基本的に主人公が回想を交えつつ、たまに別の誰かの視点から、とか。
同時進行で過去と現在を進めていくのは混乱しやすいので気を付けます…。
間桐くん
今から私はあなたを裏切ります。
許してくれとは言いません。
分かって欲しいとも言いません。
納得出来ないこともあるでしょう。
私が間違っていると思うなら、
あなたの邪魔になると言うのなら、
迷わずこの心臓を貫いてください。
間桐くん
間桐鏡夜くん
あなたは私の初めての友だちでした。
誰より先に話しかけてくれました。
そして庇ってくれました。
たくさん隠し事をしました。
信じてくれてありがとう。
とても嬉しかった。
君がくれる全てのものが輝いていた。
君が私に新しい自分を教えてくれた。
君に生きる力をもらいました。
もしも生まれ変わったら
もしも魔術師ではなかったら
また
私と友だちになってください。
最初で最後の友だちになってください。
君が決して自分に背を向けないから。
私も自分に嘘をつけなくなりました。
色んなことを教えてくれた君。
何も知らなかった無知な私。
まるで本物の師弟のようでした。
忘れません。
この身が失くなっても
決して、忘れません。
この感情だけは無かったことにはしたくない。
迷惑かけて心配させて
どうしようもない友だちだけど
すごく楽しかったです。
本当はもう一度だけ
また青い空の下でお弁当を食べたかったです。
あのクレープ屋にも行きたかった。
この気持ちは本物です。
何度でも言いいます。
どの私も、いつも本物でした。
隠し事ばかりの私だったけど
生きていたのは
君と過ごしたのは
間違いなく本物の私でした。
さようなら、ありがとう。
*
*
*
「ふん。お前も傀儡か。哀れだな」
「かいらい…?」
「自覚がないだけマシか。操られてる、ということだ」
幼い少女は首を傾げた。
当然だ。
理解できたらこんな純粋な顔でマスターなど務まるものか。
「違うよ。私は、頼まれただけだよ。お母様に」
「そうか…母親の言いつけか」
「ううん。お母様、ごめんねって言ってた」
胸がチクリと痛んだ。
俺は作家。
どういう訳か記憶を保ったまま現世に呼び出された、サーヴァントという存在だが。
生前、”そういう”物語もたくさん書いてきた。
だが、だからと言って何もかも分かる訳じゃない。
むしろ分からないから、それに疑問を呈し続けてきたのだから。
「お前は母親想いなんだな」
「優しいんだもん。お母様も、お父様も」
この少女の家のことは知らないでもない。
魔術師ではないのに、それに関わらずにいられない、いいように利用されるだけの家だ。
可哀想などと思ったことはない。
生憎そんな感情を持てるほど立派な人間ではないのだ。
「優しければ何でも許せるのか。嫌なことも、我慢できるのか」
少女はまた首を傾げた。
いいんだ、返事を求めている訳ではない。
むしろ分からないままでいればいい。
もし運良く生き延びたらその時は、自然と理解できるようになればいい。
「だって…お母様のこと大好きだから」
「…!」
純粋に、ただひたすら透き通った水のように、彼女は笑った。
余計なことに思考を捕らわれない。
年相応の反応。
「お兄ちゃんは?何を願ったの?」
「…さてな」
前に一度くらいは、それもあったかもしれない。
だがもう忘れてしまった。
此度の現界では特に、呼ばれてから来てやった、それも間違いではない。
「それで…お前は俺を殺すのか」
それは問いかけでも何でもない。
確認、と言ったほうが正しいような気がした。
彼女の顔から笑みが消えた。
申し訳なさそうに、眉を潜めた。
「うん…ごめんねお兄ちゃん」
ああ、綺麗だ。
汚れた大人より何より、何にも穢されていない子どもの表情だ。
大人にはなりたくないものだ、と子どもの成りをした俺が思う。
「掻き切るがいい。その隠し持ったナイフで、俺の喉元を一刺しにしろ。それでお前の望みは叶う」
そうだ。お前の好きにしたらいい。
俺の死体を前にして、自身がしたことへの重みを知るといい。
…あわよくば、少しでも後悔してくれたなら。
「…」
ナイフの冷たい感触を最期に、視界に入ったのは少女の無垢な瞳だった。
真っ暗で感情のない、ただの暗闇。
彼女はこれからどうやって生きていくのだろう。
…知ったことか。
もう会うことなどない。
気にすることもない。
*
*
*
罪悪感がない訳がない。
産まれたばかりのこの子を抱えて、やることは決まっていた。
そう、そのために産んだのだ。
この子はそのために産まれたのだ。
「産まれてくれてありがとう」
我らが希望となってくれて、ありがとう。
そのために利用することを許してほしい。
我が一族の復讐のため。
報復のため。
その命を費やすことを、どうか厭わないよに。
「燈…ごめんね」
闇を照らす灯。
終わらない怨嗟を断ち切る強い炎。
少女の人生は、謝罪から始まった。
*
*
*
たくさん殺した。
それは両手に余るほどの数だった。
無関係の人間もいたかもしれない。だが私にはどうでもいいことだった。
考えたこともなかった。
もしも私に殺す才能がなかったら、
もしも私が魔術を扱えなかったら、
今もどこかで幸せに生きていたのだろうか?と。
暖かい家族と共に生きていく道もあったのかもしれないと。
それはあの頃の私には浮かぶはずもない疑問だった。
だって、知らなかったから。
私は当時四歳だった。
右と左がようやく分かるくらいの、幼すぎる少女。
しかし知能は同年代の子どもたちよりはるかに卓越していた。
とある重要な感情を除いて、だが。
「燈。これは?」
私は物言わず指をさした。
小さな手に指さされたその物体は音もなく歪み形を歪に変えた。
「よくできました。君は優秀な子だ」
褒められると嬉しそうに笑った。
持って生まれた才能も、それを制御する知能も、十分に備わっている。
「お前は父様と母様の期待した子だ」
そう言われて育ってきた。
いつでもみんな優しくて、いつでもそれに報いるように生きてきた。
みんな大好きだった。
私に優しい理由も何も知らなかった。
「何言っておる。親はみな無条件に子に対して優しいものぞ」
のちにギルガメッシュはそう言った。
本当にそうだったのだろうか。
そういう道も、確かにあったのかもしれない。
でもわたしはきっとそうじゃない。
優しくされるために生まれたんじゃない。
どうしたら喜んでくれるのか、どうすることが父様と母様の願いなのか、それだけを考えていた。
何故ならまぎれもなく、彼らのことが好きだったから。
彼らのことを、親、家族として認めていたからだ。
「教えた呪文を唱えるんだよ、いいね?」
だから、触媒と召喚陣を前にした時も、その決意が揺らぐことは決してなかった。
ようやく両親の助けができることを喜びに感じていた。
あれは確か、石でできたピアス。
家族の誰かが持ってきた、今や遺跡と化した教会から持ち出したと言っていた。
「サーヴァント、ランサー。召喚に応じて馳せ参じた……へぇ、あんたがマスターかい」
一瞬驚いた表情を見せたのち、何もなかったかのようににやりと笑った彼は、青々としたスーツを着こなした槍兵だった。
結論から言えば、とても楽しかった。
彼との生活は、とても楽しかったのだ。
「…嬢ちゃん。罠も結界も壊してきちまったぜ?」
「ありがとうランサー!」
時々彼は苦い顔をした。
それも一瞬だったので、その時のわたしが気付くことはなかった。
命令に逆らうことはなく、わたしを抱えて夜闇を駆ける。
「殺したよ…わたし、敵を倒したよ」
きっと私は褒めて欲しかったのだ。
その時のランサーの表情は、今になって意味が分かった。
あれは、戦慄、恐怖。
そのミスマッチなコントラストを恐れたのだ。
そして私はのめりこんだ。
戦いの楽しさを知って、自身に備わった力の使いどころを知って、無邪気に戦場を駆けまわった。
前章の(2)で禅城の名字が出てきた時点で、察していた方は多いかと思います。
そう、彼女はあの家系と繋がりがあって、ちゃんと理由があって聖杯戦争に参加していたんです。
それは己の意志ではないけれど。
それと。
彼女が殺してしまったのは、彼です。
今回女同士のバトルの一員となっている、あの厭世家で作家の彼。
皮肉ですねって言いたかった。