鉄の壁を飛び越え、宙にいる最中に剣を創る。
(切れる剣ならばなんでもいい)
その思いに呼応する様に、一振りの漆黒の大剣が手に握られた。
着地地点の近くにいた騎士、いや、屑を頭頂部から左右に分断する。
凄まじい切れ味だった。防具で守られているとも感じないほど、容易く切り裂けた。
その切れ味に笑みを浮かべつつ、周囲を確認する。
前方に数十名、左右に十数名ずついる。
真っ先に対処するのは、鉄の壁を回り込もうとする奴らで、前方は後回しだ。
左の壁を延ばし、足に魔力を込める。その時、足を覆う形で漆黒の鎧が出現した。
それを気にせず、右の敵に向かって、突撃する。
腕に魔力を込めると同時に腕を漆黒の鎧が覆う。
未だ、呆然としている敵の一人を袈裟に切る。鎧ごと真っ二つに。
そして、状況を理科し、動き出した者から順に殺していった。
その動きを目で追える者はおらず、ただ一瞬で十数名の騎士が鎧ごと肉体を切り裂かれ、絶命したのであった。
左の敵を見据え、通り過ぎざまに一人、さらに一人を殺して足の鎧が音を立てながら静止する。
「なんなんだよ!なんなんだよあいつは!!」
誰かの畏怖する声が聞こえる。
その声を発した瞬間、上半身と下半身が切り離された。
その周囲にいた敵も、一瞬で絶命するほどの深手をほぼ同時にうける。
「クソッ!!」
勇猛に俺に攻撃しようとする。
それを鎧で覆われた手で掴み、それだけで剣にヒビが入り、盛大な音を立てて砕け散った。
「……え?」
間抜けな声が聞こえたが、関係ない。敵は等しく殺す。
全身に魔力を込め、全身に漆黒の鎧を纏う。
それだけで、今までと比べ物にならない程の力が、手に入る気がした。
気がしたではない。手に入るのだ。力が。
その力で、周囲にいる敵を滅ぼす。時間は1秒もかからない。
「悪夢だ。そうだ。これは悪夢なんだ!!そうか!!」
などと、狂った様な事を言う奴。
「悪魔だ。もう終わりだ……」
などと、剣を落とし、膝をついて戦意を失う者。
「貴様!!こんな事をして騎士団が、王国が黙っていると思うなよ!!!」
などと、虚勢をはる者。こいつは、全員に指示を出していたリーダーだろう。
そんな事はどうでもいい。死んでしまえば、全員同じだ。同じ死者だ。
漆黒の鎧に赤い線があらわれる。それは禍々しく漆黒の鎧を飾り付けた。
彼の姿が搔き消える。その瞬間、騎士達の命は三名を残して、全て失われた。
総勢四十五名。その内の四十二名の命が30秒も経たずに失われた。
生き残った三名も考えなしに残した訳ではない。
「お前達に命令を出したのは誰だ」
その声に感情の色は感じられない。
それが、騎士達には恐ろしく、生存本能をおおいに刺激させられた。
そして、希望的観測をしてしまう。誰が命令をしたか言えば生き残れる。と。
「国王だ!財政を増やそうとどうでもいい村なんかを騎士を使って数々襲撃させている!」
それと似た様な事を口々に揃えて言う。あのリーダー的な奴もだ。
この情報は信憑性が高い。この情報が得られただけでも、こいつらを生きながらえさせた甲斐があった。
「そうか。もう用は無い。死ね」
大剣を横に一閃するだけで、容易く三名の命は絶える。
国王か。この元凶は。
厄介だ。この事態を知られれば、この孤児院のみんなが死刑にされるかもしれない。
そんな事を考えていると、
「ッ!!」
頭痛がした。頭の中をガンガン叩かれているみたいだ。
そんな時に
「ッ!?」
あの姫が戻ってきた。後ろからは遅れて騎士数名が来た。
「貴様!!まさか悪魔の類か!!やはりここで…」
その言葉は最後まで続かなかった。
何故ならば、首と頭が切り離されてしまったからだ。それと同時に騎士が全滅した。
最後の一人である姫を殺せば、俺達を殺そうとしていた奴らは全員いなくなる。
動き出そうとした刹那
「ッ!!!」
一段と頭痛が強力になった。その瞬間、全身を覆っていた鎧が消えた。
「!」
姫が驚いた顔をする。
それを無視して、剣を生み出し、右手に構えて、ヨロヨロと歩き出し、三歩歩いたところで、俺の意識は途絶えた。
騎士達を強引に引き剥がし、急いで孤児院のところへ向かうと、そこには、騎士達の死体と漆黒の鎧に身を包んだ者だけだった。
騎士達は、脳味噌を撒き散らしたり、切れた腹部から、臓物を地面に無残に撒き散らしていた。
吐き気がするが、グッと堪える。
「貴様!!まさか悪魔の類か!!やはりここで…」
その瞬間、頭部が切り離される。同時に周囲の騎士も短き命を終える。
何が起こったかわからない。わかるのは、私も殺されるという事。
だが、その瞬間は訪れなかった。
「ッ!!!」
急に漆黒の鎧が消えて、騎士達を殺した者の姿を見て、
「!」
驚いた。
憎悪と怒りに濁った目。
戦っていた時はこんな目では無かった。真っ直ぐで、綺麗な目をしていた。私の好きな目だった。
すると、急に倒れた。
それに一瞬反応できず、呆然となってしまう。
すぐに我に帰り、心臓の鼓動と息をしているのかの確認をする。
異常は無く、ただ、気絶してしまっている様な状態だ。
「聞きたい事はありますが、まずは、キリヤ君をベッドに運びましょう」
急にした声に驚き、顔を上げると、ウサギ耳を生やした獣人の女性が物凄い気迫でそう言った。
女性がキリヤと呼ばれた男の子を抱えて、孤児院の方に連れて行く。
「私も何か手伝える事を……」
「貴方はそこで待っていてください」
その表情は真剣そのもので、気迫に満ち溢れていた。その気迫に押されて、
「はい…」
としか言えなかった。
数分後、あの女性が戻って来た。鉄の壁はキリヤが気絶した瞬間に消えていた。その時には、子供達は孤児院の中に入っていた。
「まずは、この事態についてどこまでご存知ですか?」
「知り、ません。わかりません」
それだけしか言えなかった。
誰のせいでこうなったのか知らない。
なんでこうなったのかわからない。
「そうですか。では、孤児院の皆を殺せと命令されたのを貴方は知らないのですね?」
「知りません…。間違っても私はそんな命令を出しません」
騎士達がこの人達を殺そうとした?しかも誰かの命令で?
違う。私じゃない。私はそんな命令はしない。だけど、孤児院の窓から見える子供達は、怯えきっている。
それが、騎士達がこの人達に暴威を振るった証拠だろう。
「信じてもらえないでしょうが、信じてください……。どうか、お願いします」
誠心誠意を込めて、言葉を紡ぎ、頭を下げる。
その行動に目の前の女性は目を瞑り、そして開く。
「わかりました。信じましょう。では、知恵を貸していただけませんか?何しろ、命令を下したのが国王らしいので」
「ッ!!」
その言葉に驚きが隠せない。
何せ、自分の父親が殺しを命じた張本人なのだから。
その驚きを見ながら、目の前の女性は言葉を紡ぐ。
「この惨状はキリヤ君が作ったものですが、孤児院全ての責任にされかねません。そうなれば……」
そこから先は言わなくてもわかる。
確かにその様な事になる可能性が高い。いや、確実になる。
そうならない為にはどうすれば良いか。
私が口を挟んでも聞いてもらえないだろう。先程の事を考えて。
ならばどうするか。
思いつく策が一つ。だが、これは自分の人生を台無しにする策だ。選ばない方がいいだろう。
……選ばない方がいいんだけどな。
騎士達はこの人達を殺そうとした。それは、キリヤによって免れた。
ならば、誰かが償わなければならない。この場の誰かが。
「一つだけ、策があります。これでも、貴方方の安全は完璧には保証されませんが、一番、安全になれる方法です」
そして、自分の人生を賭けた策を実行するのだった。
面白いと思っていただければ、幸いです。