無限の成層によるDies irae   作:アマゾンズ

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「彼女達は可能性から力を得る」

「彼らは我が女神から」

「これは未知だ」

「これを望んでいたのだよ」

「さぁ、見せてくれ」

演説・???


第十八劇 支える者達

「どうして日本が書かれていないんだろう?」

 

「これだけじゃ情報が少なすぎますわね」

 

考察している最中、また切り替えの流れがやってきた。次に映ったのは戦闘だ。そこには軍人、市民、人造兵器の戦いが目の前で繰り広げられている。

 

「また、戦いか…」

 

「このような戦いがこの世界では行われているのですか・・・」

 

「待って、二人共・・・なにか聞こえるよ」

 

『勝利からは逃れられない。さあ、逆襲を始めましょう』

 

三人に聞こえてきた声はどこか、達観しているようで少女のような声だった。

 

「ラウラさん、シャルロットさん。この世界では英雄というのは良い意味ではなさそうです」

 

「セシリア?」

 

「もしや、この世界で何かを掴んだのか?」

 

「ええ、英雄とは、星辰体(アストラル)とは勝利とは何か、その意味を理解しましたわ」

 

セシリアはこの世界の戦いを目に焼き付けておこうと一切逸らさなかった。切り替わっていく最中、また声が聞こえた。

 

『貴女達の勝利はまだ掴めていない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、セシリアが初めに居た場所に戻っていた。三人はそれぞれ思う事があったが前を目指す事に集中した。

 

「おや?あそこに居るのは箒さんではありませんか?」

 

「本当だ!」

 

「間違いないな」

 

見知った姿を見つけたのか箒は三人に向かって駆け寄ってきた。その顔には笑顔が浮かんでいる。

 

「セシリア、シャルロット、ラウラ!みんな無事だったんだな」

 

「ええ、箒さんも無事で何よりです」

 

「でも、此処で出会ったって事は」

 

「ああ、箒と相性がよく最も引かれる世界へ行く事になるだろう」

 

ラウラの言葉の通り、また光の裂け目が現れ四人はその中を潜っていった。

 

潜った先には古い時代の日本の街並みが建っていた。時代が進んでいる筈なのに文化、風俗といったものが江戸時代で止まっているようだ。

 

「この世界は日本か」

 

「しかも古き良き時代の頃だぞ」

 

「失われつつある日本の文化ですわね」

 

「すごく賑やかだったんだ」

 

街並みの場面を見せられた後に今度は御前試合のような場面へ切り替わっていく。

 

ここでは己の臣下としてふさわしいかどうかという腕試しと試験を兼ねたものであるようだ。

 

刀と刀のぶつかり合いにセシリア、シャルロット、ラウラは魅せられていたが、箒だけは一人の女性を見ていた。彼女こそ、この試合の立案者であり総大将であった。

 

自分と同じ形に結った黒髪、力に飲まれてない理性。優雅な立ち振る舞い、自己愛が強いこの世界で他者を愛するという真っ当な感性を持っている事。

 

箒はこの時に思った。彼女こそは自分が目指している理想の姿なのだと、こうなりたいと強く願った姿だという事を。

 

場面が移り変わり、彼女は弓を持った姿で夜都賀波岐と呼ばれる天魔と戦っている。

 

三人は固唾を飲んでその戦いを見ていた。天魔の中には聞き覚えのある声をした者も居る。

 

だが、この世界の戦いは見ているだけで心苦しくなってくるのだ。戦って欲しくない、どうして戦っているのかと。

 

「もう、もうやめてぇ!」

 

「なぜだ!こんな戦いは無意味なはずなのに!!」

 

「ああ、天魔の皆様は大切な物を奪われていましたのね」

 

「手を取り合えないのか・・・憎しみはこれほど深いのか」

 

四人は泣きながら東軍の益荒男達と夜都賀波岐達の戦いを見ている。誰も居なくなった世界で抗い続けていた夜都賀波の天魔達の真実を知り、また涙を流した。

 

戦いを見せられた後、光に包まれ、また何も無い空間へ戻っていた。セシリア、シャルロット、ラウラは泣いたままだが、箒だけは先程の世界へ繋がっていた裂け目のあった場所を見つめていた。

 

「私もきっと貴女のようになってみせる!久雅竜胆鈴鹿どの」

 

箒にはまた新たな目標が出来たのだ。自分が理想とする姿を体現した人物と並べるよう己を高めようと決意を新たに待機状態である紅椿を抱きしめた。

 

 

「箒さん?」

 

「何でもない、最後に残った鈴を探そう」

 

「うん、そうだね」

 

「すぐに探さねばな」

 

箒以外のメンバーは泣き止むと鈴を探すため、歩き始めた。しばらくして大声で誰かいないのー!という声がし始めた。

 

「さっきの声」

 

「間違いなく鈴さんですわ!」

 

「うむ、行こう」

 

「鈴!こっちだぞー!」

 

箒の呼びかけにすぐさま反応し、走ってきたようで鈴は息を弾ませていた。

 

「よ、よかったあ!みんな居たのね」

 

「鈴も無事でなによりだ」

 

「不思議だよね。僕達が巡ってきた世界でみんな何かしら掴んでる」

 

「うむ、という事は鈴が力のきっかけを掴むことになるのだろうな」

 

「わたくし達はみんな助けたい一心で引き寄せ合いましたから」

 

全員が集まったと同時に空間が一気に光に包まれた。突然の事に全員は離れないように気をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何・・ここ?」

 

「何だか、聖堂みたいな感じだね」

 

「待て、あそこに日本の軍服を着ている者がいるぞ」

 

「あれは、大正時代・・・いや日本帝國軍の服だ」

 

「なんでしょう・・・ここは落ち着きませんわ」

 

目の前には男の軍人が座っている。その顔には笑みしか浮かんでいない、その笑みは邪悪さしか出ていない。

 

『ほう?盧生(ろせい)でも眷属でも無い者が邯鄲(かんたん)に至るとは』

 

「「「「「!!!!!」」」」」」

 

『驚く事があるか?ここはいわば夢の中だ。お前達は偶然にも迷い込んだのだろうよ』

 

目の前にいる男はただ愉快そうに話しかけている。笑みを崩さず彼女達に対して何かが見えているかのように。今までの世界では接触も会話も出来なかったはずが、この世界では会話が可能になっているだからだ。

 

「アンタは一体何者よ!」

 

鈴が正面から男に声をかけた。男はますます笑みを深めている、鈴が気に入ったかのように。

 

『ああ、そうだな・・・名前を知らぬのなら意味はないな。俺の名は甘粕正彦』

 

甘粕正彦と名乗った男はゆっくりと鈴へと近づいて来る。敵意も殺気もない、ただ見定めようとしているだけだ。

 

『女尊男卑に生きる世界か、阿呆よな。俺の宝が生きている時代以上に人畜の群れだらけだ』

 

甘粕正彦は目を閉じ、鈴達が生きている世界に対しての最も改善すべき部分を見抜いていた。この世界は夢である為に最高の盧生である彼は彼女達の無意識下で代表候補生達が生きる時代を見たのだろう

 

『その世界で輝きを失わない者達が目の前にいるとはな。一つお前達に聞こう、お前達はなぜ力と共に己の生きる時代に帰りたいのだ?』

 

「私達にはどうしても助けなきゃいけない奴らがいるのよ!その為には力がいる、あいつらと肩を並べられるだけの力がね」

 

鈴以外のメンバーは甘粕正彦の強大なプレッシャーにその場で立っているのがやっとだ。その中で鈴だけが唯一互角に話しかけている。

 

『そうか、ならば試練を与えねばならんな。なに、お前達が力を得たいというのであれば鍛えてやるのが老婆心というものだろう?』

 

「アンタ・・!」

 

甘粕正彦から笑みが消える。あるのは殺気だけ、それでも何故か鈴には楽しんでいるようにしか見えない。

 

『越えてみせろよ?新たな盧生(ろせい)よ』

 

甘粕と鈴は互いの獲物をぶつけ合わせ、離れた。

 

「強い!・・・でも、帰る為に負けられるかあ!!」

 

『ほう?お前も輝きを持っているか、凰鈴音。お前達の仲間達も素晴らしい』

 

「気持ち悪いのよ!アンタは!!」

 

『良いぞ!その心意気を俺は気に入っているのだ!さあ、軽い試練と行こうか?守って見せろ。このような結末は許せんだろう?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[推奨BGM 相州戦神館學園 八命陣より 『PARAISO』]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甘粕が腕を空へ上げた瞬間、その眼前に一瞬で何かが造り上げられる。それを見た鈴は驚愕する。学園の授業で聞いていた第二次世界大戦において唯一、日本が受けた最強最悪の爆弾兵器。

 

『リトルボォォォイ』

 

「あんなの、どうすればいいのよ!?・・・え!?そっか!」

 

鈴は咄嗟に流れ込んできた己が知りえない知識を組み合わせ、対抗手段を造り出していく。この世界は夢、ならば自分も現在、過去、未来の知識を引っ張り出せるはずだと信じた。

 

「原子爆弾なら原子炉に閉じ込めれば良いのよ!!」

 

鈴が造り出した原子炉へリトルボーイは落下していった。だが、それでもほんの少しの差で遅れが出ていた為に爆発の反動により聖堂が崩壊した。

 

鈴以外のメンバー達は衝撃に目を瞑ったが、戦いに干渉できない代わり、この世界の驚異から守られているかのように全員無傷であった。

 

「ぐうう!なるほど・・ね、これは私自身、何かを掴む為の場所!」

 

鈴はISを展開し、自分が友好を結んだ人達や愛機を思い浮かべる。培ってきた絆こそが私の最大の武器なのだと。

 

「来て!サタナ!私に力を貸して!!」

 

サタナが得意とする斬撃の衝撃波、それを鈴は甘粕へ向けて放つ。その一撃は甘粕を吹き飛ばしながら一筋の傷を負わせた。

 

『いいぞ?ならばこれはどうだ?』

 

傷を負いながらも甘粕は再び腕を上げる。鈴は共有によって最悪の兵器にも対応する。

 

『ツァーリ・ボンバァァ』

 

またもや原子爆弾とは言えない。先程無効化したリトルボーイの数千倍の威力を持つものだ。これを防ぐ方法が見つからない。だが、思い立つ。撃たれる前に停止させ、爆発させなければいい。

 

「止めて!ラウラァァ!!」

 

ISだけの出力ならアレは止められない。しかし盧生(ろせい)としての力を使いこなし始めている鈴はIS以上の出力を出していた。

 

ツァーリ・ボンバは完全停止し不発弾となって爆発しなかった。作られた爆弾(ゆめ)は形を崩していく。

 

「あがっ!?」

 

停止の隙をついた甘粕の一撃が鈴へと炸裂する。横薙ぎの攻撃を受けた鈴は肋骨が二、三本折られる。

 

「なめ・・るなぁ!!」

 

その瞬間、甘粕正彦に連続して銃弾が雨のように襲ってくる。避けようにも避けられず、その攻撃を受けてしまう。

 

鈴はラウラの夢を使い、ツァーリ・ボンバを停止させると同時にシャルロットの夢へと切り替え、弾幕を展開していた。

 

『ぬ、ぐう・・・ふふ、これが貴様の力という訳か』

 

銃弾をいくつも受けたにも関わらず、甘粕は笑っていた。その目には美しく愛しいモノを見ているかのようだ。

 

『では、俺からのこの瞬間の最後の試練だ。乗り越えてみせろ!』

 

甘粕は三度、腕を空へと上げる。作られたのは原子爆弾などではない、kinetic energy penetratorの完成形であり、超高度の衛星軌道から発射される神の杖。

 

『ロッズ・フロム・ゴォォォッド』

 

宇宙から放たれている純粋な質量の弾丸、常識的にこれを防ぐ手段はない。

 

「行くわよ!!箒!!」

 

双天牙月を持ち、神の杖へと向かっていく。箒の力は成長だ。神の杖を壊すという目標が鈴に力を与え、届かせてくれる。

 

「うあ・・・・ぐうううううう!!こんな・・・の、必要ないわよぉ!!」

 

目標に辿り着き、双天牙月で神の杖を両断した。その瞬間に放たれていた質量の弾丸は止まり、鈴は甘粕へ向かっていった。

 

甘粕はその一撃を受け止めると、自分を負かしたある男と鈴を重ねていた。

 

『時間が無い中で考えられる試練を与えたつもりだったが、全て乗り越えられてしまうとはな』

 

「何を・・・ッ!?」

 

鈴達は自分の身体が薄くなっているのに気付いた。あと少しでこの男を殴れると思った矢先に。

 

『ああ、俺も残念だよ。まだまだ試練を出してやりたかったのだがな』

 

「アンタの試練は二度と御免よ」

 

そう言い残し、代表候補生全員が光の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう・・あれ?ここって」

 

最初に目覚めたのは鈴だ、場所は旅館の一室のようだ。おそらくは救護室の代わりなのだろう。

 

起き上がると他の代表候補生達も横になっている。

 

「みんな!起きて!早く!」

 

鈴の声に箒、セシリア、シャルロット、ラウラが目を覚ました。彼女達は身体を起こして頭を軽く振る。

 

「夢だったのか?」

 

「それにしては現実味がありすぎるよ!」

 

「そうだな・・・あの時に感じたものは本物だった」

 

「わたくし達はあの世界廻りで何かを掴んだ気がしますわ」

 

それぞれが得たものはまさしく本物だ。しかし力を得たのか?自分達は本当に変われたのだろうかなどの疑問が浮かんでいた。

 

「まずは織斑先生の所へ行きましょう。現状把握しなければなりませんわ」

 

「ああ、その意見には賛成だ」

 

それぞれが頷き、大広間へと向かった。襖を開くと千冬、束、真耶が驚いた様子で近づいてきた。

 

「お前達、目が覚めたのか?」

 

「いきなり倒れたからびっくりしたんだよ!?」

 

「ええ、本当ですよ!」

 

それぞれが心配して声をかけていたが代表候補生達は今何が起きているのかを聞こうと声をかけた。

 

「今現在の状況は?」

 

「キルヒアイゼン、シュヴェーゲリン、櫻井が千雨を押さえているがそれも危うい」

 

「やはり、追い込まれているのですね」

 

「予想だけどアイツは多分、あの力で学園を支配するつもりね」

 

「そんな事、させる訳にはいかんな」

 

「うん、行こう!」

 

代表候補生達は全員が出撃しようと振り返り、部屋を出ようとした。

 

「待て!勝手な行動は!!」

 

「織斑先生。貴女には今、力は無いですよね?今ここで千雨を止めないと今以上にひどいことになります」

 

「・・・っ」

 

鈴の言葉に千冬は押し黙ってしまった。今の自分は生徒達を戦場へ駆り立てているだけの立場だ。

 

「罰則でもなんでも与えてください。それでもわたくし達は行きますわ」

 

セシリアの言葉を皮切りに代表候補生達は部屋から出撃の為、出て行った。

 

「皆さん、行ってしまいましたね・・・」

 

真耶の言葉は誰も聞いていなかったのように消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘域では騎士団所属の三人と織斑千雨が戦い続けていた。戦力的には三人が有利なはずだが千雨の創造の能力と魂の総量によって拮抗している。

 

「このくらいじゃあ、私に届かないわよ?」

 

千雨は螢の斬撃を受け流し、ルサルカが召喚した拷問器具を斬り払い、ベアトリスを接近戦で距離を取らせないよう攻撃し続けている。

 

「くっ・・!流される!」

 

「ダメージはないけど、切り払われてちゃ意味がないわね!」

 

「二人のフォローに行けない!」

 

「行かせるわけ無いでしょ?アンタが一番厄介なんだから!!」

 

千雨は元々、要領がよく天性の戦闘センスが高いのだ。多数戦においても最初に倒すべきなのが誰なのかも無意識に理解している。

 

「ベアトリスさん、貴女さえ倒せば私の勝ちよ!」

 

「っ!」

 

この戦いにおいて、創造だけの戦闘ならベアトリスが優位となるが、ISによる戦闘では千雨に優位がある。

 

更にはISが枷になっているという不利な状況で、ベアトリスは戦っている。千雨も創造を発動した時点で枷になるはずだが、それをセンスで補い、普段と変わらない動きを可能にしている。

 

 

「(フォル君、サタナ君!私達は信じてるから!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・?俺は確か織斑千雨にやられて」

 

目を覚ましたフォルが居るところは黄昏の海原であった。そこには海だけが広がっており、何も無い。フォルは出口を探そうと歩き始めた。

 

しばらく歩いていた矢先、歌声が聞こえてきた。歌の内容は上手く聞こえないが歌声は幼くも優しいものだった。

 

「ありゃあ、誰だ?」

 

歌っているのはふっくらな体型に、ウェーブがかった金髪を腰まで延ばしている女の子だ。おまけに首には何かの切り傷のような跡がある。

 

歌い終えると女の子はこちらに気づき、近づいて来る。

 

「貴方は誰ですか?」

 

「俺はフォル=ネウス・シュミットってんだ。君は?」

 

「私はマルグリット。マルグリット・ブルイユ」

 

「な!?」

 

フォルはその名前を聞いて心底驚愕した。聖槍十三騎士団が守護する黄昏の女神が自分の目の前にいるのだから。

 

「フォルネウス、貴方と似た人が向こうで倒れてるよ」

 

「なんだって!?まさか?」

 

マルグリットが指差した先にはサタナがうつ伏せで倒れており、フォルは急いで駆けつけ声をかけた。

 

「おい!しっかりしろよ!」

 

「う・・相棒・・か?」

 

「ああ、どうやら俺達はとんでもないところに来ちまったようだぜ?」

 

「どこなんだよ?一体」

 

「百聞は一見に如かず、だ。着いてこいよ」

 

フォルはサタナに手を差し出し、掴んだのを確認すると立ち上がらせた。

 

マルグリットは近くにあった岩場に腰掛けていた。二人を見つけると嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「相棒、この子は一体誰だ?」

 

「この子が俺達聖槍十三騎士団が守護する存在、黄昏の女神。マルグリット・ブルイユだよ」

 

「なんだって!?この子が?」

 

「うん、よろしくね?」

 

サタナはマジマジとマルグリットを見ていた。フォルと同じように信じることが出来ていなかったのだ。

 

「あんまりマリィをいじめないでくれるか?お前達が信じられないのも無理はないがな」

 

「!!!!!」

 

「え?」

 

フォルは驚き、サタナは呆気にとられた。振り返るとそこには自分達変わらない年齢の青年がいた。

 

顔つきと声が副首領であるメルクリウスにそっくりだが、性格はまるで正反対だ。

 

「アンタは誰だ?」

 

「そうだ、一体アンタは誰なんだ?」

 

「名乗りは質問した方からじゃないのか?」

 

青年の言葉に言葉を濁しながら、サタナとフォルは口を開いた。

 

「それもそうか、俺はフォル=ネウス・シュミットだ」

 

「俺はサタナ=キア・ゲルリッツだ」

 

「フォルにサタナか、わかりやすいな。んじゃ改めて自己紹介するか、俺は藤井蓮。マリィの守護者だ」

 

フォルはこの人がそうか、といった様子だった。かつて夢の中で双首領とこの藤井蓮がぶつかりあったのを見ていたからだ。

 

「お前達も使える訳か、しかも流出位階手前まで来てる」

 

蓮はフォルとサタナの状態を見抜き、厳しい目つきで二人を睨んでいた。

 

流出は新たな神の出現であり、その域に達した場合「座」を奪われる危険性が高いのだ。

 

世界に色を塗ることが出来るのは一人だけ、その為に守護者は存在している。

 

「お前たちに聞きたい、流出に至ったらどうするつもりだ?「座」を奪うと言うならこの場でお前達を処断しなくちゃならないんでな」

 

フォルは少し息を吐き、サタナは深呼吸して蓮を見た。

 

「俺は「座」に興味はねえよ。女神を守護すると誓った身だからな」

 

「俺も相棒と同じで「座」に興味は無い、理由も同じだ」

 

「そうか、それとサタナとか言ったか?マリィが呼んでるから行ってこい」

 

「え?わ、わかった」

 

サタナが居なくなるのを確認すると蓮はフォルに近づいていく。その目には真剣さが宿っており何かを伝えようとしている。

 

「フォルとか言ったな?お前、創造を模倣するんだって?」

 

「!それを誰から聞いた!?」

 

「メルクリウスって言えばわかるか?」

 

「あの野郎・・・」

 

蓮もやっぱりなと言いたげだ。フォルの様子を見てコイツも苦労しているのだと悟ったのだ。

 

「で、話を戻すけどお前、俺の創造を模倣しろ」

 

「な!?アンタの創造を?」

 

「ああ、じゃなきゃお前は勝てないし、流出にも至れないんだよ」

 

「それにIS・・・だっけか?その意志も此処で形を成してる」

 

「は?」

 

「とにかく今は模倣のきっかけを作ってやる。俺の意志の欠片を与えてそれでものにしろ」

 

そういって蓮はフォルの頭を掴み、己の意志の欠片を流し込むと同時に使ってきた創造の記憶を映像として見せた。

 

「こ、コイツはすごい創造だな」

 

「お前、ラインハルトの配下なんだろ?これくらいで驚く事か?」

 

「仕方ねえだろ?大規模な戦いなんて参加した事ねえんだから」

 

「まるで司狼みたいな奴だな、ともかくこれで俺の役目は果たした。後はお前のISと話をつけろよ」

 

そういって連はマリィのいた岩場へと歩いて行った。呆然としていると、一人の着物を来た黒髪の女性が歩いてきた。

 

「・・・お前、まさか?鏡花なのか?」

 

「はい、ようやく追いつけました。我がマスター」

 

「お前には負荷ばっかりかけちまってたな」

 

「いいえ、マスターがよく言ってるじゃありませんか」

 

「ああ、忘れてたな。確かに口癖のように言ってたあの言葉を」

 

「「最後に勝ちを狙って何が悪い!!」」

 

「私はマスターと共にどこまでも飛びます、どのような力を得てもマスターはマスターです。その為に私は全身全霊で貴方を支えます」

 

「ありがとよ、鏡花」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、俺に何の話が?」

 

「うん、サタナにはずっと守ってくれてる存在がいたの」

 

「?誰だそれ?」

 

「そこにいるよ」

 

マリィが指差した大きな岩の陰に一人の女の子が背を着けて立っていた。鎧を身に付け、剣を携えている姿はまさに騎士といっても過言ではない。

 

「もしかして、剣戟なのか?」

 

「ああ、ようやく追いついて話ができるようになった」

 

「そうか」

 

「無茶してるな?私だって持たなかったんだぞ?」

 

「すまない、相棒がやられてどうしても」

 

「許せないというのは大事な事だ、悪くはない」

 

「剣戟、また一緒に戦ってくれるか?」

 

「今更だな、貴様が神になろうが消滅しようがずっとお前と歩んでやる」

 

「ああ、ありがとう剣戟」

 

 

蓮とマリィは二人の様子を見て笑みを浮かべていた。たとえ神になろうと女神を守る誓いを立ててくれたからだ。

 

サタナに合流したフォルは女神に一礼した。ISとの対話を実現することが出来たからだ。

 

「この事をお前達は覚えていない事になる、それでもお前達が大切に思う宝石を守れ」

 

「私は二人を見守っているからね、希望を捨てないで」

 

「ああ」

 

「それじゃ」

 

二人は特異点から去っていった。女神と刹那は二人の戦いに勝利を掴み取ることを祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ・・ここは海底か、相棒先に行くぜ。俺は女神を守る黄金の爪牙であり、剣だ!!」

 

 

「Euch werde Lohn in bessern Welten(この世界でお前に報いがある)」

 

 

「Der Himmel hat euch mir geschickt(天はそなた達を私に遣わし)」

 

 

「O Dank!Ihr habt mich süss erquickt(その優しさに感謝を込めて)」

 

 

「Die hehre bange Stunde winkt,(不安な時が訪れよう) Die Tod mir oder Rettung bringt.(それは死なのか 救いなのか)」

 

「Und kann er helfen(そして救おう) hilft er gern(自ら喜んで救える者を)」

 

 

「Atziluth――(流出)」

 

 

「Twilight Der Wächter(黄昏の守護者)」

 

 

サタナの位階がさらに上がり、ついに流出へと至った。しかしサタナの中で自分の法によって世界を塗り替えることは考えていなかった。すなわち「座」へと向かい、神になるのを拒んだ事になる。

 

[斬首台のように全て刈り取る刃になりたい]という渇望と[仲間を支えたい]という願いにより発現したのは[力の底上げ]である。

 

これは「座」の容量にすら干渉できるものであり、女神が持つ覇道共存の容量さえも増やせる力。すなわち神専用の外付けハードディスクのようなものだ、これには守護者として守るべき神がいなければならない。

 

神が神を支えるというあまりにおかしな事態であるが、これこそがサタナの流出。目覚めた力の答えなのだ。




「ああ・・・とうとう出会ったか」

「模倣者よ、竜剣よ」

「今の私は恋する乙女のように心躍っている」

「新たな未知を見れたのだから」

「さぁ、見せておくれ、至高の未知を」

演説・水銀の蛇
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