最強最高鎮守府の日常   作:youho

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秘書艦 秋月

 

 

 

「今日の秘書艦は秋月ですね」

「はい!」

 今日の秘書艦はこの秋月です。お任せください!

「さあ、始めましょう!」

「ええ、その意気です」

 意気込みは十分ということですね。頑張りましょう。

「では、早速始めましょう」

「はい」

 

 

 

「そういえば、ちょっと来て下さい」

「はい、なんですか?」

 私の手が空いたところで、見計らったように呼ばれました。

「これ、妖精からの贈り物です」

「……これ、なんですか?」

 渡されたのは、長10cm砲ちゃんの……ぬいぐるみのようなもの。持ってみると、結構手触りがいい。

「ぬいぐるみです」

「いえ、それはわかりますが」

 遠目で見れば本物と見紛うくらい出来が良い。貰って困るものではないけど、申し訳ない気持ちになるくらい。

「ただのぬいぐるみではありません。会話が出来ます」

「……へ?」

 冗談なのか。まずそう思いました。だから、一応確認しておきます。

「それは、単語に反応して単語を返すとか、そういう?」

 特定の言葉に反応するぐらいなら、既にどこでも使われてる。それだったら、驚くべきことじゃない。

「いえ、思考能力が搭載してあるので、普通の会話が楽しめますよ」

 とても冗談を言ってるようには見えない。そして、提督が関わっているのならそれでもおかしくない。

「論より証拠。まずは自己紹介をしてもらいましょう。お願いします」

 提督がぬいぐるみの頭をポンポンと叩く。すると……。

『はい。僕は長10cm砲くんって言います。よろしくお願いします、秋月さん』

「わっ! すごい……」

 本当に喋った。高く可愛らしい声で。これ、どこから音が出てるんでしょう。

『お元気ですか?』

「は、はい! 元気です!」

 可愛い。声に合わせて提督が動かしてくれているから、その可愛さがさらに栄える。

「抱いてみますか?」

「あ……で、では」

 差し出されて、おずおずと両手で胸に抱えてみる。

 こうしてみると、しっかりと作り込まれているのがよくわかる。それと同時に、作り物なのだということも実感できた。

 周りは布で、中に綿が詰まっているぬいぐるみ。それはわかるけど、とても声が出るような仕組みがあるとは思えない。

『秋月さんの手、優しいです』

「そ、そんな……」

 こんな可愛い声でそんな嬉しいことを言ってくれるなんて、反則です。ぬいぐるみ相手に赤面しちゃいます。

「なんか、提督みたいです」

 的確に心を突いてくるこの言動、そっち方面にやる気を出した提督を思い出す。

「自分も制作に携わっていますから、それもそうでしょう」

「あ、そうですか」

 考えてみれば、それもそうね。いくら妖精とはいえ、こんなもの作れないでしょうし。

「それにしても、なんか新鮮です。うちの長10cm砲ちゃんは喋らないので」

 なんとなく意思は伝わるから、それで困ったことはない。だから、喋る姿を想像したことがなかった。

 これはこれで可愛いのだけれど、ただ……。

「ただ、身動きしないっていうのは少し不気味ですね」

 ぬいぐるみなのだから当然なのだけど、口が動かなければまばたき一つせずに声だけ出るその姿は、ちょっと慣れない。

「でしたら、動きをつけてあげましょう」

「動かしてくれるんで……え?」

 てっきり手で直接動かすのかと思って差し出したら、提督はなにもしていないのにぬいぐるみがこちらを向いた。

『不気味なんてひどいです! 僕が可愛くないって言うんですか!?』

 そして、身ぶり手振りを交えて喋ってきた。

「そ、そそそ、そんなことないよ!」

 相変わらず表情は動かないけれど、その生き物のような仕草に、私はつい素で返してしまった。

『どうでしょうか。どうせ今も表情が動いていないから不気味……とか思ってるんでしょう』

「そこまで求めてないって」

 否定したけれど、ぬいぐるみは拗ねてそっぽを向いてしまった。でも、そんな姿も可愛い。腕を組もうとして、手が届いてすらいないところがもっと。

『知りません。秋月さんは本物と遊んでればいいじゃないですか』

「そんなぁ……」

 可愛いけれど、このままなのは悲しい。どうにかして機嫌直してもらえないかな。

「ていとく……」

 私にはどうにもできない、思わず提督に助けを求めてしまった。

「ただ拗ねてるだけですから、抱きしめて謝れば許してくれますよ」

「わかりました……」

 言われた通り、抱きしめてみる。

「ごめんね。可愛いって、すっごく可愛いって思ってるから、許して?」

『……仕方ないですね』

 その言葉に、私は顔をあげる、きっと、花が咲いたような表情になってると思う。

『そこまで言うのなら、許してあげます』

「ありがとぉ!」

 もう一度、強く抱き締める。

 相手はぬいぐるみなのに、はたから見ればぬいぐるみ相手になにやっているんだろうと思われるに違いないけど、私にはもうぬいぐるみとは思えない。

『もう二度と、不気味なんて言わないでくださいね』

「うん! うん!…………うん?」

 ここで、なにか違和感を感じた。なんだろう?

『どうしました?』

 その様子に、ぬいぐるみが疑問の声を投げ掛けてきた。

「……違う」

 その声で、違和感の正体を確信する。

「提督、一つ質問よろしいですか?」

「なんでしょう」

「この子の声は、どこからどうやって出てるんですか」

 違和感の正体は、声の出所。抱き締めてわかったけど、ぬいぐるみの中からではなかった。

「どこだと思います?」

 質問を質問で返してきました。嫌な手を使いますね。

 でも、提督が喋ったことでさらに確信しました。絶対、提督が喋ってます。

「長10cm砲くんは知ってますか?」

『秘密です!』

 それを確かめるために提督に顔を向けたまま問いかけたのだけれど、提督の口は一切動いてなかった。それなのに、声は提督のほうから聞こえてきた。

(何かを操作して? いや、それは……)

 考えて、即座に否定する。手元は見えてるからそれはない。足でなにかできるわけはないし。

 だからといって、なにもないわけはない。絶対になにかある。提督の態度がそう示してる。

 相手が提督なんだから、常識は捨てなきゃいけない。そう、例えば、口を動かさずに喋るとか……!

(ある! 口を動かさずに喋る方法が!)

 思い付き、ビシッと人差し指を突き出して宣言する。

「わかった。腹話術ですね!」

「ばれましたか」

 私の推測は大正解。提督は笑って肯定した。

『思考能力があるというのは嘘です』

「全部、自分が答えてました」

 長10cm砲くんの声と提督の声が続けて聞こえた。提督は提督の声の時しか口を動かしてない。だけど、どちらも提督のほうから聞こえる。

「それと、動かしていたのは妖精のご協力です。自分が指示をして妖精に動かしてもらいました」

 提督が手を差し出すと、長10cm砲くんは私の手を離れ、提督の手に乗った。

「一体何のためにこんなことを……」

 ただ遊ぶためだけに、自分の技術も妖精の技術も使うなんて。これぞ無駄遣いって奴なんじゃないかしら。

「楽しかったでしょう?」

「……ええ、まあ」

 顔が熱くなるのを感じ、にこやかな笑顔から顔を背ける。

 冷静になってから思い返すと凄く恥ずかしい。提督には全部知られているわけだから今更恥ずかしいもないんだけど、それはそれ。やっぱり恥ずかしい。

「ずるいです、提督は」

 ぬいぐるみ相手に赤面させられて、提督自身にも赤面させられて、辱めにも程があります。

 それでも、楽しかったし、嬉しかった。嫌な気持ちなんて何一つない。

「わかってます」

 そして、そうやって優しい笑顔を向けられると、なんでも許してしまえる。

 ほんと、提督には敵わない。

 

 

 

 

 

「待ってました!」

 すぐに、言葉通り待ってましたとばかりに詰めよります。

「これからは、提督がぬいぐるみです!」

 今日は辱めにあわされたので、今からそのお返しをしてあげるつもりです。

「一杯可愛がってあげますから!」

 どうせ、提督が潰れることなんてありません。だから、気のすむまで付き合ってもらいます!

 




ひとまず、連続投稿はここまで。秘書艦シリーズもここまでです。あといくつかストックはありますが、そのうち投稿します。
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