聖杯のそもそもの解釈というか、Fate世界のサーヴァントのこととか
ややこしいのが出てきます。
敵味方の対立がはっきりしてきました。
まだ続きます。
「燈…!」
わたしの体は横に吹っ飛んだ。
衝撃が全身を襲う。
防御は間に合わなかったが、直撃ではなかったように思う。
それに気付いてハッとした。
体の痛みなど忘れてしまうくらいのショックに見舞われた。
慌ててギルガメッシュを探す。
移動するのもやっとのその体でわたしを庇ったのだ。
「ギル!!」
「…しぶといわね。相変わらず」
その声には聞き覚えがあった。
数日前までよく聞いていた、感情の少ない静かな声。
優しかった頃よりもトーンが低い。
その少女を認めたくなくて、わたしは真っ先にギルガメッシュに駆け寄った。
「無駄よ…そのサーヴァント、もう虫の息じゃない。私の敵じゃないわ」
「そんなことない!」
「雑種よ…いい度胸だな」
いつものように強気な発言からは覇気が感じられなかった。
対する少女は、クラスメイトの和泉。
槍を携えてこちらを見下ろしている。
キャスターとは別行動だったのだ。
アサシンとキャスターが共闘している姿を見て、彼女はいないものだと思っていた。
浅はかだった…そう悔いてももう遅い。
「まだ無様にもがいてるのね…もうあなたに出来ることなんてないでしょうに」
近付いてくる和泉は足を止めない。
単純に甘さだった。
宣戦布告をされた時の目は忘れもしない。
それなのに心どこかで、まだ大丈夫、と思っていた。
そうであって欲しいと望んでいたのはわたしだけ。
彼女の殺意に気付きながら、それから目を背けたのはわたし。
「わたしはまた仲良くしたいだけ…!」
「バカじゃないの!まだそんなこと…本気で思ってるのね…?」
言葉は届かなかった。
和泉は吐き捨てるように言ったあと、槍をこちらへ向けた。
話し合う気も、和解する気も毛頭ない。
そんな顔で、わたしを見て欲しくなかった。
憎悪にまみれた、あの頃とは別人のような表情を、わたしに向けている。
「わたしだって昔やったこと、どうにか思い出して償いたいと思ってるし…」
「どうやって?」
そんなの決まってたら苦労してないし、と言いたいのをぐっとこらえる。
それまで待ってくれ、なんて言える立場じゃないことも分かってる。
特に和泉は被害者だ。
その復讐の念が正しいかどうかなんて道理でどうにかなる感情じゃない。
わたしが被害者だったら、そうなってないなんて、絶対に言い切れない。
「でも皆が、助けてくれるなら…生きて償う方法を探さなきゃって、逃げるつもりなんてない」
和泉や被害者の気持ちが晴れることはないかもしれない。
ずっと恨みを抱えながら悲しみに耐えて生きていくしかないのかもしれない。
そしてそれはきっと、わたしの自己満足で終わる。
だとしても、逃げて対話を避けるより幾分かマシな気がするのだ。
「何を言うかと思えば…知らないみたいだから教えてあげる。」
彼女は一度言葉を切って切っ先を振り払った。
「あなた、死んだのよ」
「…耳を傾けるな!燈!」
和泉の体に鎖が絡みついて槍が落ちた。
そのカラン、という音をどこか遠くで聞いていたように感じた。
和泉の言葉を反芻した。
死んだ。
彼女はそう言ったのか。
「焦るということは図星なのね。そう、あなたは知っているのに教えてあげないなんて…」
「黙れ…握りつぶしてくれよう」
わたしはギルガメッシュを見た。
立ち上がることもままならないその体で、背後から延びる鎖を操っている。
わたしを見る気配は一向になかった。
何か、彼は何か知っている。
何を知っていて、隠しているのだろう。
なぜ、今まで何も教えてくれなかったのだろう。
「…どうして?じゃあ、わたしは一体、」
もしも和泉の言葉が本当なら。
ギルガメッシュの焦りが図星であるなら。
わたしの記憶が無いことの意味は。
徐々に穴だらけだったピースが集まり始める。
それは今にも一つの結論を導き出そうとしていた。
嫌だ。知りたくない。
この期に及んで理性が働きかける。
嘘だ。そんなものは知らない。
「…それなのにあなたは今も…こうしてわたしの前で、」
「耳を傾けるなと言ったはずだ」
和泉の言葉が突き刺さる。
まるで悪夢だ。
戦争の記憶は、どの時代にあっても綺麗なものしか残されない。
汚いものには蓋をして、見なかったことにされてきた。
その見たくないものだ、わたしは。
和泉にとって何よりも見たくないものが、何度も目の前に現れる。
そんな悪夢から、彼女は一生目覚めることができないのだ。
そう、わたしが死ぬまでずっと。
「そうして、何も教えてくれないの…?」
「おい!」
わたしは初めて彼を疑った。
教えて欲しいと懇願することはあれど、それはわたしの責だから彼を責めることはしなかった。
でも、どうして頑なに黙り続けたのだろう。
知らないはずがないのに。
「さよならしなさい」
「…なっ」
ギルガメッシュの鎖は砕かれた。
粉々になって弾け飛んだ。
一瞬何が起きたかわからず、わたしはぐらつくギルガメッシュの姿をぼんやりと見ていた。
その顔が苦痛に歪み、どこからともなく現れた鎌剣に体を割かれる様子をただ見ているしかできなかった。
「…ギル!…ギルガメッシュ!!」
そんなはずない。
その鎌剣は。
鎌剣が戻っていった持ち主を目で追えば、予想通り見たくない光景が飛び込んでくる。
そんな、どうして。
叫びたいのに声が出ない。
整った顔立ちの青年は、いつもと変わらず優しい表情で笑っていた。
嘘だ。
嘘だ。
嘘だ嘘だ嘘だ。
その二文字が頭の中まで埋め尽くす。
「いやだあああ!」
ギルガメッシュは実体を保てなくなり、強制霊体化してしまった。
まだその反応は消えていない。
声をかけても返事をしない。
膝から崩れ落ち、両腕で体を抱きしめる。
震えが止まらない。
なんだ。なんだこの感情は。
「あなたにも分かる?大切な人を失う絶望が」
真っ白な思考に、和泉の声が降りかかる。
まずい、逃げなきゃ。
まず思いついたのは逃げることだった。
ここにいてはいけない。
でも、足がすくんで動きやしないのだ。
これは恐怖。
寒気とふるえと、何かに追立てられるかのような感覚。
逃げても逃げても追ってくる。
「どうするんだい、この娘」
「…殺すわ」
「君が?」
「…ええ」
ライダーは裏切ったのだ。
いや、違う。
初めから味方ではなかったのだ。
わたしを助けたところで、彼にメリットはない。
和泉に味方し、ギルガメッシュを仕留め、わたしを殺す。
彼の望みは分からない。
分からないが、聖杯だとしたら、より生き残る確率が高い方に加担するだろう。
そうして彼は、最も強大な敵であるギルガメッシュを追い込んだ。
「誰か…誰か、助け、」
言葉はうつろで、誰に助けを求めているかも分からなかった。
涙で視界がぼやける。
完全に敗北だ。
ここまでだ。
助けてくれたギルガメッシュも、間桐も、みんなここにはいない。
無事に帰ったとしても、間桐は、彼はまたわたしと手を取り合ってくれるだろうか。
「猛省なさいな。…後悔なさいな」
和泉は槍を振り上げた。
「…そこまでです」
「…⁉」
その槍は振り下ろされることなく弾かれた。
あの声は確か。
落ち着いて紳士然とした、あの声の持ち主は。
「ナイ…さん」
「…あなたは⁉何者⁉」
何が起こったのか把握する前に、ナイはその剣捌きで和泉を下がらせてしまった。
これほどまでに剣術に長けた人間など見たことがない。
和泉とて槍を振るうからにはたしなみ程度でも経験者のはず。
それをもろともしない上に、初心者が見ても卓越していると分かるほどの芸術的な一振りだった。
「九蘭さん!」
間桐の声に我に返る。
どうやらアサシンとキャスターを撒いてきたようだ。
それとも遠坂も走ってナイに追い付き、和泉に睨みを利かせる。
ライダーはいつの間にか消えており、そこに佇むのは和泉だけ。
「それ以上するというのならば…容赦はしません」
「キャスターとアサシンを下がらせたっていうの…?どういうことよ、ちょっと!」
「…申し訳ありませんマスター。ここは一時引きましょう」
そんなバカな、と和泉はわたしを見た。
あと一息。あと数秒もあれば息の根を止めていたのに。
だが、いつの間に現れたキャスターはそれすら想定済みというように焦らなかった。
いつか見たあの剣を取り出して何かを唱えている。
「 」
唱え終えてその姿が消える瞬間、キャスターの口が不自然に動いた。
あれは…ま、た、…。また、いつか。
はっきりとゆっくりと、確かにそう言ったように見えた。
またいつでも殺しに来る。
その宣戦布告だろうか。
何にせよ一時の安息も許されそうにない。
「燈さん、失礼しますね」
「…え!?」
ふい、と体が軽くなったかと思えば、わたしは遠坂に抱えられていた。
いわゆる姫抱きというやつだ。
瞬く間に魔法陣が浮かび上がり、周囲を炎の膜が覆う。
転位魔術。
遠坂の屋敷は一部損壊し戻るのも危険な状況で、どこへ向かうのだろう。
「一瞬だけ息を止めていて」
耳元で囁かれた言葉に従順に対応し、呼吸を止めた、目を閉じた。
そうするとギルガメッシュの気配がありありと伝わってくる。
大丈夫だ、まだ消失するほどじゃない。
…でも。
かなり重症だ。意識を保っているかどうかも分からない、ただ静かな呼吸の音だけ聞こえる。
「もう着くよ」
その声に目を開くと、見覚えのある風景が飛び込んできた。
ドサ、と多少の衝撃が襲う。
「燈ちゃん…大丈夫かい?」
「す…隅田さんっ」
その心配そうな表情を見ると、一気に安心してしまい体の力が抜けていった。
座り込んだのは、水石堂の店奥の座敷。
ここを目指して走っていた。
ここへ来れば大丈夫だと思ったから。
ようやくたどり着けた、第二の自宅と言っていいほどの場所。
「大変だったようだね。王はどうしてる?」
「ギル…返事しないの…どうして、魔力が足りないから?…全然回復しないの」
縋りつくように訴えるわたしを宥めながら隅田は一同を見渡した。
それぞれ小さくはあるが激戦の爪痕が覗える。
「間桐くん…ライダーはどこへ?」
「…戻ってません」
ライダーの気配はなかった。
何があったと言うのか、彼はギルガメッシュに痛手を負わせた。
先ほど逃げられる隙を作ってくれたのも、罠だったのだろうか。
和泉とわたしを会わせるための。
間桐は苦々しく俯いている。
きっと何かあったのだ。
わたしたちが逃げた後に。
「伊勢三、くんは…ギルを…、」
口が勝手に動いたようだった。
認めたくない。
間桐を責めたくない。
だけど。この悔しい気持ちをぶつける場所が見つからない。
どうして?と聞いたところで意味などない。
それでも…深手を負ったギルガメッシュを前に、黙っているなんてできそうになかった。
「何がどうなってるか分からないけれど…ライダーが寝返った可能性が高いんだね?王の傷は彼の宝具によるものだろう…その怪我は自然治癒でしか治せない」
それを聞いて愕然とした。
隅田の駆使する治癒魔術に頼るほかないと思っていたから。
わたしの魔力と、英霊としてのギルガメッシュの力を信じるしかないなんて、途方もない話だった。
「…そうだ。もう四の五の言ってられないね…」
「いい加減腹を括りましょうか。貴方も…僕も。」
隅田の言葉に、やれやれと言ったように遠坂も頷いた。
間桐とわたしは固唾を呑んでその様子を見守る。
今までみたいに、また今度、とできる問題じゃない。
此方が早いか、あちらが早いか、それは重要な駆け引き、すでに勝負は始まっていた。
*
*
*
「その話…本当なんでしょうね?」
少女はマスクの男を強く睨みつけた。
「もちろんだ。こちらにもメリットがある」
私は一人思案した。
ライダーの強奪に成功し、九蘭燈は始末し損ねたものの、当初の目的であったアーチャーの無力化に成功した。
ここまでは私の計画通り。
マスターにはすべて話している訳じゃない。
だが、それも些末な事。
結果的には九蘭燈も消えて、彼女も私も望みは叶うのだから。
「…信用していいのかい?」
「君がそれを言うのか、アサシン」
「僕は…与えられた命には従うさ」
アサシンの表情は分からない。
だが、この男は余程のことがなければ牙を剥くことはないだろう。
この存在のことを詳しく知っている訳ではないが、大体当たりはついている。
およそこの時代に相応しい、混沌の世界を混沌によって救うのが得意な輩だ。
私はそういうのは、嫌いではない。
「要するに、だ。私たちは本来、七騎で力を合わせてやらねばならないことがある。」
彼の話は、今回の聖杯戦争における意味や目的を明らかにするところから始まった。
怪物を退治する方法を知っているかい?と彼は言った。
もちろん聖杯からこうして選ばれて喚ばれたからには、その仕組みもある程度理解していた。
だからすぐにピンと来た。
「…
和泉は息を呑んだ。
本好きの彼女からすれば、それはただのお伽噺のなかの怪物。
いわゆる抑止力と呼ばれるそれの一つだ。
彼の話はこうだ。
それが本来のサーヴァントのモデルだったはずだ。
つまり、七騎集めて怪物を倒す。
この場合の怪物に値するのは…
「九蘭燈か、英雄王ギルガメッシュ」
マスターの少女そのものか、もしくはアーチャーの皮を被った偽物の何かだとすればありえない話ではない。
そもそも初めからおかしかった。
彼はサーヴァントにしてはずいぶん長いこと、この世界にとどまり続けていたのだから。
「ライダーは取引に応じた…あとはセイバー、ランサー…本物のアーチャー」
「セイバーならいたじゃない。かなり強力なのが」
「本人から名乗られていない以上、また仮定としておこう」
和泉に対抗した剣の使い手。
確かにあれはセイバーの風格を携えていた。
仮にあれをセイバーとすれば、遠坂も聖杯戦争に本腰を入れてきた、ということになる。
予想していた展開とはだいぶ違うが、これはこれで楽しみが増える。
私はそもそも聖杯に興味はない。
魔術師として興味はあるが、個人としてはその対象の一部に過ぎない。
「ランサーを探せばいいのね」
「君には後で大役が待っているから、そこまで気を遣わなくともいい」
「ええ…あの娘を仕留める役割さえ与えてくれれば、聖杯なんて差し上げるわ」
わがマスターは九蘭燈を殺せればいい。
そう言ってこの陣営に加担した。
面白い。その一言で私も応じた。
それぞれの思惑が大体見えてきた。
矢印の向かう矛先も、予想通りで、ただ一つ分からないことがあるとすれば…ライダー。
彼は急にこちらへ寝返ったように見えた。
初めからそのつもりだったのか、あるいはこの男に何か吹き込まれたのか。
「でも。あのセイバー…どうやって丸め込むつもり?」
「安心したまえ。あれでも遠坂、すんなり聖杯と冬木を渡すつもりなどない」
遠坂は冬木の主に等しい家系。
和泉の家もかなり大きい方だが、それ以上のようだ。
そして何より素質が違う。
歴代の当主の中に
それは私にとっても切っても切り離せない。
大変稀有な能力。
「何を考えてるか分からない男性だったけれど。つまりはそういうことなのね?」
「それに関してはお前が詳しいんじゃないのか、アサシン?」
我らは互いの真名を明かしていない。
必要がないからだ。
それでもクラスや使う宝具などである程度予想はできてしまうもの。
それでも、このアサシンの素性は分からなかった。
見かけた武器は銃。
かなり近代の英霊、ということは確かなようだ。
「遠坂の若頭はかなり優秀なようだね…その血筋からも手ごわい相手なのに、サーヴァント最優のセイバーを召喚されたら歯が立たない。あれがセイバーだったら、の話だけど」
アサシンは遠坂の魔術属性が火であることと、彼自身は
遠坂は間違いなく聖杯を奪いに来る。
もしかしたらこちらの思惑に気が付いてあえてあちらについたのかもしれない、と。
「ただ言えることは、遠坂の血筋は冷酷だ。間桐、あんたもよく分かってるだろう?」
「ああ…忌々しいね」
魔術師として完璧であればあるほど、その性格は残酷さを増す。
目的のために手段を選ばないとはよく言ったもので、それは魔術師のためにあるような言葉だった。
だとすれば遠坂はどちらの味方でもないということ。
最悪の場合、九蘭燈を利用して何か企てるのもやぶさかではない、ということ。
「ご存じとは思いますが…
確認ですが、と付け加える。
怪物を制する話も仮定に過ぎないが、本気でやろうとしているならば、細部が異なってくる。
この男に限って知らないなんてことはないだろう。
それに解釈として決して間違っている訳でもない。
男が頷くのを確認した。
「一応聞いておきましょう…怪物を制したあとは…どうするおつもりで?」
和泉も鋭い視線を向け、アサシンは目を閉じてはいるが、黙って聞いている。
誰も聞くことはしなかった。
その怪物を制した後はどうなるのか。
疑問に思わないはずない。
我々の本来の役目が、将来現れるであろう怪物の退治だというのなら、対価は一体何になるのか。
ただの平和なのか。
いや。魔術の世界にそれはない。
「ボランティアでも慈善活動でもないんです」
我々魔術師が、世界平和のために動くわけがない。
言ってしまえば、厄災や災害ですら利用してしまうような血も涙もない連中が大半だ。
キャスターだからこそ分かる。
魔術師のクラスを与えられるほど、この身は魔術に傾倒してきた。
「…良からぬことです。ただ、あなた方に危害を加えることはありません…お望みならば殺し合うのもいいでしょう。ね?」
沈黙が降りた。
「…分かりました」
なんかいろいろ言うとネタバレになっちゃうので止めておきます・・・。
ちょっと楽しくなってきた。