「今日の秘書艦は朝潮ですね」
「はい」
今日の秘書艦は私。うん、いいわ。
「司令官。ご命令を」
「積極的でなによりです」
愛想のない真面目な私にもしっかり接してくれる提督。
「では、仕事を始めますか」
「はい」
「ところで司令官、仕事とは関係ないことですが、少しよろしいですか?」
「なんでしょう」
仕事中、丁度いい機会なので、気になっていることを訊いてみることにした。
「ここから街へ行くためには並木道を通り抜けますけど、あそこって元々あんな道があったんですか?」
ここに鎮守府がなかったとして、林の向こうには海が広がるだけ。この海が海水浴に向いてるとは思えないし、だから鎮守府が立てられたのだと思ってる。
だとしたら、整備された道が存在しているのはどうもおかしい。
「なかったですよ。鎮守府が立てられたのも、ここが使われてなかったからですし」
つまり予想通りだということ。こんなとこなら、住民の反対もなかったんでしょうね。
「じゃあ、本部が作ってくれたんですか。珍しいですね」
必要最低限しか予算を回してくれない本部にしては、気を回してくれたのね。着任する前から提督が優秀だったってことね。
「そんなこと、するわけないじゃないですか」
「へ? じゃあなんで?」
笑って否定された。
じゃあ、他にどんな方法が……。
「作ったんですよ。自分が」
「いやいや、それは流石に無理がありますよ」
いくら提督が万能とはいえ、それは頭の話であって、身体に関しては無能なのは周知の事実。信じられなかった。
「そりゃあ、自分が一人でやったわけではないですよ」
あ、やっぱりそうなのね。
「自分は設計と指示だけで、直接動いたのは工廠妖精です」
「それっていつの話ですか?」
私が知らないから、私が入る前。そうなると、もう最初の頃になる。
「着任してすぐぐらいですかね。艦娘を集める前に、元々いた妖精達と仲良くなって、それから地域住民とも交流しようと思って作りましたから」
それで作れる辺りおかしい。今じゃむしろ、それが普通になってるけど。
「昔は街の人とは仲が悪かったんですか?」
今では仲が良いから、どうにもイメージが出来ない。
「悪いというより、海軍自体の印象が悪かったですね。艦娘と深海棲艦について、一般人はうまく知らないですから。見方によっては、男は安全な場所にいて、たくさんの女の子を怪物と戦わせているわけですから」
「確かに、それはそうですけど」
「別の見方をすれば、女の子を侍らせて遊びほうけているようにも見える。実際はどうであれ、印象とは悪い方に傾くものです」
「女の子を侍らせてるのは事実ですけどね」
「否定できませんね」
でもそれは、私たちが望んでいることだから問題ない。戦うことも、提督と共に在ることも。
ただ、世間ではそうかいかないのね。良い悪いなしに、それが世間的に悪いことになっているから、叩かれる。たとえそれが、仕方ないことだとしても。
「司令官はいいですけど、実際悪い方向でそうなってる艦娘もいるから、なんとも言えませんね」
私たちが戦う存在だとはいえ、だというのに、嫌になるほど戦っている艦娘もいるときいたことがある。
提督に従って働かなくてはいけないとはいえ、無理矢理慰み者になっている艦娘もいると聞いたことがある。
「ええ。そういった側面があるのは否定しません。ですが、ここは違います」
「はい」
そう、ここは違う。そう自信を持って言える。
「だから、今となっては地域の方々とも仲良くなりましたよ。『海軍は信用できないけどお前のことは信用できる』って」
「どうしましょう。褒めるべきなんでしょうけど、当然のように思えてしまいます」
そんな言葉を言わせるなんてカッコイイとは思います。でも、それでこそ提督です。それが当たり前なんです。
「当然ですから、褒め言葉は必要ありません」
こんなことを言ってしまう提督。やっぱりカッコイイ。
「ただ、苦労はありました。時には茨道を進むこともありました。ですが、それを貴女たちが知る必要はありません。険しい道を整備するのは自分の役目で、貴女たちはそこをただ歩けばいいですから」
「そんなに、きついことがあったんですか?」
「ありましたよ。詳しいことは割愛させていただきますが、それを乗り越えられたのは、ひとえに貴女たちがいたからです」
「そんな、私たちはなにも……!」
私たちはなにもやってない。提督のために、なにもできていない。
「そんなことないです」
提督は仕事の手を止めて、こっちを見た。動きに釣られて、私も提督を見る。
「自分の創った道を、貴女たちが笑顔で歩いてる。それだけで嬉しいんです。まあ実際は、好き勝手手が加えられたり、自分だけじゃどうしようもなくて一緒に創ってたり、気づいたらできあがってることもありましたけど」
「いや、だから……」
それはつまり、提督を助けているということ。でも、少なくとも私はそんなことした記憶がなかった。
「貴女たちの自由な行動が、自分の手助けとなっているのですよ」
提督はにこやかに笑う。
「振り返ってみれば、そこにはみんなで創り上げた自由な道が広がっていて、みんなが自由に歩いている。そう考えるだけで、自分は頑張れるんです」
「司令官……」
正直、言ってることがよくわからなかった。
提督がいるからみんながいて、みんながいるから提督がいる。つまりそう言いたいのかしら。
「わかりました?」
「…………いや、でも!」
だとしても、納得できない。私はこんなに提督が大好きなのに、なにもできないなんて。
「――まったく」
立ち上がって、近づいてきた。なにか言われる前に、溢れてしまった想いをはき出す。
「深海棲艦と戦うのは仕事だから! 提督と一緒に寝るのは、私が望んでいるから! 全部私のためで、提督のためにやってることなんて――ん!」
口で口を塞がれた。一瞬だけだけど、もう言葉は出なかった。
「あなたのためが、自分のためでもあるんです」
そんなことを言われては、もう反論する気にはなれない。
「もう……」
なんかもう、どうでもよくなった。破壊力ありすぎますよ、提督の行動は。
「大好きです」
「では、司令官!」
次週の秘書艦も決まり、ようやく待ちに待った時間がやってきました。
「私のために、私の望むことを、やらせて頂きます!」
今日あんな話をされては、積極的にならずにはいられなかった。
「ええ、いいですよ。貴女の望むことが、自分の望むことですから」
こんな時でもいつもと変わらない笑顔を浮かべる司令官に、思いっきり抱きつく。
「私の道を、提督で一杯にしてください!」
この先に続く道を歩くためにも、いま歩いている道を確かなものにしたい。