「今日の秘書艦は朧ですね」
「はい」
今日の秘書艦はアタシです。がんばる!
「仕事は任せて」
「ええ。頼りにしてます」
こうやって飾らずに褒めてくれるところ、キライじゃないです。
「はい。仕事を始めましょう」
「はい」
「今日は暑いですね」
「はい。ですが、問題ないです」
夏といえど、確かに今日は暑いです。でも、この程度だったら仕事に支障はありません。
「提督は大丈夫ですか?」
「愚問ですね。大丈夫じゃないわけがないです」
その言葉通り、長袖長ズボンだというのに汗一つかいていません。相変わらずの爽やかな表情で、元気なのはわかりきっていました。でも、やはり心配するのは礼儀というものでしょう。
「まあでも、丁度いい時間なのでおやつにしましょう」
いつもどおりの適当さで提督はいそいそと準備を始めました。その傍らで、アタシは資料をまとめておく。
実はおなかが空いていたので、丁度いいです。
「今日のおやつはこれです!」
部屋の真ん中にちゃぶ台が置かれて、その上にドスンと置かれた小さな機械。
「かき氷ですか?」
「はい。そのとおりです!」
まるで子供のような笑顔で取り出したのは……雑誌?
「さあ、なにをかけますか?」
見れば、シロップのカタログだった。名前と、綺麗にかけられた写真が並んでいる。提督のことだから自作なんでしょうね。
「いろいろあるんですね」
イチゴやレモンといったよくあるものしか知らなかったアタシは、その種類の多さに驚いた。
「どれがオススメとかはないですけど、これとかどうですか?」
提督が指し示したのは、キャラメル。
「うーん、惹かれないですね」
「そうですか。髪色と一緒だから合うかなと思ったのですが」
「いや、こんな色じゃないです」
こんな色じゃないはずです……たぶん。
「珍しいもので、これとか」
名称、雪塩。厳選した塩と蜂蜜を混ぜた、甘味と塩味のバランスがほどよいプレミアムなシロップ。
「なんとお値段が普通のと比べて約六倍」
「そんなもの頂けませんよ!」
このカタログに値段は書いてないからいくらなのかは気になる。でも、そんなのかけたらおやつ感覚で食べられない。
「じゃあ、ここは定番のメロンとか」
「ここにきて定番を薦めるのはどうかと……」
メロンなら食べたことあるから、ここで頂くのはもったいない。
「……そんなに甘くないものってないですかね」
シロップといえば甘いものなので、ここは一つそこから外れてみたくなりました。
「雪塩」
「じゃなくって」
確かに間違ってないと思うけど、それはだめ。
「トマトとかどうですか?」
「トマトですか」
フレッシュなトマトの香りと爽やかな甘さが広がります……って書いてある。悪くないかな。
「でも……」
かき氷にトマトっていうのがどうもしっくりこない。
「ふむ。では、抹茶なんてどうでしょう」
お茶の渋みが残る濃い抹茶シロップ。スイーツというより、和菓子として定番のこれなら、いいかもしれない。
「そうですね。これにしましょう。提督はどうするんですか?」
「自分は特別メニューです」
カタログを閉じてどこかにしまうと、どこからかもう一個かき氷機が出てきた。
(あれどうなってんだろう)
似たようなことがいつもあるから、その度に思います。仕組みが全くわかりません。提督だから違和感はないですけど。
「えい。ゴリゴリゴリ」
「黒!?」
早速氷を削りだしたと思ったら、出てきたのは黒いなにか。
「チョこおりです」
「チョこおり!?」
つまり、凍らせたチョコは削ったってことなのか。また面白いことを考えましたね、この人は。
「これにアイスを乗せて練乳をかけて、完成です」
(甘ったるそう……)
提督が甘い物好きなのは知ってるから驚かないけど、アタシは食べられない。
「自分でやりますか?」
「はい」
もう一個のかき氷機をこっちにずらしてきた。
「よいしょ」
当然ですが、こっちには普通の氷が入っていた。
ゴリゴリと音をたてながら、器に氷を落としていく。
そして抹茶のシロップをほどよくかけて、ストローのスプーンをさして完成。
「では、頂きましょう」
「はい、頂きます」
まるで夏祭り。休憩とはいえ、仕事中になにやってんだろうとか思っちゃうけど、いつものことかな。
「やっぱり、かき氷はいいですね」
決して美味しいとはいえないけど、何回も食べたくなる味。
それに、抹茶を選んだのは正解だった。苦いんだけど、それを飽きさせないように少し甘みが合って、とっても食べやすい。
「一口、どうですか?」
提督がチョこおりを差し出してきた。このまま食べてほしいんでしょうけど、どうも気恥ずかしい。
「ほら、あ~ん」
「うっ……」
もっと気恥ずかしい。というか恥ずかしい。でも、やらないと後が恐い。それに、正直やってみたい気持ちもあったり。
「あ、あー……ん!」
たぶん、今アタシの顔は真っ赤だと思う。
「どうですか?」
「え……えーっと」
でも、この冷えた感触と、慣れない甘い味で、火照りもすぐに収まった。
「見た目通り、ほんと甘ったるいですね。一口で十分です」
全部を食べられる気はしなかった。よくもまあ、こんなものを笑顔で食べられますね、提督は。
「そちらのも、一口頂けますか?」
「へっ?」
これはつまり、食べさせろということでしょう。やるのとやられるのでは、これまた勇気がいります。
「……あ、あー」
提督のことは大好きですけど、それとこれとは話が別です。
「あ~……」
「ん!」
「ん?」
やっぱり、無理です。思わず手を引いて、自分で食べてしまいました。
「……す、すみません」
申し訳なくて直視できない。やっておいてなんですが、後悔してます
「仕方ないですね」
「ふむ!?」
何をするかと思えば、身を乗り出して口付け――
「にゅ……ちゅ……じゅる……」
「む……んん!……んむ……!」
いや、口内の抹茶を奪いにきた!
「ふ……はむ……んちゅ……ぷは。……ふむ、悪くないですね」
「はぁ……はぁ……提督、突然過ぎます」
もうかき氷の冷たさなんてなくなるぐらい、口の中を熱くさせられました。嫌じゃないですけど……。
「お願いに応えなかったお仕置きです」
またかき氷を食べ始める提督。こっちはあれだけで息が乱れてるのに、この人には敵わない。
「はぐ! むぐっ! はぐっ!」
また『あーん』を要求されたら恥ずかしいので、その前に食べきることにしよう。
「ん! っ~~~!!」
案の定、頭がキーンとなって、文字通り頭を抱える羽目になった。
「そんなに焦らなくてもいいですよ」
うずくまるアタシを、提督は座りながら抱きかかえて、どういうわけかかき氷の器を額にあててきました。
「ん~~!…………ん?」
すると、十秒程で痛みが引いた。
「ちょっとした裏技です」
「あ、ありがとうございます」
なんか負けた気分。提督に勝てることなんてないけど、なんか悔しい。
「あら、もうないようですね」
空になったアタシの器を見て、提督が言った。
「もう一回あれをお願いしようと思ったのですが、これではできませんね」
目論見通りだけど、どうも勝った気はしない。
「まあ、いいでしょう」
言葉を切り、アタシの頭に手を置きながら、耳元でこう囁いた。
「あとで、頭がキーンってなるくらい食べてあげますから」
顔から火が出るとはこのことなんじゃないだろうかと、感じた。
「――さて!」
次週の秘書艦も決まり、ようやく待ちに待った時間がやってきました。
「提督、負けませんから!」
今日は負けっ放しですが、それで引き下がるわけにはいきません。こちらにも意地はあります。
「おや、積極的ですね」
駆け寄って抱きついてきたアタシに対して、余裕の言葉。そんな提督に、キッとした目を向ける。
「提督が頭抱えるくらい、キャラメルを練乳で満たしてあげます!」
出しすぎて頭抱えるとか、提督じゃありえないでしょうけどね。