「今日の秘書艦は青葉ですね」
「はい!」
今日の秘書艦は青葉です! 取材……じゃなくて、お仕事頑張ります!
「青葉、頑張ります!」
「取材をしてもいいですが、仕事を頑張ってくださいね」
早速取材許可を貰いました! ですが、今日も取材しちゃいましょう!
「では、仕事を始めましょうか」
「はい!」
「司令官、一つお願いがあるんですけど」
「なんでしょう」
仕事が一段落したところで、青葉はある提案をしてみることにしました。
「ラジオをやってみたいんです」
「ラジオ?」
「はい。最近は新聞を作っても反応が薄いですし、正直ネタにも困っているので。いっそ、違う路線を攻めてみるのもいいかと思いまして」
秘書艦予定が出た一週間前から考えていたこと。そう簡単にうまくいくとは思わないけど、青葉はみんなを楽しませたい。
「ふむ」
真剣さを感じ取ってくれたようで、真面目な表情で考え込んでくれます。
「やることについては許可します。懸念事項は、新聞と違って聞きたくなくても聞こえてしまうという点ですが、それは致し方ないでしょう。どうしてもという方は、自室に戻って放送を切ってもらうしかないですね」
「その点は青葉も考えていましたが、他になにかありました?」
それが一番ですが、唯一の懸念でもあるはずです。
「ええ。今言った通り、ラジオは聞こえてしまいます。だから、聞くだけで不快になるようなつまらない内容は流さないでくださいね」
「うぐ!?」
直球でなげられたその言葉に、思わず怯んでしまいました。
それもそうです。つまらない新聞は見なければいいですが、ラジオではそうはいきません。これは、青葉の腕前が試されます。
「いいでしょう。やってやりますよ」
そんなことで逃げたら、青葉の名が廃ります。
「良い返事ですね」
ビシッと敬礼をして覚悟をしめしたその姿に、提督はにこやか笑ってくれました。そして、隣を指し示します。
「では、今からやりましょうか」
「はい!」
急な話だというのに、すぐに応えてくれること驚きですが、予想済みです。なので、すぐさま提督の隣に椅子を用意して座ります。
「とりあえず、僕が前置きをしますから、本題は青葉がお願いしますね。ちなみに、今回は初めてですしまだ仕事があるので、手短に頼みますよ」
「わかりました」
もとよりそのつもりでした。いくら青葉とはいえ、初めからそんなに喋ることはできませんから。
「さて、いきますよ」
提督がマイクのスイッチに手をやったのを見て、青葉は姿勢を正します。
提督『あーあー。こちら提督です。聞かなくてもいいことなので、みなさん適当な感じでお願いします』
提督『今日は青葉が秘書艦なので、彼女の希望で、ラジオをやってみることにしました。不快に感じることがあれば、お手数ですが自室に戻って放送を切るようお願いします。もしくは、ここ提督の執務室まで乗り込んで貰って構いません。なにせ初の試みな上に準備もしていないので』
提督『さて、ということで、もう既に何人か聞いていないとは思いますが――』
青葉『ちょ、ちょっとそんなこと言わないでくださいよ! まだ始まってもないのに!』
提督『いえ、青葉のラジオというだけで拒否する方がいてもおかしくないので』
青葉『むっ。そんなこと言われると、青葉のプライドが傷つきます。じゃあ切った人はもう一回つけてください! ぜったい面白いトークをしますから!』
提督『もう切ってる人には届きませんけどね』
青葉『だーかーらー! そーいうこと言わないでって!』
提督『と、いうことで、今回はどういうお話をされるおつもりで』
青葉『……はぁ。――はい、今回は初回ということで、無難に提督へ取材をしようかと』
提督『ほお。もう何度も取材を受けていますが、まだなにかあるのですか』
青葉『いえいえ、今回はラジオですよ? いつもは取材内容を簡潔に纏めたのを新聞に載せているだけですが、今回は違います。提督の生の声、生の反応をお届けすることができるんですよ』
提督『ふむ、そういうことですか。回答だけでなく、書面では伝えられないようないろいろなものを伝えたいと……そういうわけですね』
青葉『そうです! なので、以前聞いたような質問もあると思いますが、ご容赦ください』
提督『わかりました』
青葉『はい。では、取材を始めます。よろしくお願いします』
提督『はい。よろしくお願いします』
青葉『とはいえ、時間も限られているので最初からぶつけます』
青葉『ずばり! 過去になにかありましたか?』
提督『いえ、とりたてて話すようなことは』
青葉『そんなぁ! それじゃあおかしいですよ』
提督『なにを求めてるんですか』
青葉『だって提督って凄いじゃないですか。過去になにかあってそれをきっかけに頑張ったとしか思えないくらい凄いじゃないですか』
提督『残念ながらそのようなことはありません。全てみなさんのために頑張った結果です』
青葉『聞きましたかみなさん! 全てみなさんのために頑張った結果、ですって! 惚れちゃいますね! もう惚れてますけど!』
青葉『――まあその理由については置いといて、いい機会なので訊きたいことがあったんです』
提督『なんだ? 改まって』
青葉『ずっと気になってたんですけど、提督の初めてっていつ――』
ゴッ!
青葉『いたぁ~い!』
提督『なにかと思えばくだらないことを。まあ答えるとするならば……』
提督『毎回が、初めてのように新鮮ですよ』
青葉『なんですかそれ。つまり、一生どうて――』
ゴッ!
青葉『いたぁ~い!』
提督『そろそろ終わりにしましょうか』
青葉『あぁ~! ごめんなさい! ちょっとした茶番じゃないですか!』
提督『はいはい。それで、なんですか?』
青葉『……真面目な話、隠してることありますよね』
提督『なんのことですか。やましいことを隠してる気はありませんよ』
青葉『この前、本部の人が視察に来たときに聞いたんです。何人か本部に引き抜けないかって。あの時は身内の冗談話のようでしたが、そんな話があってもおかしくないですよね。だって、ここは一番の鎮守府なんですから』
提督『ああ、その件なら、確かに話が来ていますよ。本部や他の鎮守府に異動させられないかって、度々催促されています』
青葉『度々……?』
提督『ええ。全く受ける気はありませんから。応援ならまだしも、異動ってことは所属を変えるということです。そんなの受け入れられるわけがありません』
青葉『そうだったんですか。青葉、感激です!』
提督『だから、なにも心配はいらないですよ。みなさんもね』
青葉『でも、それって上からの命令を断ってるってことですよね。提督の立場は大丈夫なんですか?』
提督『そもそも、貴女たちは自分の指揮下を離れる気なんてないでしょう?』
青葉『当然です! 別の人に指揮されるぐらいなら沈んだ方がましです』
提督『そういうことです。それに、逆らったからといって大したことはできないんですよ。できて減給程度です。本部としても、最大勢力であるここを失うわけにはいかないですからね』
青葉『では、なんで催促が来ているんですか? 向こうも無駄だってわかってるんでしょう?』
提督『体裁のようなものですよ。できないからって、やらないわけにはいかないみたいですよ』
青葉『上の方も大変なんですね』
提督『それと、改めて言っておきましょう。応援は受け付けてますから、時々誰かに行ってもらってますが、帰って来たくなったら帰ってきてもいいですからね』
青葉『もし、万が一帰りたくても変えられない状況でも大丈夫なんですか?』
提督『問題ありませんよ。妖精さんを同伴させてありますから。なにか問題があれば即連絡がきます』
青葉『そうだったんですね。……と、いうことで、この鎮守府は安泰だということが判明したところで、そろそろ終わりにしたいと思います!』
提督『結局、ラジオというよりは放送に近かった気もしますが』
青葉『みなさんの興味を引けたことは確かでしょう。それに聞きたいこともきけましたし。だから満足です』
提督『それはよかったです』
青葉『はい。では、以上! 提督と青葉の放送レィディオでした!』
提督『次回の予定はありません』
青葉『えぇ!』
「――お疲れ様でした」
「はい、お疲れ様です」
放送のスイッチを切って、お互い一息。疲れました。
「まさかあんな話をさせられるなんて」
「驚きましたか?」
些細なこととはいえ、完全無欠の提督を出し抜けたようで少し嬉しいです。
「それはもう。最初からあれが目的だったんですか?」
「そんな。ラジオしたいと思ったのは単純な興味です。ただ、丁度いい機会だったので」
提督ならば全てをうまくやっているという信頼はありました。ですが、青葉一人で確認する勇気がなかったのです。だから、ラジオという場で、みんなで確認することにしました。
「ついでのように真面目な話をさせるなんて、悪い子ですね」
「お詫びに、提督のマイクで青葉のこと取材してもいいですよ」
悪戯心が働いて、色めかしく提督にしなだれかかってみました。
「やってほしいだけでしょう。仕事が片付きましたらね」
動揺することなく、当然のように返してきました。そうこなくっちゃ!
「よくわかってるね。大好きですよ、司令官!」
「自分も青葉のこと好きですよ」
そしてさらっとこんなことを言ってくれる。もう提督ったら……
「いいねぇ、痺れるねぇ!」
「それは北上の台詞です」
「――さて!」
次週の秘書艦も決まり、ようやく待ちに待った時間がやってきました。
「ん……」
駆け寄り、軽く口付けをして、服に手をかけながらこう言ってあげます。
「取材、お願いしますね……」
時間の許す限り、密着取材をさせていただきましょう!