こうして書いてる本人から見ても女主が被虐すぎる気がします。
そういう生い立ちだから仕方がないんですけど笑
「ライダー…」
ライダー、騎乗兵のクラス。
竜種以外のあらゆる動物や乗り物を乗りこなす騎乗スキルと高い対魔力を有し、多彩な宝具を使用する。
実際に見たことがある訳ではないが、記録の中でなら何度もその姿を見た。
権力の高い王族が多いとも聞くが、かの有名な冬木の第五次聖杯戦争では有名なゴルゴンの怪物が出現したとも言われている。
「そうか君が…ライダーのマスター、ね」
やはり、と、その事実にわたしは衝撃を受けなかった。
聖杯戦争の参加に前向きでなかった彼だが、やはり誠実な男だった。
それが一族の教えであれば守る。
しきたりであれば従う。
それがわたしの知る間桐という人間だ。
それならば。わたしも誠意をもって応えなければ。
隅田やギルガメッシュに目配せする。ここはわたしに任せてほしい。
「アヴァロンの行方なら、私が知ってる。でもこれは渡せない。間桐くんであっても、絶対に」
わたしの体内に入れられなかったそれは今でもギルガメッシュの宝物庫に収納されていた。
間桐の目が見開かれる。
少し驚いたように見えたが、すぐに普通の表情を取り戻した。
予想はしていたことだ。
覚悟もしていたことだ。
「どこで、それを…?あれは永遠に失われたはずじゃ」
「僕も聞いたよ。驚いたね。あれが本当にあったなんて」
幻の聖遺物。
第五次以降姿を見せていないそれが何かの拍子にわたしの前に姿を現した。
何故だかわからない。
分からないが、出現してしまったのだ。
そしてそれを手にしたのだ。
誰かに利用され悪用されるのならば、わたしはそれを阻止したい。
誰かのためにも自分のためにも生きたことのないわたしが初めて護りたいと思った物だった。
「君が持っているのは危険なんだ…あれは狙われてる。できれば引き渡してほしい…君が狙われるのは俺も嫌なんだ…」
「…できない」
わたしを心配してくれているのが痛いほど分かる視線を避けるように目を逸らした。
ここで引けないのは、わたしも彼も同じなんだ。
どちらも誰も悪くはない。
いつもわたしを気遣ってくれた彼を裏切るようで心が痛む。
唇を噛みしめてそれを耐えた。
「…分かった。じゃあ、俺が君を護るよ。その、アヴァロンを狙う奴らを俺は知ってる。何とか説得してみる。無理でもやるよ」
「!?」
予想だにしない台詞にわたしは思わず顔を上げた。
ギルガメッシュの鋭い視線が飛んだ。
今彼は、アヴァロンを狙う連中を説得すると言ったのだ。
言うほど簡単な話ではない。
もう一つ気が付いたことがある。
アヴァロンを奪おうとしたあの二人の男のことだ。
この話によると、彼らも間桐陣営の人間なのだろう。
つまり、あの危険なフードの男を相手取ることになる。
それでも彼は反旗を翻すと宣言したのだ。
「待って…待って、間桐くん。その人たちは危ないよ。だって…」
説得、と易しい言葉を使ったが、この代物に関わる案件がそんな生易しい言葉一つで片付くはずがない。
それは彼だって知らないはずないだろう。
あの日襲ってきたフードの男。
あれは間違いなくわたしを狙いに来た暗殺者だった。
学校中を混乱させたのも危険に晒したのも執拗に追い掛け回してきたのも全てあいつだ。
「危険だってことは分かってるよ。敵わない相手だってことも。だから話し合うしかないんだ。それは俺にしかできない」
「…その理由を聞いてもいいかな?」
隅田が静かに尋ねると間桐は唇を噛みしめた。
わたしはまだ知らなかった。
彼がそうするほど悔しがる理由を。
そして、そこまで責任を背負おうとする理由を。
「九蘭さんを狙っている奴は、多分あれは…アサシンのサーヴァントだ。そいつと一緒にアヴァロンを奪おうとしている奴が、」
わたしが短く息を吸ったのと同時に彼は一呼吸置いた。
これは信じたくなかった事実だ。これから言わんとしている言葉も、彼にとっては言いたくなかった言葉だろう。
耳を塞ぎたくなるのをじっとこらえて次の言葉を待った。
「俺の叔父だ」
「……なるほどね。思った以上に聖杯戦争は進んでいるか。しかも中心はやはり間桐だね」
前七騎いるサーヴァントのうちの二騎を召喚した。
わたしを狙っていたフードの男、彼はやはりサーヴァントの可能性が高いと彼は言う。
初めて攻撃を受けた時に感じた、馴染みのある感覚。
それは紛れもなくギルガメッシュと同質の物だった。
人間とも魔物とも違う其れは英霊の気配だったといえば説明がついた。
そして、行動を共にしていた長身の男は、間桐の叔父。
それが意味するところをわたしは読み取った。
「間桐くんの身が危ないんじゃ…」
間桐は首を振った。
間桐は確かその親戚から魔術の手ほどきを受けているはずだった。
つまりその叔父が師匠と言うことなのかもしれない。
師匠に歯向かうなど勝てるはずもない。魔術とはそういうものだ。
経験がものを言う。いくらセンスが有り余ろうと、自身の師になど敵うはずもないのだ。
「悔しいけど、あの人を打倒する力は俺にはない。だからだよ。親戚筋ってのを武器に換えるんだ」
間桐の背後で何かが動いたような気がした。
彼のサーヴァントだろうか。
ふと、そちらの彼はどう思っているのか気になった。
わたしを倒さずに、アヴァロンも手に入れずに反旗を翻すことをどう思っているのだろう。
でもそれはわたしが気にすることではない。
「うん…事情は分かった。僕から言えることも少し教えておこう」
「…隅田さん?」
「さすが燈ちゃんが連れてきた子だ。…君の友人になってくれた子だ。僕からも少しアドバイスをしておこう」
持ち出した書物を開き、あるページで手を止める。
それは写真も図もない文字だけのページ。
すぐに分かった。第五次の折に出現したアヴァロンについて書かれた記事だった。
「アヴァロンは姿かたちが確認されていなくてね…僕もまだ実物を見たことが無いよ。でもこれのことは二人ともよく知っているよね?」
「はい…ブリテンの騎士王の…聖剣の鞘」
「そうだ。そんなものが何故この町で発見されたのか。僕なりの考えだけど…そのアサシンは、アヴァロンが顕現した場に居合わせたんだったね?」
「つまり…!」
わたしは何かに導かれるようにその蔵へと入った。
そしてそこへ居合わせたのだ。
待ち伏せしていたとか追跡していたとかいう風ではなかった。
彼らはここへアヴァロンが顕現することを知っていたか、もしくは予想していたのだ。
「アサシンの真名は、もしかしたら円卓の関係者かもしれないね…ただ、誉れ高き騎士の軍団にそのような暗殺者がいたという記録は聞いたことが無いけど」
隅田さんの言葉にわたしと間桐は顔を見合わせて頷いた。
知識としてだけだが、それだけで言ったらわたしに不足はない。
研究所と言う場所は情報の塊だった。
幼い頃から閉じ込められていたわたしはそのどれもを読みつくしている。
サーヴァントの真名、それこそが弱点だというのは昔からのセオリーなのだ。
「迂闊に手を出してはいけないよ。もし本当に円卓関係者だったら要注意だ。そうそう勝てる相手ではない。とまあここまで言ったけど、第五次にそこでアヴァロンと何らかの接触のあった英霊かもしれないから早合点はいけないね」
あの蔵にあったのだから、第五次の折に参戦した英霊という線もあり得る。
確かに、とわたしは頷いた。
いずれにせよアヴァロンに対する知識は申し分ない人物だ。
下手すればギルガメッシュよりも詳しい可能性がある。
「…アヴァロンはかつてアーサー王が所持していた。アーサー王を呼び出した時の触媒がその鞘だ」
「触媒…」
何を隠そう、ギルガメッシュは第四次に喚ばれ第五次まで居座った英霊として記録されている。
そして二度に渡り戦争へ参加したのは彼だけではない。
彼のブリテンの騎士王もだった。
そのアーサー王を呼んだ触媒となれば、またいくつか可能性が浮上してくる。
「ひとまず確かな情報として言えることは何もない。悔しいけど。また何かあったら連絡するよ。いつでもおいで、間桐くんも」
「…ありがとうございます」
「こちらこそ。彼女の友人になってくれて、本当にありがとう」
なんだか急に恥ずかしくなった。
間桐の存在に一番喜んでいるのは間違いなく隅田だった。
研究所を出たときの約束をわたしは果たせているだろうか。
早くもこんなことになってしまって、それでも隅田は、良かった、と笑ってくれるだろうか。
「じゃあ、あなたも。無茶はよくありませんよ」
「貴様に言われとうないわ」
「あなたも魔術師なんですね」
「ふん。我は魔術師などではない。」
エアと紹介したギルガメッシュだが、魔術師扱いは気に障ったらしい。
拗ねたように顔を背けてしまった。
「今後のことをちゃんと話し合っておくんだよ」
今後のこと。
隅田の言う今後とは、聖杯戦争のこと。
わたしがここでいくら無関係を主張したところで周囲はそれを許しはしない。
遠まわしにそう言われたような気がした。
いや、優しい隅田のことだ。
直接言葉にしなくとも、回りくどかろうが優しい言葉に換えて話し掛けてくれる。
もう腹を括ったはずだ。何も迷う必要はなかった。
「さてと。他に聞きたいことはあったかな?」
「えっと…もっと、その、この外の現象とか…学校で起きたこととか…とにかく今週は色々あって、」
前回此処へ来てからそんなに時は経っていないが、研究所に囲われていた頃とは想像もつかないほどたくさんの事件があった。
大きなものから小さなものまで。
そして、楽しいことから辛いことまで。
「もう聞いてるかもしれないけど、学校が襲撃されたの。あの、保健室の先生もその時は一緒だったから」
「ああ、城守くん?うん、彼女も大変だったって言ってた。何せあれ以来の現象だったんだ」
「しろ…?」
「おや、知らなかったのかい?彼女は城守くん。前に僕の部下だったこともある」
それは知らなかった。
むしろ関わりが薄いせいかあまり信用していなかった。
彼女も深く干渉してこようとしないし、何しろ態度が冷たい。
仕事のために感情を殺すタイプだろう。
確かに、わたしの監視役などしてたら感情なんて邪魔なもの。
何かあれば殺せとすら言われているかもしれないと言うのに。
そんなわたしの心情を読み取ったのか、隅田さんは笑った。
「大丈夫だよ。彼女は不器用で無愛想だけど、あの年で仕事は完璧だし、意外と情に厚いところがあるんだよ」
「…あの、じゃあ城守先生も、魔術を?」
口を開けないわたしの代わりに間桐が聞いてくれる。
学校のしかも教師側に魔術師の類がいるなど思ってもみなかっただろう。
特に間桐家の息子としては見逃せない問題なのかもしれない。
敵対するのならば対策を講じる必要がある。
「いいや、魔術にとても詳しい一般人、と言った方が良いかな?知られているように、昔ほど魔術は重要視されない時代になった。そして一般人の目にも触れ、それを研究されるまでに堕ちたんだ。彼女の家系は元は魔術に関係していたかもしれないけど…今は研究者としてその名を馳せているんだ」
それを聞いてほっとしたようだ。
間桐を悩ませるのは彼女が魔術師だった場合、それを知らされていなかったことかもしれない。
魔術師の生まれであるのにそれほどセンスもないと言う彼自身の台詞を思い出す。
跡継ぎと扱われながらも重要なことは何一つ知らされない。
その苦悩がどれほどのものか、わたしに推し量れるはずもない。
「ともあれ、その学校を襲った犯人が、さっき話してたアサシンってことだね?」
「…はい、」
「どうしたの燈ちゃん?」
急に名前を呼ばれて顔を上げる。
何でもない、と言おうとしたのだが、その表情を見て言葉を継げなくなった。
嘘がつけない。この人の前では、虚勢も嘘も無駄なのだ。
「実は…その、間桐くんの従兄のことで」
「…!何かされたのか!?」
案の定、立ち上がらんばかりの勢いで返事をする間桐。
やはり言うべきで無かったか、と口を閉じかけるが、それを二人は許さなかった。
「ちょっとひと悶着あって、」
言わなきゃいけない。そんな空気に押されて言葉が漏れる。
隠していることは他にもあるが、此処で確認したい。
確認しなかったら迷惑がかかるのはわたしだけじゃないからだ。
護ってくれるギルガメッシュを初めとする此処にいる二人も誤解や波瀾を招くかもしれない。
そんなのは嫌だった。
「ごめんね九蘭さん…聞かれるまで黙っておこうと思ってた…甘いよね、ごめん。あそこで怪我をしてたの、理由も全部知ってたんだ。それなのに知らないふりして、」
「…どういうことかな?」
「九蘭さんを襲った伊勢三という男は、従兄なんかじゃない。俺の、サーヴァントです」
「…!?」
「なるほど。さっき言ってたライダーね」
全く気付かなかった。
とても人間らしくて、そういえば何となく、魔術とは違う気配を感じる、くらいのものだった。
そして何故か間桐に似た顔つき。
偶然にしては、なんだか気持ちが悪い。
「でも…本意じゃじゃなさそうだね」
「まさか…俺が九蘭さんを襲撃しろなんて命じてません…!」
「伊勢三くんに確認する前に、逃げるように消えてしまったから、」
あの時のことを必死に思い出す。
急に襲ってきたかと思えば、急にまた姿を消した。
思えば、間桐が現れるタイミングだったのかもしれない。
だとしたら間違いなく間桐に内密に動いているのだろう。
「俺の力が弱いせいで制御できなくて…令呪でもなんでも、縛り付けるようにします」
「まあ落ち着いて。こっちにもちゃんとボディガードいるんだからさ。むやみに令呪に頼っても強制力には差が出る。真名は分かるのかな?」
「…分からないんです。情けないことに、教えてくれなくて」
どうやら全面的に信用を受けていないようだ。
こちらも一度の交戦では大した情報を得られていない。
鎖を扱っていた、ということだけ二人に伝える。そしてこっそり間桐を盗み見た。
正しくはその背後の空間を。
そこにいる。気配を隠していない、隠す気がないのだろう。
そこでじっと、息を殺している彼がいる。それだけが分かった。
「あとはキャスターです」
「…キャスターと会ったのか!?」
あの森で出会ったキャスターは、とても美しかった。
中世的な顔つきをしていて、柔らかな物腰。
魅了されてしまいそうなほど、この世の者とは思えない風貌と雰囲気をまとっていた。
言うなれば魔法使い。例えキャスターと称されなくてもそれが分かるくらいに。
「森…彼はそこに陣地作成を施しているのかもしれないね。そしてきっと工房もそこだ」
「キャスターは確か最弱のクラスだったはずだ。何とかできるかもしれない」
「だめ…!」
声を上げてしまったわたしを二人がふり仰ぐ。
駄目なものは駄目だ。
最弱のクラスと侮っていいほど易々倒れてくれそうな英霊じゃなかった。
魔術師の中でもトップクラス、それも有名な人物かもしれない。
無知なわたしにも感じ取れた、長い年月を重ねてきた魔術という概念の強化されたそれが、彼を包み込んでいた。それに…、
「それに、マスターは…和泉さんなの!」
間桐が反応する。
彼にとってはクラスメイト。
その反応に和泉を知らないはずの隅田も勘付いたようだ。
「和泉さんは優しくしてくれた…一緒に買い物も行ってくれて…」
でも彼女は憎悪を隠していた。
わたしに対して溢れているはずの憎しみをひた隠しにして付け入る隙を狙っていたのだ。
本当は友達なんかじゃなかったのだ。
彼女は初めからそれが狙いで近付いたのだ。
今ならもうはっきりと言える。
だが、だからこそ、わたしは彼女と敵対したくなかった。
敵だなどと認めたくなかった。
「…間桐くんが頑張ってくれてるように…わたしも頑張って説得してみる」
彼が頑張ってくれるのに、わたしがやらない訳にはいかない。
不可能かどうかは今は関係ない。
和泉の憎しみは、間桐は知らないはずだ。
それでも隅田は気付くだろうか。
父親が前回の参加者という話が本当ならば、この名前で気が付くはずだ。
本当はわたしが一番知っていなくてはならない情報を、一番知らない。
初めてそれを歯痒く思った。
「もっと色んなこと、知らなくちゃいけないの。とにかく調べてみるね…」
「…うん。調べものなら協力するよ。僕の知っていることも知らないこともこれから一緒に解き明かしていこう」
やはり隅田は分かっている。
いつも頼りになるのは彼だった。
そして間桐もいる。
魔術に関してならば彼の家系がものを言う。
だからわたしも、知っているはずの記憶を取り戻す。
そうでないと、呆れられてしまうかもしれないから。
こんなに頑張ってくれているのに、頑張らないなんてできないから。
「おっと、もうこんな時間。辺りが暗いままだと時間の概念が無くなるね。本当に時計があっているか疑わしくなるよ」
言われて時計を見ればもう夕方だった。
此処へ来たのが昼前だったので、たっぷり半日は過ごしていたことになる。
「おなかも減ったし、うちで食べていくかい?」
そお隅田の言葉にわたしたちは甘えることにした。
まだまだ話し足りないこともある。
何しろこの一か月、大変ではあったがつらいことばかりではなかったのだ。
積もる話を聞かせて笑ってほしかった。
あの頃の約束を果たすために。
保健の先生のイメージはFate/Grand Orderのオルガマリーの見た目で中身は凛です。
そう思っていただければだいたいあってます。
ただちょっと、面倒見はいいけどあえて冷たく接してきます。
彼女なりに色々あります…。
アヴァロンについて、ギルガメッシュは色々知っています。
でも記憶に関することに抵触するので口を割らないだけです。
続きます…