Fate/veil a life   作:如月龍

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お久しぶりです。
第五章のラストです。
ストックがなくなったのと修士論文とで亀更新ですすみません。

今回はあの遠坂の末裔(?)が登場します。
オリキャラなのでご注意ください。
あと、アノ人との意外な接点、アノ人は何者なのか。
ついに起承転結の転にさしかかります。



第五章~前触れを知る者~(3)

 

「ようやく帰ってこられたね。まだ戻るつもりはなかったのだけれど」

 

茶髪で青い瞳の青年が冬木を訪れた。

その英国紳士風の振る舞いとは場違いに思える冬木も、不思議と彼を歓迎しているように見える。

彼は紛れもない日本人で、そしてこの冬木の出身であった。

そして、その繋がりは誰よりも強い。

 

「君は日本は初めてだったね。」

 

「…ええ。日本語は心得ておりますのでご安心を」

 

傍に立つ従者は西洋人だった。

主より目立たぬ黒いスーツを纏う金髪の男性。

その目つきは優しそうに見えて油断ならぬ鋭さを放っていた。

 

「お出迎えですか…別に構わないのに」

 

二人の視線の先から、静かな足音を立てて一人の男性が歩いてくる。

にこやかな笑みを称え、しかし決して歓迎しているようには見えぬ雰囲気。

緊張の空気が漂う中、男性は笑みを絶やさず口を開く。

 

「今、貴方に帰ってこられるとは…もうさほども興味がないと思っていましたが」

 

「興味がない訳ないでしょう。ここは私の管理している土地。霊脈も聖杯も、好きにはさせません」

 

お互い譲らないとばかりににらみ合う。

従者はふと思った。

この男性は何者か。

人間にしてはどこか歪すぎやしないか。

例えば、身体と魂が重ねてきた年月の差、とか。

 

「おや。貴方の従者は優秀なようですね…さすが遠坂家の。お名前は?」

 

「この子の名はナイ。時計塔で見繕った、急ごしらえの従者ですよ。」

 

ほう、と男性は感嘆した。

なるほど、とも。

油断してはいけない、と従者は思う。

彼とて腕には自信があった。

だが、それでも一筋縄にはいかない。

そんな予感がした。

 

「もはや貴方も参加するおつもりでしたか」

 

「貴方こそ、こんな状況をどうして放っておけるのですか?…あなたの仕事だと思っていたのですけれど」

 

「もちろん。仕事を放置しているつもりはありませんよ。しかし今は…見守るべき対象がおりましてね」

 

「ああ…あの少女ですか」

 

遠坂の次期当主は一人の少女を思い出す。

それは、我が曾祖父の時代の確執。

あの少女が、今も生きてこうして冬木をかき乱す。

管理者としては見過ごせない。

一刻も早く排除しなくては。

 

「聖杯は私が頂きます。異存はありませんね?」

 

「結構です…できるものならば」

 

男性が少女を護ろうとするのは道理であった。

約十年前の惨事がそれを示している。

だからこそ遠坂家は知らねばならない。

自身の参加しなかった聖杯戦争で一体何が起きていたのか。

それが再び始まろうものなら、今度こそ蚊帳の外でいる訳にはいかぬ。

 

「次期当主として、いい心がけです」

 

「貴方に言われなくとも。Guardianよ」

 

「そんな堅苦しい呼び名はやめましょう。今は…隅田と名乗っております。あの、水石堂の店主の」

 

 

 

*

 

*

 

*

 

 

此処へ来るのは二度目になる。

そう経っていないが、かなり前の出来事のように感じる。

 

「燈ちゃーん久しぶりー」

 

「こんにちは、柳洞さん」

 

相変わらずの軽いノリに肩の力が抜ける。

この街一番の寺は、長い階段を上った頂上にある。

厳かな雰囲気の森が辺りを包むのとは裏腹に、このお兄さんはかなり現代的だ。

服装こそ和装、しかし髪は金髪。

それでいいのだろうか。

 

「なになに?例のあれ?」

 

「まだだよ。だから、協力してほしい」

 

一体どこまで話していいのだろうか。

今のところ、聖杯戦争とは無関係のはずだ。

それとも何か知っているのだろうか。

間桐の様子からも全く無関係でない気がするのだが。

それにしてもこのお寺は違和感だらけである。

初めて来たときからそうだった。

誰かに見られているような、なんだか懐かしいような。

ちなみに中にまで入れてもらったのは前回が初めてだ。

 

「いいぜ。言っておくが俺は大した力は持っちゃいねえ。期待しすぎるなよ」

 

そう言いつつ背を向けた彼は背後の押し入れから箱を取り出した。

かなり大きい。

 

「これをどう使うかはお前たち次第だな…お前たちそれぞれマスターか。じゃあ英霊の召喚は不要っつーことで」

 

「…どうしてそれを!」

 

令呪はいまだずっと隠している。

それでもあっさり彼はマスターだと見抜いた。

大した力は持っていないと言った。

だが魔術の心得があるのだろうか?ちらりと間桐を見ても、何か言う様子はない。

 

「まあ鏡夜が君を連れてこの話をするってことは、そうなんだろ?」

 

鏡夜とは間桐の下の名前だ。

確かに、彼が何も知らないわたしを巻き込むはずがない。

途中、間桐が柳洞について話すことはなかった。

ただ協力者がいる、という一言だけで、わたしはついてきた。

 

「残念ながら俺は君がどこの誰か知らねえからな。どんな魔術が使えるか分からんが、うまいこと扱ってやってくれ」

 

「ありがとう正道。助かる」

 

その箱をのぞき込むと、数々の武器?のようなものが入っていた。

刀だったり、小型ナイフだったり。

杖のようなものまで入っている。

使い方が分からず思わず間桐を見ると、彼もまた難しい顔をしていた。

わたしは自身が使える魔術など把握していない。

彼はどうだろうか。

 

「一応、魔道具、っていう奴だ。ずいぶん古びちゃいるが紛れもなく魔術師が力を込めたもの、相応の使い方すりゃかなり力になれるぜ」

 

箱の中を眺めていたわたしは、その中で何か光ったように見えた。

つい吸い寄せられるようにそれに手を伸ばす。

つん、と触れると直後、頭を強く揺さぶられたような眩暈に襲われた。

 

「九蘭さん…!?」

 

ふらりとした瞬間、気が付いた間桐が支えてくれる。

その様子を見て柳洞が何か呟いたような気がした。

眩暈で視界がよくない。

だがそこには確かに何か。

人ではないものが存在している気がした。

しかしそれもすぐに治った。

まるで馴染むように体の奥へ沈んでいった。

 

「大丈夫!?」

 

「うん…平気」

 

先ほどの気配はなくなっていて、柳洞の心配そうな顔だけが残った。

錯覚だろうか。

何か変だが、わたしにそれを突き止める力はない。

誰にどう追及すべきかも分からない。

 

『今は大人しくしておけ。悟られるな』

 

ギルガメッシュの声だった。

そうだ、落ち着け。

最近過敏になっているのだ。

少し知らない気配があると不安になってしまう。

外の世界にもだいぶ慣れてきたつもりだったが、時々こうして現れる。

忘れるな、思い出せ、と脅迫されているかのように。

 

「燈ちゃんはそれでいい?」

 

「…はい」

 

ずっと手に持っていたそれは小刀。

柄の部分まで金属で冷たい。

小刀というよりは西洋の短剣と言った方が正しいかもしれない。

自身の手が小さいせいか、手によく馴染んだ。

 

「それは?」

 

「詳しくは覚えてねーけど、アランサーって言ったっけな?綺麗だろ?割と最近複製されたモンかもな」

 

なるほど、確かに所々錆び付いた様子はあるものの磨けば綺麗になりそうだ。

護身用どころかそれ以上の価値がありそうなこれをわたしが持っていていいのだろうか。

隣を見ると、間桐がまだ悩んでいた。

 

「間桐の血に合いそうなものはむずかしーぞ」

 

「…ちょっと考え直してくる」

 

「そうだな…水に頼るならば鏡なんかはどーだ?蟲…はなぁ」

 

実際に間桐が魔術を駆使しているのを見たことがない。

そういうわたしも剣を持ったところで心得などない。

完全に飾りにならないように気をつけねば。

間桐はまだ修行中と言った。

様子から察するに、水か蟲か、まだ得意とする魔術も決めかねているように見える。

 

「俺が前線張るからそれでいいよ」

 

「おー伊勢三!なんだ、すっかり飼いならされてんじゃん」

 

「そんなんじゃないよ」

 

柳洞とライダーも知り合いらしい。

これだけ色々提供してくれる協力者だとしたら当然だ。

だとしたらわたしもギルガメッシュを紹介した方がいいのだろうか?

でも彼は嫌がるだろうか?

そっと念話で話しかけてみる。

彼は特別不満を漏らしはしなかった。

それよりもこの手にある剣に興味があるようだ。

あとでじっくり見てもらおう。

 

「柳洞さん…あの、わたしもその、サーヴァントを」

 

いざ口にしようとしても言葉が浮かんでこないのはわたしの悪い癖だ。

人とのコミュニケーション不足はいつになっても直らない。

それでもどうにか伝わったのか、間桐が助太刀してくれる。

 

「九蘭さんのサーヴァントも見てもらおうか」

 

「まじ!?紹介して!」

 

考えてみれば、紹介してと言われて人目にさらすのは初めてだった。

タイミングがつかめずワタワタしているのをギルガメッシュが笑った。

鼻で。

 

「ひどい…」

 

「貴様、いつになっても成長せんな」

 

「あなたが燈ちゃんのサーヴァントですか!」

 

いつもの金色の鎧に興奮した様子で柳洞はギルに話しかける。

どうやら機嫌は悪くなさそうだ。

クラスはアーチャーかも、ということだけ伝えるにとどめておく。

何しろ召喚した記憶ごとないのだから困ってしまう。

 

「記憶がないって言ってたけど…アーチャーさんは覚えてないんすか?」

 

「貴様には関わりのないことよ」

 

「えー。ま、いいよ。そのうち教えてくれれば」

 

柳洞さんに悪いかなぁなんて思ったけれど、わたしが何と言おうと彼に話す義務はない。

そのうち、と柳洞は言ったがそんな日が来ることを願う。

わたしが全部思い出して、彼がやってきた時のことも、どんな気持ちで誰が呼んだのかも、教えてあげられる日が来れば。

 

「お…っと、電話だ」

 

昔ながらの固定電話だろうか、廊下の奥から音がする。

柳洞は席を立ちわたしたち四人が残された。

ギルガメッシュはと言えば、その武具が詰まった箱を眺めている。

何か気になることでもあったのだろうか。

 

「どうしたの…?」

 

「お前、それが何なのか分かっているのか?」

 

「へ…?ううん、なんだか持っててしっくり来ただけで…」

 

ギルガメッシュは黙り込んだ。

わたしが握っているそれに触れようとはしなかった。

間桐たちも不思議そうにこちらを覗き込む。

一体これが何だというのだろう。

そういえば、とわたしはふと思い出した。

彼は確かすべての原点を持つ王だったはずだ。

それならばこれを知っているのも頷ける。

でも、どうして。

 

「これ…なんかまずいやつ?」

 

彼の背後の空間が歪んだ。

と思えば謎の空間が生まれている。

これは彼自身の宝具の一つ、王の財宝(ゲートオブバビロン)、古代バビロニアの宝物庫と繋がっているのだとか。

例のアヴァロンもここへ仕舞われている。

 

「それの原点なら持っている」

 

言葉と共にそのゲートから銀色の、そう、今まさに手にしている”アランサー”を取り出した。

これには間桐も目を瞠っている。

伊勢三は、まあ知っていたのだろう。

同じ英霊という存在である以上いちいち驚いてもいられないか。

 

「じゃあこれは、」

 

「それもまた同じくアランサーだ。贋作などではない。真の宝具よ」

 

偽物、という言葉を飲み込んだ。

彼の見立てによれば、これもまた真作であるらしい。

どこの誰が使っていたかは分からないが、魔力さえ込められていればこれも立派な魔道具。

わたしには十分すぎる代物であることは違いない。

彼はこれが誰のものなのかきっと分かっているのだろう。

そしてそれを確かめるために宝物庫から出して見せたのだ。

 

「よかったな。いい武具と出会えて」

 

「…うん」

 

珍しく彼が頭に手を置いたので思わず身じろいてしまった。

そんなこと言うなんて、本当に珍しい。

もしかしてこの武具になにか特別な想いでもあったのだろうか。

 

「あんた…そんな…いや何でもない」

 

「ライダー?」

 

伊勢三がギルガメッシュを見て何か言いかけたがすぐに口を閉じた。

そう言えば彼の初対面の反応では、どこか知り合いであるような素振りを見せた。

だが彼本人は知らないの一点張りだ。

忘れてしまうことなどあるのだろうか。

わたしの知らないどこかの聖杯戦争で出会っていたら、それはそれですごいことだと思う。

例えそれが過去であれ、未来であれ。

 

「おい、鏡夜。お前聞いたか?」

 

「ああ、正道、電話終わったのか。何がだ?」

 

「…遠坂楓。帰ってきたぞ」

 

戻ってきた柳洞の口から出た名前は、知らないものだった。

でもわたしには無関係と言える間柄では無さそうだ。

だって。

今確かに彼は、遠坂と言ったのだ。

今まで関わることのなかった遠坂の人間たち。

 

「楓さん…が、」

 

どんな人か聞こうと思って見上げた間桐の表情は、今までに見たことのない、驚きや不安が入り混じった顔をしていた。

その不安はわたしにも伝染する。

何だろう。何か嫌な予感がする。

説明出来やしないが、漠然とした不安が心の内を侵食するのだ。

 

「間桐くん…?」

 

「遠坂家は知っているね?」

 

「…はい」

 

問いかけに答えたのは柳洞だった。

遅れて我に返った間桐はようやくわたしを見た。

その顔には先ほどのような表情はなかった。

いつもの、優しい間桐の顔だった。

 

「親戚なんだ。楓さんは。年上の男性なんだけど、実力はずば抜けてる…いい人だよ。…多分」

 

「た…ぶん?」

 

「なんだよ鏡夜。あいつはいい奴だよ。紳士的で、今でもダチやれるくらいには」

 

「正道はすげえよ…」

 

話を聞くとわたしたちの通う学校の卒業生らしい。

同じく卒業生の正道とは同級生でとても仲が良かったようだ。

この柳洞寺のこともあって魔術師として接することもあったという。

それならば、その遠坂の彼のことはそこまで悪い人じゃないと思っていいのかもしれない。

 

「…ふん。まだ生きておったか」

 

「…誰のこと?」

 

わたしだけに聞こえるような声でギルガメッシュは呟いた。

一体誰のことだろうか。

…そこまで考えてハッとした。

誰のことかじゃない、遠坂とギルガメッシュ。

直接的な関係は記されていなかったが、どちらも第四次、第五次の聖杯戦争に参加していたではないか。

 

「間桐くんは…遠坂さんといつから親戚なの?」

 

ふと湧いてきた疑問だった。

考えあってのことじゃない、何となく気になってしまっただけだ。

確か冬木には間桐、遠坂、それにアインツベルン。

今は没落してしまったが三家がそれぞれ台頭していた頃から親戚関係ではないような気がした。

 

「えーと、祖父か曾祖父かな?第四次の頃にはもう親戚だったはず」

 

どうやら間桐すらそこら辺りははっきしりないようだ。

でも、とわたしは思う。

次にやるべきことは決まった。

このタイミングで現れたということは、間違いなく遠坂は聖杯戦争に介入するつもだということ。

であれば。

 

「会いに行こう…遠坂さんに」

 

「九蘭さん?」

 

「何か打開策があるのかもしれない。わたしたちは聖杯奪還が目的じゃない…だったら協力する方がいいと思うの」

 

ギルガメッシュはちらりと一瞥しただけで何も言わない。

ややあって間桐も頷いた。

だがもしも、もしも敵に回るようなら…わたしはどうしたらいいだろう。

立ち向かうべきなのか、遠坂にすべて任せるべきなのか。

 

「話だけでも聞きに行こう」

 

「おう。それなら連絡してやる。この状況だし話くれぇすぐ聞いてくれんだろ」

 

ありがとう、と間桐は礼を言う。

実のところ、少し不安も感じていた。

こちらは既にサーヴァントも揃えているので、臨戦態勢と思われても仕方がない。

戦う気がない、それを分かってもらうにはどうしたら良いか。

そして…和泉とキャスターと戦うには。

手の中のアランサーを見て、なんとなくキャスターの持つ剣を思い出した。

 




これからそれぞれの物語が一気に展開していきます。
第六章からはいろんな謎を明らかにしていきたいです。
ギルガメッシュ、そして遠坂さんがキーパーソンです。
主人公もなかなか成長してきたと(勝手に)思ってます。
では次回もよろしくお願いします。
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