最強最高鎮守府の日常   作:youho

1 / 10
秘書艦 吹雪

 

 

 

「今日の秘書艦は吹雪ですね」

「はい!」

 今日の秘書艦は私。はりきっていきます!

「吹雪、頑張ります!」

「ええ、その調子で、お願いします」

 両手で拳を握って、やる気をアピールします。そんな私に、爽やかに笑いかけてくれる司令官。それだけで、力になりたいと思えます。

「では、早速仕事を始めましょうか」

「はい!」

 

 

 

 まずは書類整理。机を並べて、黙々と、一緒の作業をする。この空気、いいなぁ。

「吹雪だと、作業がしやすいですね」

「へっ!?」

 そんなことを思っているときに、突然こんなことを言うなんて卑怯すぎます。変な声上げちゃったじゃないですか!

「きょ、恐縮です……!」

 大した言葉じゃないのに、顔が熱くなってしまいました。

「事務作業が耐えられなくて仕事にならない子もいますから」

 いろんな艦娘を秘書艦にしているので、そういう子もいるのは当然ですね。

「でも、仕事してますよね」

「仕事しなかったらお仕置きですから」

 それがこの鎮守府の規則の一つでもあります。最低限の仕事もしなかったら、提督が直々にお仕置きするという。その艦娘にとって的確な。

 だけど、そんなことはそうそうないです。聞いた話によれば、艦娘によって与える仕事量を変えてるみたいですから。

 だというのに、何人かがそれすらもできなかった……いや、やらなかったという。ある意味すごい。

「最近だと、金剛さんがお仕置きされてましたね」

「ええ」

 金剛さんへのお仕置きは、一日部屋に閉じ込めるというものだった 。メンテ娘さんが食事を届けける以外誰も来ないという。

「そういえば、もう一個のお仕置きも金剛さん受けてましたね」

「あれは彼女ぐらいですね」

 それは、みんながみんな提督が大好きだから艦娘たちの間で作られた、抜け駆け禁止のルール。『秘書艦以外は過度の触れあいを禁ずる』というもの。抱き締めたりするのはいいけど、接吻以上は駄目という定義。

「まさか寝込みを襲われるとは思いませんでした」

 同意の上なら問題ないにも関わらず、そんなことをした金剛さんはある意味勇者です。

 想いをため込ませないために、毎週金曜は秘書艦がいなくてそのルールもなくなるという措置もあるのに。なんで、そこまで我慢できなかったのでしょうか。

「そのお仕置きって、提督は知ってますか?」

 こっちは提督が罰を下すわけではなく妖精さんがやるようですが、その内容までは知らされていません。

「知ってますよ。ただ、口止めされているので」

「そうですか……」

  提督からは聞けないですし、唯一の被害者である金剛さんが話してくれないとなると、余計に気になります。

 わかっていることといえば、エラー娘さんと装備妖精さんが、一日かけて行うことくらい。けど、次の日に支障をきたさないということ。

「言えることは、されないほうがいいということです」

「言われなくても、お仕置きなんてされたくありません」

 そのためにも、今日のうちに提督分を溜めておかないといけませんね。

 

 

 

「――さて、次は見回りをしましょう」

「はい!」

 見回りといっても、全部を見て回る時間はないので、実質的には適当に見て回るただの散歩です。

「では、まず寮に向かいましょう」

 思い付きで寮へ向かう提督の、一方後ろを私がついて行きます。

 通り道にある施設へ顔を出しながら歩いていると、寮へ行く前に目的の艦娘を発見しました。

「どうしたんだ?」

「んぁ?」

 廊下で壁を背もたれに座っていた望月さん。調子が悪いようには見えませんが、どうしたのでしょうか?

「あぁー、司令官。ちょっと寮まで連れてってー」

 だるそうに両手を伸ばしておんぶをせがむその姿は、少し可愛いです。どうやら、大したことはなさそうです。

「……」

 提督の顔を見てみると、心配する私とは対照的にどこかしらけた表情をしていました。

「帰るのが面倒になったなんて言わないですよね」

「おぉー、よくわかってんじゃん。やることないから散歩してたら疲れちゃってさ」

(なにそれ……)

 望月さんらしいといえばそうだけど、艦娘なのにそれはどうなの。

「たのむよー」

「……はぁ。仕方ないですね」

 呆れながらも従ってくれるのが、提督の優しいところです。どちらにせよ、寮に行く予定でしたけど。

「その艦、貰ったぁー!」

 廊下の先から、そんな優しさを壊す存在が現れました。

 望月に向けて差し出した背中に向かってとんできた、豪快な蹴り。

「ごめんなさい!」

 それは、唯一にして最高の盾、神出鬼没のヘルメット娘さんによって受け止められた。

「なにをやってるですか、ヨウホ」

 提督はそのまま望月さんを背負って立ち上がり、呆れた目を向けます。

「ひとの台詞使うのはよくないですよ」

 注意するのそこですか。跳び蹴りに文句なしですか?

「提督……ごほうび……」

「ええ、ありがとうございます」

 本当に気にする様子もなく、ヘルメット娘さんに口付けをする提督。なんか気に入らないけど、この子は出番が少ないのでよしとします。

「えへへ……」

 頬を染めて本当に嬉しそうに笑いながら、ヘルメット娘さんは消えていきました。

(別に、気になんて……)

「おや、すいませんね」

「んむ!?」

 前振りもなく、こっちにも口付けをされました。

 一瞬ですけど、確かに、しっかりと。

「ししし、司令官!?」

「求めているように見えたので。違いましたか?」

「ちが……わないです……」

 本当にずるい。なんでこう、カッコイイですかね。

「はいはい、ごちそうさま。さっさとつれてってよ」

「あっ……」

 望月さんとヨウホさんの存在を一瞬忘れていました。なんか恥ずかしいです。

「お任せあれ!」

「はっ? ちょ!?」

「あたしはもっちーをいただきまーす!」

「やめろ~~ぉぉ……」

 提督の背にいた望月さんが、拉致されました。脇に抱えて、セーラー服をはためかせて、止める間もなく走り去っていきました。

「……さて、いきましょうか」

「ええ……」

 何事もなかったように、改めて歩き出す提督。

 ヨウホさんの理解が追いつかない行動に、私の熱も冷めました。

「――最初は心配しましたが、随分と馴染みましたね」

 深海棲艦を捕まえて、提督の謎技術によって建造された、通称『深海娘』それが彼女。

「心配なんて、するだけ損というものです」

 ヨウホと名付けられた彼女は、なんの変哲もない普通のセーラー服に身を包み、最初から元気に駆け回っていた。

「この鎮守府で、孤立なんてさせませんから」

 私も、みんなも、そんな異質の存在を、当然のように受け入れていた。

 それはやっぱり、この鎮守府だから、提督が築いたこの鎮守府とその艦娘だからなのかな。

「まぁ、贔屓もしませんけど」

 最低ができることはないけど、最高をつくることもしない。みんなが大好きで、みんなが大好き。

「そんな提督に選ばれた私は、幸せです」

 一番最初に選ばれた秘書艦、それが私。今思えば、それはとても幸運なことでした。

「これから、もっと幸せにしてあげますよ」

 そう言って、触れるだけの口付けをしてくれた提督。

「みんなと一緒に……ですけどね」

 それでも、私が一番長く提督の隣にいるという事実だけで、満足です。

「お願いします、司令官!」

 

 

 

 

 

「さて、来週の秘書艦を決めますか。羅針盤娘!」

 日付も変わる時刻。毎日恒例のイベントです。

「……いくよ」

 執務室にて。今日はだるそうにしてる子が、大きな羅針盤(艦娘仕様)を回します。

 こうして毎日一週間後の秘書艦を決めるのが、この鎮守府のルール。そうして決められた秘書艦を、扉にかけられている黒板に書かれた予定表で確認します。

 明日ではなく一週間後の理由は、艦娘にも予定があるから。そして、提督も予定を組めるから。

 提督は一度部屋を出て、そうして選ばれた名前を、入り口横にかかっている予定表に書き加えて、戻ってきました。

「――では、どうしますか?」

 わかってるくせに聞いてくるのは、優しさなのか、面白さなのか。

「そんなの、決まってます」

 秘書艦として接することが許されるのは、深夜の三時まで。その時まで、存分に甘えさせて頂きます。

「……夜戦……お願いします……」

 




かなり前に書いていたものですが、気まぐれでこちらにも投稿。
ヘルメット娘というのは、ゲームでメンテナンス直後の混雑時に出るエラー画面にいる妖精のことです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。