かなり話数が多くなってきたのに、日々増えていくブクマに喜びしかありません。
本当にありがとうございます。
起承転結の転まで来ました。
あと少しで主人公のことも分かると思います。
サーヴァントたちの正体も分かってくると思います…
―――――何をしようとしている?
“声”が、わたしに話しかけた。
―――――一体、どこへ向かおうとしている?
よく知った”声”。
最近聞くことのかなわないそれに耳を傾ける。
―――――あいつを選べ。
すぐに何のことかわかった。
わたしは口を開くこともできずに、”声”は一方的に話しかけてくる。
―――――お前を救うのが誰なのか、見極めよ。
彼は分かっている。
分かっていてわたしに問いかける。
一体何がしたいのか、どこへ向かうのか。
*
*
*
「ついてきてくれてありがとう」
「おいおい、俺っちがしたくてしてるんだぜ」
わたしはいつかのキャスターの森の入り口に来ていた。
ここが和泉の家なのかどうかは分からないが、ここへキャスターが工房を構えるということは、彼女もここへいる可能性が高い。
「…うん。それでも、ありがとう」
わたしは森へ足を踏み入れた。
木々が不自然に枝分かれし、もはやこちらに気付いていることを示していた。
工房までの道のりを案内するがごとく道ができてゆく。
キャスターは攻撃もせずにすんなりと通すつもりらしい。
「…キャスター」
「…お待ちしておりました、燈さん」
気付けば目の前に、にっこりとほほ笑む美青年が佇んでいた。
奥に控えているかもしれないが、彼は一人だった。
意図が読めず、ひとまずわたしはアランサーを構えた。
「なんのつもり…?」
「ええ、ええ。警戒なさらないでください。敵意はないと示しているでしょう」
彼はキャスターの中でもれっきとした魔術師、それこそ現代で知る人の多い英霊だと予想を付けた。
最弱のクラス、などと揶揄されることもあるが彼は違う。
天才。
その言葉がぴったりの魔術師。
そんな彼の工房には、バーサーカーですら足を踏み入れるのが難しいと聞いていたから、彼を連れてきたのだから。
「おう、あんさんが俺っちの相手をしてくれンのかい?」
わたしを隠すように鉞を担いで、金時が踊りでる。
彼は自身の役目をよく理解していた。
暴れたりない、もしかしたらそんな想いも秘めているのかもしれない。
その姿に圧倒されて、キャスターも物珍しそうな視線を向けた。
「…バーサーカー。驚いた、まさか味方につけてしまうなんて」
…違う。今何か、引っ掛かりを覚えた。
キャスターが驚いているのはバーサーカーという存在に対してか…いや、どうも違和感が拭えない。
彼は、まさか味方に、と言ったか。
「まさか、キャスター…」
信じたくない。
だが、あの彼がバーサーカーの存在を知らぬままここまで来るだろうか。
いや、そんなはずはない。
計算高いのは今までの行動で散々思い知らされた。
脅威となりうる存在をどうして野放しにしようか。
「ああ、お気付きですか…さすが、察しのいいお嬢さんだ」
その笑顔にぞくりと肌が鳥肌だつ。
ああ、それがあなただ。
それがあなたの本性だ。
「…わたしの方が…早かったみたいですね」
彼を篭絡するのは、と付け足して笑って見せた。
精一杯の虚勢に過ぎない。
だがそれでいい。
何もかもが彼の計算通りになる訳じゃないことを知らしめておく必要がある。
たった一つでも、一度だっていい、彼を欺く必要があるのだ。
「あっぱれ、って言うんでしたね、東国の皆さんは」
キャスターは背を向けて歩き出した。
ついてこい、という風に視線をくれた。
いまだわたしは警戒を怠らない。
ここで戦えば圧倒的に不利、それは誰が見ても明白。
バーサーカーで強襲をかける作戦も、ここまで深く入り込んでしまえば難しくなる。
「…燈。こいつぁ、どういうつもりなんだ?」
「…分からない」
彼の応対は予想していたものと違った。
ある程度消耗させてから話し合いに持ち込むつもりが、彼は初めから戦う気配を見せないのだ。
そして今、工房に和泉はいない。そんな気がした。
「さて。取引と行きましょうか、燈さん」
黙って返事をしないわたしを見て、キャスターはいつものようにほほ笑む。
「協力して、我がマスターを説き伏せませんか?」
あなたにしか、頼めないんです、とどこか申し訳なさそうな顔をして言った。
何を言っているんだ、と口を開きそうになる。
そりゃあもちろん、わたしだって最終的にはそう持ち込むつもりだった。
だが、簡単なことではない。
ましてや、なぜ彼がわたしにそれを依頼するのか…。
「私ね…大好きなんですよ、マスターのことが」
その表情は……今までに無いほど妖艶と、光悦としていた。
*
*
*
「燈、伏せてろ!」
「うわ…っ」
振り回した鉞の爆風が頭をかすめる。
間一髪でしゃがんだわたしの直上には、見覚えのない短剣が飛び交った。
飛んできた方向を探るも、敵の姿は一切見えてこなかった。
ある程度暗くとも、アサシン以外で闇に紛れる技術を持ったサーヴァントとはいまだ遭遇していない。
「アサシン…?」
だが、アサシンでないことは明白だった。
気配が違う。
気配が、あるのだ。
アサシンであればそれすらも遮断しているはずだ。
だが。誰かと聞かれればそれも分からないのだ。
「まさか…誰かの宝具?」
揺らめく気配は何も答えなかった。
続いて繰り出された第二撃も、金時が防いで見せる。
まさか、まだ目撃されていない第三勢力か。
十分にあり得る。見えなきゃ感じ取ればいい、わたしにも出来るはずだ。
目を閉じる瞬間、カバンの中のアランサーが光った。
「…な、に?」
恐る恐るカバンからそれを取り出す。
眩しいほどではないが確かに輝きをまとい、存在を主張している。
使え、ということだろうか。
でもどうやって?
…その問いは、柄を掴んだら解決した。
これの使い方も向ける相手も、何もかも決まっているではないか。
「…うお!?」
輝くそれに渾身の力を込めて、投擲した。
アランサーは、まるでそれが最も正しい使い方だというかのように真っすぐに飛んだ。
当たれ。
ただそれだけの念を込めて、光が炸裂するのを見守る。
当たったのか、驚いただけなのか分からないが、相手はついに声を上げた。
「こんなところで何しているの…いつからアサシンになったの、伊勢三くん」
チッと舌打ちが聞こえた。
やはりそうだ。
一言でも、聞きなれてしまった声は容易に判別がつく。
疑う間もなく、内心否定したい気もあったが、わたしは素直にそれを認めた。
今更わめいても仕方がない。
「…もっとガヤガヤいうかと思ったよ」
彼は姿を見せた。
「なんだあんちゃん、知り合いだったのか?」
「そーだよ。こいつのオトモダチのサーヴァント」
「じゃあ、仲良くしないと駄目だぜ?なんてたってマスターが悲しむからなぁ」
金時はにこにこと悪意のない笑みで応えた。
いつもこの笑顔に救われてきた。
当然のことなのに、わたしたちは金時に言われるまで忘れてしまう。
彼がいなければ、わたしはこうして冷静に伊勢三と、ましてや生きてなどいられなかったかもしれない。
「すげえ奴を味方につけたな。それで戦う気か」
わたしは無言で頷いた。
せめてギルガメッシュが回復するまで、それまででいい。
決してその場しのぎの契約なんかではないが、わたしには彼が必要なのだ。
「…へぇ。誰と?」
「誰…と?」
言葉の意図が分からなかった。彼は、何が言いたいのか。そんなの、敵と戦うに決まっている。
「だから…敵って誰?」
敵。わたしに害を成す存在。
アサシンや、キャスター。
でもキャスターとは一先ず休戦協定を結んだ。
となれば、間桐の陣営だ。
「でもあんたの目的は、違うんじゃないのか?向かってくるから追い払っていただけで、いつから倒すべき相手になったんだ?」
わたしに彼らを攻撃する理由なんて、あっただろうか…。
頭が混乱しそうでうまく回らなかった。
落ち着くんだ。口車に乗せられてはいけない。
分かっていても、脳は理解しようとするのをやめなかった。
「聖杯がほしいのか?それでないなら…あんたは理由もなく誰かを殺そうとしてるってことになるな」
人を。聖杯が欲しいんじゃなかった。
でも、脅威になるなら消さなければならないかった。
どうして?
生き延びるために。
誰かを死に追いやってまで?
…答えはノーだ。
わたしは、話し合いをしたかった。
だからキャスターに会いに行ったはずだ。
「話し合いのために、お前はバーサーカーを連れ出した…おかしいなぁ」
「ちが…だって、それは…自衛のために」
「おとなしく守られてるような性質じゃないって、いい加減気付いてるでしょ?その武器を持って俺に攻撃を仕掛けた。それがすべてだ」
不意に脳内に光景が過る。
青くて、青くて、真っ赤な記憶。
視線の先に立つ、逞しい青年の姿。
わたしは笑っていた。
真っ赤な炎の中で、真っ赤な血だまりの中で、わたしは。
青年の表情は…。
「いい加減思い出してよ。今のままじゃつまらないから。俺も知りたいし…約十年前のこと」
我に返り、見覚えのない風景に動悸が早まった。
なぜだ、おかしい。
知らないはずだ。
これが記憶の断片だとでもいうのか。
ずっと焦がれていた記憶が、こんな絶望の景色だとでもいうのか。
「おい…燈。こいつ、何言ってんだ?」
「…ごめんね…違う、違うの。何でもないから」
ただそう言うしかなかった。
口から出たのは否定の言葉だった。
心の中では分かってるはずだ。
嘘じゃない。これは、約十年前の景色。
覚えていないけれど、体中がそれを懐かしがっているのだ。
「ふふ…嫌だろうね、信じたくないだろうね…今、どんな顔してるか知りたい?」
自身の顔にそっと手をやる。
聞きたくないと耳を塞ぐこともできなかった。
どんな顔をしている、一体わたしは…わたしは今、誰なのだろうか。
「楽しそうだね…燈ちゃん」
顔の筋肉が引きつりかけて気が付いた。
口角が、不自然に吊り上がってるのが分かる。
信じたくない。
この動悸はきっと、動揺しているだけだ。
…高揚しているはずない。
そんなはずない。
「…ずいぶん楽しそうなことをしておるではないか…雑種どもよ」
久しぶりの声に、わたしは勢いよく顔を上げた。
書いてて思うのは、話の切り替え方が難しいんですよね。
途切れてもおかしくないような結びを模索しているうちにだんだん長くなってしまったりして。
キリが悪いのがどうしても嫌です。
だから、書きたいことを思うがままやってると後でつらくなります。
また次回もよろしくお願いします。