Fate/veil a life   作:如月龍

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続きです。

過去の話を小出しにしていきます。
過去の話は書いてて愉しい。


第七章~本当のウソ~(2)

 

 

俺はただ、聖杯戦争において一人の犠牲者も出したくなかっただけだ。

そのために好きでもない魔術の修行をしたし、勉強もたくさんした。

 

「楓さん、あなたは…約十年前のこと、どのくらい知ってるんです?」

 

「ほとんどさっぱりだよ。うーん…メンバーも全員は知らないし」

 

「…九蘭さんのことはなんで、」

 

遠坂は調べ物をしながら持っていたコップをおく。

ここのところ俺はあちこちに張られたアサシンの結界を消して回り、遠坂は何か調べ物をしていて事態の進展はなさそうだった。

九蘭は今朝出かけてから一度も戻っていない。

 

「そりゃあ有名人だよ。唯一の生き残りだもの」

 

「…その話、本当に、」

 

「ああ、聞かされてなかったんだったね」

 

俺はまだ信じられずにいた。

たまたま我が叔父が言っていた言葉に引っ掛かりを覚えてあれこれ詮索したら、まだ教えてもらっていないことがたくさん出てきた。

叔父が初めから九蘭を狙っていたとしたら、俺に教えないのも頷ける。

悔しいが、俺はそのために育てられていたのかもしれない。

 

「彼女の従えていたサーヴァントも分からないけどね…強かったそうだ」

 

強い、ということはあのアーチャーが当時から一緒だったとしてもおかしくない。

むしろそれ以外考えられない。

でなければ彼女をここまで守ったりはしないだろう。

だが、彼は何も語らない。だからこそ不自然さは拭えなかった。

 

「まー…あとはね、僕と彼女は無関係じゃないんだ」

 

「…それってどういう、」

 

「主。お話の途中ですが…」

 

従者のナイが部屋へ訪れた。

この前の戦いぶりから、俺は彼がセイバーだと疑わなかった。

膨大な魔力量、宝具を思わせる剣、人間離れした身体能力。

そして、無条件に遠坂へ付き従っている。

加えてまだセイバーの姿は目撃されていない。

 

「九蘭燈がライダーと接触した様子…それと、王の気配が」

 

「王が目を覚ましたかな」

 

遠坂は口元を手で覆い、俺の位置から表情は見えなかった。

 

「あいつ…!」

 

「落ち着いてよ鏡夜。彼は危害を加えたりしないはずだから」

 

遠坂はクスリと笑って言った。

なぜそう言い切れるんだ。

彼は突然寝返ったように見えた。

作戦があるとも言わずに、俺の前から姿を消した。

 

「燈ちゃんは…一人で行ってしまったか」

 

まるで彼女が一人で行動することを知っていたかのような口ぶりだった。

一体なぜライダーと一緒なのか、一体何をしているというのか。

マスターであるはずの自身が何も知らされていない。

しかも、今や敵側に潜むライダーだ。

 

「…もしかしたら、燈ちゃんも間桐やキャスターと通じていたりして、」

 

「そんなはずない!」

 

思わず叫んでしまった。

鼓動が早鐘を打つ。

だって彼女はあんなにも狙われている。

学校にいた頃も、一人で歩いていた時も。

そして、遠坂邸にいた時も。

それが全部演技だとか策略だとか、あまりにも出来すぎている。

 

「どうしてそう言い切れる」

 

「だって…」

 

言葉が続かなかった。

彼女と出会ってまだ一か月余り、何も知っていることなどないのに。

それでも、あの彼女の笑顔、全部嘘だとは思えないのだ。

 

「君は信じたいだけだ。そして、認めたくないだけだ…誰でも、自分が騙されていたとは思いたくないだろうね」

 

信じたい。

理由はないが、ただ信じたい。

遠坂の言うとおりだった。

俺は裏切られるのが怖いのだ。

嘘でした、と舌を出されるのを恐れているのだ。

臆病に嫌気がさす。

結局、彼女を庇える情報を、俺は何一つ持っていないのだから。

 

「君に一つだけ、教えてあげよう」

 

遠坂は立ち上がった。

部屋を見渡しゆっくりと歩きながら一冊の書物を手に取る。

 

「彼女のすべては…あの第四次聖杯戦争から始まっていたんだよ」

 

俺は目を見開いた。第四次聖杯戦争。

今も記録に残る、史上最悪と臆される聖杯戦争。

この冬木を火の海にし、初めて一般人への被害が拡大した。

すべて自然災害と処理されているが、間違いなく聖杯が起こした災害だった。

そして。

我が間桐家も、その一端を担っていた。

 

「その時の遠坂家の参加者は遠坂時臣…曾祖父くらいの世代だ。彼は優秀な跡取りを遺すことに必死だったそうだ」

 

決して彼が魔術に恵まれていなかった訳ではない。

子孫を遺し、希望を次世代に託すのは魔術師としての性だからだ。

優秀な跡継ぎを遺すことは、この世界においてとても大きな意味を持つ。

 

「そこに、優秀な子を産める女性が現れたとしよう…君ならば、どうする?」

 

「そんなの…」

 

その女性がどういう関係だったかも知らないし、それが本当の話かどうかも疑わしい。

結局、俺はどうもしないだろう。

子を遺すことについて重要性は知っていても、俺自身がそれに興味がない。

ましてや、子に魔術を仕込むことさえ躊躇しているほどに。

 

「君は魔術師としてはまだ卵。そのうちことの需要さがわかるさ」

 

確かに、混沌を極めたあの頃の聖杯戦争であれば、それすら拒めないほどに切迫していたかもしれない。

だとしてもだ。

もちろん俺は卵で未熟だ。

年のそう離れていない遠坂楓にさえここまで差をつけられている始末。

 

「卵は卵なりに、できることをするしかない…それ以外のことは、あんたたちに任せる」

 

「…君はそうやって責任から逃れるのかい?」

 

「そんなんじゃない!」

 

責任から逃れようとしたことなどない。

たとえ独りよがりだったとしても、困っている誰かの助けになれるよう努力してきた。

それだけじゃ足りないなら、じきに起こる聖杯戦争で部外者にならないように修行も怠らなかった。

全部、何もかも、業を背負って生きてきたからこその行動だった。

 

「できることとできないこと、区別するのは結構だけど…それじゃあ逃げてるのと何ら変わらないね」

 

そう言われても反論出来やしない。

すべて事実だ。自己満足だ。

こうやって責任を取るから見逃してくれ、と遠回しに言っているだけなんだ。

分かってるからこそ…だからこそ、俺は魔術の道に足を踏み入れたはずだ。

 

「だから、正道の魔道具を受け取れなかったんだろう」

 

あの時すごく迷った。

武器を取ることを。

取ってしまえば、そこで台無しになってしまいそうだった。

でも彼女はすぐに手に取っていた。

覚悟の違いを思い知らされたようだった。

 

「卵であれば、誰かから傷付けられることもない。その代わり…君はずっと一人で何もできずにいるつもりかい?」

 

ずっと誰かの指示の下で、誰かに守られながら生きていく。

それは楽なように見えて、とても残酷なことだった。

自身の足で立って、よろめきながらもしっかり歩く。

そんな雛鳥にすらなれていない。

 

「君は、初めて誰かのために自分の考えで行動したんだろう?」

 

学校や街中で人助けをするのとは訳が違った。

彼らの求めていることは単純で、シンプルだった。

でも彼女は違った。

一人でいても寂しがりもせず、頭はいいのに世間知らずで、でも困っている様子はない。

彼女が何を求めているのか、俺はずっと分からなかった。

 

「彼女は言うなれば、そう、その辺にありふれた人間のようであって、それでいて数奇な運命の下に生きる人間だ。君はなんとなく察したんだろう」

 

自身と似ている気がした。

どこか、大きな何かを背負っているように見えた。

似ているから放っておけなかったのか、いや、似ていなくても俺はきっと彼女に手を差し伸べた。

 

「俺は…世界がどうあっても彼女の味方でいる…だって、そうしたいから」

 

理由としては不十分かもしれない。

なんだそれ、と鼻で笑われるかもしれない。

でも彼女はきっとそんなことはしない。いつもみたいに、困ったように笑うだけ。

謙遜して、その手を拒んだりはしない。

 

「そうかい…じゃあ。燈ちゃんを助けに行こうか」

 

 

 

 

*

 

 

*

 

 

*

 

 

 

かの黄金は、いつものような覇気を持たず。

今にも消えそうなほど青白い顔でこちらを睨み付けていた。

 

「まったく…我がいない間でこれだけのことをしでかすとはな」

 

ギルガメッシュが目を覚ました。

それだけで無条件に嬉しい、はずなのに。

わたしの表情は冴えなかった。

彼はもちろんそれに気付いている。

 

「しばらく見ぬうちにいい顔をするようになったではないか」

 

しかし、予想に反して彼は不敵に笑って見せた。

怒られると思ったからだ。

わたしがしようとしていることを、彼が止めない道理がない。

いや、ぜったいに止めると思っていた。

それだけ身勝手で独りよがりで、信じてくれた人たちを裏切るような行為なのに。

 

「燈…右手の甲を見てみよ」

 

包帯を外し、隠された令呪が露わになる。

そして目を見張った。

慌ててギルガメッシュを仰ぎ見る。

なんで、どうして。

それは言葉にならなかった。

真っ赤な令呪が、薄くなっていた。

消えかけている…そう表現できるほどには、もうずいぶんと色が薄いのだ。

 

「おおー、やっぱりな。おかしいと思ったよ…一人で二人分なんて」

 

ライダーの言葉でゾッとした。

正当な契約でなくとも、令呪がなくとも。

魔力が消費されていなくとも、二人はいま、わたしと共に行動している。

マスター一人につき、サーヴァント一体が基本原則。

それはわたしもよく知ってる。

 

「ちょうどいいじゃん…さて、本題に入ろうか」

 

ライダーは先ほどの好戦的な雰囲気をひそめて、両手を広げた。

 

「君と王の話、聞いたよ。怪物かもしれないんだって?…ねえ、英雄王」

 

その名前をライダーが口にするのは初めてだった。

そして、沈黙がおりる。わたしは何も言えず、ギルガメッシュの顔を直視することも叶わなかった。

沈黙は了承。

そう取られても仕方がないとしても、何も言葉が見つからなかった。

 

「ふふ…ふはははは」

 

彼はいつものように高笑いした。

きっと、馬鹿な話、と一笑してくれる。

彼自身が身をもって否定してくれる。

だって彼が、怪物なはずない。

 

「大きく出たな雑種よ……そうであったら、どうする?」

 

思わず顔を上げた。

初めて彼と目が合う。

今まで何度も優しくしてくれた、わたしを護ってくれた彼が、そこにいる。

間違いない、それは確かに英雄王ギルガメッシュだというのに。

 

「だとすれば燈…我を殺すか」

 

挑戦的な目。

すべてを刈り尽くす、王の中の王。

 

「もしも我が貴様を騙してここまで来た、と言えば…殺す理由は十分か」

 

「やめて…」

 

「貴様の記憶を奪ったのも、ずっと付きまとって来たのも…すべての原因が俺だとしたら」

 

「嘘…」

 

言葉にならない単語が口から洩れる。

それ以上は聞きたくなかった。

わたしは、今だってずっと彼に感謝しているのに。

 

「殺せ」

 

暗く低い声が、わたしの脳に衝撃を与えていく。

 

「お前の全力で…我を殺せ」

 

もし、もしも本当に、彼を殺して戦争が終わるのなら。

みんなが助かって、これ以上被害が広がらないのなら。

…間桐や和泉とまた、仲良くできるとしたら。

 

「お前の力、我に見せてみよ!」

 

わたしの手には、アランサーが握られていた。

なぜ?と思う暇もなく、歩き始めたわたしは、彼との間合いを詰めた。

本当に…?本当に、これしかなかった…?わたしたちは、時代に争いの火種を撒く存在でしかなかったの?

 

大丈夫。間違ってなんかいない。

したいようにすればいい。

 

いつか彼のかけてくれた言葉が、頭の中でこだまのように反響していた。

気が付けばわたしは、見覚えのある真っ赤な大地に座り込んでいた。

 

 

 

 

*

 

 

*

 

 

*

 

 

 

「王の反応が…消えたね」

 

それはまるで、雪のように白かった。

王が消えたことで霧散した大量の魔力が漂っていた。

 

「本当によかったんですか…王よ」

 

僕はずっとこの水石堂と一緒に、冬木を見てきた。

そして、聖杯を護ってきた。もう何十年、いや何百年にもなる。

人々に忘れ去られぬ限り、僕は存在し続けた。

聖杯が好きだから、護っているのではなかった。

これが呼ばれるときは、決まって多くの犠牲が出た後だった。

本来必要としない犠牲も含めて、杯は血を吸って力を増した。

 

「オリジナルでなくなってからもその力は健在ですね」

 

振り返ると、遠坂の若頭が立っていた。

 

「たとえ亜種でもね…人々が求める想いが強ければ強いほど…僕の力も大きくなる」

 

それは欲望。

どこまでいっても尽きない人間の欲望は、聖杯や僕が存在するだけのエネルギーを絶えず作り出してきた。

今更それは消えやしない。

神社に祭られる神々と同じ、たとえそれが神とは違う穢れた存在であったとしても、羨望の視線はなかなか消えやしないのだから。

 

「王は長らく現世に留まった…その意味が分かりますか?」

 

「彼は…聖杯の所有者だった。そうですね?」

 

僕はただ笑って見せた。

彼はこの世界に飽いていた。

何度も聖杯に呼ばれ、戦ってきた。

そんな彼が手にした杯は、もはやただの杯。

彼にとってなんの価値もないような杯に過ぎなかった。

 

「だから…あれを作ったんですか?わざわざ禅城の皮を被せて…」

 

「違いますよ」

 

彼の言葉を遮った。

燈ちゃんは、皮を被った偽者なんかではない。

ましてやホムンクルスの類でもない。

彼女はれっきとした人間だ。

少し生まれが複雑だっただけの、一人の少女だ。

 

「あなたは彼女を殺してはいけない…絶対に。例え彼女があなたを殺そうとしても」

 

彼女の悲願が、そこにある。

遠坂にそれを止める資格などない。

それこそが彼女が生まれてきた意味で、使命なのだから。

それは誰にも止められやしない。

だって彼女は。

 

「…僕たちに対する憎しみだけで…彼女は聖杯を手にしたって言うんですか」

 

「それだったら、どんなによかっただろうね」

 

本当に、憎しみだけに突き動かされて。

彼女自身の意志で聖杯を手にしていたとしたら、幾分かマシだったかもしれない。

そうであれば今もこうして、なんどもなんども苦しむことはなかったのに。

 

「でも彼女は…、死んだんですよね」

 

「……」

 

曖昧に笑うことしかできなかった。

彼女は死んだ。

それは事実だったからだ。

 

 




まだ続きます。
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