「今日の秘書艦は谷風ですね」
「おう!」
今日の秘書艦はこの谷風だよ! よっしゃあ!
「谷風にお任せだよ!」
「気合いが入ってるのはいいことですが、空回りしないように気をつけてくださいね」
温かい目で見守ってくれる提督。かぁー! やってやるさ!
「では、仕事を始めましょうか」
「おう!」
「提督、これはなに?」
おやつの時間。そこには珍しいものがあった。
「見ての通り、ゼリーですよ」
「それはわかるんだよ。この形はなに」
提督が用意したゼリーはいくつかあるけど、全ておかしい。船や魚雷、艦載機やドラム缶、妖精さんまでも、可愛らしく形にされてる。
「わからないですか?」
「いや、わかるけど。提督が作ったの?」
ゼリーは今じゃ普通に売ってるけど、こんなものは見たことがない。となれば、それしかない。
「ええ。たまにはいいででしょう」
「これ、谷風が食べていいの?」
「ええ。今日秘書艦だった貴女だけに、特別ですよ」
「粋なことしれくれるねぇ!」
こういうのは素直に嬉しい。提督の手料理なんて珍しくないけど、ゼリーなんて初めてだからね。みんなに自慢しちゃおうかな。
「うまい!」
ゼリーなんてゼラチンを固めただけのもののはずなのに、市販のものとは全然味が違うね。
「流石提督。美味いよ!」
「恐れ入ります」
こりゃあみんなに自慢できる。この可愛らしい造形を崩すのは少しもったいない気がするけど、美味いから食べちゃう。
「こちらもどうですか」
そう言ってどこからか持ってきたのは、形とりどり色とりどりのグミだった。
「食べる!」
どういうわけかわかないけど、くれるんなら貰わない手はないね。
「あむ! んむ! あむまむ!」
グミなんだけどどこかさっぱりとした食感で、食べやすい甘さで、こりゃ何個でもいけるね!
「そんなに焦らないほうがいいですよ。そんなに数はないんですから」
「えぇ! しょんなぁ!」
そういうのはもうちっと先に言って欲しかった。目の前にある分はもうたべちゃったじゃんよ!
「んっぐ! ぷはぁ! あとどんぐらい!?」
「もうありません」
頬張っていたのを飲み込んでから、慌てて提督に質問した。でも、帰ってきたのは絶望的な答えだった。
「なんでぇ!?」
「思いつきで仕事の合間に作っていたので、そんなに量がつくれなかったんですよ」
「かぁー……」
なんてこった。冗談じゃないよ。せっかくのご馳走を飲み込みように食べちゃうなんて。
「よっしゃあ! んじゃあ、作ろうよ!」
ないなら作ればいい。単純なことじゃないか。
「いいでしょ提督?」
「……仕方ないですね。キッチン!」
提督がパチンと指を鳴らすと、あっという間にキッチンが出現した。
「頑張るか!」
どういう仕組みなのか理解できないけど、そんなことはどうでもいい。
谷風はうでまくりしてキッチンの前に立った。
「そんなに張り切らなくても、やることは単純ですよ」
提督は何故か隣にある冷蔵庫から、リンゴジュースと粉ゼラチンを取り出した。
「まずは粉ゼラチンを水に入れてふやかします」
水が入った容器に粉を入れると、なんか固まってきた。なにこれ。
「そして、鍋にリンゴジュースを砂糖を適量入れて、火に掛けます」
どこからか鍋を取り出して、リンゴジュースと砂糖を、ほんと適当な感じで入れた。
「砂糖が溶けてきたら、火を止めてゼラチンを入れます」
さっき固まった奴をいれると、なんか溶けてきた。
「そして、これを冷やしながらかき混ぜます」
別の大きな器に氷と水を入れて、そこに鍋を入れてかき混ぜ始めた。
「とろみがつくまで冷えたら、型に移しましょう」
またどこからか、型を取りだした。なにもおかしいことはない、普通のゼリーの型だった。
「やりますか?」
「おう!」
ほんとに単純すぎてびっくりだ。おう型が普通なのはがっかりだけど、まあ初めてだから仕方ないか。
「気をつけてくださいね」
「がってん!」
慎重に型へ流していく。ただそれだけなのに、結構緊張するな。
というか、今気づいたんだが、これって所謂共同作業ってやつじゃねえか? 台所に二人で立つって、こう……なんか……あれだ。
やべぇ。意識したら余計緊張してきた。だが、そんなことで失敗なんかしない。
「これだけで、あんな美味いゼリーが作れるのか」
「作れませんよ」
「なんてこった!?」
てっきりあのゼリーを作ってるかと思ったのに。ちくしょーめ!
「谷風はあのゼリーが食べたいんだよ!」
文句を言いながらも、手の動きは止めないよ。
「あれはそう簡単に作れるものじゃないんですよ」
「いいじゃんよ! 教えてよ!」
「嫌です。だって、かっこつけられなくなるじゃないですか」
言ってくれるねえ、この提督は。そういうことなら仕方がない。
「そんなに言うなら、諦めるよ」
「すみませんね」
――そして、無事に全部の型に流し込めた。
「よっしゃあ!」
途中危うい場面があったけど、問題ない。この谷風にお任せだよ!
「ん……」
鍋を振り上げたら、顔に冷たいものがかかった。僅かに残っていたゼリーがかかったみたいだ。
「平気ですか」
「おう。顔にかかっただけ」
「どれ」
覗き込むように提督が顔を近づけてきた。近いって――!
「んむ!?」
そのまま、口付けされた。
「ぷは。そこにはかかかってないんだけど!」
「おや、すみません。そのプルプルとした唇を、ゼリーと間違えてしまいました」
「~~~~~!!!」
なんだ突然! ちくしょーめ! 明らかに狙った台詞なのにすごい威力だ!
「ふふふ。ちょっと、刺激が強すぎましたか」
今度は普通に、布で拭ってくれた。布越しとはいえ、こんな真っ赤な顔触られたくなかったけど、そんなこと言うこともできなかった。
「二人で台所に立つって、夫婦みたいだと思ったので、こんなお茶目があってもいいかと思ったんですが」
「ふ……ふふふふううふふうふなんてててて!!」
やめろ! いくら谷風さんでもその集中爆撃は回避できないって!
「かぁー……」
この、谷風が……回避できない、とはね……。仕方ない……沈んで、やる、かぁ……。
「おうおう、ようやくだ!」
次週の秘書艦も決まり、ようやく待ちに待った時間がやってきた。
今日はあんなことで気絶させられちまったからな。反撃がしたいね。
あの美味しいゼリーを味わえなかった。また作って貰うって約束したけど、期待させておいて普通のゼリーを作ったのが少し気に入らない。そりゃあ、共同作業は嬉しかったけど。
「根に持ってるんですね」
「当たり前だよ!」
持ち前の回避力を台無しにされて、食べ物の恨みを売られて、根に持たないわけがない。
「こうなったら、代わりに提督のゼリーを吸い尽くしてやる!」
吸い尽くせないのはわかってるけど、その勢いでいかないと気がすまないね!