目の前に迫る純白の剣を左手の黒き剣で受け止め、右手の剣で狙いやすい胴体を狙う。
その攻撃は体を少し仰け反る事で回避された。
そして、いつの間にか引いていた剣が左下から迫っていた。左手の剣で受け流す。
それからは、防戦一方となってしまった。
敵の攻撃を受け流すか、受け止めることしかできないのだ。
(クッ。かなり強い)
俺みたいな、にわか仕込みじゃ無いのが一瞬でわかる。
次の一撃を受け止めると同時に距離を詰め、俗に言う鍔迫り合いの形になる。
これは向こうも驚いた様だ。
だが、後ろに飛ばれ、一瞬で距離を開けられる。
剣の長さで言えば、向こうの方に分がある。よって、距離を離されて不利になるのは俺だ。
(さて、どうする?)
剣の腕では向こうが上。未知数で言えば同等。特異性で言えばこちらが上。
(だが、あの能力をどう生かす?)
鉄を作り出してどうする。剣、槍、斧、防具どれを作っても、状況を変えられそうに無い。
であれば、ミスを冒さず、あちらのミスを伺い、数少ない勝機を摑み取ろう。
不用意に攻めず、冷静に行動すれば見出せるはずだ。
向こうも剣を構え直し、敵を見据える。
「ハッ!」
気合いとともにこちらに急速に向かってくる。
その速度は普通の人間が出せる速度では無かった。
(魔力か!)
急いで剣を攻撃の軌道上に打ちあて、受け止める。
その一撃も重く、一人の女性が出している威力とは思えない。
魔力による強化。
それで納得がいく。
であれば、俺も魔力で強化しても文句はあるまい。
全身に魔力を送り、強化する。
剣を弾き、右の剣で仕掛ける。追撃で左の剣を後ろに構える。
右は避けられた。左で突きを放つ。その際、右を構え直し、さらに追撃を加えさせる事を忘れない。
二刀の利点は手数の多さにある。
技量で負けていても、手数で押し、しっかりと敵を見据え、先の行動を予測する。
それができれば、勝機はある。
だが、
「〈エア〉」
何かを言った瞬間、強烈な向かい風が吹いた。
それは、俺の動きを遅らせるのには十分だった。
「チッ!」
俺は急いで後退する。次の瞬間、俺がいた場所が逆袈裟に切り裂かれた。
今のは魔法か。それも初級の。
魔法の授業も聞くだけだったが、知識はある。使われる予想はしていなかったが。
剣だけでなく、魔法もありという事か。
だが、俺に魔法は使えない。
先ほどの事を加味すると、俺がさらに不利な状況に追い込まれたという事か。
そうか。
(フッ。面白い!)
内心で笑い、勝つ決心を固める。
さらに魔力を流し込む。
そして、
「ハァ!!」
今度はこちらから攻め込む。
その速度は、先ほどの比ではなく、敵の前に、数瞬でつく。
左で斬りはらい、すかさず右で突きを放つ。
それらを危うい感じで回避している。
伸ばした右を回避された向きに斬りはらい、左で切り上げる。
その瞬間、剣が跳ね上がり、明らかな隙を作り出す。
右で、心臓を狙った一撃を放つ。
確実に勝った。勿論、当たる直前に止める。
……ハズだった。
ガンッ!
何か円形の物に当たり、軌道を外にずらされる。
(魔力障壁!)
そう思った瞬間には遅かった。
確実に勝ったと思った確実な隙。それを敵は見逃すハズが無かった。
弾いた上段から振り下ろされる剣。
咄嗟に左腕に大量の魔力を流し、なんとか受け止める。
向こうも魔力で強化した膂力で押し込んでくる。
俺はそれを押し返そうと力を込め続ける。
「ハァァ!!」
「グッ!!」
剣から火花が飛び散る。それだけで、二人の鍔迫り合いの凄まじさが伝わってくる。
段々と近づいてくる刃に、自分が押し負けている事を理解する。
打開する方法は、下手をしたら、片腕を切られるが、どのみちやられる。ならば、賭けに出た方がいいだろう。
互いが、力を振り絞り相手に勝つが為に力を出し続ける。
そんな時に力を出していた先が無くなったら、どうなるだろう。
「!!」
剣を消滅させ、急いで体を回転させ、回転の力を使い、右の剣で相手を仕留めにかかる。
その攻撃で相手を殺すには、長さが足りなかった。それは、計算していた。
だが、予想していなかった、いや、予想外の出来事が起こってしまう。
放った一撃は、綺麗な肌に一筋の傷を作り、美しき髪を数本切り裂いた。
たったそれだけだった。本人も気にせずに次の攻撃を仕掛けようとしていた。
予想外は見守っていた騎士たちだった。
「貴様!!なんて事をしてくれる!!」
その言葉に俺を含めて孤児院の皆と、姫が動きを止め、声を発した騎士を見る。
「姫様の美しき御顔に傷を作るとは何事か!!!」
声を聞いただけで激怒しているのがわかる。
だが、決闘などで傷を作るのは当たり前で、意味が分からなかった。
「下がりなさい。決闘で傷を作るのは当たり前で…」
姫が何かを言う前に、
「姫様お下がりください!この悪しき子を成敗しますぞ!!!」
聞く耳持たず、か。しかし、これは本当に戦わなければならない感じがする。
どうすれば、騎士団、もしくわ王国との摩擦が少なく済むだろうか?
その方法は、姫に説得してもらう方が良いだろう。
俺は姫を見て、姫は何をするべきか理解しているようだ。
「下がれと言っているのです!」
だが、
「姫様の身を悪しき子から離せ!!」
その言葉と共に数人の騎士が、姫をここから遠ざける。
「あなた達も下がりなさい!下がれと言っているもです!!」
どんなに強く言おうと、騎士達は聞く耳を持たず、
「離しなさい!!私の言葉が聞けぬのですか!!」
どんどん遠ざかって行く。虚しく、怒りを感じさせる言葉を聞きながら。
「魔法部隊!!魔法用意!!!」
すると、鎧を着た騎士達から、数十名ほどが手を目の前に掲げた。
顔から血の気が引くのが分かる。
(マズイ!!)
ただ、その感情に支配される。
さらに、その魔法攻撃は俺だけでなく、後ろの孤児院の皆も狙われているのが、丸分かりだった。
回避は絶対間に合わない!
「防御魔法が使える者は使え!!使えぬ者は、使える者から守ってもらえ!!!!」
怒号をとばす。
だが、とっさの事で動ける者はいない。
俺はありったけの魔力を鉄を作る能力に流した。
「撃て!!!」
俺は鉄の壁を孤児院の皆を守れる程に大きな壁を創り出す。
バン!!ガン!!キン!!
何かが鉄を激しく叩く。
激しい音を立てながら、魔法が鉄の壁に激突する。
(間に合った…)
正直間に合うかどうか、分からなかった。
だが、間に合った。
それは嬉しかったが、解決していない。
「大丈夫ですか!キリヤ君!」
リリー先生が駆け寄ってくる。
「大丈夫!?キリヤ君!」
「大丈夫ですか!?お兄ちゃん!」
俺に傷は付いていないハズだ。
そんなに大袈裟にする必要は無いだろう。
「大丈夫だ。問題ない。それより、お前達こそ大丈夫か?」
「ええ。皆あなたのお陰で、傷一つなく無事です」
「そうか。ならよかった」
その言葉にホッと安堵の息を吐く。
しかし、どうするか?
向こうは皆殺しにする気だ。ならば、俺も殺しに行くしかない。
だが、魔力の量も直ぐに尽きるだろう。
打つ手なし。正に、その言葉の通りだった。
「チッ!金食いの下等なゴミどもが!面妖な魔法を使いよって!!」
今、なんと言った?
「回り込んで即刻始末しろ!!ゴミ駆除でごときで手間取る事は無い!!」
こいつらは、この口調じゃ、俺たちを殺すために来ていたって事かよ。
て事は、あの姫も加担していたのかよ。そうだったのかよ。
俺たちを殺すために来ていたのかよ……。そして、この光景を見て、楽しんでいるのかよ。
(殺してやる。命をオモチャみたいに扱いやがって!!全員、地獄に叩き落としてやる!!!)
その瞬間、何か、俺の力ではない別の力が流れ込んで来た。
それは、俺の体を紅く、黒く、禍々しく広がって行く。
俺はこの力を深く考えることもせず、ただ、
(ありがたい)
と、思っていた。
彼奴らを殺せる力が手に入った。ただ、それだけだった。
全身に魔力を流す。
血のように紅く、黒い魔力を。
周囲から子供の鳴き声と共に、どよめきが聞こえる。
「キリヤ…君?」
「お兄……ちゃん?」
二人の声が特によく聞こえる。
だが、今は構ってやれない。一秒でも時間が惜しい。
「じゃあな」
ただ、それだけ言って騎士団を殺すために、鉄の壁を越えるのだった。
面白ければ幸いです。