「まさか簡単に終わるとは」
「三人の役者はどのように動くのか」
「知っていても興味はつかない」
演説・水銀の蛇
機械人形が機能を停止し、ベアトリス自身も創造を解いた。
「大人気なかったですね。あの程度の相手、しかも機械に対して創造を使うなんて」
自分自身の行いを反省するかのようにベアトリスは目を伏せた。
「・・・」
そんなベアトリスを見つめているのは鈴だった。圧倒的な実力、見た事のない力で圧倒した姿。明るく人懐っこい顔の裏に隠された冷徹なまでの戦い方に戦慄していたのだ。
「ねぇ、ベアトリス・・・」
「なんですか?鈴」
「アンタ、なんでそんなに強いのよ?雷を纏ったのは抜きにしても剣術だけで相当じゃない!!」
鈴は大声を上げてベアトリスに詰め寄る。そうしなければ自分を保っていられる自信がないと感じていたから。
「私は昔から武門に精通する家系に生まれて、幼少の頃から鍛えられてましたから」
馬鹿にした様子も、見下した様子もなく答えるベアトリスには欺瞞が一切なかった。
一つだけ隠しているとすれば自分が黒円卓に所属し、尚且つ軍人であったこと。
それだけを鈴に伏せているだけである。
「そっか、そうだったのね。ゴメン」
「気にしないでください。鈴は鈴で強くなればいいんです、私のやり方じゃなく鈴にしかできない方法で」
こんな事が言えるのも黒円卓で生きてきた年数による老婆心からだろう。
「アンタ、随分と何かを経験してきたかのように言うのね?けど、ありがと」
「いえ、これも父の影響ですよ」
鈴の鋭さに内心驚いていたが、それを明るさで隠して助言をした理由を教えた。
「さて、後片付けは先生方に任せて行こうや?」
「ああ、そうだな」
「うん」
「壊しちゃったけど・・・大丈夫ですよね」
「大丈夫だと思いますわ」
フォルの催促でアリーナから通路へ移動し、フォルは四人に向き直る。
「ちょっと危うい姫さんを迎えに行ってくるわ」
「え?」
「誰ですの?」
「わかりませんね」
「相棒、俺達は先に行ってる」
サタナは鈴、ベアトリス、セシリアと共にアリーナから出て行った。
「何やってんだ?隠れてないで出てこいよ。篠ノ之箒」
「!!気付いていたのか?それになぜ私の名前を!?」
「名前は相棒から聞いてたし、バレバレなんだよ。勘だが相棒の応援とか言って侵入する気だったんだろ?」
「なっ!?」
箒はフォルの推理力に驚愕し、言葉を詰まらせた。
サタナが戦えば自分が喝を入れようと放送室に侵入しようとしたがベアトリスが現れ、相手を倒してしまい自分の行動が無意味となってしまった。
それを己で自覚した箒は隠れて誰も居なくなるのを見計らって、アリーナから出ていこうとしていたのだ。
「あの無人機をベアトリスさんが倒してなかったら厳罰されてたんだぜ?おまけに命の危険性もな」
「だが、私は!」
「勇気と無謀は紙一重じゃねーぞ?相棒の為を思うなら無謀な行動は止めとけ」
「ああ、それとフォル。なぜ、一夏はお前や聖槍十三騎士団などという所にいる?教えてくれ!」
「一夏?ああ・・・相棒の本当の名か。残念だが俺の口からは教えられねーよ」
「なぜだ!頼む、教えてくれ!」
箒はフォルに詰め寄るが、フォルの表情は無表情のままだ。これ以上、話したくはないと言わんばかりの様子で。
「教えた所で何が出来んだよ?俺も相棒も自分の意志で我が主の下へ行ったんだぜ?」
「そ、それは・・・私がアイツを!」
「救い出す。ってんなら止めておきな?篠ノ之。お前は[人間]だ。ただの人間が黒円卓の本拠地へ来たら今の場所から戻れなくなるぞ?」
「だが!」
フォルは形成を発動させ、手首の刃を出現させた。
「今、竹刀持ってるんだろう?思いっきり打ち込んでこい」
「っ?」
「本気で相棒を救いたいなら・・・な?」
「わかった。っ!めええええええん!」
箒は携帯している竹刀を取り出し、フォルへ思いっきり打ち込んだ。
だが、フォルはそのまま箒の一撃を受けると同時に箒の首筋に銀の刃を当てていた。
箒の首から一筋の血が流れる。箒は顔を青くし、血の感触に震えている。
「これが黒円卓と人間の差だ。だから止めておけ」
「な・・・」
箒は本気で打ち込んだが、人を殴った感触に震えており、フォルは無傷のまま自分の殺気を抑え込み刃を寸止めしている。
「黒円卓の方々は人を殺す事に躊躇いはない。もちろん俺も相棒も・・・な?理性で抑え込んで寸止めしたがそれでも相棒を救うって言うかい?」
「あ・・・わ、私は」
「お前は人を殺したという事実に耐えられるほど強くはない、俺と相棒はもう何人も殺して魂を溜め込んでいる」
「あ・・・あ・・」
フォルは形成を解除し、刃を納めた。黒円卓の実力を僅かでも体験させる為のポーズだったからだ。
「だからこそお前は人間のままでいろ。お前の力はハッキリ言って届くことはない」
「私の・・・ちからが・・なぜ?」
「殺し合いの中でお前の得意な剣道に拘れば確実に死ぬぞ?確実に死なせてくる方々がいる場所が黒円卓だ」
フォルは倒れそうになる箒を支えて、アリーナから離れるために歩き出した。
「一夏・・・・」
かつてのサタナの名を呟く箒をフォルは聞こえないフリをし、寮を目指した。
◇
箒を寮の自室に送り、フォルは自室のベッドで横になった。
眠気が襲い、そのまま睡眠へと入っていく。
夢を見始めた。どこかで何かが争っている、ここは見覚えのない場所だ。わかるのは広大な闇が広がっており、その闇の中では星が瞬いている。
そう、そこは宇宙空間。視線を移せばそこは星の海であり幻想的で美しい。
「私は総てを愛している!」
「そうだ、これで総ての決着をつける!」
聞き覚えのある声が二つ、だが一つはどこか同年代の青年らしい声だ。
「ああ・・・ついに私の
そして、もう一つ声が聞こえる。そう、あの魔術師の声が。
『なんだよ、これ?』
フォルは二人に見覚えがあった。一人は主であるラインハルト・ハイドリヒ。もう一人はカール・クラフト、しかし外套ではなく黒円卓の軍服を身に纏っている。
最後の一人は分からない。副首領と同じ顔、同じ声を持ちながらも赤い髪と黒い肌、手には時計の針を模した刃を手にしている。
フォルは平行世界の一つで行われた三つ巴の神座闘争を目撃している。
『なぜ、我が主と副首領が争っているんだ?』
映像を早送りするように闘争の場面へと移る。
「おお・・・身が震える!魂が叫ぶ!!これが歓喜か。これが恐怖か!私は今、生きている!!至高の天はここにあり!!」
夢の中のラインハルトは己の肉体が崩壊しようとも進軍を止めようとはしない。
これを待ち望んでいた、この時、この瞬間が望んだ時なのだと一向に止まらない。
「
「
どこか高揚しているかのようにカールは詠唱し超新星爆発を引き起こした。
『うわああああ!』
ダメージこそは無いが余りの眩しさと腕で目を覆った。
「よそ見してんじゃねェェェェェ!!」
刃を持つ刹那と呼ばれる青年の神が二人へ向かっていく。正に刹那の瞬間と言わんばかりの速さだ。
「私の愛は破壊である。ゆえにそれしか知らぬし、それしか出来ぬ。そしてそれこそが我が覇道なり!!私の楽土は鉄風雷火の三千世界だ。ここにまみえた友らを抱こう!砕け散るほどに愛させてくれ!共にこの宇宙で歌い上げよう!大いなる祝福を!!」
フォルはこの三つ巴の戦いこそが宇宙の崩壊なのではないかと感じ始めていた。
夢にすぎないはずなのに妙に現実味がありすぎて目を逸らせない。
神々の戦いというのはその境地に至れなかった者からすれば美しいのだ。
この戦いは色の混ざり合いと似ており、三つの色が互いにぶつかり合っている。しかし
「む!!」
「ん?」
「そこにいるか・・・」
三人の視線が一斉にフォルへと向いた。この戦いは平行世界とはいえ水銀がいる、それによって三人は異物を感じたのだ。
『!!!』
視線を受けたと同時にフォルの身体は光の中へと飲み込まれた。舞台の見学の時間は終わりと言われたかのように。
「っは!はぁ・・はぁ・・なんだったんだ?今の夢」
夢から覚めて、時計を見ると朝の五時を指している。夢の内容が内容だっただけに早く起きてしまったのだろう。
「彼は・・一体」
フォルはぼんやりと黒い青年を思い返していた。副首領と同じ顔、同じ声、しかし心の有り様は全く違っている。
「あれが・・・宇宙の戦い・・怖すぎるな・・」
夢の内容を早く忘れようとフォルは洗面台へ行き、頭から温水をかぶり続けた。
「戦いの一部を彼に見せたのには意味が有る」
「あの歌劇は最早二度と開演できぬ」
「ああ・・・この既知も愛しいのは事実だ」
「模倣者よ、処刑の刃を願うがいい」
「女神の守護者となれ・・」
演説・水銀の蛇
※追伸
演説セリフが浮かばなくなってきてます(慌)