あんなでかい図体なのにめっちゃ優しくて初心って、ギャップ盛りすぎてしょう…。
大好きです、頼りにしてます。金時。
ゴールデンって呼んでくれって言われるけど、いつも金時って呼んじゃう。
ああそうだ。
魔導に通ずる家系に生まれて人としての幸せを追求しようだなんて思ってない。
そんなのは間違いだ。恥だ。
他人に迷惑を掛けて生きてきたから人に優しくしなさい。
それだけのはずがない。
誰も気付かない。
納得してしまうからだ。
単純に自身の生まれを顧みて恥ずかしくなっただけだ。
魔導に通じているからではない。
それを理解せずに受け入れて馬鹿だなどと思ってしまった自分に、恥ずかしくなっただけなのだ。
「あれは嘘だ。わたしだってそうしたはずだ」
「やめておけ。邪推したところで誰のためにもならん。あの小僧を貶めたいか」
ごめんと謝った。
彼に対しての謝罪ではない。
ただの自己満足だとしてもわたしは許されたかった。
何から許されたかったのか。
世間か、自分か、この永久に続く怨嗟か。
「分かったふりなんてするもんじゃない…」
わたしは何から逃げる?
すべての問いは誰にも解けやしない。
悪いのはわたし。
たくさんのことから目を背けてきた、わたしだ。
自分の心にも知らない振りして耳を傾けない、ありのままの自分を他人に見せることを怖がる。
これで間桐の友達ですなんて胸を張って言えるものか。
「お前の不徳が何から来ているか考えたことはあるか?そんなもの簡単だ。お前は罪を知らない。恥を知らない。病を知らない。…死も知らない」
過去も、そして自分さえも。
端から意図をくみ取ろうなどと考えることが愚かだったのだ。
そんな高度な技を使えるほど達観した人間ではない。
そんなことさえ忘れてしまうから我々は英霊の位置までたどり着けない。
いつまで経っても、彼らと並ぶことなど、許されないのだから。
「あんたよぉ。さっきからどうしたんだい?」
少し前のことを思い出していた。
キャスターとゴーレムに誘導された部屋で、ただ待っていた。
金時と一緒に。
彼は黙りこくってしゃべらないわたしに気を使ってくれたのだろう。
「暗くなるのはよくないぜ。良いことがなくても顔を上げなくちゃな。俺が後ろで支えてやるからよ」
最近はずっと、考えることが多すぎて口数も減っていた。
金時にも言葉をかけてやれず、大したねぎらいも出来ずにいた。
でも彼はいつも優しくしてくれた。
ギルガメッシュとは違うおおらかさで、圧倒的な力で、わたしを安心させてくれた。
「大将はな、前向いてなくっちゃいけねえんだ。そら大変だけどよ、そうしとけばみんなハッピーだ。そんでな、大将には俺らがいるってことを教えてやるんだ」
急に話し始めた意図がつかめず、つい話に聞き入る。
ただ励まそうとしてくれてることだけは分かった。
数日間共に過ごした彼との思い出は、今やたくさんあった。
初めは利用していただけなのに。
「俺らがいるから、大将はやりたいようにやるんだ。それを俺らが叶えてやるんだ。だからよ…もっと好きにやっていいんだぜ、燈」
わたしは目を見開いた。
彼のサングラスの奥がうっすら見えた。
いつものように底なしの笑顔があった。
彼はこんなわたしでも大将と思ってくれてる。
騙してでもその力を使ってやろうとすら思っていた。
それなのに。彼は純粋なわたしへの信頼で、ここまでついてきてくれていた。
「九蘭燈さん。我がマスター、お連れしましたよ」
その声に顔を上げた時には、わたしは強い風によって壁に叩き付けられていた。
大きな音と光、それしか分からず、詰まった息を吐きだした。
体中が痛くて状況把握どころではない。
痛みが治まるのを待って目を開くと、部屋は煤だらけで数秒前とはまるで違う景色が広がっていた。
「…まだ生きてるなんて、本当にしぶとい」
「奇襲は良いですけれど…少し加減を覚えたらどうです?」
「そうね。もっとえげつないのにすれば良かった」
キャスターがやれやれ、と肩をすくめるのが分かった。
油断していた。
キャスターが話をつけていたとしても、あの和泉が何も仕掛けてこないとは限らない。
そこでハッとした。金時は、彼はどこだ。
「燈…」
「…っ」
息をのんだ。
この爆発の中で、彼はじっと立っていた。
わたしを庇うように立ち、その体は煤と真っ赤な血で汚れていた。
信じたくない風景に、声も出なかった。
どうしよう、とただ何かにすがりたい気分だった。
わたしが彼を壊してしまった。
「そのでかいのだけでも無力化できれば十分だわ。丸裸にして、焼き殺す…!」
殺気はわたしに鋭く突き刺さった。
痛む体を叱咤して金時に近づく。
動けるような体ではない、もう一度攻撃を受ければひとたまりもないだろう。
死が頭を過った。
和泉の構えた槍は確実にわたしを捉えている。
…例えば大切な誰かを殺されても、わたしは動かなかったことを後悔しないだろうか。
唐突に頭が冷えた。
消えてしまうのだ、永遠に。
和泉は消えてしまった誰かのために今も苦しんでいる。
わたしは、わたしも後悔する。
できることをやらなかったことについて、絶対に後悔するだろう。
「……」
声も出ず、それはほんの数秒間で、わたしは和泉の槍の正面に立っていた。
手にはアランサーが握られている。
もう遅い。もう止まれない。
今できることはこれしかない。それが正しくなかろうが関係ない。
どうでもいい。
「…っ!」
和泉の槍は一歩早くわたしに届く、はずだった。
それより早く、わたしは得物を和泉に突き出した。
だが、手応えも現状も、わたしが思っていたものと全然違った。
視界に割り込んできた金色は、その大きな体をぐらりと揺らして倒れ伏した。
「き…ん…」
「…本当に皆さん、私の予想外の行動をします…おかげでとても愉しかったですよ」
いつもと変わらぬ声調の彼は、いつもの笑顔だった。
彼はそうやってわたしの予想を超えてきた。
それを今になって思い知らされた。
こんな形で終わるなんて。
ギルガメッシュでも想像しただろうか。
わたしは結局最後まで、何一つ、彼について理解を示すことはなかった。
「な……んで、」
「…どうして」
そして和泉も口から血を吐き出し、床に崩れ落ちる。
…わたしじゃない。
彼女を殺したのは、キャスター。
背後から心臓を一突き。
その短剣には見覚えがあった。
どこかの書物で見た、アゾット剣。
彼の真名はすぐに検討がついた。
「…金時!!」
和泉からわたしを護ったのは金時だった。
爆発で負った傷とこの怪我では、もう持ちそうにない。
だがおかしい。ある程度の傷ならばマスターからの魔力供給で回復するはずだった。
でも、彼の魔力が変質している。
これは見たことがないほどに…腐敗というのだろうか。
「キャスター。バーサーカーのマスターは…」
「ああ。お隣にいますよ…マスターだった者なら」
わたしは唇をかんだ。
とっくに金時のマスターは捕らわれていたのだ。
相手はキャスター、隠すことなど造作もないし、工房の中で彼はその力をさらに強くしている。
倒れて動かない和泉と金時を交互に見た。
こんな時に言葉も浮かばなければ涙も出ない、叫ぶこともできない自分は、きっと人間ではないのかもしれない。
「記憶、戻るといいな」
「うん…」
彼はかろうじて残って意識で目を開けた。
どうして、と問い詰めたかった。
どうしてあなたは私の前に出たのか。
マスターでもないのに、どうして。
だが彼は、もう長くはもちそうになかった。
「そしたらよ、昔の話いっぱい聞かせてくれよ」
「…」
彼の本心なんて、結局わたしには分からず仕舞いだった。
一体何を考えて行動して、喋っているのか。
サングラスに隠された瞳の奥は推し量れない。
でもわたしは確かに分かりたいと思った。
もっとたくさんのことを共有したい。
喜びも悲しみも全部。
「ねえ…」
もうこんなことやめて、全部捨てて逃げよう?
そう言うのは簡単だった。
それなのに声に出すことはできなかった。
弱虫だった。
何も捨てることができないまま、わたしたちは此処まで来てしまった。
もっと違う未来もあったはずなのに。
「なんだよ…悲しいことあったら、ちゃーんと言えよ?」
あなたのマスターでも家族でもない、仮の友人に過ぎないのに。
まるで子どもにするように、優しくあやしてくれる。
「…なんでもない」
あなたもわたしの前から消えてしまうのに。
わたしのせいで消えてしまうのに。
どうしてあなたに何もしてあげることが出来なかったんだろう。
恥も外聞も知ったこっちゃない。
ただ本当に大切だとしたら、すべてを捨てても手を取れるのに。
「燈…、負けんじゃねえぞ!」
いつもそうやってかっこよく励ましてくれた。
本来なら敵同士。殺しあうはずだったのに。
あなたは命を捨てても、わたしに加勢しようとしてくれた。
「うん。いつもありがとう」
だけどわたしにはそう返事することしかできない。
頼んだわけじゃないから?そんなこと関係ない。
「じゃあな、燈」
そう言って彼は消えていった。
「わたしは…。わたしはもう人間ではいられない。生きては、いられない」
頭の中によみがえる景色があった。
見たことのある風景、知らないはずの顔ぶれ。
そんなにたくさんの人間に囲まれて生きてきた訳ではないが、決して不自由はなかった。
寂しくもなかった。
頑張れば必ず褒めてくれた。
そんな人たちの名前を、わたしは知っている。
「キャスター。私にも、家族がいたの…でも」
私もあなたみたいに育ったの。
*
*
*
「冠位(グランド)のサーヴァントは、世界がマスターなんだ。そうそういるものでもないけれど」
真っ暗な空間の中で、それは多分隅田の声だった。
ギルガメッシュはもともと用意された七騎ではなかったのか。
彼はずっといた。
前回の聖杯戦争が終わってから約十年もの間、何の後ろ盾もなしに、わたしの魔力だけで現界し続けていたというのか。
「それを座へ返すか、怪物として、サーヴァントにより永遠に葬られるか。どちらかだよ」
「くだらんな。そんなもの…我はとっくに覚悟していた」
どうして。
どうしてこうなってしまうのか。
ついこの前消えてしまったはずのギルガメッシュの声だけが聞こえる。
わたしは何も告げることができない。
彼は知っていたのだ。
知っていて、わたしを此処まで育ててくれたのだ。
強すぎる自身を殺してくれる存在を、長年大切に育てていたのだ。
「…あんまりだよ…ギル」
「ふん。彼奴との約束がなければ我は早々に見切りをつけていた。彼奴に感謝してやれ」
「あいつ…」
「もうこの世界は飽いた。長生きは慣れていたつもりだったが…人間と共に過ごすには、長すぎたな」
神に近い彼は百二十年以上ウルクを支配したという。
それに比べ現代にいたのは何年間だっただろう。
それほど長くはないはずだった。
でも人間は違う。
たった数十年だって、人間にとっては長すぎる時間だった。
彼は幾度の現界の中で何人の人間と関わり合いそれを見送ってきたのだろう。
気の遠くなるような時間のなか、ときに見送り見送られやり過ごして来た。
ただの人間であるわたしには推し量ることさえ難しかった。
「そんなこと…言わないで。飽きたとか、だってわたしは」
わたしはわたしを自覚したときからずっと、彼と一緒だったのだ。
彼がいて当たり前の世界だったのだ。
混沌から救い上げられて隣へ並んで歩き始めた。
わたしにはもう彼しか頼れる人がいないのだ。
「人間は別れも必要だ。放っておいてもいずれお前も死ぬ時がくる。たまたまこれが初めての別れだっただけのこと。それが我なのだ。光栄に思え」
飼い犬が死んだとか、年老いた祖父母が死んだとか、そういう誰にでもありそうな悲しい経験を、わたしはまだしていなかった。
するはずもない経験を、わたしはただ遠くから眺めているだけだった。
わが身に降りかかるとは知らず、ただ傍観していた。
「我のおかげで初めてその経験が刻まれる。喜べ。お前はまだ生きることができる」
「 !!!!!」
ギルガメッシュは光の粒となり消えた。
名前を呼び、待ってくれと懇願し、体にしがみつきたかった。
そのどれもが達成されず、声は掠れ体は一切動かなかった。
消えたことを確信したら、途端に体の奥から感情の渦が沸き起こった。
初めは薙いだ海だった。爽やかな草原だった。
そこから風が起き、渦を巻き、竜巻を起こす。
「…ぎ……、る」
やとのことで絞り出した声は自分のものではないくらいに低く唸るように聞こえた。
こんな声が、こんな感情がほんとうにわたしなのか。
ギルが消えた空間に形のない物体が姿を現した。
それに手を伸ばすと、何かの映像が脳内をちらつく。
嗚呼、これは覚えがある。なんだろう。頭痛がする。
前にこれを見たときはもっと、体中が痛くて、泣きたいのに泣けなくて。
誰もわたしを見ていなかった。
生きているものはその場に何もなかった。
そうか。そうだ。
わたしはあの時コレに願っていたんだ。
「 」
映像と現実が入り混じる。
わたしはあの時も、大切な人を失って、もう誰もいなくて、こうすることを選んだのだ。
わたしは何度繰り返してもこうすることしか出来ないのだ。
折角ギルガメッシュに助けてもらったのに。
生き延びた命をまた失ってしまう。
仕方のないことだ。
だってわたしは、何人もの人間を殺してしまったのだから。
奪われたんじゃない。
わたしが全部奪ってしまったのだから。
基本的に英霊たちを悪者にはしたくないです…。
悪いように見えて彼ら、ちゃんと理念に従って動いてたりするから。
譲れない考えとか、立場上そうするしかないとか、
わりと融通効かない英霊たちが、私たちの立派な先人なのに不器用に見えてきて愛おしいです。
そこがFateのいいところかも。