「今日の秘書艦は吹雪ですね」
「はい!」
今日の秘書艦は私。はりきっていきます!
「吹雪、頑張ります!」
「ええ、その調子で、お願いします」
両手で拳を握って、やる気をアピールします。そんな私に、爽やかに笑いかけてくれる司令官。それだけで、力になりたいと思えます。
「では、早速仕事を始めましょうか」
「はい!」
まずは書類整理。机を並べて、黙々と、一緒の作業をする。この空気、いいなぁ。
「吹雪だと、作業がしやすいですね」
「へっ!?」
そんなことを思っているときに、突然こんなことを言うなんて卑怯すぎます。変な声上げちゃったじゃないですか!
「きょ、恐縮です……!」
大した言葉じゃないのに、顔が熱くなってしまいました。
「事務作業が耐えられなくて仕事にならない子もいますから」
いろんな艦娘を秘書艦にしているので、そういう子もいるのは当然ですね。
「でも、仕事してますよね」
「仕事しなかったらお仕置きですから」
それがこの鎮守府の規則の一つでもあります。最低限の仕事もしなかったら、提督が直々にお仕置きするという。その艦娘にとって的確な。
だけど、そんなことはそうそうないです。聞いた話によれば、艦娘によって与える仕事量を変えてるみたいですから。
だというのに、何人かがそれすらもできなかった……いや、やらなかったという。ある意味すごい。
「最近だと、金剛さんがお仕置きされてましたね」
「ええ」
金剛さんへのお仕置きは、一日部屋に閉じ込めるというものだった 。メンテ娘さんが食事を届けける以外誰も来ないという。
「そういえば、もう一個のお仕置きも金剛さん受けてましたね」
「あれは彼女ぐらいですね」
それは、みんながみんな提督が大好きだから艦娘たちの間で作られた、抜け駆け禁止のルール。『秘書艦以外は過度の触れあいを禁ずる』というもの。抱き締めたりするのはいいけど、接吻以上は駄目という定義。
「まさか寝込みを襲われるとは思いませんでした」
同意の上なら問題ないにも関わらず、そんなことをした金剛さんはある意味勇者です。
想いをため込ませないために、毎週金曜は秘書艦がいなくてそのルールもなくなるという措置もあるのに。なんで、そこまで我慢できなかったのでしょうか。
「そのお仕置きって、提督は知ってますか?」
こっちは提督が罰を下すわけではなく妖精さんがやるようですが、その内容までは知らされていません。
「知ってますよ。ただ、口止めされているので」
「そうですか……」
提督からは聞けないですし、唯一の被害者である金剛さんが話してくれないとなると、余計に気になります。
わかっていることといえば、エラー娘さんと装備妖精さんが、一日かけて行うことくらい。けど、次の日に支障をきたさないということ。
「言えることは、されないほうがいいということです」
「言われなくても、お仕置きなんてされたくありません」
そのためにも、今日のうちに提督分を溜めておかないといけませんね。
「――さて、次は見回りをしましょう」
「はい!」
見回りといっても、全部を見て回る時間はないので、実質的には適当に見て回るただの散歩です。
「では、まず寮に向かいましょう」
思い付きで寮へ向かう提督の、一方後ろを私がついて行きます。
通り道にある施設へ顔を出しながら歩いていると、寮へ行く前に目的の艦娘を発見しました。
「どうしたんだ?」
「んぁ?」
廊下で壁を背もたれに座っていた望月さん。調子が悪いようには見えませんが、どうしたのでしょうか?
「あぁー、司令官。ちょっと寮まで連れてってー」
だるそうに両手を伸ばしておんぶをせがむその姿は、少し可愛いです。どうやら、大したことはなさそうです。
「……」
提督の顔を見てみると、心配する私とは対照的にどこかしらけた表情をしていました。
「帰るのが面倒になったなんて言わないですよね」
「おぉー、よくわかってんじゃん。やることないから散歩してたら疲れちゃってさ」
(なにそれ……)
望月さんらしいといえばそうだけど、艦娘なのにそれはどうなの。
「たのむよー」
「……はぁ。仕方ないですね」
呆れながらも従ってくれるのが、提督の優しいところです。どちらにせよ、寮に行く予定でしたけど。
「その艦、貰ったぁー!」
廊下の先から、そんな優しさを壊す存在が現れました。
望月に向けて差し出した背中に向かってとんできた、豪快な蹴り。
「ごめんなさい!」
それは、唯一にして最高の盾、神出鬼没のヘルメット娘さんによって受け止められた。
「なにをやってるですか、ヨウホ」
提督はそのまま望月さんを背負って立ち上がり、呆れた目を向けます。
「ひとの台詞使うのはよくないですよ」
注意するのそこですか。跳び蹴りに文句なしですか?
「提督……ごほうび……」
「ええ、ありがとうございます」
本当に気にする様子もなく、ヘルメット娘さんに口付けをする提督。なんか気に入らないけど、この子は出番が少ないのでよしとします。
「えへへ……」
頬を染めて本当に嬉しそうに笑いながら、ヘルメット娘さんは消えていきました。
(別に、気になんて……)
「おや、すいませんね」
「んむ!?」
前振りもなく、こっちにも口付けをされました。
一瞬ですけど、確かに、しっかりと。
「ししし、司令官!?」
「求めているように見えたので。違いましたか?」
「ちが……わないです……」
本当にずるい。なんでこう、カッコイイですかね。
「はいはい、ごちそうさま。さっさとつれてってよ」
「あっ……」
望月さんとヨウホさんの存在を一瞬忘れていました。なんか恥ずかしいです。
「お任せあれ!」
「はっ? ちょ!?」
「あたしはもっちーをいただきまーす!」
「やめろ~~ぉぉ……」
提督の背にいた望月さんが、拉致されました。脇に抱えて、セーラー服をはためかせて、止める間もなく走り去っていきました。
「……さて、いきましょうか」
「ええ……」
何事もなかったように、改めて歩き出す提督。
ヨウホさんの理解が追いつかない行動に、私の熱も冷めました。
「――最初は心配しましたが、随分と馴染みましたね」
深海棲艦を捕まえて、提督の謎技術によって建造された、通称『深海娘』それが彼女。
「心配なんて、するだけ損というものです」
ヨウホと名付けられた彼女は、なんの変哲もない普通のセーラー服に身を包み、最初から元気に駆け回っていた。
「この鎮守府で、孤立なんてさせませんから」
私も、みんなも、そんな異質の存在を、当然のように受け入れていた。
それはやっぱり、この鎮守府だから、提督が築いたこの鎮守府とその艦娘だからなのかな。
「まぁ、贔屓もしませんけど」
最低ができることはないけど、最高をつくることもしない。みんなが大好きで、みんなが大好き。
「そんな提督に選ばれた私は、幸せです」
一番最初に選ばれた秘書艦、それが私。今思えば、それはとても幸運なことでした。
「これから、もっと幸せにしてあげますよ」
そう言って、触れるだけの口付けをしてくれた提督。
「みんなと一緒に……ですけどね」
それでも、私が一番長く提督の隣にいるという事実だけで、満足です。
「お願いします、司令官!」
「さて、来週の秘書艦を決めますか。羅針盤娘!」
日付も変わる時刻。毎日恒例のイベントです。
「……いくよ」
執務室にて。今日はだるそうにしてる子が、大きな羅針盤(艦娘仕様)を回します。
こうして毎日一週間後の秘書艦を決めるのが、この鎮守府のルール。そうして決められた秘書艦を、扉にかけられている黒板に書かれた予定表で確認します。
明日ではなく一週間後の理由は、艦娘にも予定があるから。そして、提督も予定を組めるから。
提督は一度部屋を出て、そうして選ばれた名前を、入り口横にかかっている予定表に書き加えて、戻ってきました。
「――では、どうしますか?」
わかってるくせに聞いてくるのは、優しさなのか、面白さなのか。
「そんなの、決まってます」
秘書艦として接することが許されるのは、深夜の三時まで。その時まで、存分に甘えさせて頂きます。
「……夜戦……お願いします……」
かなり前に書いていたものですが、気まぐれでこちらにも投稿。
ヘルメット娘というのは、ゲームでメンテナンス直後の混雑時に出るエラー画面にいる妖精のことです。