されど竜狩りは奴隷と踊る 作:全自動眼鏡持ち運び機
守りたかった。
あの子を守りたかった。
俺は、自分の代わりにどうしようもないこの家に来てしまったあの子を守りたかった。
だからこそ、俺は必死に耐えた。
地獄の方がまだ生ぬるいと言えるような責め苦に必死に耐えた。
そしてその結果、あの子を守る権利を得た。道具を得た。
だから、絶対にあの子を守ってみせる。
そう思い、召喚の儀を行った。
目当ては円卓最強の騎士ランスロット。
彼を引き当てる事ができれば、きっと勝利する事ができた。――自分がどうなろうとも。
男は、ただ一人の娘のため数々の矛盾から目を背けながら、必死に生き抜き、ここまでやってきた。
だが、男を待っていたものは、湖の騎士でも、騎士王でも、ほかの円卓の騎士でもない。
「ここはどこだ?」
ただ一人の修羅だった。
――――――
男――間桐雁夜は呆然としていた。
いや、目の前にいた美の結晶とも言える男に、見惚れていたと言ったほうがいいのだろう。
月光を溶かしこんだかのような銀髪、女でもそうはいないであろう陶磁のごとき白い肌、美姫のごとき薔薇色の唇。まさに絶世とも言える顔だろう。
しかし彼は顔だけではなく、体も人並み外れて美しかった。
見惚れる。
今の感情を表すのにこれほどまで正しい表現はないだろう。
しかし目の前の男はそんなことを意にも返さず、再び問いかける。
「男、ここはどこだ?私は今から愛娘ヒルルカと朝のふれあいをする気だったのだが?」
その言葉で正気に戻る。
召喚の影響で魔力が急激に減り、物理的に肉も減っているが、会話ぐらいはできる。
ちなみに、雁夜の中にはなぜバーサーカーが喋るのか?そういった疑問はなかった。
「ここは日本だ」
「日本?」
男はその美しい顔を顰めながら、考えているが、答えが出ないのかその顔は歪んだままだ。
そうしていると、すかさず雁夜の隣にいた臓硯がバーサーカーに話しかける。
「ところでお主、バーサーカーのくせに話せるとは随分と面妖じゃな」
「
「お主、もしや聖杯から知識を得てないのか?」
「そんなものに頼った覚えはないな」
「は?」
俺は絶句した。
本来英霊は、聖杯戦争に呼ばれる時に聖杯から知識を得る。
言葉が通じているから、聖杯から貰っているものだと思っていたが、どうやら違うらしい。
「まぁよいなら名前はなんという?」
「ギギナ・ジャーディ・ドルク・メレイオス・アシュレイ・ブフだ」
「随分と長いのう、まあ良いわしの名は間桐臓硯。そこに倒れている不詳の倅、間桐雁夜の祖父じゃ」
臓硯は俺を指差しながらあざ笑うように言う。
「此度の貴様のマスターはあやつじゃ」
「私は、主人を持った覚えはないが?」
「そういう意味じゃない。聖杯戦争というのはな」
臓硯は聖杯戦争の基礎的な部分や俺の事情をすべて話す。
男――ギギナは分からないなりにも、全てを理解した。ように見えた。
特に強者と争うと言われた時は目を輝かせていた気がするが、気のせいだろう。
「なるほど、大方のことは理解した」
「で、どうするのじゃ?」
臓硯が言い終えるのとほぼ同時に、ギギナは背中の二つに折れているような形で格納されていた、屠竜刀ネレトーを高速展開。
その常識はずれなまでの大きさを持つ刀で、臓硯を頭から股間にかけて叩き割る。
普通であれば逃れることのできない絶死の一撃だ。
しかし、臓硯には意味のない攻撃だ。
「さすがは狂戦士。こんな老人を殺すことにすら躊躇わないとは」
「もとより死なないとわかっていた、だからこれははただの遊びだ」
真っ二つになったはずの体は崩れ、擬態していた虫が溢れ出し、再び同じ形――臓硯を形成した。
臓硯は並外れた魔術師としての技術を使って、自分の体を虫で形成している。だから、どこかにある本体を殺さない限り絶対に死なない。たとえサーヴァントの力を使おうとも無駄なことだ。
ギギナはその後、もう2回ほど視認不可能な高速斬撃をするが、痛痒を感じていないその様子に飽きたのか、ため息をつきながら屠竜刀をしまい、俺のことを担ぎ上げた。
「こいつは借りていく。これからどうしても必要になるらしいからな」
「よいぞ、せいぜいこれからのことでも話し合うといい」
そう捨て台詞を言うと、呵呵と笑っている臓硯を背に蟲蔵の出口に向かっていった。
「全く、あれがいないとここまで面倒だったとはな」
ギギナのめんどくさそうな声を最後に、俺の意識は閉ざされていった。
ギギナの記憶はガガガ版準拠で16巻くらいまでです