もしもセイバーのマスターがソードアートオンラインに異世界転移したら? 作:雪希絵
最近、新宿アルトリアと新宿ジャンヌにベタ惚れし、カードスリーブを衝動買いした雪希絵です
しかも二種類買いましたからね
さて、今回ちょっと短めです
それでもよろしければ、どうぞごゆっくり
静寂。
先程のマシュとアスナの戦いとは違い、『WINNER Arturia!』の表記が現れても、誰一人声さえ上げられない。
アルトリアとキリトの二人の戦い。
常識外れの剣術を持つ者と常識外れの反射神経を持つ者の戦い。
周囲の大半が目で追うことすら叶わなかった。
そこへ、追い討ちのごとく見せつけられた、次元の違う一撃。
移動する瞬間すら見えない、超高速の踏み込み。
あのキリトですら反応できない、超高速の一太刀。
そして、人間一人を吹き飛ばすその威力。
それら全てに、誰もが唖然としていた。
「…………負けたか」
しばらくして、キリトがゆっくりと立ち上がり、剣を納める。
「─────終わっちゃった……のか」
キリトは全てを出し切った。
全力でアルトリアの剣戟を防ぎ、迎え撃った。
かつてない好敵手との戦い。
今自分に持てる総力で、戦い続けた一戦。
そんな高揚感も、勝負が終わってからはすでに過去のものとなってしまった。
「残念だな。もう少し、戦ってみたかった」
「同感です。わずか一年程でこの強さ、大したものです」
「そういうアルトリアは何者なんだ?あの動き、明らかに素人技じゃないぞ?」
お互い少し近づき、自分たちにしか聞こえない声でそう言う。
「それが分かるということは、キリトも武道の心得があるようですね」
「……一応、昔剣道を」
「なるほど。ならばその反射神経も納得できる」
「それはどうも。で、本当に何者なんだ?」
「…………」
改めて尋ねるキリトに、アルトリアは沈黙を返す。
数秒後、やや躊躇いがちに口を開き、
「申し訳ない。私にそれを語る資格はない。マスターがいつか話すまで、どうか待っていて欲しい」
顔を背けながら、そう言った。
「……わかった」
表情から何か事情があることを察し、キリトは頷く。
「それで、アルトリア。ものは相談なんだが」
「なんでしょう」
「……この空気どうしよ」
「……どうしましょう」
より声を潜めながら、二人は相談する。
というのも、二人が話している間も、周囲はあまりの驚きに静寂。
唯一、立香だけは、ケロッとした顔をしているが。
「と、とりあえず、握手でもするか?」
「それがいいでしょう」
キリトがおずおずと手を出し、アルトリアはそれをなんの躊躇もなく握る。
一瞬驚くキリトだが、すぐに控えめにアルトリアの手を握った。
それを見て、ようやく我に帰ったのか。
「「「「おおおおおぉぉぉぉ!!」」」」
かなり遅れて歓声が上がった。
なかなか鳴り止まない歓声の中、アスナが急いで真ん中に進み出る。
「これで、二人の強さがわかって頂けたかと思います。参加を認めて貰えますね?」
最後を強調し、呼びかけた。
だいたいの人が頷くが、何人かは首を傾げている。
「何か言いたいことがあれば、どうぞ」
「じゃあ、いいですか」
アスナが促すと、一人の男性プレイヤーが手を上げる。
「あと一人いるんですけど、彼女はどうなんですか?」
そう言い、立香の方を指さす。
「……まあ、そうくるか」
一人呟き、立ち上がる立香。
ボス戦参加者からしたら、立香は実力未知数の存在だ。
アルトリアとマシュの参加には納得出来ても、流れで立香もというわけにはいかないようだ。
焦るアルトリアとマシュ。
二人は立香と契約しているサーヴァントだ。
マスターがそばにいるからこそ、全力を発揮できる。
そのマスターである立香が来ないとなると、戦闘能力ダウンは免れない。
どうしたものかと考えていると、助け舟が出た。
「彼女が参加する意味ならあります」
見晴らしのいい場所に再び立った、アスナだ。
全体に聞こえるようにボリュームを上げ、アスナは続ける。
「今回の作戦、その全てを考えたのは、そこにいるリツカさんです」
全員が目を開き、立香の方を向く。
「いえ、それどころか、今までの質問の内容すら、彼女はわかっていました。質問の回答を予め私に教えてくれたのが、その証拠です」
そう、今回の作戦立案者は立香だ。
アスナから今までの偵察の情報を聞き、今まで幾つもの戦場を巡って来た観点から、作戦を考えだした。
各ポジションごとの細かい動きを考えたのも、立香だ。
「よって彼女には、私が前線に出ている間の指揮をとってもらいます。これだけの規模の作戦です。一人くらいは全体を見る人がいた方がいいとは思いませんか?」
アスナは最後に、そう締めくくった。
納得したように頷く者、首を捻る者、周りの人に相談する者。
反応は様々だが、総意として反対意見はないようだ。
「では、これで会議を終了します。五分後にボス部屋までの行進を開始します。最後の準備を整えてください」
そうしてアスナは一礼し、いそいそと立香たちの元へ戻って来た。
「はぁ……緊張した……」
「お疲れ」
ボス戦前からすでに疲れた顔のアスナ。
そんなアスナに、キリトは労いの言葉をかける。
「大変だね、アスナも。毎回やってるの?」
「うーん……そうだね、だいたいは。うちの団長があんまりこういう会議とかに興味なくて、『任せる』の一言ばかりだから……」
「それは団長としてどうなんでしょうか」
アルトリアが眉を顰める。
人一倍責任感の強い彼女からしたら、なんだか引っかかったのだろう。
「それはそうだけど、でもすっごく強いんだよ。団長がいるから血盟騎士団に所属してるって人も多いし」
「カリスマ性は充分だからなぁ……」
「聞けば聞くほど想像できない」
そんなことを話しているうちに、五分経った。
アスナを先頭にパーティごとに固まり、ボス戦参加者たちは街の外へと進み出した。
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途中戦闘はあったが、アタッカー組が手際よく討伐し滞りなく行進は進んだ。
ちなみにアルトリアはアタッカー組、マシュは盾組に所属している。
立香は極力逃げに徹し、より広く視界を取り、スイッチやアタッカーの攻撃タイミングを指示することになっている。
迷宮区内に入り、モンスターの数が増える。
ここからはアルトリアとマシュも参戦し、敵を次々と薙ぎ払っていく。
そんなまるで無双ゲームのような光景に、参加者たちは再び唖然としていた。
出発から数十分後、ボス部屋の前にたどり着いた。
「隊列を組んで!少しでもHPが減っていたら、大事を取ってポーションを飲んでください!」
アスナの声が響く。
それに従い、盾ポジションの者たちが前に出て、その後にアタッカーポジションの者たちが控える。
「私から言えることは一言。全員、必ず生きて帰りましょう!」
「「「「おおおおおおお!!!」」」」
「全員、突撃!」
扉を開く係のプレイヤーが扉を開け放つ。
直後、中にあった灯台のようなものに次々と火がついていく。
その部屋の中央で、爆ぜるポリゴンの欠片。
それは確かな形を作り、ものの数秒で固まっていく。
上へ、上へ。
横にも広がりながら、さらに上へ。
見上げなければ全容が分からないほど上に伸び、静止。
形が定まり、それは現れた。
無数の手を有する、黄金色の仏像。
頭の上に、四本のHPバーが現れ、同時にその固有名が明らかになる。
『The Thousandhands』。
千の腕。
「ォオオオオオォォォォ─────!!」
威嚇するように叫ぶボス。
アインクラッド第五十層ボス戦が、今始まった。
今回ちょっと短かかったので、次回は長くしたいと思います
お読みいただきありがとうございました!