫らし、憮然としたままソナタは答えた。

「ええと、ええと……ブスって言って、ゴメン。」

ソナタは驚いた表情を見せる。普段は完全に機嫌が直った時点でそれぞれが自室に戻り何気ない日常が再開されるか、ブレイクの仲裁で無理やり喧嘩が中断するため、喧嘩の後にどちらかが謝ったのはこれが初めてだった。

「アークがアクセくれるって。一緒にもらいに行こう。」

「うん、わかった。……ゴメンね。」

二人は手を取り合い、4階に向かう階段を上り始めた。残されたブレイクは一人、「先に謝った方の勝ち。今日はロンドだな。」と、内心ガッツポーズをした。

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