異世界に転生したので強く生きてやる。   作:旋弧

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最後までゆっくり見ていって下さい。


存在

これは、とある男の記憶。

その男は、普通の家に生まれた。裕福でもなく、貧乏でもない。ごく普通の、ありきたりな家だった。

そこに生まれた男は、誰よりも正義を追い求めた。

幼い頃に騎士に憧れ、鍛錬を欠かさなかった。

弱きを助け悪しきを挫く。そんな正義だった。

そういう正義だからか、彼を信じる者は多くいた。

彼を信じて子守をを依頼したり、彼を信じて遊び場を独り占めする奴らを懲らしめてくれと頼んだり、彼を信じて護衛を頼んだり、彼を信じて魔物退治を依頼していた。

それを男は嫌な顔一つせず、

 

「わかった」

 

と、一つ返事で答えた。

さらに男は尽くそれを成功させた。

日を追うごとに、年月が経つとともに、魔物退治の依頼が多くなって来た。そして、それを労う者はいなくなった。当たり前になってしまったのだ。

それを男は全く気にしなかった。

何故ならば、誰かに褒めて欲しくてやった訳ではなく、自分の正義を貫く為にした事だっただったからだ。

雨が降ろうが、雪が降っていようが男は魔物を倒し続けた。そして、血塗れで戻ってくる男をやがて村人は恐れる様になった。

それすらも気にする事なく、魔物を倒し続けた。

それが騎士団の目に留まり、特別入隊を許された。

念願だった騎士団に最年少で入隊し、舞い上がると思ったが、男は舞い上がる事なく、己を鍛え続けた。

最初は馬鹿にされ続けた。だが、男の鬼の様な強さに誰もが言葉を忘れた。

 

やがて男は、一軍を率いる将として成り上がった。その活躍は、他の騎士団より頭一つ飛び出ていた。

その活躍を妬む者はいなかった。何故ならば、冗談抜きで強かったのだ。さらに、部下からの信頼厚く、正に理想の騎士の姿だと揶揄された。

そんなある時、竜の討伐を依頼された。それを男はまたも一つ返事で了承してしまう。

それを伝えたら、仲間の騎士達は、騎士団を抜け出していった。

それを責める者はいなかった。それだけ強大な存在だったからだ。

子竜ならば、誰も抜け出さず、勇敢に挑んだであろう。

だが、挑むのは成竜。命が惜しい者ならば、逃げ出して正解だ。

 

その戦闘は苛烈を極めた。

竜のブレスで幾人も犠牲になり。竜の一薙で幾人も吹き飛ばされた。

それは、誰が見ても負け戦に見えるだろう。だが、誰も諦めてはいなかった。

果敢に攻め、次第に優勢になりつつある戦場。

そして遂に、竜は討ち果たされた。

その竜の背の部分には、剣が埋まっていた。

それは、光さえ映さぬ漆黒の剣だった。

 

その剣を携え、王国に戻ると、宴会が催され、男は〈竜殺し(ドラゴンスレイヤー)〉と呼ばれ、英雄として祭り上げられた。

何せ、竜を殺したにしては、犠牲者が少なかったのだ。男の騎士団は、憧れの的となり、特別視される様になった。

剣は男の象徴となり、鎧もそれに合わせ、漆黒の鎧となった。

男の騎士団は〈黒竜騎士団〉と呼ばれた。

 

幾年と経ったある日

 

「男は叛逆しようとしている」

 

と出鱈目な嘘が蔓延した。

それに男は反論した。だが、誰もその言葉に耳を貸さなかった。

その言葉を信じるには、男は強すぎたのだ。

強すぎる力は恐れへと変わっていたのだ。

そして、男は処刑された。

だが、男はそれに怒るでもなく、絶望するでもなく、

 

「満足だ」

 

と言ってこの世を去った。

 

 

 

 

それを見ていたキリヤは、なんとも言えない表情をしていた。

あんな最後であれば、俺は怒りもするし、悔しがるだろう。

だが、なぜ男は満足だ。と言ってこの世を去ったのか。

それがわからなかった。

 

「それはな」

 

その言葉に慌てて振り向く。

そこにいたのは、黒髪、黒目、どことなく俺と似た様な印象を受ける、先程の男が立っていた。

 

「正義を貫いた結果であったからな。それがどんな結果であれ、怒る事も、悔いる事は無い」

 

「正義を貫いて、人々を助け続けた結果が処刑なんて、無念でも無かったのか?」

 

その言葉に首を振り、否定する。

 

「無念も何も無い。俺は正義を貫いて死んだ。それは俺にとって最も良い死に方だっただろう」

 

俺は言葉に詰まる。

 

「男が一本筋通して死んだんだ。これ以上にカッコイイ死に方は無いだろ」

 

そういう事か。

こいつは、自分の信じた道を信じるがままに進んで、一つも曲げず、生きてきたのだ。

傲慢にもとれるが、彼の信じた正義を鑑みれば、それは気高きものであっただろう。

だが、あの正義であったならば、心残りの一つはあっただろう。

 

「お前は、心残りがあったんじゃないか?」

 

それに首を縦に振った。

 

「ああ。できれば、これから先も正義を貫いていたかった」

 

やっぱりか。

 

「だけど、もう死んでしまったものは仕方無い」

 

そう言って、目を閉じる。

何かを思い出しているのだろうか?

 

「君の正義はなんだい?」

 

俺の正義か。

そんなものは決まっている。

 

「俺は、正しいと思った事を貫く。正義か悪かなんて関係ない。俺は正しい道を進む」

 

その言葉に男は薄く笑う。

 

「やっぱり。俺と似た様な奴だったか。俺の目に狂いは無かった」

 

次の瞬間、俺の頭の中に、漆黒の大剣と漆黒の鎧の材質、形状など、様々な事が頭の中に入ってきた。

 

「君に託そう。そして、君の信じた正義を貫くといい」

 

すると、だんだん世界がぼやけていく。

 

「どうやら、時間の様だな。これだけは覚えていてくれ。頭で考えて悩んだ時は、心に従え。どんなに不可能と思っても、それが悔いの残らない選択肢だからな」

 

「言われなくても大丈夫だ」

 

それだけ言って、その世界とは離れた。

 

 

 

 

眼が覚めると、そこは孤児院の天井だった。

先程まで変な夢を見ていた。そして、その前は……。

と思い至った事で、ガバッと起き上がる。

そして、周りを確認すると、仄かに薄暗い事から、日が沈みかけているのかと思ったが、静かなので、朝日が昇り始めた位だろう。

いや、まて、俺以外の皆が殺されたかもしれないと考えたが、俺が寝ていたベッドの端で、リミルとアイラが寝ていたので、解消される。

この光景に苦笑し、両手に華だな。と思っていると、

 

「具合はどうですか?」

 

と、リリー先生が入ってきた。

 

「普通だな」

 

その言葉に笑顔を浮かべて、

 

「それは良かった」

 

と安堵した様な声を出した。

俺は、一番気にしている事を聞く。

 

「皆は大丈夫なのか?」

 

その言葉に一瞬、暗い表情を浮かべるが、すぐに笑顔に戻る。

 

「はい。皆無事ですよ。貴方のお陰です」

 

その言葉に安堵すると同時に、疑問が浮かぶ。

 

「なぜ全員無事なんだ?騎士達はまだいたはずだ。なのに何故、無事なんだ?」

 

少なくとも、調査という名目で来ている騎士がいたはずだ。

なのに何故、まさかと思うが、先生がやったのか?

 

「あの後、貴方を恐れて全員帰ったのですよ。かなり強くなりましたね」

 

俺を恐れて帰った。か。後、確認すべきは、

 

「俺が寝ていたのは何日くらいですか?」

 

「丸二日ほどですかね」

 

二日か。ならば直ぐにでないと危ない。

 

「直ぐにこの孤児院を出る準備をした方がいい。またあいつらが来るぞ」

 

俺がそう注意をすると

 

「大丈夫ですよ。だから、心配しないでください」

 

そんな訳無いじゃないか。あいつらは確実にまた来る。それがわからない先生では無いはずだ。

 

「先生、わかってないのか?あいつらはまた来る。絶対に。来てから逃げるんじゃ遅いんだ。だから、直ぐにでも、孤児院の皆を逃すべきだ」

 

そう言っても、

 

「大丈夫ですよ。貴方の力を恐れて来る事はありませんよ」

 

おかしい。それがわからない先生では無いはずだ。

となると、別人か、俺に何かを隠しているのかのどちらかだな。

 

「先生、俺に何かを隠していませんか?」

 

その言葉にビクリと震える。どうやら当たりらしい。

 

「いえ、何も隠してなんていませんよ」

 

あくまでシラを切るつもりか。

 

「先生。俺が真実を知らずに、のうのうと生きられると思いますか?」

 

その言葉を聞いて、幾分かの逡巡をして口を開こうとした時、

 

「ん………お兄ちゃん……?」

 

と、アイラが目覚めた事で言うのをやめた。

 

「お兄ちゃん……。お兄ちゃん!」

 

と言って、抱きついて来た。

勢いが良かったので、少し痛かったが、元気なのはいい事だ。

 

「良かったよ。もう目覚めなかったら、どうしようって……」

 

そして、泣き始めてしまった。

 

「あ……キリヤ……君」

 

そして、リミルが目覚めて、俺に抱きついて来た。

その勢いも強かったので、多少痛かったが、元気で何よりだ。

 

「良かった……。目覚めてくれて、良かった」

 

そして、泣き始める。

俺はその頭でも撫でようと思ったが、躊躇ってしまう。

俺は仮にも人殺し。血に塗れた手で触れて良いのか。と。

 

「悲しんでいる女の子の頭を撫でてはいけない事はないですよ」

 

躊躇う俺に、先生が優しく言ってくれる。

その言葉で、俺は優しく二人の頭を撫でる。

それで、二人が生きている事を確信できる。それが、嬉しかった。

 

(俺は守れたのだな)

 

その事実が、俺にとっては堪らなく嬉しかった。

俺は二人は泣き止むまで、頭を撫で続けた。

 

二人が泣き止んだ頃合いを見計らって、先生が

 

「二人で話しがしたいので、二人は他の子と遊んでくれますか?」

 

「はーい」

 

と、アイラは返事をしたが、リミルは、

 

「何の話ですか」

 

と、冷ややかな声で問いかけた。

それは、俺が今まで聞いたことも無い声だった。

 

「いや、それは……」

 

先生が口ごもってしまった。

先程の先生の反応から察するに、俺に言う気が無かったのは明白。だが、俺は知りたい。

 

「リミル。俺が気絶した後何があったんだ?」

 

「キリヤ君を恐れて皆逃げちゃったんだよ。凄いよね。キリヤ君は」

 

即答で答えられた。その間に間は無く、予め決められた答えのようだ。

 

「嘘だろ。それは。もう一度聞く。何があった」

 

今度は多少の威圧を込めて言った。

 

「だから。皆逃げ帰っちゃったんだよ」

 

向こうは一歩も引く気が無いようだ。

こちらも同じだ。俺も一歩も引く気は無い。真実を知るまでは。

 

「俺が真実を知らずにのうのうと生きられると思うか?俺は重要な事を知らないまま生きるのは嫌だぞ」

 

その言葉を聞いても、

 

「何回でも言うよ。皆……」

 

その言葉が紡がれる前に

 

「あの後、姫様が全ての罪を被ったのです」

 

「先生!!」

 

先生の言葉に驚愕する。

あれは、国王の命令で、あいつも共犯かと思っていたが、違ったのか。

 

 

 

 

「一つだけ、策があります。それでも、貴方方の安全は完璧には保障されませんが、一番、安全になれる方法です」

 

その策とは、自分がこの罪を一身に背負い、この孤児院を守る事だった。

こうしても、また手を出すかもしれないから、安全は保障されない。

その旨を伝えると、

 

「そんな事をすれば、貴女の今後が……!」

 

自分でも理解している。

だけど、これは、この国の、私の責任だ。ならば、私は責任を取らなければならない。

 

「はい。わかっております。ですが、国王の娘です。国王が犯した過ちを正す事は出来なくなるでしょうが、責任は取らなければなりません」

 

それを聞いていた女性は、

 

「それは貴女の責任では無いはずです!」

 

そう語気を強くして言った。

 

「ですが、他にこの孤児院を守る方法はあるのですか?」

 

そう言うと、女性は黙ってしまう。

異論は無いと受け取っていいでしょう。では、早速準備をしましょう。もうそろそろで、私を心配して来る騎士がいるかもしれません。

いるのかな、そんな騎士が。

民を思い、民を救う。そんな騎士はいるのかなぁ。

 

「それでは、貴女は中に入って子供達を守るようにしていて下さい」

 

そう言うと、女性は悩んだ末に孤児院の中に入っていった。

あとは、騎士達を再度私の剣で刺し、切り、血を浴びて、浴びて、私が全てやった様に偽装する。

あの人が命を賭して守ろうとしたものを守るのが、私なりの責任の取り方。

この事に私は悔いを感じないだろう。これは、正しい事のはずだ。だから、悔いは無いだろう。

 

「なっ!?何が起こったんだ?」

 

どうやら、騎士達が来た様だ。

 

「あらら。もう来ちゃいましたか」

 

そこで私は残忍そうな笑顔を浮かべる。

そうすれば、誰がやったか、勘違いしてくれそうだから。

 

「ッ!?噂は本当だったのか」

 

どうやら、私にかけられたあの噂が、後押ししてくれたらしい。

好都合だ。

それから私は、数人の騎士に拘束される様な形で馬車に乗った。

 

(どうか、彼らに良き未来があらん事を)

 

そんな事を願いとして思いながら、遠くなりゆく孤児院を眺めるのだった。

 

 

 

それが、俺が先生から聞いた、俺が気絶した後の出来事だった。

リミルが何度も途中で止めに入ろうとしていたから、多分、真実だろう。

成る程、そう言う事ならば、

 

「キリヤ君!どこに行く気ですか!」

 

ベッドから起き上がり、出ようとしたが、止められた。

 

「どこにって、あいつを救いに行く」

 

「そんな体でどうやって助けるのですか!!」

 

そんな体って、俺は無傷だ。

改めて、自分の体を見てみても、無傷だ。異常は無い。

 

「俺は大丈夫だ。手足も動く。魔力もある。だから大丈夫だ」

 

「そんな事じゃありません!!」

 

怒鳴る様に言われた。

それは初めてだった。先生が説教をする事はあっても、怒鳴る事は無かった。

 

「貴方は、騎士団と戦う気ですか!!子供の貴方に何が出来ますか!!無駄死にするのがオチです!!」

 

それを黙って聞くことしかできない。

それは、自分でも理解しているからだ。だが、だとしても

 

「どうしても行くと言うのなら、実力行使で止めます!!」

 

これも、俺は驚く。先生は荒事を好まない。それどころか、嫌っている。

なのに、俺を止めるのに実力を行使しようと言うのだ。

先生が俺をどれだけ心配し、止めようとしてくれているのかがわかる。

それでも、俺は、

 

「だとするならば、先生を倒してでも俺は行きます」

 

その時、かなりの魔力が周囲に放たれた。

俺のものでも、先生でも無い。リミルから放たれたものだった。

その量は尋常じゃなく、誰の目から見ても明らかだった。

 

「キリヤ君。それは、私も止めさせてもらうよ。片足を切り落としてでも」

 

その気迫は嘘では無い。真剣だった。

だとすれば、リミルを倒して行くしか無い。

 

「外へ出よう」

 

俺の言葉に全員が黙って従った。

 

 

三人が外へ出た。

そこには、血はなく、全てが綺麗になっていた。

俺と対峙する様にリミルと先生が並ぶ。

二人の戦意は俺が見た事も無いほど高かった。特にリミルの戦意がやばい。先生はやっぱり、少しためらっている気がする。

 

「俺が勝てば、このまま先に進む。俺が負ければ、このまま残る。それでいいか?」

 

「うん」

 

「ええ」

 

二人共、準備はいいらしい。

俺は丸腰の状態だ。二人も同じ感じだが、決定的に違うのが、向こうは魔法が使える点だろう。

だが、俺には俺の能力がある。それに、あいつからもらったものがある。

それを使えば……

目の前の二人に視線を向ける。

 

「それじゃ、合図はお前達からでいいぞ。後で、それが原因だ。なんて言われたく無いからな」

 

俺は魔力を目と足に送る準備をする。

 

「では、私が」

 

先生がそれを引き受けた。

 

「いざ尋常に……勝負!!」

 

そして、かつて誰も想像しなかった勝負が始まった。




面白ければ幸いです。

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