「今日の秘書艦は夕立ですね」
「ぽい?」
今日の秘書艦は私っぽい。頑張ろうっかな。
「さあ、ステキなパーティしましょ!」
「やりません」
とりあえず決め台詞を言ってみた。ツッコミもなくスパッと切られちゃったっぽいよ。
「早速仕事を始めましょう。今日は早く終わらせますよ」
「はーい」
「夕立。そろそろ終わりにしましょうか」
「っぽい?」
まだ明らかに早い時間に、そんなことを言われた。今朝言ってた通り、本当に早く終わらせたっぽい。
「今日はどうしたの?」
「近くで夏祭りがあるんですよ。聞いてませんでした?」
「そういえば、そんな話があったっぽい?」
聞いたような気がするけど、あんまり興味はないかな。人混みははしゃげないから苦手っぽい。
「ええ。二人で行きましょうか」
「っぽい!」
ただ、提督と一緒なら行こうかしら。好きな人とお祭りに行くのは、憧れだし。運が良かったっぽい!
「――ということで、浴衣着ましょう」
「……っぽい?」
お仕事の片付けが済んだところで、スッと差し出された。
「にゃあっ!? これじゃあ戦えないっぽい!」
こんなの動きにくい服装はお断りだよ! ただでさえ人混みは動けないっぽいのに!
「いいじゃないですか。可愛いと思いますよ、夕立の浴衣姿」
「う~……!」
そんなことを言われると断れないよ。ちょっと着てみたい気持ちもあるし。
それに逃げ道がないっぽい。着方がわからないなんて言っても、提督が知らないわけがないし。
「……可愛く……してくださいよ?」
「当然です!」
こんな大げさにも思える自信満々な言葉に、わたしは覚悟する。
提督の手にかかれば、どんなに可愛くなってもおかしくないから。
「提督さん、歩きにくいです……」
いざ外へ出たときは、浴衣のみならず二足下駄まで履かされちゃったっぽい。歩きにくいことこの上ないよ。
「風情があっていいじゃないですか」
確かに、カランコロンという小切みいい音には雰囲気を感じられるけど、どうも気になるっぽい。
提督さんも浴衣と下駄なのに、普通に歩いてるのがすごい。でも、どうしてって訊くのは野暮っぽい。
「それにほら、手を繋ぐ口実にもなるじゃないですか」
お祭りの入り口で、キュっと手を握ってきた。
「歩きにくいなら、自分が支えてあげますよ……って」
ありきたりっぽいけど、カッコイイ。歩きにくいことに、逆に感謝しちゃうくらいだよ。
「では、目に付いたものから楽しむことにしましょう」
そう言って早速指し示したのが、金魚すくい。
「やってみますか?」
「やってみる!」
金魚すくいなんて初めて。だけど、やり方ならきいたことあるっぽい。
「っぽい!」
ポイを構えて、気合いを入れてみた。
「…………」
「…………」
なんか、微妙な空気になったっぽい。
「……ポイっぽい」
提督がボソッと呟いた。一瞬で顔が真っ赤になった。
「ばかぁ~!」
そんなつもりなかったのに、凄い恥ずかしい。
「申し訳ないです、つい!」
ポカポカと叩かれるのを右腕で防ぎながら、笑って謝る提督。うぅ~~……!
「あ」
手にポイを持ってるの忘れてた。破れちゃったっぽい。
「破れちゃったっぽい~!」
もっと叩いてやる! 今のは提督のせいってわけじゃないけど、なんか悔しい。
「すみませんって! これあげるから許してください!」
手を止めて差し出されたノを見ると、それは金魚。
「えっ? あれ?」
理解が追いつかない。いつの間に?
「今しがた、ちょろっとね」
見れば、提督に左手には濡れたポイが。私のポカポカを防ぎながら、空いてる手でやったっぽい?
「それとも、新しいポイを渡したほうがよかったですか?」
「そんなこと、ないっぽい……」
こんなの、反則っぽい。どうせ私がやったって、すぐに破けるのがオチだったと思うし。
「……ありがとう」
「こちらこそ、申し訳ないです」
謝ってくれたけど、もうどうでもよかった。改めて提督のすごさがわかったから。
「じゃあ、次はあれにいくっぽい!」
気を取り直して、今度は私が指し示した。
「射的ですか……って、歩きづらいですよ」
「ん~~、いい~じゃないですか~」
走って向かいたいけど、それ以上に提督が好きだから提督の腕を抱きしめて歩く。こんなカッコイイ提督、独占できる間に堪能しておかないといけないっぽい。
「ちょっとやってみたかったんです」
一回五発。五個の球を両脇にきちんと並べて、単発式のコルク銃を二丁持つ。
「ソロモンの悪夢、見せてあげるわ!」
さらに、目の色を変えてバージョンアップ! マフラーがないのは物足りないけど、これは仕方がないっぽい。
「ステキなパーティしましょ♪」
そして、始めた。
まずは右手の銃を撃って、左手の銃を撃つ間に片手でコルクを詰めて、それを撃つ間に反対側を詰める。それを繰り返す。艦娘の力があるからできる、擬似的な連射。
できるか不安だったけど、できて嬉しいし楽しい。
「どぉ? 提督さん♪」
ものの数秒で全段撃ち終えたっぽい。満足。
「かっこよかったですよ。当たってないですけど」
「っぽい?」
撃つことに夢中で、あてることを考えてなかった。まあいいっか。
「楽しかったからいいよ!」
「そうですか。それならよかったです」
「提督さんもやる?」
「ええ。では、一発だけ」
お金をおいて、緩やかな動きでコルクを詰めて、アッサリと的にあてた。流石提督っぽい。
「はい、あげます」
「っぽい?」
手に入れたのは、小さな犬のぬいぐるみ。それは流れるような動きで、私に差し出された。
「ありがとう!」
ここは素直に受け取っておく。だって嬉しいもん!
「じゃあ、次はあれいこう!」
そこから私たちはたくさん遊んだ。
一緒にリンゴ飴舐めたり。
提督が水風船釣りで沢山取ったり。(全部返したけど)
綿菓子食べて、ベトベトになった唇にキスされたり。
チョコバナナをちょっと面白い食べ方して提督に怒られたり。
並んで座って、ジャがバター食べたり。
うん、普通に楽しんだっぽい。
「――あ」
「あっと」
そして、帰るときになって、それが起きた。
突然足下がぐらついて倒れそうになったところを、提督に支えてもらった。
「鼻緒が切れちゃったっぽい」
「それは、いけませんね」
この状態で歩くことは難しそう。こうなったらやっぱり……
「ねえ、提督?」
「わかってますよ」
提督が私に背を向けてしゃがんでくれた。
「どうぞ」
「はい!」
下駄の鼻緒が切れて、背負われる展開。これこそありきたりだけど、凄い嬉しい。私、今日は幸運っぽい。
提督だったら。その場で鼻緒の応急処置とかできるっぽいけど、それを言わないところがやっぱり優しい。
「えへへ、提督♪」
「いいですよ。遠慮なく掴まってください」
掴まるというよりは、後ろから抱きしめてるけど。どうしよう、興奮しすぎて今すぐにでもステキなパーティがしたいっぽい。
「では、帰りましょうか」
「お願いね♪」
「ようやく、いいっぽい!」
次週の秘書艦も決まり、ようやく待ちに待った時間がやってきたっぽい。
ここで、走り寄って提督に抱きつく。ようやく、あの時から溜まった衝動を解放できるっぽい。
「すみませんね、お待たせして」
仕事を終わらせたからといって、私にはなくても提督にはやることがあるし、秘書艦だからって私にかかりっきりってわけにもいかないっぽい。だから、結局ここまで時間がとれなかったっぽい。
「じゃあ提督。どうする?」
私は眼を紅くして、妖艶な笑みを浮かべる。
「赤い飴を舐め合う? 水風船で遊ぶ? ラムネを飲む? それとも、銃を使って私の的に弾丸あてちゃう?」
今夜はステキなパーティじゃない。
「二人っきりのお祭り、しましょ!」
ささやかで、淫らな、アダルトなパーティよ。