Fate/veil a life   作:如月龍

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ついに本格的に戦闘シーンを書き始めました。
漫画とは違って文字で臨場感表すのって難しい。
テンポよく物語終盤までいこうと思います。

誰が敵で、誰が味方なのか。
何が真実で、何が嘘なのか。
そばにいるべきは、誰なのか。


第六章~純粋な悪意~(1)

 

とても大きな洋館。

この時代にそぐわないレトロな雰囲気を放つ城。

幽霊屋敷と言われても頷けるそれに、人が住んでいようなどと思いもしなかった。

ましてやその一部に、足を踏み入れようなどとは。

 

「こんにちは。初めまして」

 

恭しく頭をかがめて挨拶をした彼は、とても紳士的な好青年だった。

その雰囲気に呑まれそうになって、だどだどしく自己紹介を終える。

つい見とれてしまいそうになる青い瞳。

彼はそれを細めてにこやかに笑った。

 

「天気が良ければティーパーティーと洒落込むのだけれど…相変わらず暗くて危険だから中にしよう。苦手な食べ物はあるかい?」

 

「いえ…特には」

 

それから数分と待たずに紅茶とお菓子が運ばれてくる。

持ってきた使用人と一緒に、遠坂と同じかそれ以上に気品を放つ青年が現れた。

こちらは金髪の碧眼。

今では珍しいと言われるその組み合わせを持つ、どこかの貴族のようないで立ち。

 

「紹介するよ。従者のナイだ。武術に長けているからボディガードを頼んでいる」

 

声も出さずに軽くお辞儀をして見せた。

急に背後でギルガメッシュがざわついた。

どうしたのだろう、と思ったのもつかの間、さて、遠坂は話を切り出した。

 

「君はこの界隈のちょっとした有名人だ。会えて嬉しいよ」

 

「そんな…何も覚えていないのに」

 

にこりと品の良い笑みを浮かべながら、お世辞を言っているようには見えなくて、つい言葉を詰まらせてしまう。

助けを求めるように、隣に座る間桐を見た。

彼は此処へ来て一言も喋らなかった。

 

「鏡夜も。ずいぶん久しぶりな気がするよ。そんなに経っていないのに」

 

「おう…連絡も一度も寄越さないしな」

 

「怒ってる…いや、拗ねてるのかい。相変わらず素直じゃないね」

 

どこか不機嫌そうな間桐とは正反対に吹き出しつつからかうように彼は返事をした。

どうやら仲は悪くないらしい。

思わずほっとしてしまった。

何しろ久々の再会が決まった時から彼はずっと浮かない顔をしていたから。

 

「なんで急に帰ってきたんだよ」

 

ぶっきらぼうに、間桐は本題をぶつけた。

いけない、思わずぼーっと話を聞いてしまった。

家族とか親戚とか、わたしにもいたらこんな風だったのだろうか。

そんな思考は頭を振って追い出す。

今日は今後のヒントを得るために来たのだから。

 

「もちろん、管理者としてこの土地を守るためさ」

 

「じゃあ…楓さんも聖杯戦争に…」

 

「そうだね、枠も余っていそうだし」

 

沈黙が舞い降りた。

間桐に遠坂、この両家が聖杯を奪い合うとなれば戦火の拡大は免れない気がした。

間桐は聖杯に興味がないと言っていても、遠坂はどうだろうか。

間桐も、興味がないといくら言ったところで家柄がそれを許すのだろうか。

 

「…なんてね。僕はあくまで冬木を守るだけ。聖杯はまあ、亜種だし」

 

「でもある程度は知ってるんだろ?」

 

「うん、まあね。キャスターもアサシンも、バーサーカーも」

 

その単語にどきりとした。

間桐が追及の目を向けてくるのが分かる。

誰にもまだ話していなかった。

敵か味方も決まった訳じゃない。

せっかく友好的ならかき回したくないし、何しろ、バーサーカーといえどあんなに人間らしく好意を示してくれた彼を蔑ろにしたくない。

 

「あの、バーサーカーは…わたしに任せてほしい、です」

 

「な…バーサーカーは七騎の中で一番危険なんだ!」

 

「彼は…ただのバーサーカーじゃないの…」

 

私も始めは思っていた。

バーサーカーは最も危険で関わらないに越したことはないと。

でも彼は違う。

 

「確かに放っておけばあのパワーはサーヴァント最強だった。でも、彼は聖杯なんか欲してない」

 

マスターの言いつけを守り、純粋に遂行しようとしている。

多少力技なのも愛嬌だ。

わたしに向けた笑顔も、野良猫を保護しようとして探していた優しさにも嘘はなかった。

でも。いざ会わなければ間桐は納得しないだろう。

わたしだって簡単に信用したりしない。

 

「向こうから接触があるまで…時間が欲しいんだけど」

 

「うーん、埒が明かなそうだね」

 

頷きそうにない間桐にしびれを切らしたのか、何か言いたそうに遠坂が呟く。

聖杯戦争に詳しい人間から言わせれば、バーサーカー戦いたくない相手だろう。

今までの戦いの中でもバーサーカーが出した被害は甚大だ。

そんな災厄と戦えるわけがない。

経験者といえど、記憶のないままなど。

 

「君は強いサーヴァントを従えているんだから、いざとなればそれで一掃したら良いさ」

 

「そんな…っ」

 

「そのためのサーヴァントだろう?貴方もそれをお望みでは?」

 

その端正な顔立ちを崩さぬまま、目を細めてわたしの背後を見やった。

ギルガメッシュだ。

今の発言は、彼に対して向けられたものだとすぐに分かった。

ともすれば黙っているはずがない。

それを挑発、と受け取ったギルガメッシュが、ついに姿を現した。

 

「やはり遠坂は気に食わん」

 

「!これはこれは王よ…無礼をお許しください」

 

「貴様ら如きに我を語らせるか、痴れ者が!」

 

なんと遠坂は跪いた。

まるでそうすることか当然であるかのように。

正体を見破った、あるいは知っていたのだ。

研究所の人間たちはもちろんその情報量からギルガメッシュの正体に辿り着ける。

遠坂はそうじゃない。

彼らには決定的な繋がりがあった。

そう、あの第四次聖杯戦争で。

 

「…ちょっと待って、どういうこと?」

 

その違和感に目ざとく気が付いたのは間桐だった。

ギルガメッシュを知っていたかのような遠坂の対応。

同じく遠坂を知っているかのようなギルガメッシュの台詞。

間桐は知らなかったのだと確信した。

魔術そのものに消極的な姿勢から見るに、そこまで聞かされていなかったのだろう。

 

「楓さん…アーチャーを知ってるの?」

 

「もちろんだよ。そうか、鏡夜。君は聞かされていないんだね…あの第四次の惨劇も」

 

含みを持たせたような言い方で、遠坂は先ほどのように綺麗に笑って見せた。

 

「そりゃあ、君が幸せそうに生きているから…そんな事だろうと思ったけれど」

 

だめだ、それ以上は。

言葉にしたいが声が出せなかった。

怒っている訳ではない。

だが、その言葉には威圧感があった。重みがあった。

唯一浮かんだのは、間桐が以前言っていた”一族の罪”について。

 

「雑種よ…貴様。まるで我のせいだとでも言いたいような口ぶりだな」

 

「滅相もありませんよ。あの方よりも私は、貴方に心酔しておりますゆえ」

 

強気な笑みを絶やさない遠坂と、それを軽蔑するかのように見下ろすギルガメッシュ。

沈黙に割って入ったのは、今回は間桐だった。

 

「確かに知らないけど…でも、俺はご先祖とは違う。誓って言い切れる!」

 

思わず振り返ると、彼の目は本気だった。

そうだ、だって彼はいつだって償いをするかのように行動してきた。

彼の行動原理は優しさだ。

優しさは強さであることを、彼は教えてくれた。

全ては救えないかもしれない。

それでも救えるものがあることを彼はちゃんと知っている。

 

「守るって決めたから…いくら楓さんでも、手出しはさせない」

 

いつになく凛々しい顔をそう言い切った彼に思わずドキリとする。

彼はどんどん強く大人っぽくなっていく気がする。

出会ってまだ一か月だが、その中でも彼は魔術も人間性も大きく成長したように見えた。

 

「…そうかい。変わったね、鏡夜…意地悪な言い方をしてすまなかった」

 

遠坂は立ち上がって間桐に向き合った。

彼ら二人がどこまで真意をさらけ出しているのかは分からない。

親戚であっても共闘関係にはなかった。

まだ話していないことも、お互い意図的に隠していることもあるかもしれない。

それも含めて、今日はとことん話し合いたい。

そのつもりで間桐はやって来たのだから。

 

「…鏡夜!ライダーを、」

 

遠坂の叫んだ言葉は最後まで続かなかった。

一瞬何が起きたのか分からず、確認することもできなかった。

わたしはただギルガメッシュに担がれ部屋の廊下へ飛び出していた。

 

「…な!」

 

土煙が舞う。

爆音とともに割られた窓ガラスと破壊された壁。

すぐに敵の襲撃だと分かった。

遠坂と間桐の姿は、いまだ見えない。

 

「遠坂さん!間桐くん…!」

 

「待て!動くな」

 

部屋へ戻ろうとするわたしをギルガメッシュが止めた。

でも、と振り返ると彼は苦痛の表情を浮かべている。

背筋が寒くなった。

ギルガメッシュのそんな顔は、初めて見た。

心なしか青白く、オールバックに上げている前髪も崩れかけていた。

ただ事ではない。

 

「ギル…!どうしたの!?ねえ、」

 

「黙っていろ。余計な体力は使うな」

 

ハッとした。

もしもギルガメッシュがどこかしら負傷をしているのならば、その修復分の魔力はわたしから勝手に供給される。

修復を望もうが望むまいが、それは意思に関係ない。

 

「奴らは死んでなどおらん。ライダーには防衛の宝具も備わっているはずだ」

 

言ったと同時に、晴れてきた視界の向こうに四人の影を見つけた。

安心出来はしないが、一先ず目立った大けがはなさそうだった。

ならば一刻も早く合流したい。

でも…。ギルガメッシュのダメージは思ったより深刻だった。

 

「九蘭さん!無事!?」

 

「なに…生きているのか。さすがだな英雄王」

 

「…まさか」

 

隣でギルガメッシュが膝を付いたのが分かった。

思わずそれを支えに入ると、見たくない現実を目の当たりにした。

嫌だ、気付きたくない。

そうであって欲しくない。

わたしはまた、誰かを気付つけてしまうなんて…。

 

「だが深手は負わせた。十分すぎるくらいに」

 

「貴様…アサシンだな」

 

「九蘭燈。お前を殺すつもりで策を講じたんだが…いい加減認めたらどうなんだ。お前が周囲に危害を加えていることを」

 

生きる災厄であることを。

理解していた。そうじゃない人生なんて、臨める立場じゃないことも。

わたしに夢を見せてくれたギルガメッシュも、間桐も、みな巻き込んで殺してしまう。

わたしは昔からずっとそういう風に生きてきた。

 

「違う…」

 

わたしに価値がなくなれば研究所の人間は迷いなく殺していただろう。

記憶が無いなんて戯言を誰が信じるというのか。

信じて十年も待つほどの価値がわたしにあるというのか。

…ない。何もない。

都合のいい解釈だなんて分かっていた。

 

「でも違うの…理屈じゃないの…」

 

誰に恨まれたっていい。

生きにくい世界だって構わない。

世界全体がわたしを拒んだって、今のわたしは生きることを選ぶと思う。

世界の理がどうであっても、それに矛盾して生きることになっても。

知らない誰かよりも、知っている彼らを選ぶ。

それは決して理屈では語れない感情だ。

 

「だからわたしは歯向かう…あなたたちが強くても、勝てなくても…最後まで抗う…!」

 

土煙が晴れて、見覚えのある男の姿が目に入った。

相変わらず顔を隠すマスクで、表情は分からない。

その男を睨むように見据えた。

分からなくても、覚えていなくても…この男には抗わなくてはならない。

その予感に忠実に、わたしの脳は順応していく。

 

「燈…」

 

「キャスター。捕らえろ」

 

側の地面が盛り上がって、積み重なって高さを増していく。

ゴーレム。頭の中にその単語が過る。

キャスターの魔術だろうか。

ヒト型のようになったそれはわたしたちに拳を振り上げる。

 

「九蘭さん!動かないで!」

 

間桐の声が響いた。

そもそも動けやしなかったのだが、彼らの行動は早かった。

伊勢三のものと思われる鎖がゴーレムの動きを封じた。

二体、三体と生成されていくそれらも鎖でどうにか動きを封じてくれた。

 

「九蘭燈!長くはもたない…今のうちにどうにかしろ!」

 

「えっ、どうにか…って」

 

ギルを見れば相変わらず苦し気な表情で顔をしかめている。

魔力が供給されればある程度の傷は治せると聞いた。

だが追い付いていないのだろうか、その体から流れる血は止まりそうにもない。

アサシンの言った通り、かなりの深手。

 

「でも…間桐くん…」

 

二体のサーヴァントを相手に、いくらライダーが強いと言えど立ち向かうのは困難だ。

そして遠坂もいる。

ここで戦力であるギルガメッシュが抜けてしまえば痛手だろう。

しかしギルガメッシュもろくに戦えるような状態ではない。

応戦、退却。

どちらを選ぶべきか。

 

「早く逃げろって言ってんだよバカ!」

 

「そんなこと…!」

 

ほとんど役に立てない。

応戦したところで消耗戦に持ち込まれたら今度こそ勝ち目はない。

だけど。

間桐たちを置いて背を向けるなんて、簡単にできることじゃない。

逃げろと急かすライダーに何か言おうと言い淀む。

迷っている場合ではないのに。

 

「九蘭さん…大丈夫。叔父は任せて!」

 

「…!!」

 

今まで黙っていた間桐がこちらを振り返った。

その言葉に息を呑む。

そうだ…アサシンと共にいるのは、誰だったか。

以前間桐が言っていたじゃないか。

その覚悟をわたしはまざまざと見せつけられた。

 

 

「ギル…霊体化して」

 

わたしの口から洩れたのは、退却の言葉だった。

 

「な、に…?」

 

極めて冷静に言ったつもりが、多少声が裏返ってしまったように思う。

ここで共倒れになるくらいなら、少しでも生き延びる方法を探るべきだ。

答えは最初から出ていた。

間桐を見捨てるような形になってしまったとしても、今できることはそれしかない。

説明を求めるようにこちらを伺う彼を説得している暇なんかない。

 

「いいから!あとでちゃんと話す…だから今は、お願い聞いて!」

 

プライドの高い彼のことだ。

ここで敗走など許すはずがない。

でもそんなこと言ってる場合ではないのも本人が一番よく分かってると思う。

そして、わたしから言われるのも癪だということも、分かってる。

その上でのお願いなのだ。

 

「私が行きましょう」

 

「…⁉」

 

「彼女らを護りなさい、ナイ」

 

その拮抗した状態から一歩、渦中へと踏み出したのは…ナイだった。

金髪のポニーテールが風になびく。

いつの間にか腰には、まるで西洋の騎士のような、剣を携えていた。

それを抜いて構えるさまは、そう。

わたしの頭の中に蘇ってきた映像と合致する。

 

「…セイバー?」

 

わたしの呟きはギルガメッシュに拾われた。

そして、間桐やアサシンらにも伝わる。

このナイという青年の纏う気品、気高さ、その圧倒的魔力量。

まだ断言はできないが。

その姿はまるでサーヴァント最強の騎士、セイバーだった。

 

「あなた方の相手は私が務めましょう…手加減はしません」

 

剣さばきに見とれてしまい、慌てて我に返る。

まずは隅田に教わった防衛魔術。

ナイの時間稼ぎは十分だった。

わたしとギルガメッシュだけに防御壁を作る。

ろくに訓練もしていないそれは集中砲火を受ければ一秒ともたないだろう。

だから、ここは時間との勝負だ。

 

「時間はそんなにない…多分、キャスターとアサシンはそんなに気配に敏感じゃないから…間桐くんたちが引き付けているうちに体制を立て直そう」

 

アサシンは気配遮断はできるものの、こちらの気配に敏感ではないことはもう分かっていた。

学校でわたし個人を直接狙わなかったのも、夜に出会ったときわたしに警戒していなかったのも、きっとそういうことだ。

キャスターは言わずもがな、あの森へわたしはわざわざ連れられた。

そしてゴーレム生成技術といい、おそらく技巧系の魔術師だ。

 

「…いいだろう。乗ってやる。だが今は逃げるのみ、応戦するなよ」

 

「うん…わかった」

 

ようやく了承してくれたギルガメッシュは霊体化する。

せめて姿を隠し、外敵から身を守るにはこれしかないのだ。

わたしを護ることも応戦することもできなくなるがそれほどのリスクはない。

アサシンもキャスターも間桐たちに引き付けてもらっている。

今なら、いける。

 

『水石堂に向かおう…家より安全』

 

念話でそう伝える。

かなりの距離があるが、走り続ける他ない。

ある程度離れたら電話を入れてみよう。

もしかしたらこれだけの大きな戦い、何か勘付いているかもしれないし。

…だが。早々にわたしは足を止めることになる。

 




そろそろキャラが増えてきたのでプロフィール一覧とか作った方がいいですかね?
ネタばれにならない範囲で。
要望があったらやります。
というのも、知人からキャラの名前が分かりづらいと言われたからなんですけど。
分かりやすく書けるようになるのも鍛錬ですね。
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