されど竜狩りは奴隷と踊る 作:全自動眼鏡持ち運び機
――夢を見た。
俺くらいの青年が、一人の幼女と楽し気にこちらへ指をさして笑っていた。
指をさされた主は、あからさまに不愉快と言わんばかりの雰囲気を出しながら青年へ切りかかるが、それをわかっていたのか軽く避けられる。普通なら憤る場面だろうが、二人にとってはいつものことなのか本人たちも幼女も何も言及せず雑談を始めていた。
その様子はとても美しいものだった。
――夢を見た。
銀髪の偉丈夫が、蝶の標本のように首を見せつけてきていた。ギギナはその男に向かい、果敢に攻めるも手ごまに取られてあっさりと負けていた。
その様子を青年が後ろから眺めていた。
――夢を見た。
先ほどまでの三人が、少し手狭なヴァンの中に乗っていた。その様子は必死さも見えるが、どこかピクニックに行くような気軽さもあった。ギギナはそんな中でも不愛想を貫いていたが、その表情はどこか柔らかかった。
――夢を見た。
見るも見事なドラゴンが二人の目の前に立ちふさがっていた。その頭頂部には、角よりも少しほっそりとした物が立っているが、ここからじゃ遠いのかうまく判別することができない。
そして、二人は縦横無尽に駆け回りながら見事ドラゴンへ大魔術を当てることにより討伐をした。
そうすることで先ほどまで見ることができなかった、角らしきものがだんだんと鮮明に見え始めて――違和感。
「……ん」
目が覚めると、そこは寝台の上だった。ここしばらくは虫のおかげでまともに寝ることすらできなかったが、サーヴァント召喚のせいで蟲共が混乱したのか働いていないようだ。
「そ、そうだ。俺のサーヴァントは!」
「いちいち騒ぐな。アルビナの睡眠の邪魔になるだろう」
「わ、悪い……ってちょっと待て、お前女性を連れ込んだのか!?」
そんなことが爺に知られたら、蟲の餌にされてしまう!
俺は急いでこの屋敷から逃がそうと思い、寝台から跳ね上がるも、そこにあったのは一台の棚だった。
一度、目をこすってからもう一度見る。そこには変わらず棚が鎮座してあった。
「……棚?」
「――やはり、死にぞこないにアルビナの魅力はわからぬか」
「いや……えぇ……」
わけがわからない。
ギギナはそんな俺を構うことなく、先ほどからやっていたのか紙鑢を使って出っ張っている部分や、少しはみ出ている部分をうまく調整していた。その様子は真剣そのもので。殺気すら伝わってくる。おそらくだが邪魔をしようものなら、立てかけてある連結式の大剣で叩き切られることになるだろう。
それなら構わずに無視するのが一番だ。俺は手の甲にできた令呪を眺めながら、軽く力を籠める。何度も虫に中から肉を食われているおかげで蟲を刺激しないで、魔術を使うコツだってある程度はわかっている。
確認をしてみれば、目の前のギギナとはやはりレイラインがつながっていた。
ステータスだけだと、判断がつかなかったがレイラインまでつながっているとなるとやはり、この家具魔は俺のサーヴァントなのだろう。
(じゃあさっきの夢は……)
爺にサーヴァントの記憶を夢で見ることがある。と言われてたが、まさかあれが……
「いやないない」
確かに剣の腕は英霊だしかなりのものだった。でもこんな家具があれば世界が滅んでもいい、と言いかねないこんな奴があんな事をするとはとてもじゃないが思えない。
あれは俺の夢とこいつの記憶が変なふうに混ざってしまったものだろう。
もう一度見るが、ギギナはまだ家具の手入れをしていた。仕上がり具合を見るに、まだ平らにしないといけない所は多そうだ。これではあと数時間は掛かりそうだ。こいつはこんななりでも
(いや、そう言えば桜ちゃんが心配してたな)
召喚の儀の前に、蟲蔵に向かう自分をひどく心配していた。
空元気ではあるが、元気なうちに話をした方がいい。うん。
俺はギギナの邪魔にならないよう、音をなるべく立てずに部屋から出る。そしてそのまま、隣の桜ちゃんの部屋の前でノックを三回。
声が返ってきたので、笑顔で挨拶をしながら中に入る。
俺の様子に桜ちゃんは目を見開いていた。この子にとって蟲蔵に行った人間がこんなに元気なのが信じられないのだろう。
「やぁ、桜ちゃん」
「おじ……さん?」
「そうだよ。元気一杯のおじさんだ」
「……嘘」
桜ちゃんは俺を指差しながら言う。
「……なら、なんで体が動いているの?」
「……へ?」
呆然としながら桜ちゃんはそんなことを言ってきた。
「ひどいなぁ。確かに手足の感覚が無くなって……感触がある」
今までうんともすんとも言わなかった左半身が、何もなかったとでも言うように素直に動く。顔を動かしてみると、しっかり表情が変わる感覚がある。両手で触ると、顔の強張った感触自体はまだあるもののだいぶ顔が動くようになっていた。
あいつがしてくれたのか……?
桜ちゃんにごめんと言いながら、自室にいるギギナの元に駆け寄る。
ドアを勢いよく開けると、そこには変わらずギギナは棚の手入れをしていた。
「静かにしろ。獣畜生ですら守れる事を貴様は守れないのか?」
「ご、ごめん……ってそうじゃない!俺の体をお前が治してくれたのか?」
「そうだ。何でもマスターが居ないと魔力とやらが尽きて戦えなるらしいからな。治しておいた。これで死に損ないだった貴様でも、蹲っていれば戦闘中に死ぬなんて事はないだろう」
ギギナは言い終えると、興味が失せたとでも言うように再び棚に向き直す。
「悪かったなアルビナ。さぁ、続きをしてやろう」
先ほどとは打って変わり笑顔で対応をして居た。こいつには棚が絶世の美女にでも見えるのだろうか?だとしたらなるほど、確かにバーサーカーだ。狂ってやがる。
「治したと言っても、あくまで気休め。根本的な部分を解決していないぶん。気休めにしかならない。そこらへんは理解してから寝てろ」
「……蟲達のことを言ってるのか」
「当たり前だ」
「でも、食われるたびに治せばいいんじゃないか?」
こいつの宝具?を使えば治せるのであれば、俺は痛みを度外視すれば何度だって立ち上がって魔力供給をすることができる。事実上の無限機関に等しいだろう。
だが、ギギナはそれを否定する。
「幼女趣味にしてはいい考えだが、それは無理な話だ」
そう言いながら、ギギナは懐から一発の銃弾を取り出す。見た所、マグナムのような大口径に使う大型の銃弾だ。
ギギナは後ろに立てかけてあった大剣を、連結させながら持ち手と剣の境目に何故かあるリボルバーの弾倉を見せてきた。
「……これがお前の宝具か?」
「まぁ、そのようなものだ。これを使ってお前を治した。だが、それにはこの弾が必要だ」
「……つまり、それには数があると?」
「そうだ。数にしてマガジン4個ぶん。合計して二十四発。この世界ではおそらく精製するのは不可能だろう」
「……もしかして戦闘でもそれ使うのか?」
「そうだ。大体一回につき五個から六個くらいは使う」
「マジか……」
そうなると、こいつに宝具が戦闘するたびに消耗して行くことになる。一回に一個なら二十四回戦闘ができる。だが、一回に五個や六個使うともなれば良くて五回。使い過ぎれば三〜四回しか戦闘ができない。ステータス的にこれが無くても十分戦闘をすることは可能ではあるだろう。しかし宝具のないサーヴァントは例えるのなら銃を持ってない兵隊の様なもの。そんな状態で宝具を持っている他のサーヴァントと対峙するのは自殺行為もいいところだろう。
それに、一回戦闘する程度なら問題はないだろうが、二回三回と重ねていけば俺の体をまた治療してもらわないといけない。そうなればもっと戦闘回数は限られるかもしれない。
一体どうすれば……
どうしようもないくらいに詰んでいる状況。思い悩んでいると、凛とした声が聞こえてくる。
「何を悩んでいる」
「何って……お前数回しか戦闘が出来ないんだぞ?」
しかも逃げられればそこで使った弾は無駄弾になる。そんなこと、持ち主である此奴なら絶対にわかっているはずだ。
だが、それがどうしたと言う表情を浮かべていた。
「私と同格が他に六騎。なるほど、確かに苦戦は必至だ」
「な、なら何で!?」
──いっそのこと、このまま逃げた方が。
そう言おうとするが、声が重なる。
「苦戦はする。
だが勝つ。
どんなに苦戦しようとも、私に負ける気は無い。全てと対峙し、全てを下す。ただそれだけだ」
その宣言に迷いはなかった。
苦戦することは知っている。
負けるかもしれない。死ぬかもしれない。
それを知ってもなお、此奴は、ギギナは飢えた獣の様な眼光で言い放った。
──それが不思議と、心に響いた。
「ああ。ああ!そうだ!そうだよな!」
心の迷いが消えた。
弱気なことを言っていた自分が、自分の中から消えた様な感覚が確かにあった。
その様子を見ても、ギギナにはなんの感傷もない。だが、ようやく分かったか。そう言いたい様な顔は目の前にあった。
「……さっきから叫んで、大丈夫?」
「ん?ああ、大丈夫だよ。桜ちゃん」
「ほら、夜伽は他所でやれ。アルビナに悪影響だ」
「そ、そんなことするわけないだろ!!」
失礼な物言いのサーヴァントから逃げる様に、自分の部屋から出る。
……あれ?なんで俺が出ないといけないんだ?
「おじさん、顔色良くなったね」
「そ、そうかな?」
「うん、なんか何かいい事あったの」
「──ああ、あったさ」
不思議そうな顔をしている桜ちゃんを撫でる。
そうすると無表情な顔に変わりはないが、それでも少しだけくすぐったそうな仕草が出たが、それに気づいたのかすぐにその雰囲気を自分でかき消した。
──なんで、こんな子がそんな気を使わないといけないんだ。
絶対、絶対に君を解放してみせる。
邪魔する奴は全員倒す。そして君に聖杯を持ってくる。
「絶対に絶対だ」
「どうしたの?」
「いいや、何でもないよ。さあ、絵本でも読もうか」
「うん」
──その為なら何でもしてやる。