Fate/veil a life   作:如月龍

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第一章は予告通りに成長した主人公でお送りします。
あれから約十年、何も知らされずに育ちました。
ただ記録上だけの歴史を書物からなぞり、"わたし"は生きてきた。
生きることに精一杯だった彼女がついに外の世界へ踏み出します。
※オリキャラ出ます。


第一章~燃え盛る日常~(1)

 

 

この春、初めてこの町に住むことが許された。

 

今までどの町にも引っ越すことが許されてこなかった。というより、あの研究所を出ることができなかった。

しかしやがて、わたしの知らない戦争が過去に流れていき、わたしの扱いは変わっていた。

凄惨な戦争の生存者、所謂人殺しとして忌み嫌うように見ていた視線も、やがて憐れむようなそんな視線へと変わった。

どちらも嬉しくはないが、それは大きな違いだった。正反対。

外に出たってすることはないが、わたしの半身のような相方がそろそろ飽きていたようなので、思い切って申し出た。

 

「学校、に通うらしいな」

 

「そう。わたしももう高校生の年齢だったみたいで」

 

ある日突然あの場所で目覚めた。私はあの時生まれた。

それ以前のことなんか知らない。

年齢も名前さえ他人から言われたもので真実かは定かでない。

それまで築いてきたはずの時間も出会いも、何もかも失っていた。きっと見るべき人間に値しないのだ。

わたしは、その過去を好きなようにできるほど立派な人間ではないと、誰かが認めないのだろう。

それでも構わない。困らないということは、さして必要ない記憶なのだ。

 

「―――そろそろなんだがな」

 

「…なにが?」

 

ずっと近くでわたしを見ていた、悪く言えばストーカーのような男。

普段は見えない姿を現せば黄金の甲冑に身を包み、髪も金色で誰に対しても傲慢で偉そうな態度を崩さない。

その名は英雄王、ギルガメッシュだった。

 

「何も言っておらんわ。全く、お前はどんくさいから学校なんてものに毎日通えるか、我が見ておいてやろう。守ってやると言っている、感謝しろよ雑種?」

 

雑種、と度々そう呼ばれる。

彼にとってはみんな家畜でみんな雑種なのだろう。別にそれはいい。

実際英雄王を前にしては誰もが平凡以下の雑種に過ぎないのだから。

出過ぎた真似など許されない。

他人に対してかなり厳しい評価を下す癖に、時々甘い。主にわたしに対しては何倍も甘い。

それが分かっているからわたしも甘い。

彼に対しては対等にとは言わないが、それなりに我儘も通させてもらっている。

それが何故なのかは一切口を割らないが。

 

「ところで(あかり)よ。お前、料理などどこで覚えた?」

 

(あかり)、とわたしの名前を口にする。

九蘭燈(くらんあかり)

それがわたしの名前らしい。

光の射さない暗い海のような空間を漂っていたわたしを救い上げ名前を付けた。

それが本来の名前だったのか、彼が名付けたのかは分からないが、とにかくわたしは九蘭燈。

10年近くをこの名で過ごしてきた。

 

「研究所の人たちに。困ったことがあれば、仕送りも可能だって」

 

「ふん…随分と甘やかすようになったな。馬鹿な奴らだ」

 

確かにわたしが目覚めた時と比べれば世話をしてくれる面々も変わったし態度も(変わらない人も勿論いたが)ほとんどが優しくなった。

その顕著な変化を間近で見てきた彼は相当違和感があるのだろう。その原因を探るにはわたしはまだ幼すぎた。

そうされて当たり前とまでは思わないが、ある程度甘やかされてもいい年齢だったのでは、と童心ながらに思っていた。

本来の子どもたちが過ごすであろう幼少時代を過ごせなかった。

実感はないが、周囲の大人たちを懐柔するには十分すぎる餌だったようだ。

 

「所詮、親代わりになろうなどと出過ぎた真似をしていたのだ。余計なことを」

 

「…親なんかいらなかったもんね」

 

親がどんなものか知らないからこそ興味も湧かない。

まさに彼、ギルガメッシュがそれに値するのかもしれない。

わたしは何故かそれなりの知能を持ち、読み書きもでき、知識もあった。

誰に教わることなく、それだけは落とさずに保っていたようだ。

だから知らないことを教えてくれる人、彼は世界最古の王。親役としては適任だった。

 

「我が親だと?ふん、お前ごときが我の子どもなどと、それこそ出過ぎたことを申したな」

 

屹度わたしでなければ首を刎ねられていたかもしれない。

サーヴァント、と言ったが歴代のマスターは彼の扱いに難儀したようで、マスターであっても容易に殺してきたという。

自惚れている訳ではないのだが、彼はサーヴァントとして顕現していることを自覚しており、わたしをマスターとして扱っている。

でもこれまでの主従関係とは違う気がする。まさに親なのだ。

主従であって、そうでない。

 

「そろそろ教えてくれてもいいと思うんだけど…」

 

「…だからもうじきだ。すべてはお前次第」

 

繰り返される、”わたし次第である”という言葉の意味。わたしの身にこれから何かが起こるというのだ。

10年近くもの年月をただ浪費してきた訳ではない。周囲の人間もそれを期待して生かしていたに過ぎない。

分かっている。自惚れじゃない。

何度も言い聞かせる。わたしにはまだやり残したことがあるはずなのだ。

ただ、未だ実感はない。

それがいつなのか、彼に教えられない自分がもどかしい。

 

「明日も学校だろうに。早く休めよ」

 

サーヴァントは寝ないらしい。

それは出会った時からずっとそうだ。

ただ眠りの中で彼の夢を幾度も見る。初めは彼もそれを怒ったが、仕方のないこと、と開き直っていた。

それはパスが繋がっている何よりの証拠だから。

彼がわたしのサーヴァントであることが確かな事実だから。

彼の夢を見られることが、とても嬉しかった。眠ることが怖くなくなったのは、彼のおかげ。

 

「最近は泣かぬようになったな。またいつでも泣き付いてよいのだぞ?」

 

「…いつの話!もう何年前のこと」

 

「ククッ、我にとっては昨日のことよ」

 

王は揶揄うようににやりと笑った。

何年も生きて何度もこうして現界していれば、時の流れなど曖昧に感じるのだろう。

屹度想像もつかない気の狂うような、膨大な量の時間。

聞けば、月の裏側に封印されていた時期もあったらしい。

 

「おやすみ、ギル」

 

「ああ」

 

 

 

*

 

*

 

*

 

 

 

この地には、遠坂という大きな家がある。

研究所の人たちの話によれば、例の聖杯戦争に深く関わっている家系であるらしい。

よく分からないが、もう何十年と昔の話。子孫すら確認されていないが、どうやら屋敷に出入りする人間はいるようだ。

 

「出るんだってよ、幽霊」

 

「そんなまさか…」

 

その立派な洋館はわたしの家とは学校を挟んだ正反対に位置している。

普段生活しているうえではそうそうお目にかかることもないが、そこは研究所へ向かう道すがら掠めることになっている。

だからここ最近は特に、引っ越しの都合などで目にすることが多かった。

 

「…でも、今の当主が卒業生らしいって」

 

こういう噂が立つのも仕方がないような、雰囲気のある洋館。

廃れてしまったとはいえ魔術師の家系などと誰も思いはしないだろう。

そして、その卒業生が通っていた頃に起きた事件など、誰も知りはしないのだ。絶対に。

 

「九蘭さん。今帰り?」

 

声を掛けてきたのはクラスでも目立ちはしないが悪い噂も立たない、確か間桐という男。

天然パーマなのかうねうねした長めの髪を後ろに束ねている、美形の好青年だ。

間桐と関わりだしたのは最近だが、性格も良く、気が利く。

困っていればすぐに気付いて助けてくれるし、多分、友達をあまり作らないわたしを心配している。

 

『また来おったかあのストーカーめ…』

 

ずっと隣で姿を隠しているギルガメッシュが呟くのに対し、あなたにだけは言われたくない…、心の中だけで突っ込む。

本当に自分のことを棚に上げてよく言えたものだと思う。

ふと何もいない―――もといギルガメッシュがいる空間に視線をくれてやると此方の意図を汲んだのかとても不満げな表情を作った。

 

「うん。間桐くんも?」

 

「ああ、今日は部活がないんだ。最近何かと物騒だからね、しばらくは早く帰るように学校から言われてて…」

 

確か弓道部の間桐は部活をできないのがそんなに悔しいのか、肩を落として隣に並んだ。

物騒、といえば通り魔事件の話だろう。幸いわたしの住む近隣では事件は起きていない。

が、本校の生徒も被害にあっている、らしい。

 

「気を付けなきゃね…死者とか出なければいいけど」

 

「なかなか物騒なことを言うね君は…だから、一人で帰るのは危ないよと言いに来たんだけど」

 

「…そういうこと。ありがとう」

 

人からの好意に未だ慣れることはない。

研究所の人間とか、ギルガメッシュから受ける好意なら甘んじて受け入れることができる。

それは、わたしの経歴も現状もすべて知られているから。

しかし、間桐たちは違う。彼らのような学校の関係者は何も知らない。

それなのに親切にするのは何故なのか。

ギルガメッシュはあまり気を許すなと言う。

わたしは、目覚めてからずっと人を疑って利用して生きてきたようなものだ。そう簡単に気を許せと言う方が難しい。

 

「ひとり暮らしなんだっけ?なにか不安なことあったら言ってね。友達に寺の息子がいるんだ。年上だけどいい奴だよ。逃げ込んで匿ってもらうといい」

 

本当に親切な奴だと思う。

何かの見返りを期待している訳でもない。実際報酬を求められたこともない。

一度「なぜそんなに親切にするのか」と聞いたことがある。その瞬間後悔した。

彼は笑ってこう答えた。

「祖母に、母に、人に優しくしなさいと言われてるんだ。昔、家族が他人に大きな迷惑を掛けて生きてきたから」と。

わたしは知っていた。間桐は魔術師の家系だということを。

あの遠坂家とも繋がりは深く大きな家であることを。

実は研究所にいたときに散々言われてきたのだ。これらの家系と関わるときは注意を払うように、と。

だが後悔したのはこの部分ではなかった。

わたしは、その彼の言葉を半分も理解できなかったのだ。

祖母も母も、家族が他人に迷惑を掛けることも、子孫が責任を負う理由も、そうすることを強いる周囲の人間も、何もかもわたしには無いものだったから。

 

「ほんとうに、いつも、心配してくれてありがとう。今のところ何もないよ。近所で目撃情報もないし、」

 

間桐はわたしのことを知っていて接触しているのか、確認したことはない。

聞くだけ無駄なのだ。わたしには記憶がない。魔術の使い方も”知らない”。

使ったであろう記憶も、何も残っていやしない。

ほんとうに、必要ないものだから、消えてしまったんだ。

 

「間桐くん…あの」

 

「いいから、ついてきて」

 

『この小僧は誘拐という言葉も知らんようだな』

 

急に彼は寄り道がしたいと言い出した。

もうすでに慣れつつある通学路から逸れて、間桐はどんどん進んだ。

不思議と恐怖も疑念も浮かばなかった。

ギルガメッシュの小言を聞き流し、一先ず彼へついて行く。

それしか選択肢は無さそうだ。

なんて言ったって、この人は今まで会って来た中でも一番強引で、わたしの中へ踏み込んでくるタイプなのだ。

 

「はい。着いたよ」

 

「……ここは?」

 

そこは小さなスーパー。

研究所でお世話になった方に初めて連れて行かれたのが、此処ではないスーパーだった。

今では家から近いそのスーパーで事足りていて、それ以外の店など眼中になかった。

 

「コンビニ。……ほんとーに知らなかったんだ…」

 

「ああ!えっと、あれのことか…」

 

噂には聞いていた。

女子高生が噂好き、という事実はここへ来て強く実感した。

根も葉もないものから耳よりの情報まで、かの集団はたくさんの情報を有している。

友達のいないわたしだが、気さくな彼女らの計らいによっていつも助けてもらっている。

その一つがこのコンビニ、というやつだった。

スーパーには営業時間があるから、何かあったらコンビニに行くといい。

本当に小さなスーパーのようで、それはそれは画期的な人類の知恵だった。

好奇心に逆らわず、間桐に習って店へ一歩踏み入れる。

 

「…すごい品数」

 

ところ狭しとびっしり、目当てのものを見つけるのが大変そうだ。

おろおろしつつ、先へ進む彼の背中に離されないよう精一杯だった。

そして幸いなことにこのコンビニはわたしの家からも近い。

わたしは決まった道以外通らない。理由は何かあったら困る、それだけだった。

必要以上の外出はリスクを増やす。なにもないとは思っているが。

 

「九蘭さんって、もしかして…お嬢さまか何かなのかな?」

 

「えっ、そんなこと…」

 

ない、と断言したい。屹度ただの庶民のはずだが、わたしは常識を知らな過ぎた。

もの知らずの箱入りと思われても反論できない。つい恥ずかしくなって言葉に詰まった。

 

「九蘭さんのこと何も知らないや。これからもよろしくね」

 

顔が赤いと笑われた。

そして間桐はわたしに手を差し伸べた。

笑われたのに、不思議と悪い気がしなかった。

むしろ笑ってくれた。

こんなわたしの行動ひとつひとつに、彼は嬉しそうに笑ってくれた。

 

「うん…こちらこそ」

 

一般的にこの関係をどう呼ぶのか、わたしはまだ知らない。

友達と呼べるにはまだ早すぎる。

それがわたしと間桐の少しぎこちない関係だった。

結局そこでは何も買わず、わたしたちは別れた。

家まで送るという彼の言葉をやんわり断り一人で歩き始める。

 

「燈よ。彼奴に話し掛けられると、何故動揺する?」

 

一人、いやギルガメッシュと二人きりになってから彼に問いかけられた言葉に沈黙する。

すると先ほどまでの暖かい気持ちは少しずつなくなっていった。

薄々と感じていた黒く嫌な気持ちが湧いてくる。

 

「彼が…分からなくて」

 

自身に理解できない感情があることが怖いと思ったのは初めてだった。

無知が怖いと思った。

間桐は一族の罪を一身に背負っている。だとしたら。

わたしも、そうせざるを得ないのだろうか。

分からない、記憶がないと言ったところで、過去のわたしは何かを”やらかしている”。

その危険性故に、何年もあの場所に閉じ込められていたのだから。

 

「…わたしは、誰に対して、何に対して、責任を負えばいい?」

 

わたしはもう何度目にもなる間桐との会話でいちいち動揺などしていないつもりである。

だがギルガメッシュは見逃さない。もはや半身である彼に、嘘はつけなかった。

 

「……お前が今、何のために生かされて、生きているのか、考えたことくらいあるだろう」

 

そんな問いはもう聞き飽きて、とうに摩耗してしまった。

繰り返すことも嫌になって、迷宮入りした難題だった。

いくら考えたって分かるはずのない問いに苛まれて、終わりのないループに迷い込んでいく感覚は、まさに気が狂いそうだった。

様々な痛みや苦しみに耐えてきたつもりだったが、これだけはどうしても慣れず、苦手だった。

嫌いだった。

自身の存在を疑うことがこれほど辛いものと、早々に気が付いてから放り出したのだ。

 

「それはもう、やめだよ。ギル」

 

「ふん…まあ良い。いずれ来る」

 

何が、と問うてもはぐらかされる。

彼は何かを待っている。

長い年月をかけて、その日に備えてわたしが成長するのを見守っている。

その謎を解明する鍵は、わたしの失くした記憶。

それが戻ることがあるのか、それとも彼が言うその時が来る方が先か。

これまで何度も記憶に関して語ってきたが、わたしは記憶に対する執着がない。

あれば、と思うことはもちろんあっても、どうしても取り戻したいとまでは思わない。

 

「ご期待に添えないかもな…」

 

「お前が心配することは何もない。動かすのはお前ではないからだ」

 

 




長くなってしまうので、中途半端ですが切りのいいところまでです。
あの間桐と遠坂の名前だけ出てきましたが、それはFateお得意のパラレル時空です。
子孫、といったところですかね…()
あのワカメ()とは正反対の性格をしております笑
オリキャラは今後多々出る予定です。ご注意ください。
ご精読ありがとうございました。
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