キノの旅 ーthe Beautiful Storiesー 作:瑛松
ー We are Not Alone・b ー
そして、泣き声が聞こえた。
目の前に立ちはだかる城壁にぽっかりと空いた穴の向こうから聞こえる、恐らく赤ん坊の物と思われる泣き声は、静かな大地に響き渡る。
だが、おかしい。
この城壁に書かれた『記録』によれば、この国に『生きている人間』は、もういない筈である。という事は、
「っ!まさか………………」
どうやらシズ様は、私と同じ考えに至ったようだ。
となると、放っておく訳にもいかない。『彼ら』、または『彼女ら』が国外に出てしまえば……………
と思ったが、その心配は無くなった。
ガラガラガラッ!ドスン!という大きな音と共に、その泣き声は聞こえなくなったのだ。
「………………」
シズ様は無言で、城壁に空いた穴から内側を、つまり国内を覗いた。
私では覗くことの出来ない高さにあるが、恐らく国内は、建物が崩れて、酷い有り様なのだろう。
やがて覗くことを止めたシズ様を、
「…………」
ティーが無言で見つめていた。
「…………見てみるかい?」
こくりと頷いたティーの脇をシズ様が持ち上げ、ティーが穴を覗けるようにした。
10秒程国内を眺め、満足したのか、
「………………もう、いい」
そう言った。
シズ様はティーを下ろした。
「いないな」
大地に両足を着けた瞬間そんな事を言うので、シズ様と私は少し驚いてしまった。
「……………………行こう」
シズ様がそう言った。
「そうですね」
私も同意した。此処にいても、これ以上得る物は無い。早めに立ち去るのが得策だろう。
「…………」
ティーは無言だったが、バギーに向けて歩き出したので、異論は無いのだろう。
私達3人は、バギーに乗り込んだ。
私はバギーに乗った瞬間、いつも通りティーに抱きつかれたのだが、抱きついて来る力がいつもより強く感じるのは、気のせいだろうか。
シズ様がバギーのエンジンをかけようとした時、
「すごいな」
突然ティーが口を開いた。
「くにを、すくった。すごいことだ」
その言葉を聞いて、シズ様はふっ、と笑うと、
「そうだね…………私達の知り合いが国を救った。誇りに思おうじゃないか」
そう言ったので、
「そうですね」
私も同意し、
「ん」
ティーも頷いた。
そしてシズ様は、バギーのエンジンをかけ、発車させた。我々が、静かに暮らす国を探す旅へ。
救われたのがどの国かは、言わなかった。
◇
一軒の、崩れたばかりの家がありました。
全壊となったその家の瓦礫は複雑に重なり、一つでも引き抜けば、再び崩れ落ちてしまいそうでした。
そんな瓦礫の山に、下の地面が僅かに見える程の隙間がありました。
その地面には、血が付いていました。
地面に近い瓦礫には、血の他にも、肉片や脳みその欠片、
そして、
藻が、こびり付いていました。