Fate/veil a life   作:如月龍

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中途半端だったので、少し長めになってしまいました。
もっと短い方がいいとかありましたら教えてください。
ついついすごい文章量になってしまうので気を付けてはいるのですが…

例の文学少女の過去が少しだけ垣間見えます。


第五章~前触れを知る者~(2)

 

「おい!いつまで逃げ回っておる…!」

 

「そ、ンなこと言ったって…無理!まじ無理!」

 

およそわたしの口から発したこともないような言葉遣いになるくらい、わたしは焦っていた。

ただ買い物をするために外へ出た。

いつも通りギルガメッシュをボディガードに連れて。

ただそれだけだ。

周囲の調査でも聖杯戦争のことでもなく、何も考えてなかったとは言わないが、予想などできるものか。

 

「本当に、何時まで逃げ続けるつもり?逃げ切れると思ってるの?」

 

「急に現れて一体何なの…!?」

 

そう奴は。

以前学校で襲い掛かってきた…間桐の使役するライダー、伊勢三。

正体が知れてからもそう名乗るのはやめないらしく、好青年の様相でうやうやしく挨拶をされた。

そこまでは良かった。

 

「調子に乗り追って雑種ごとき!」

 

「ギル!」

 

わたしは戦う術を知らない。

今初めて、そのことを痛感した。

ギルガメッシュが何とかしてくれる。

だがそれも、並み以上の相手には難しい。

抗う力のない足手まといにしかならないわたしを抱えている分、不利になる。

それだけは避けられなかった。

 

「君、戦う気ある?ないなら殺しちゃうけど」

 

そんなこと言われても。

戦う方法などわたしは教わらなかった。

当然だ。だって、存在するだけで害悪なんだから。

 

「そんなの…わたしが望んだんじゃないし…!」

 

外に出ることでこんな目に合うのならば、戦う術を身に着けておけばよかった。

今更もう遅い。今からでも何かをするか?いや、そんな簡単な話ではない。

短期間で英霊と対峙する力が付くはずがない。分かっているから虚しくなるんだ。

期待するのはやめたのに。

 

「何を迷っておる!我がいるであろう」

 

「ギル…わたしは、」

 

一体どうすればいい。

戦うことを決意したはずだ。

だが、伊勢三は敵じゃないはずだ。

いや、違う。彼は敵だ。

間桐が味方であろうと、伊勢三が敵じゃないとどうして言い切れる。

 

「お願い伊勢三くん!間桐くんと一緒に戦ってほしいの!」

 

「なに?彼奴と一緒に”わたしを護れ”って?」

 

「ち…違う!」

 

そうじゃない。

護ってほしいんじゃない。それはギルガメッシュで十分だ。

わたしには彼がいる。

間桐は、初めて同じ立場に立ってくれた人間だ。

初めて、隣に立ってくれた人間だ。

わたしを護るサーヴァントとは違う。

 

「わたしは護られるだけのマスターじゃない…間桐くんも違う」

 

再び伊勢三の鎖が目の前に迫った。

両手の平に力を込めて胸の前に突き出す。

昔、一時期隅田に習っていた魔術。

自己防衛のための魔術。それ自体には殺傷能力はない。

それ以降使用する機会などなかったし今まで忘れていたが、何とか発動した。

自身を護る、最初で最後の防衛術。

 

「…燈!」

 

「へーえ、やるじゃん。でも、全然だめ」

 

「気を抜くな!」

 

目の前に集中しすぎた。

この防衛術は一方向にしか張っていない。

咄嗟に張ったものでそこまで気が回っていない。

成功するかどうかも賭けだったのだ。

避けられたことを悟った伊勢三の反応は早かった。

わたしの背後、ギルガメッシュの死角。気が付いた時には痛みを覚悟した。

ここがわたしの精一杯。

これくらいの痛みは覚悟している。そして、死も。

 

「やめろ!」

 

誰かに体を押され、抱えられたまま地面に転がった。

庇われて衝撃はない。

恐る恐る目を開くと、そこには間桐の端正な顔があった。

 

「大丈夫!?おいライダー!また勝手なことを…!」

 

「燈!怪我はないか!」

 

間桐の手からギルガメッシュに奪い返される。

伊勢三は少し驚いたようだったが、すぐに余裕の笑みを返した。

 

「あんたがそんなに九蘭燈を大切にしてると思わなかった。あのタイミングで飛び込んでくるなんて」

 

「何をとぼけたことを。予想してたんだろ」

 

「雑種よ…不敬であるぞ…王の御前でこの茶番。」

 

ギルガメッシュの鎖が飛んだ。

二人の間に突き刺さる。この状況で彼を蔑ろにするのは非常にまずい。

ただでさえ急な襲撃で気が立っているのだ。これが彼らでなければすでに殺されていてもおかしくない。

というかもっとまずいことがある。

間桐には、ギルガメッシュの存在を隠していたのだから。

 

「あれ…えーと、どこかでお会いしましたっけ…?」

 

「ふん。貴様に名乗る名などない」

 

「…まじか」

 

そう呟いたのはわたしではなく。

キョトンとして間桐の顔を見つめる伊勢三だった。

これに関しては正直、わたしも彼に同感だ。

まじか、と心の中でつぶやく。

まあ確かに分からないでもない。

エア、と紹介したギルガメッシュは私服だったし前髪も下していた。

だがこんな金ぴかの存在感を忘れるだろうか。

 

「もしかして…九蘭さんの、サーヴァント…?」

 

恐る恐る間桐が口を開くのが分かった。

わたしはまだ、彼の存在を間桐に打ち明けたことはなかった。

驚くのも無理はない。言い訳をする気はなかった。

だが、うまい言葉が見つからない。

何を言っても言い訳にしかならないのだ。

だったらもう腹を括るべきだ。

 

「彼はサーヴァントというか…」

 

「…クラスは?」

 

返事をしようとして言いよどむ。

クラスは、何だったか。そもそもわたしが召喚したかどうかも定かではない。

彼は本当にサーヴァントとして召喚されたのか。

考えたことがなかった訳じゃない。

だが、疑うようなことは決してない。

危害を加えるどころか、彼に護られながら生きてきたのはまごうことない事実だからだ。

 

「強いて言うならばアーチャー。だが我は聖杯のために召喚されたそこらの雑種どもとは違う」

 

代わりに答えたのはギルガメッシュだった。

強い口調で間桐を見下ろす。

彼は絶対に主導権を握らせない。

見くびられるような言動を全くしない。

それは生まれ持ったカリスマ性からなのかは分からないが、習慣として染みついているように見えた。

 

「言うなれば此奴の守護者。そのために我は存在している」

 

聖杯戦争で勝つためでも、それを奪い合うためでもない。

ただわたしのため、わたしが記憶を取り戻すために存在してくれている。

わたしも彼に習って、まっすぐに間桐を見た。

 

 

 

*

 

 

*

 

 

*

 

 

「正直驚いた」

 

「え、なにが?」

 

ライダーに手当てされながら、俺は首を傾げた。

あのアーチャーのことだろうか。

確かに今回、三騎士を見るのは初になる。

しかもあの彼女が連れていた。

詳しいことは分からないが、彼女のサーヴァントであることは間違いないようだ。

 

「…気付いてないのは良いとして…あんたがそこまで彼女を庇うと思っていなかったよ」

 

「なんだ、そんなことか」

 

彼は俺の言うことをあまり聞かなかった。

どちらかというと叔父の言うことばかり。

だが、それでも構わなかった。

だって、聖杯戦争を否定していたのは俺自身だから。

召喚したマスターは確かに俺でも、違う奴がそれを引き受けてくれるのならその方がいいに決まってる。

 

「実力も覚悟もない俺だけど…彼女は殺させない。これだけは絶対だ」

 

「どうしてそんなにこだわる?」

 

「簡単さ。友だちだからね」

 

ライダーは驚いてしばらく何も言わなかった。

此奴の真名こそ知っているが、どんな人間関係でどんな風に生きてきたかは知らない。

歴史に残る伝説の側面しか、俺は知らない。

だけどあったはずだ。友人と過ごした日々や、楽しい毎日が。

そこに悲しい別れもあったかもしれない。

耐えられない苦痛もあったかもしれない。

 

「まだ出会ったばかりで、俺たちは何も共有してない。楽しいことも好きなことも聞かせてほしい。つらいことも乗り越えていきたい。これからも友だちでいるためにね」

 

「…そうか。そうだな」

 

ライダーは手を止めて何か考え込んだ。

思い至ることがあったのだろうか。

ややあって顔を上げた彼の瞳は、いつもと違う色をしていた。

 

「ずっと共にいたいと思った友人がいた。叶わなかったけれど」

 

それはもしかして、と俺は口を開きかけた。

遠い昔、どこかの世界で此奴は召喚されたことがある。

記録自体もあいまいで確証のある情報ではないのがほとんどだったが、確かにそこに此奴はいた。

しかも一人で。

マスターなしで、一人で戦っていた。

そのことが関係あるか分からないが、今なんとなく思い出した。

 

「ままならないこともあるよ。摂理に逆らえないのが魔術師だとしても…流されるのは違うと思うんだ」

 

不意にライダーは手を差し伸べた。

その手を取って立ち上がる。

その表情は、珍しく微笑んでいた。

 

「いいよ。乗ってやる。つまらなかったらその時は…」

 

「…煮るなり焼くなり好きにしたらいい」

 

 

 

*

 

 

*

 

 

*

 

 

*

 

 

 

小さいころから本が好きだった。

 

「私の娘は本好きなんだ。君の本もね」

 

「…ふん。物好きめ。子守のために応じた訳ではないぞ」

 

私と父しか住んでいなかった屋敷に、小さな大人が加わった。

その名は”キャスター”。

身長は小さいくせに、喋る言葉は大人そのもの。

ちぐはぐさに違和感を覚えるほど物を分かっていなかった私は、よく彼に懐いていた。

 

「次はあの本のお話し聞かせて」

 

「あれはまだお前には早い」

 

「じゃあ大きくなったら!約束よ!」

 

指切りには決して応じなかった。

今思えば彼なりに私を傷つけまいとしていたのだろう。

不器用なくせに優しさを捨てられない、人間が嫌いなくせに、人間を書くことを辞められない。

彼は父親とよく出かけた。

常に一緒だった訳でもないし、外出も好きじゃなさそうだった。

だからずっと続くのだと思っていた。

このまま私が大人になっても、父親と彼と楽しく過ごすんだ。

そう信じて疑わなかった。

 

「お前が大人になるまで?戯けたことを」

 

「今度一緒に旅行しましょう。戦争?終わったらでいいから」

 

「…何度も言うが無理だ」

 

それでも私は諦めなかった。

聖杯戦争について知っていたのは言葉だけ。

意味も、サーヴァントも、何一つ私は知らなかった。

すべてを知ったのは、終わってから。

全員いなくなって、全部終わってから。

誰にもさよならも言う暇を与えず、すべて終わってしまったのだった。

 

「マスター。お目覚めですか?」

 

その声に閉じていた目を開けた。酷く気怠く、嫌な夢を見ていた。

 

「食事になされますか?」

 

「…そこまで面倒見なくていいのよ。どうせ使用人がいるのだから」

 

私の召喚したキャスターは、なぜかやたら世話をしたがる。

料理や掃除が得意という訳でもないのに、だ。

むしろ一度やらせて以来、手を出させないようにしている。

父の死後新たに雇った使用人はもう長くこの家にいる。

 

「昨夜の疲れが出ましたか?」

 

「そんなんじゃないわよ。でもまあ、いろいろ思い出した。貴方に聞きたいこともあるの」

 

昨日は使用する魔道具にひたすら魔力を込めた。

そう、あいつと戦うために。そして勝つために。

復讐の二文字が頭を駆け巡る。

そんな汚い感情ではない。

これは償いだ。

綺麗でもないが、そちらの方がいくらかマシに見える。

 

「あなた…知ってたの?あのサーヴァントのこと」

 

「いいえ。私も驚きましたから」

 

珍しく素早い反応が返ってきた。

何かを隠してはぐらかすときはあからさまに返事を躊躇う。

きっとわざとやっているのだ。

 

「クラスは一体何かしら…生け捕りにでもすればよかったかしら」

 

「あれは生半可な英霊じゃありません。とても高位の…ともすればアーチャーの可能性が高いですが。今は何とも…」

 

あれは間違いなくサーヴァントだった。

確かにキャスターは戦闘向きのそれではない。

だが簡単に負けを許すほど府抜けたそれではない。

それでもあの時、追跡することを避けた。

追ってどうにかなる問題ではない。

それくらいは私にも分かった。

 

「気付かなかった。いつの間にか召喚して、あの子はしれっと戦う準備を進めていたということ。許さない」

 

それで私のことは知らないと突き放した。

無知のままで許すものか。

だから私は宣戦布告をしたのに、彼女は既にサーヴァントを従えているなんて。

出し抜かれたのだ。

覚えてないと言いながら、また私たちを殺しに来る。

そんなことさせるものか。

 

「ご安心ください。賢者の石は不可能を可能にする。そこらの雑兵などゴーレムの軍隊で一掃して見せましょう」

 

そうだ。キャスターは錬金術師。

万能の霊薬である賢者の石を思いのままに操って見せる。

およそ十年前に見た彼とはまた違った種類のキャスターだが、何でもいい。

彼女を圧倒するのであれば、禁忌の術にさえ手を出して見せる。

それが魔術の家系というものだ。

 

「幻術は専門外なのですが…多少悪魔に仕事をしてもらいましょう」

 

正直言って、彼が心の底で何を考えているのか分からない。

いつか裏切るんじゃないかと思いもしたが、それは杞憂だ。

裏切るなら裏切ればいい。

私もそれで終わるならそこまでだったということ。

顔に張り付けた綺麗な仮面はいつも何かを隠して笑う。

そんなことに私が気付かないとでも思っているのだろうか。

 

「あなたは前のキャスターとは似ても似つかないわね」

 

言うつもりはなかったが、その微笑を見ているとつい言葉が漏れた。

世界を人間を捻くれた視点から眺めて嘆く彼と、それすらも可笑しく笑いながら自身の思うがままに操る彼。

これが魔術師とそうでないものの違いなのか。

 

「…その彼のことはあまり聞いたことがありませんね」

 

どんな人だったのか。

珍しくキャスターは興味を持ったようで聞く体制に入っている。

 

「そうね…まず根本から。あの彼は魔術師なんかじゃなくて、ただの作家だったのよ」

 

最初からずっと、死ぬ直前まで。

彼はいつどんなときも作家だった。

キャスターという立場を素直に背負うことをせず、適材適所をわきまえていた。

父は私なんかより立派な魔術師だった。

それでも呼ばれたのは作家の彼だったのだ。

 

「ほう…作家」

 

初めて会った時は、彼がサーヴァントだなんて知りもしなかった。

もちろんそれが、焦がれてやまないあの作家だということも。

ただあの作家の話ができる彼と仲良くなるのは早かった。

仲良くなっているつもりはないかもしれないが、たくさん話をした。

その中で自然と私は知ったのだ。

何となく、心のどこかで分かってしまっていたのだ。

 

「手遅れだったのよ」

 

だからって何ができたかと言われれば幼い私には何もできなかっただろう。

でもそうじゃない。

心というのはそう簡単な物じゃない。

彼女はそれを踏みにじっていった。

幼い少女の、拙い恋心のような純情を。

キャスターはちらりと枕もとの分厚い本を盗み見た。

 

「どうやって死んでいったのかは知らない。戦い方もその末路も何一つ知らされなかった」

 

そして彼女も口を噤んだ。

記憶がないことを憎み罵ったが、それを他人にベラベラ喋られるのも癪に障った。

別に最期を知りたいとは思っていないのだ。

ただ、彼女にだけは覚えていてほしかった。

そしてその罪に一生苛まれればいい。

私や父や彼がどれだけつらい苦しい思いをしたのか、彼女は知らないまま生きているのだから。

 

「では、探らせましょう。魔力の無駄打ちを嫌うと思っていたのですが、致し方ない」

 

そう言うとキャスターはいつの間にか蝙蝠のようなものを手にしていた。

どうやらそれは何かの機能を持ったゴーレムのようだ。

大方、偵察用と言ったところか。

確かに魔術回路は人並み以上だが父の教えを受けられなかったため無駄打ちを嫌ってきた。

独学の付け焼刃なのだから、十分作戦を練らなくては勝てるものも勝てない。

 

「分かったわ…隙を作るの。必ず突き崩す」

 

キャスターは後方支援。

私は立ち上がって壁にかかっている槍を外した。

いざというときのとどめを刺すために。

 

 

 




例の文学少女は元は立派な魔術師家庭の生まれでした。
でも時代的に廃れてきているので有名ではありません。
知る人ぞ知る、レベル。
唯一の肉親が死んでしまったので、
stay/night時の凛のような境遇ですが知名度はもっと低いというイメージです。
ライダーもWキャスターも既出鯖なので想像して楽しんでいただければ幸いです。
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