遠坂は土地を守るため、間桐は血を守るため。
(ついでにキャスターは何がしたか謎)
真意の探り合いで裏切り・寝返りが多々起きています。
が、本当に悪意がある訳じゃないんです。多分。
ブクマ、長いのにみなさんお付き合いありがとうございます。
傷が癒えそうにないギルガメッシュの気配を感じる。
こんなことは初めてだ。
遠坂に告げられた言葉を思い出す。
ギルを殺すために集められたサーヴァント。
その可能性を嫌でも見せつけられている気がする。
「九蘭さん、さっきのこと…」
奥で遠坂と隅田が話しているので、間桐はこちらへやって来たようだ。
今日は自宅へ帰らずに水石堂の結界の中にいるように言われた。
聖杯のそもそもの由来と、サーヴァントのモデルとなった守護者の話。
信じたくはないが、確かにギルガメッシュはもう長らく現世に留まってしまっている。
「本当にわたしが召喚したのかさえ…分からないの。こんなに強いギルがいたら、確かに世界の抑止力は動かざるを得ないかもしれないけど…」
自分のことさえ信じることができないでいた。
ギルが、そうじゃないと言い切れない。
もちろん感情に訴えて、ギルは無害だと喚くことは容易い。
でもそれは、わたしもギルも望むことじゃない。
きっとわたしも、そろそろ選択を限界なのだろう。
どうすればいいのか、薄々分かってはいた。
実行に移すかどうか、これから決めなくてはならない。
「ライダーとはパスが切れてないんだ。だからどうしようもなくなったら、俺もやらなくちゃいけないことがある」
令呪。サーヴァントを強制的に縛る、呪いの楔。
可能な限りの命令ならば聞かせる強制力を持つが、それは諸刃の剣。
一歩間違えれば牙を剥くこともある。
とにかく今はライダー手ずからの反逆を恐れて令呪の温存をするように遠坂から告げられている。
戦力が欠けるのは痛いし、こうして令呪のもとにあれば、少なくとも彼自身も現界という恩恵を受けることができているのだ。
「大丈夫だよ…そんなことにはならない。絶対」
わたしは一つの希望を見つけた。
いや、希望なんかではないかもしれない。
誰かが幸せになれない道なんて希望とは言えない。
でもわたしはそれに縋りたいと思った。
何もせずにじっとしていることなんか出来ない。
きっと、”わたしが動けば”状況は変わる。
良くも悪くも、釣られた誰かが動くのは間違いない。
「今を耐えればきっと…状況は良くなるからさ」
根拠の無い戯言でもいい。
例え希望に背く行動だとしても構わない。
わたしの欲望も憎しみも、世界の前では大したことがない。
捨ててでも拾いたいものがある。
「間桐くん…隅田さんたちにお夕飯何にするか聞いてきてくれる?」
「あ…うん、そうだね」
素直に従った間桐を見送って、わたしは立ち上がった。
*
*
*
「燈ちゃん!よかった…一体何して…⁉」
「ごめんなさい隅田さん。でも…こうするしか、思いつかなくて」
「これは…驚いた。君って人は」
水石堂から外出すること数十分。
慌てた様子の隅田からの電話で、わたしは戻ってきた。
しかも、大きな土産を引き連れて。
急にいなくなってさぞ驚いたことだろう。
だが、こっそり外出するにはこれしかないのだ。
一人じゃないと万が一にも彼が警戒してしまうかもしれなかった訳だし。
「その…サーヴァント…?」
「おう、バーサーカーの坂田金時だ。燈の頼み、引き受けたぜ!」
ポカーンとする隅田や遠坂を前にして、坂田金時は豪快に笑った。
一か八かにかけた、わたしに出来ること。
これは、その決意だった。
彼にだってマスターはいるし強制権も無ければ従う利益もない。
利用していると言われればそこまで。
でも、申し訳なさとか倫理観とかそういったものは今は無視したい。
「よく従えたね…さすが、君は」
遠坂は何か言おうとしたのか、だが途中で言葉を切った。
わたしは今、どんな顔をしていることだろう。
普段から心配やら何やらでいろいろ言ってくれる隅田も間桐も、今日ばかりは何も言わなかった。
いや、言えやしないのだ。
こんなバーサーカー一人容易く従えてしまう、それがどんなことかわたしだって分かっている。
「魔術回路は人並み以上なの…使わない手はない、でしょう?」
強引にパスを繋げてしまうことだって、その気になれば出来てしまうかもしれないのだ。
つまり、一人で二騎分のサーヴァントを従えられるという可能性を示唆している。
七騎分の二騎。
歯向かうことの出来ない、絶対的支配者にだってなり得る。
「令呪まで奪うつもりないから。大丈夫だよ」
「でも…その分の魔力量を王に回さなくていいのかい…?」
「違うんです。魔力供給は、元のマスターがしています」
イレギュラーすぎて訳が分からないだろう。
隅田たちに、そもそもわたしを狙ってきた金時のことを伝える。
理解してもらえなくてもいい。
それでも彼は、今まで出会ったどんなサーヴァントとも違う。
彼は、わたしが持っていないものを持っている。
尊敬。理由なんてそれだけで十分だった。
「金時がこちらにいる限り…マスターは手出しをしないはずです」
「俺っちのマスターはよぉ、外に出てこねーんだ、好きにしろって言われちまってるしなぁ」
金時のマスターは、初めこそ有名で脅威になるかもしれないわたしを真っ先に消そうとしたようだ。
だが、そこに拘らないあたりを見れば邪魔する気はないらしい。
滅多に家から出ないのも好都合だった。
最悪の場合令呪を行使するかもしれないが、キャスターやアサシンと繋がりがある可能性は低く、それだけ分かれば今は十分だった。
「よく喋るね…本当にバーサーカー?」
「おう!でもバーサーカーってのは好きじゃねえ…ゴールデンと呼んでくれ!」
初めて出会ったときと同じように、彼は裏のない笑顔で笑った。
金色の髪とアクセサリー、その眩しさがギルガメッシュと重なってしまう。
彼は起きたらなんと言うだろうか。
馬鹿者、と怒鳴られるだろうか。
何となく想像がついてしまう。
しかし許せとは言わないから、このまま振り向かせないでほしい。
いま立ち止まれば、もう走れない気がするんだ。
「何か考えがあるようだね…聞こう」
「…はい。わたしは、彼を連れてキャスターの工房へ行きます」
「…それは何故だい?」
「…友だちが、待ってるから」
隅田は反対せずに聞いてくれた。
優しい彼のことだ、反対したい気持ちでいっぱいのはず。
それでもわたしを、いつも自由にしてくれるのだ。
リスクも無視して、わたしを解き放ってくれる。
そんな隅田のためにも、わたしは友だちを取り戻したい。
だって、あんなに喜んでくれたから。
*
*
*
私は遠坂邸に負けず劣らず大きな屋敷の前に立った。
日本へは初めて来たが、こんな建物が今だ残っていようとは思わなかった。
我が主はいつものようにスーツを着込んで、ポケットに手を入れたまま人を待っている。
「ナイ…」
急に呼ばれて、はい、と返事をする。
相変わらずこちらを見ずに、目の前の洋館…間桐邸を睨むように見上げた。
「私は卑怯だと思うかい?」
「…いいえ」
主はいつも自分に正直な人間だった。
誰よりも、誰よりも欲望に忠実で、決して嘘はつかない。
結果的に他人を欺くことになったとしても…主は一度も嘘をつかなかった。
「周りがみな、勘違いをされているのです…主は、魔術師として正しい」
遠坂というのは、おそらくこの国一番の魔術師だろう。
若くして時計塔へ入り、そこでの修行を終えてこの地に戻って来た。
守りたいだけ。知らぬ何者かに荒らされた自身の領土を守りたいだけ。
何人が血を流そうと、主は取り戻すだろう。
荒れ果て枯れる前の、冬木という土地を。
「そうかい…ああ、来たね、間桐の、」
門の向こうから歩み寄ってくるのは、刃を交わしたあのマスクの男と、アサシン。
そして、金髪の青年。
先日戦ったばかりなのに、どんな顔をすればいいか分からず、私は俯いた。
「やあ。久しぶりだね…正道」
「ああ…よく帰って来たな」
柳洞正道は笑みを崩さなかった。
主の旧友と聞いたこの男は、心から再会を喜んでいるように見えた。
対して親戚であるはずのマスクの男は、表情を一切変えなかった。
主と目が合うと、そのまま数秒間の沈黙が訪れる。
永遠にも感じられるにらみ合いのち、口を開いたのは我が主。
「…ずいぶんなご挨拶だったじゃないの…開耶さん?」
「随分と早く修行を終えたじゃあないか。まさか此度に間に合わせるとは、さすが間桐と遠坂は違うな」
皮肉交じりのマスクの男…間桐開耶の言葉に、主はニタリと頬を釣り上げた。
主の努力は、ここ数年だけでもたくさん見てきた。
だが、水を差すようなことはしない。
あくまでも従者、主の危機だけに目を光らせろ。
今日の目的はまだ果たされていないのだから。
「それで、だ。正道…君には言いたいことが色々ある。…分かっているだろうけれどね」
「さすが、よく気付いたな。それとも初めから知ってたのか?」
「おかしいと思ったよ…だって開耶…君には英霊を使役できるような才はなかったはずだからね」
その台詞にぎくりとしたのは、私だった。
それはつまり、どういうことなのか。
ではアサシンは、誰が召喚したというのか。
てっきり間桐開耶がマスターだと思っていたアサシンは、誰のものなのか。
答えを急かすように私は主を見た。
こんがらがっている糸を慎重にほどくように、真実を探る。
一つ一つこれまでの言動を思い返すように。
「どうしてだい?どうして…アサシンから手を放したんだい?正道」
「…これも作戦のうちだぜ、楓。そのおかげで俺からあいつらの目を逸らせたんだから」
「バカな…っ」
私は思わず口走る。
主は言っていたのがどういう意味か、ここでやっと理解した。
察するところが真実であるなら、魔術師として非道どころではない。
苦しい面持ちをしていた過去の主を思い出し、奥歯を噛みしめる。
ああ、そういうことだったのか。
「俺はセイバーを召喚したかったんだ…あの寺なら十分に可能性があるだろ…剣豪には特にな」
「君ほどの優秀な魔術師がどうして今まで大人しくしていたのか、ようやく分かったよ」
セイバーを召喚する。その言葉が本気だということは間違いない。
セイバーとは、最優のクラス、誰もが欲しがるような強い英霊が召喚されやすい。
過去にはそう、ブリテンの騎士王とかがそれに値する。
だが柳洞が狙うのはそれじゃない。
柳洞寺とう場所には何があるかくらい私も知らされていた。
まさかこんな場所に、どうしてそこにあるのか、謎は多いが確かにあるらしい。
「佐々木…小次郎か」
「ああ…過去にあいつはアサシンとして顕現しちまったが…セイバーであれば十分戦えんだろ」
だから先にアサシンを召喚した。
万が一にもアサシンにならぬように。
セイバーが本当に彼の適正クラスかは定かではないが、その他の適正も聞いたことはない。
だとしたらありえない話ではなくなってくる。
加えて、彼の素質の高さに、そういった触媒には事欠かない寺。
「だからアサシンは預かった。まったく、聞き分けの良い御仁で助かったというもの」
「アサシン…なのか、本当に?」
アサシン、にしては気配遮断などのアサシンとしてのスキル構成がちぐはぐだ。
すぐにそこまで見抜ける訳ではないが、それほどらしくない、と言えばいいのだろうか。
ずっと違和感を感じていて、その正体を掴めずにいたのは主も同じだったようだ。
「ふふ…さすがに君ですら実物を見たことがないだろう。これが現れた時に悟った。怪物は、必ず現れることを」
「ほう、アサシンとして以外の役目を得ている、ということかな。それは…あのアヴァロンに関係しているのかい?」
アヴァロンが出現したとき、九蘭燈と取り合いをした。
ということは、彼らにもそれが出現する情報があったということ。
あれが顕現した理由もまだ分かっていない。
九蘭燈ですら、たまたま遭遇したというレベルの話だった。
このアサシンがそれを予見していたというのか。
「いいよ、そこまでで。ありがとう」
主は手を打った。
そして笑顔を浮かべる。
「いいのかね?遠坂ともあろう人間が」
「情報としては対価が成立した。僕たちの方向性は定まったよ」
間桐開耶に手を差し出す。
彼は、何の疑いもなくその手を握り返した。
契約成立。
「手を打とう」
目を細めて、今までとは真逆の笑みを浮かべた。
間桐開耶も同じように笑っていた。
結果として、私たちは協定を結ぶことになった。
九蘭燈ではなくて、間桐陣営との。
もちろん彼女はこのことを知らないだろう。
でも仕方がないのだ。
我々は冬木を守らねばならない。
そのためなら、手段を選んではいられないのだから。
第六章終了です。
思ったより長引きそうで困惑してる。
extellaが結構作りこまれてて二次創作でいじくりまわしたい衝動が抑えきれない。
だいぶ方向性も定まって来たので、起承転結の転真っ只中、です。
もう少ししたら過去編ですよ。
また長くなりそう。
第七章もよろしくお願いします。