モンスターハンター~狩人レナードの軌跡~≪改稿前≫ 作:ATA999
「頼み……ですか?」
あのドスランポス狩りより約二ヶ月。ここに来たのが温暖期の初めだったので温暖期ももうすぐ終わるだろう、そんな頃。幾つものクエストを無事に達成させていき、いつものようにクエストに向かおうとしていた俺に村長からクエストとは別に頼みがあるらしい。酒場でパティにクエストの承認をしてもらおうとした時に、通り道で声をかけられた。
「ああ、そうなんだ! 実は今度新しくハンターが来ることになったのはいいんだけど、そのハンターがキミよりも経験が浅い女の子みたいでさ。ある程度きちんとした先輩がいないと最悪早死にしちまうかもしれないだろ? そこでこれから行くクエストに同行させてもらえないかと思ってるんだけど、どうかな?」
村長はこちらの様子を窺うようにお願いをしてくる。
「あー……けど俺がこれから行くのはイャンクックですよ? 俺より若い初心者が行くにはちょっと厳しいんじゃないですかね。それに、俺みたいな若輩者と行くより最近村に来たハンターの女の人がいたじゃないですか」
「実は……もう断られてしまった後なんだよ」
「……それが駄目なら、教官とかでも」
「イヤ、教官だとイザと言う時に手助けしちゃいけないからなぁ……」
「ああ、そういやありましたねそんな規則……。確か、現役ハンターと違って定期的な収入やら何やら、様々な特権が与えられる代わりに狩りに出ちゃいけないんでしたっけ。あくまで教導目的に限るとか何とか」
補足しておくと、これには昔起きた二つの事例の影響がある。
一つは十分に暮らしていけるだけの金をギルドから貰っていたにも関わらず現役ハンターと一緒になって狩りに出ていたハンター教官がいた事。一時期は王侯貴族や大商人よりも尚稼いでいたという事で、色々と問題になったらしい。
まぁこれはいい、今回の件ではあまり関係が無い。
もう一つが問題だ。
ある時、とある村で新人のハンターがいたらしい。新人ハンターは、やる気こそ人一倍溢れてはいたものの実力の方は今一つ。その新人ハンターの事を、そのハンター教官は手塩に掛けて育てていたらしく、周囲からはまるで師匠と弟子、あるいは親と子のようになっていたらしい。二人でよく一緒にクエストを達成し、実地で色々と教えたりしていたらしい。
元来が腕のいいハンターであっただけに、ハンター教官は新人ハンターの隙をそれとなく埋める事で新人ハンターの実力を超える力を引き出すように働きかけていた。事実その新人ハンターのクエスト達成率はかなり良いものとなっていった。
ある時、その新人ハンターの元に評判を聞きつけた人が名指しでクエストを申し込んできたらしい。
しかしその時ハンター教官はどうしても抜けられない用事があり、一緒には行けなかった。クエスト自体は問題は無いレベル、今まで何度も教官と一緒に行ってきたモノで慣れている。そろそろ一人でも問題なくこなせるのではないか、新人ハンターは一人でクエストを達成する事を決断した。
そして、事件は起きた。
数日後、新人ハンターは冷たい姿で村へと戻ってきたらしい。死体が戻ってきただけでもまだマシだ、普通その場で骨まで食われてオシマイなのだから。顔見知りになっていたアイルーが、小型のタル爆弾で怯ませた隙に何とか救出したらしい。しかし、あるいはそちらの方が酷い仕打ちだったのかもしれない。ソレを見たハンター教官は、絶望を顔に浮かべたまま村から消えてしまったと言う話だ。
ギルドは、例えば新人には飛竜種の討伐を頼まぬように、そのハンターの実力を鑑みた上で達成可能だと判断したクエストしか斡旋はしない。その大事な判断材料の一つが、どんなクエストを達成したのかの帳簿なのだ。帳簿を含めた種々雑多な情報を加味して、最終的に受付嬢がハンターへと提供するクエストを判断している。
ハンター教官と一緒に行動されては、その判断が付かなくなってしまう。熟達なハンター教官の存在がノイズとなるのだ。
これら二つの事例を重く見たギルドは、訓練ならともかく決して実際のクエストで手助けを行わぬよう固く禁じているのだ。
もしも教官が新人と一緒にクエストに出掛けて色々と手助けをしたとしたら、それだけで教官免許剥奪、更に再度のハンターへの復帰を禁じられている為、教官はただの人となってしまう。
なるほど、それは今のこのジャンボ村にとっては看過出来ない事態だろう。あまりにハイリスク過ぎる。
「今度来るハンターの子はキミと同じで優秀でね! なんとドスランポスやドスファンゴまでならもう倒してるんだ!」
「はぁ、それは確かに凄いですねぇ」
この世界には、ゲーム内と違って様々な種類のハンターがいる。
実力が伴わないが故に、モンスターなどそっちのけで狩場に豊富に存在している素材を専門に集めている『素材ハンター』なる人種も珍しくは無いのだ。基本的に、素材ハンターにはドスランポスも倒せない人がなる事が多い。
この世界では、一流のハンターかどうか一種の目安としてイャンクックが取り上げられる事が多い。いくら別名が『怪鳥』で分類上は鳥竜種にカテゴライズされようと、その見た目と攻撃方法が飛竜種とそっくりな事から飛竜に挙げられる事も多い。
飛竜(偽)なイャンクックが倒せるだけの実力があれば、村レベルであれば十分一人でも維持出来るだろう。
そういった判断基準で行けば、確かにその新人ハンターは若くして一流に足をかけている事になる。
「何を言ってるんだ! キミはもう既にイャンクックを討伐したじゃないか! それを考えれば、キミの方が優秀じゃあないか!」
そうなのだ、先ほど一流云々言っていた訳で気恥ずかしいのだが。
俺も、既にイャンクックを討伐済みなのだ。それも複数。この狩りでようやく≪クックシリーズ≫が全て揃う計算になる。シリーズと言っても、クックシリーズは胴と腕と腰の三つしか無い為、スキル等を考慮に入れた関係の無い防具を身に付ける予定である。
イャンクック討伐が事実とはいえ、あんまり開けっ広げに褒められると背筋の辺りがゾワゾワする。なので、慌てて話を戻す。
「とにかくっ! ……すみませんが、俺には無理です。少し待って、他の人に教わってください。――――おーい、パティ。クエストの承認お願い」
「はいはーい、分かりました! ペッタン、と」
ゴツいスタンプが押される音を尻目に、俺は足早にその場を立ち去るのであった。
◇
「う~ん、フラれちゃったかな」
腕組みをしつつ、村長は苦笑いを浮かべる。
「あんまり露骨におだて過ぎたかなぁ……? うーん、鼻を膨らませて喜ぶと思ったんだけどな。あの年頃は難しいよ」
ハンターにとっては知識は貴重な武器であり、財産だ。おいそれと他のハンターに教えるものでは無い。
村全体として考えてみれば、知識の共有とはそれだけハンターの質が上がる事となり、結果的に恩恵となって返ってくる。
だが翻ってレナード個人にとっては、それは何の利も無い行為だ。細々とした利はあるかもしれないが、少なくとも失う物の方が大きい。
それが理解出来る為、村長はあまり深追いはせずにいた。レナードの拒否する姿勢は、ハンターからすれば何らおかしくはない対応であるが故に。
「……あぁ、そうだ。この事を早くあの子に伝えておかないとなぁ……」
あの子、とは件の有望な新人ハンターの事だ。断られたことを知らない為、もしかするとクエストの為に準備を進めているかもしれない。もしそうだとすると、この事を伝えるのに少し心苦しくもある。
「……あれ、いない? この辺にいてくれって言っておいたんだけどな。オーイ、パティ? あの子、セイディはドコ行ったか知らないかい?」
「えー? さっきレナードさんの後を追うように桟橋の方へ行きましたよ? てっきり二人で行くものだと思ってたんですけ、ど……?」
タラリ、と汗が垂れ。明朗快活な村長にしては珍しく、口ごもるような仕草をし。
パティもパティで、その想像力豊かな頭でもって容易に現状のまずさに思い至り。
「「――ま、いっか……ア、アハ、アハハハハ!」」
真に息の合ったタイミングで、仲良く二人して問題を放り投げるのであった。
◇
「はぁ……」
あの船頭の待つ桟橋へと歩く俺の足は、どこか活気の無いものとなっていた。
先程、村長の話を聞くまでは晴れやかに感じていた陽光にもどこか悪意を感じるように思えてしまうのは、やはり心境の変化だろう。
「別にさぁ、一人が絶対に良いって訳じゃないんだよ……? いやホント」
他のハンターと狩りの仕方があまりに違うのだ、例えパーティを組んだとしても息を合わせる以前の問題になる。
他が周到な準備の果てに為そうとしたことを、こちらは半ば片手間に出来てしまう。
「――――ぉいぃ!」
それにあのドスランポスとの戦いでハンターらしく狩りを行うと宣言したにも関わらず、あれからも俺の心は誘惑に絶えず揺らされていた。
今の俺の持つ得物は、蛇剣【蒼蛇】。これはドスランポスの素材を使用する必要のある武器で――そう、あのドスランポスの素材を用いて作った武器だ。俺はこれを見る度にあの時の思いを思い返すことが出来る。にも関わらず。
『ハンターは使えるものは全て使う。それが最善』
これが俺を誘う誘惑だ。
この言葉を俺は、蛇剣の力を借りても未だ否定できずにいる。一理どころか、紛れも無く正しいからだ。
全力の溜め斬りを武器が耐えきれないと言うのなら、耐えられるだけの素材で作ってもらえばいい。そうすればいずれ、この大剣すらも半ば片手剣の様に振り回す事の出来る腕力でもって、並み居るモンスター共を狩り尽くして――
「――ってぇっ!」
(本当に、それでいいのか?)
また、お馴染みの展開だ。その言葉に異議を唱えるという事は、俺自身どこかで『卑怯染みた怪力のみでモンスターを狩る』事に違和感を持っている事に他ならない。
勘違いしてはならない、雄大な自然の中ハンターとして在る為に力は確かに必要なのだ。
だが、人の身に余る力。ただそれのみを認めた瞬間、多分俺は対等な仲間を失う。そんな気がしてならない。
仲間とは、己の足りない所を補いあうものだ。独りで在る。それが可能なこの力の前に、対等な仲間など有り得ない。
(背中に背負っている蛇剣【蒼蛇】よりも、この両腕の方が頼もしく見える時点で、おかしい。それは、確かにおかしいはずなんだ)
「――って下さいっ!!」
直視したくはないが俺の心の状況を客観視すると、だ。
要するに、俺は怖いのだ。周りから浮いてしまうのが。
まるで、歪なバランスを保つかのように。体が強くなればなるほどに、精神の方が弱くなってきている気さえする。
村人からは強すぎる力を見て、怖がられ。同じハンターからは、自分には無いと嫉妬され疎まれ。果てには、隔離されでもするのだろうか。
そんな情景が目に浮かんでしまう。
あるいは、ただの被害妄想なのかもしれない。ただ単に、凄いなと賞賛されてオシマイなのかもしれない。存外大した事も無いレベルの怪力なのかもしれない。
だが、俺は一度それを経験している、かつて暮らした村で。いや、そこまでとは言えない。そんな大層なものでは無かったし、そうなる前にその場から逃げ出してきた。
それでもその感情は、何もしなければいずれ芽吹く事は確実だった。ただ単に、周囲の感情が大樹となる前に俺がその場から逃げ去ったというだけで。
そっと溜息を吐きつつ、桟橋の先に近づく。いつものように、あの若い船頭がスタンバイしている。陽気に片手を上げて来たので、こちらも片手を上げて応答する。
(ん、何だ。……後ろ? 後ろを振り返りゃいいのか?)
どこか慌てたジェスチャーをしてくる若い船頭に、後ろを見ろと囃し立てられる。
振り向くと、パタパタとこちらも慌てて駆け寄ってきている見慣れない若い女のハンターが一人。何か、パティか村長の伝え忘れた事でも言いに来てくれたのだろうか。
ぼんやりそう思いながらも、うじうじと片隅で考え事を続ける。その為、足は依然船頭のいる船の方へと惰性で動いていた。
「――ああ、つまりはあれか」
悩みと言うのはほとんどの場合、順序立てて考えれば何かしらの道筋は見えてくるモノ。
例に漏れず、思考の果てにふと気づく。
もしも、俺の力を見ても尚恐れず、それを考慮に入れてのパーティを組める人物がいるのだとしたら。俺の怪力や耐久力が、キワモノ揃いのハンター達同様「個性」と仲間に認められれば。俺のこの油汚れの様に頑固で鬱陶しく心にこびり付く悩みは、ある種解解決に至るのでは無いか?
「ちょっと、待ってくださ~いっ!!」
そう、思い至った瞬間。俺の目の前は濃密なピンク色に染まった。くせぇ。
◇
「ほ、本当に申し訳ありませんでしたっ!!」
「……つまり、あれか。さっきから声を掛けてたのに、俺が何やら考え事に夢中で気づきやしない。これでは一人でクエストに行ってしまう。マズイ、どうしよう。そうだ、何かを投げつけて足止めすればいいんだ。ごそごそ、いいところにペイントボールがあるじゃないか。――で、投擲。見事命中し今に至る、と?」
「……は、はいぃ」
「…………」
「うっはぁ~、頭からべっちょべちょだぞー。くっさくて鼻が曲がりそうだー」
「……今の流れで何か、言いたいことはあるか?」
一応、何か悲しい誤解が無いかどうか聞いておく。
「考え事して歩いてちゃ、危ないですよ? メッ!」
「そうか、そんなにオシオキされたいか」
「ああっ!? ご、ごめんなさいごめんなさいぃっ!! 調子に乗ってゴメンナサイッ!?」
「普通に、こっちの船頭さんに声を掛ければいいだけにも関わらずだ。俺にだだっ広い狩り場で使うモンスター用のペイントボールを投げつけてきたのは、あれか。――俺に殴り飛ばされたいとかいう酔狂な、あれか?」
「全然違いますです、ハイ! ただ単に足を止めたかっただけなのですが、ハイ! 少しばかり、パニックになってしまってですね。それでこんな事になってしまいました!」
清々しい程に綺麗に頭を下げてきているこの緑髪少女、名前をセイディというらしい。話を聞くと、どうやらこのセイディこそが先ほど村長が頼み込んできた新たなハンターらしい。確かに見た事は無い顔だった。
「ふぅ……もういい。もう怒ってないから、君はとっとと帰んな」
「……えーと、ですねぇ? もうお船が桟橋から出発してしまっている現状、ちょっとお家に帰るのは無理なんじゃないかなぁ……と」
「…………」
正直、完全に気が付いていなかった。
現状俺は、未だしつこく頭部にこびりつくペイントボールを何とかかんとか目元だけでも取り除いている訳だが。ペイントボールは、ペイントという名前ながら、そのピンク色ではなく臭いこそが最大の特徴となっている。強烈なまでの臭気によって、ハンターは獲物の位置を狩場のドコにいても嗅ぎ分けられるようになるのだ。それを今、顔面に受けている。
当然、俺の鼻などとうの昔に使い物にならなくなっている。見ればその臭いの影響で、若い船頭さんも歌を歌わず鼻を摘まんでいる。今まで必ず、この船頭の調子っぱずれの歌を聞かされながら乗っていた訳で、調子っぱずれなBGMが無いとどうにも違和感がある。
これが俺の、船が出発したことに気づかなかった原因だろう。
「――セイディ。なぁ、セイディ」
「な、何ですか……?」
「君には、ご両親から頂いた立派な体があるというのに……!」
「泳げと!?」
「行けるって、君が新世代のハンターなら。鎧とか着けてても、きっと泳ぐことも出来るはずだから。多分」
「新世代って何なんですかぁ!? 後、きっととか多分とかでやらせようとしないで下さいよぉ!?」
「全く、そうぞうしいぞーお前らー。歌う事も出来やしない、おいらの唯一の楽しみだってのにー……」
何だか最後の方は、割と楽しくなっていたような気がしないでもない。
◇
ようやく落ち着いた俺達は、改めて自己紹介をする事にした。
「レナードだ。年は18、主に使うのは大剣。今までにドスランポスとドスファンゴ、後これから行くイャンクックも討伐した経験がある」
「セイディです。年は15になります、はい。えと、片手剣を使ってまして。これまでに倒したのはドスランポスとドスファンゴです、はい」
ボーイッシュな印象を受ける短めのライトグリーンの髪と、同じく瞳を持った少女だ。パッチリとした目と裏表のなさそうな表情からは、素直そうな印象を感じられる。
「おいらの名前はリューズな、年は16だー。んーこれまでに倒したのはー……心の弱気かな。しっかり覚えとけー」
多分、忘れる。
「――で、だ。これから俺は、イャンクックを討伐に行くんだけど……」
「はい! ぜひ、ご一緒させていただきたいと思っています!!」
「うん、それ無理」
「は……ええっ!?」
この世の終わりの様な表情でこっちを見てくるセイディ。中々表情が豊かだな、この子。
「そんなに……ペイントボールって気持ちが悪いんですか……?」
「この臭いみたいに、頑固でしつこい奴だなー」
「……分かってると思うが。別に、このペイントボールで嫌がらせをしている訳じゃないからな?」
「おう、おいらは最初っから分かってたぜーはははー」
「え、えと!? わ、私もはい! 最初っから分かってましたけどっ」
つい、頭を抱えて空を見上げてしまった俺は悪くない。
「まず、セイディ。お前はそもそも準備が足りてないんだ」
「準備が足りてないだなんて、そんな事無いです! ちゃんと不足の無いように、十分に色々と持ってきましたし」
確かに、出るわ出るわ。非常に多く物が入れられるギルド支給のポーチが、9割がた持ってきた物で埋められている。
これじゃあ狩場から何かを持ち帰る事も碌に出来やしないだろう。
中身も中身だ。
回復薬やペイントボール、砥石やこんがり肉はまだ問題ないとして。石ころやネンチャク草、ブーメラン、ペイントの実、果てはガンナーでないと全く使う事の無いカラの実等々……明らかに必要のない物までポーチの中には入っていた。……ところでもしも、あの時ペイントボールではなく石ころ投げつけられてたらと思うとゾッとする。一応殺傷性の無いモノを選ぶだけの理性は残っていたという事か。
だが、それとこれとは話が別だ。
「……ただ持って来ればいいってものじゃあ無いだろうが」
確かに多めにアイテムや素材を持ち運んでくるというのは悪い事では無い。予想以上に長丁場になった際、それは神の恵みのように感じる事もあるだろう。だがだからといって、まず間違いなく邪魔になる物を持ってきていい理屈にはならない。ここはこの子の為にも、一つずつ確認していくか。
「何故、タル爆弾も用意していないのに石ころを持ってきたんだ?」
「それは……いざと言う時に、ネンチャク草と合成する為です」
「だろうな、素材玉が出来る組み合わせだ。で?」
「えっと、ツタの葉と組み合わせてけむり玉を作っておけば、いざと言う時に体勢を立て直せるかなと……」
「そうか、まぁそれも悪くは無いだろう。……が、その答えは同時に君の勉強不足をも露呈している」
「ど、どういう事ですか……?」
先生役が、少し楽しくなってきたかもしれない。ピン、と指を跳ね上げ語る。
「ヒントはイャンクックの生態、だ」
「イャンクック、の……?」
ここまで言っても分からないという事は、イャンクックか道具か、どちらかの知識が足りていないという証左。とりあえず身に染みて分からせるため、コチンとデコピンをしておく。予想に反してゴチンと音を立てたのは、きっと気のせいだろう。
「ぐ、ぬおおぉぉぉっ……!」
「うーわ、ソートー痛そーだぞ」
「イャンクックは見た目の耳の巨大さを裏切らず、非常に聴覚が優れている。その為、奴の近くで音爆弾やタル爆弾をさく裂させればしばらくの間硬直して隙をさらけ出す訳だ。硬直が解ければ怒ってしまうが、それまでの間は攻める絶好の機会でもあるし、逃げ出すことも簡単に出来る。大タル爆弾を奴の近くに置くことだって、十分に可能だ。そして、こんな事はパティか村にいるハンターにでも聞けば、少額のゼニーと代わりに快く教えてくれていたはずだ。――さて、準備が十分に足りていたはずのセイディさんは、一体どうしてこの事を知らなかったのかな?」
少し嫌味ったらし過ぎたかもしれないが、ここは絶対にテキトーをしてはいけない場面だ。
今ここでこの子が手にする教訓は、ハンターにとっては非常に重要な教えとも言える。
だからこそ全力で教え、諭す。あるいは脅す。これがよく身に染みるように。
「…………」
「それに、な。――君、その装備レザーシリーズだろう?」
「は、はい。そうですけど……?」
「さっき俺は確かに聞いたよ、ドスランポスとドスファンゴを倒したってな。――で? 何で、防御力が一番低くて、発揮されるスキルは採取のみという、他のハンターならズブの新人か素材集めの為にしか使われないような、そんな防具を身に纏ってるんだ?」
「それは……」
「それは? 金を集めて工房でより防御力の高いチェーンシリーズを揃えても良かったし、それこそ俺の今着ているランポス装備だって君なら揃えられたはずだ」
セイディの得物はハンターカリンガ改、マカライト鉱石と鉄鉱石と大地の結晶で作れる金属製の代物だ。つまり、ドスランポスやドスファンゴの戦果には手つかず。売るなり加工するなりすれば、どうとでも今より良い防具を揃えられたはずなのだ。なのに、セイディはそれをしなかった。おそらくは時間を惜しんで、絶対に払わねばならない労力を払わなかった。
「身を守るべき防具もお粗末なまま。かと思えば、対象の情報も碌に知ってはいない。故に、持ってくるべき物も持ってきてはおらず。正直、話にならないんだ。セイディ、君は事前にやるべき事をしていない。それはハンターにとっては許しがたい怠慢だ。ソロならまだいい、準備不足のそいつ独りが死んで、ほんの少し後処理でギルドの仕事が増えるだけだ。その程度ならギルドに迷惑を掛けてやればいいさ、それがあっちの仕事だ。だがもし、一緒に狩りに出向く仲間がいたら? 君のせいで仲間が全員窮地に追いやられるかもしれない。はは、とんだ死神疫病神だな。セイディ、俺は君を死ぬと分かっているクエストへと連れて行くつもりはさらさら無いよ。――言い方を変えよう、顔を洗って出直して来い」
ピンク色に体を染めたまま、舌鋒鋭く言い放つ。
本当に顔を洗いたいのはこっちなのだが。この空気の中でそんな言葉はさすがに言えない。
セイディは俯きながら、唇を噛みしめ拳を握りしめ震わせている。
「(泣くなよ? ホント、泣かないでくれよっ、頼むから……!)泣くのか? 泣いてどうにかなるって甘く考えてるんなら。――今すぐハンター辞めちまえ!!」
その言葉に跳ね上がるようにこちらを見て――否、睨みつけてくる。僅かに目尻に浮かんでいる涙など感じさせない、ギンッと強い眼差しだ。
「……私のいた村は、今村に住んでいるハンターが父一人だけです。その父も、数か月前に怪我をしてしまい、狩りに出られなくなってしまいました」
押し殺すように、呻くようにセイディの独白が始まった。
「私は、元々父の跡を継いで村のハンターになるつもりでした。ですが、最近は近くの森に住むモンスターが俄かに増えてきていた為に、それに重なるように起きたハンター0の事実を、村長は重く受け止めたのでしょう。村の全員を連れて、どこか別の場所へ集団で移住をしようと言いました」
……その村長の判断もそれ程間違っているとは言えない。おそらくその村長は、人命を何より優先してその判断を下したのだろう。と言うか何だろう、この語りは。何か嫌な予感がする。
具体的に言えば、俺が悪者になりそうな予感が。
「私は食い下がりました。私がハンターになって皆を守って見せるから、と。最終的に村長は、「集団移住するまでに、お主の父と同じく飛竜であるイャンクックを倒せたら」と、集団で村を捨てずに済む条件を言ってくれたんです。……ここまでくるのには、正直言って本当に怖かったですよ? 少しずつ着実に進んでいかなきゃいけないのは分かってました。でも、期限まで後二週間……。悠長にやっていると村長との約束に間に合わないんですっ……! 多分、村長もそれを知ってて言った条件だと思います。ドスランポスも、ドスファンゴも本当に大きくて怖くて、そんな相手にこんな装備じゃあ頼りなくって震えが止まらなくて……。それでも、頑張ったんです。だって私は、あの村の風景が好きだからっ……!」
今しがたまでのキャラ付の為に平静とした表情の裏で、じっとりとした汗が滴り落ちるのを感じる。
自分のここまで頑張ってきた理由。頑張ってこれた原動力を話した為だろう、セイディの頬は僅かに紅潮している。先程から涙もうっすらと滲んでいる為、尚更セイディの健気度が半端ない。
(――ていうか何だよリューズ、そんな目で見てきてんじゃねぇよ!? 知らなかったんだからしょうがないだろうがっ、これじゃあ俺がただ後輩苛めてただけみてぇじゃん!? 何だよ「好きだからっ……!」って!? 反則だろ!!)
片方からは懇願するようなキラキラと、もう片方からは軽蔑するようなじとーっとした眼差しを受け、あ~、う~と唸った後、ガシガシとランポスヘルムを外し髪の毛を掻く。……よし、腹は据わった。
「分かった、分かったよもう! こうなったら、乗りかかった船だから。俺が傍で面倒見てやるから、イャンクックでも何でも倒せよ……」
「ありがとうございますっ!!」
「おー、よかった、よかった。やっぱりレナードは良い奴だなー。さっきまでのいじめっ子口調も、本当はセイディの事心配して言ってたんだろー?」
「んな事、本人の前で言うなボケ!!」
ここに、仮初ながらパーティが結成されたのであった。