「その導きがとある人物を変えていく」
「では、興味深く見てみよう」
「彼女、ヴァルキュリアの想いを」
演説・水銀の蛇
黒円卓に在籍してから、私は少佐と共に様々な戦いをしてきた。ハイドリヒ卿は守護に重きを置いているようで、ここ数年動こうとしない。
少佐は平和な空気に馴染めず、煙草の本数が増えていた。そんな時だった、ハイドリヒ興が動いたのは。
この城に呼ぶに相応しい渇望を持つ者の声が聞こえたそうで、マキナ卿と少佐が外へ出て渇望を持つ者を連れてくるよう命令された。
さらに驚いたのは男性二人、それも今の時代を生きる青年二人だった。
今の私と変わらない年齢の二人、まぁ実年齢はかなりのおばあちゃんの私ですが何故か惹かれるものがりました。
彼らは人形になる事を強要され、家族からも出来損ないとして見放されたと聞きました。
愛されず、偽りの感情ばかりを見続けてきた彼らの目には危うく、力を求めていたのです。
私自身、彼らの世話役を自ら名乗り出ました。自分でもどうして名乗り出たのか分かりません、彼らを放って置けなくて仕方なかった。
『私は道を照らす光になりたい』
私の中にある揺るぎないたった一つの矜持、ヴァルキュリアとしての自分が持つ存在意義。
サタナ=キアとフォル=ネウス、この二人を迷うことなく導ける光となろう。
◇
「はぁ・・はぁ・・」
「強い・・なんで!?」
彼らが黒円卓に来てから私は暇を見ては彼らに剣を教えていました。少佐からは
「キルヒアイゼン、あの二人を鍛えろ。教官としてな」
と言ってきた。少佐が鍛えろなんて言うのは珍しい、最も少佐の事ですから人手不足だとか言いそうですけど。
「なら、特別に私の全力を見せてあげますよ。そこから存分にかかってきなさい」
「え?」
「全力?」
訓練用の髑髏の密度を強くし、創造でなければ崩せないくらいの強度に成り始める。擬似的とはいえ今の訓練用髑髏はトバルカインと同等の力を持っている。
そんな相手の前に立ち、ベアトリスは静かに宝剣を手にした。
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それは閃光だった。全力を出したベアトリスの一撃は瞬きする暇もなく、一瞬で強化された訓練用の髑髏を倒してしまったのだ。
「今日の訓練はこの状態の私と戦う事。さぁ・・・かかってきなさい!」
「!相棒!」
「ああ」
「「行くぞぉ!」」
サタナとフォルは同時に向かっていくが、ベアトリスに対し何一つ出来なかった。形成を覚えたばかりの身で創造の相手に挑むこと自体が無謀なのだ。
訓練が終わるまで何度も死を味わい、終わった頃にはサタナとベアトリスだけが残っていた。
フォルはザミエルに引きづられ、特別訓練という名のシゴキを受け続けている。
「訓練とはいえ、ボロボロになっても向かってくるなんて。グラズヘイムじゃなかったら消滅してるのよ!?」
「う・・・」
サタナは何も言い返す事が出来ずに押し黙ってしまった。
◇
私自身でも解らない、どうして私はこの二人を気にかけ続けているのだろうか?どこかこの二人に惹かれている自分が居る。
半世紀以上も年下の彼らにどうしてこうも心を動かされるのか、どうしても放っておけない。
「全く、無茶するのは男の子らしいけど」
「俺や相棒は此処で一番弱いですから、だから追い付きたいんですよ」
そう言葉を紡いでくる彼は最初に出会った時の危うさが少しずつ消えている。それに、この二人は双首領閣下と同じ奇縁で結ばれているようだ。
「だからといって無茶し続けてちゃ意味がありませんよ?」
「うう・・」
ああ、私はこの二人に好意を抱いているんですね。まだどちらの方が上とかはわからないですけど。
「でも、努力してる姿は認めてます。ベイとかは認めてないみたいだけど気にしちゃダメよ?」
「ベアトリスさん・・・」
「ちゃんと休息をとる事、いいわね?」
はぁ、この年になって年下にときめくなんて何が起こるかわかりませんね。悪い気はしませんけど。
◇
彼らが創造を身に付ける過程までたどり着いたと副首領閣下から聞かされた。彼らは少佐を含む三騎士との修行をしている。
「はぁ、心配になりますね」
数時間後、訓練を終えた二人がボロボロの状態で戻ってきた。数えるのが面倒になるくらいの回数を死んできたのだろう。
「やっぱり・・・三騎士同時相手はキツイ」
「強くはなれるけど、俺達この戦いでどのくらい死んだんだろうな・・・」
「さぁ、な。3から先は数えてねえよ」
「お疲れ様、二人共」
「あ、ベアトリスさん」
「どうやら相当扱かれたようですね」
「お察しの通りです」
二人の表情から私も思わず苦笑してしまう。訓練を見ていましたがフォルとサタナの戦闘の違いが分かってきました。
フォルはナイフや徒手空拳などによる接近戦、サタナは剣術の方が伸びやすいようで、私が主に剣術を二人に指導する事にした。
二人の成長は早い。指導者としてなら喜ぶべきなのでしょうが、あまりの上達ぶりに少しへこみかけている自分がいます。
黒円卓自体が二人にとって追いかけても追いかけても追いつけないものなのでしょう。
「はい、休息ですよ」
「「わかりました」」
手合わせして分かったことがある。フォルはまるで鏡に映った虚像のように私の動きを模倣し、自分の技としている。
サタナは自らが学んでいた剣と共に私の指導している剣術を取り入れる事で技が整ってきている。
二人が笑顔で話しているのを見ていると自分の内で鼓動が早くなっているのを感じる。
ああ、もう!どこまでこの二人は私をかき乱すんですか!全く。
「ベアトリスさん?」
「へっ?な、なんですか!?」
「休息時間が終わったから特訓の続きを」
「あ、そうですね。わかりました」
今は秘めた想いにしておきましょう。どちらに好意を抱いてるかちゃんと決めたいですからね。
この話は学園に来る前の話です。
ベアトリスは可愛いですがザミエル卿が居ないと難しいです。
正田卿はどうしてあのようなセリフをポンポン浮かぶのでしょうか・・?
知りたいです。