Fate/veil a life   作:如月龍

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八章最後になります。
久しぶりすぎてすみません。
待っていていただいた方、ありがとうございます。
次々いろんな締め切りが迫っているので、亀更新ですが、頑張って書きます。

途中過去話入ります。


第八章~暗闇かける無垢~(3)

 

 

「王!どうするのです…何か算段は…」

 

「雑種は黙って見ておれ、ここからは燈の指示がすべてだ!」

 

私は徐々に鮮明に蘇る記憶を整理していた。

今はギルガメッシュの宝具の一つ、ヴィマーナに乗り上空を飛行していた。

急に太陽の戻った地上には久々に人間の姿が垣間見え、何事もなかったかのように生活をしていた。

 

「遠坂さん。ナイさんは、サーヴァントですか?」

 

人間ですか、とも何者ですか、とも違う。

ただサーヴァントかどうかだけの聞き方に留めた。

きっと彼は聞いたことにしか答えてくれない。

決して悪意ではなく、本人自身が悩んでいるからだろうけれど。

 

「…非常に難しい質問だ。事実だけを言えば、彼はただの現代の人間だ。そして僕の従者だ」

 

やはり、と頷く。

遠坂はナイについて言及することはなかった。

ただ、私たちはそれをセイバーだと疑ってやまなかった。

だって、それだけの力を見せつけられたから。

一人の人間以上の魔力と、宝具並みの威力の攻撃。

一体どんな仕組みがあってなせる業なのか。

 

「その質問に答えるとしたら…。彼は、サーヴァントに代われる人間、といったところかな」

 

「それは、つまり…」

 

「まあ、彼の中に英霊が憑依したとかそのレベルで考えればいいと思う」

 

確かその概念は以前からあったはずだ。

こうしてお目にかかるのは初めてになるが。

そうなると、霊体化もできないし食事も必要とする。

そして今は彼のそばにいない。

 

「さすが、あの研究所にはデミや擬似といった彼らの情報もあるんだね…今は別件で動いてる。大丈夫だ、悪いようにはならない」

 

「…ふん。いつの時代も遠坂は気に食わんな」

 

「…あなたを信じたからこそです」

 

何か言いたげに片眉を上げて、ギルガメッシュは遠坂を睨む。

ともあれナイの正体が大体つかめた。

これで代わりとはいえ味方の数を一つ増やせた。

しかも最優のクラス、セイバー。

あとはアーチャーとランサー。

それを探すのはもうやめた。

とある可能性が浮上したからだ。

 

「どうして君は…もう終わりだと言ったんだい?」

 

時期にこの嫌な戦いは終わる。

誰が何と言おうと、これ以上は続けること自体不可能なのだ。

聖杯戦争を行うにはそれだけの土地の霊脈、サーヴァントを維持する魔力、とにかくコストがかかる。

だから仮説を立てた。

今となってはその仮説が限りなく真実に近付いたのだけれど。

 

「だってもう…十年以上も経つんですよ…始まってから」

 

ほとんど確信になった結論を、私は淡々と告げた。

 

「前回のこと、かい?」

 

「…今回、です」

 

遠坂が息を飲むのが分かった。

信じたくないだろう、私もそうだった。

でも信じる信じないの問題ではなかった。

それ以外ありえない。

あの惨劇は、終わっていなかったのだ。

終わったように見えて、何事もなく平穏な十年に見えて、それは明確な終わりを示していなかったのだ。

 

「まさか…魔術師たちは皆…勘違いをして、」

 

「…おそらく」

 

十年以上も冬木に留まり続けた聖杯はその霊脈を吸って力を付けた。

その高まってきた魔力に反応した魔術師たちがこぞって勘違いを起こしたのだ。

聖杯戦争の始まりを示唆する過去の聖堂協会は存在しない。

始まりを見極めた者たちが、一斉にサーヴァントを召喚し始めたのだった。

 

「今向かってるのが…聖杯の場所、ということか」

 

亜種聖杯戦争どころではない。

ただの延長戦、補欠サーヴァントを出場させているようなものであって。

三騎士が揃っていないのは、たぶんそれなりの力が必要だからだ。

 

「ねえギル…。私の聖杯、どこにあるの?」

 

傾いてきた夕日を背後に、私はギルの姿を正面から見据えた。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

*

 

 

 

*

 

 

 

 

「どうしてバーサーカーじゃなかったんだ」

 

言葉の意味は分からなかったが、少女は、部屋の外から親族たちの様子をこっそり見ていた。

 

「バーサーカーを呼ぶには…そのための呪文があるらしい」

 

「くそ、でたらめな召喚をしていれば引けると思っていたのに」

 

狂戦士を当たりととるか外れととるか。

彼らはそれの呼び方すら知らず。

そして狂戦士の存在も甘く見ていた。

 

「せめて暴れまわるだけのサーヴァントなら…あの子も苦しくなかったろうに」

 

少女への罪滅ぼしのつもりか。

意思疎通の叶わない相手ならば、何も思わないとでも思ったか。

年端いかぬ少女といえ、彼女は聡明だった。

 

「聞くなよ,燈」

 

俺にできたのは、ただ耳を塞ぐこと。

手を引いて、いろんな場所へ連れて行った。

昔と今の冬木は、大きく違っていた。

その世界戦が同じものかどうかは分からないが。

まずは聖杯の気配。

気付いたのは召喚されてすぐだった。

ギルガメッシュの話では、あれは亜種らしい。

願いが叶うかどうかも明らかでないのに、彼らは必死にそれを求めているように見えた。

 

「ランサー、どこ行くの?」

 

「ちょいと遠くへ逃げる。だから我慢しててくれ」

 

「でもランサー…、とっても痛そう」

 

腕に抱えた小さいマスターの瞳が無遠慮に俺を見上げる。

だがここで止まることはできなかった。

背後には追手が迫っている。

火の手も上がっている。

 

「気にするほどじゃあねえ」

 

自己に付与されたスキルがこれほどありがたいと思ったことはなかった。

生前の行いによって決定されるこのスキルは、俺を一度だけ死の淵から逃がしてくれる。

常人ならばきっと嘆いたことだろう、それほどに苦しい思いもするが、今は少なくともマスターを助けることができる。

それで十分だった。

 

「なあ、マスター」

 

心配そうに傷口から流れる血を見ながら、マスターは小さく反応した。

 

「一つだけ、約束しちゃくれねえか…?」

 

「うん、いいよ」

 

内容も聞かずに少女は返事をした。

長引いた戦争のおかげで、俺はマスターに色んなことを教えてやったつもりだ。

幼すぎる彼女は何も知らず、また教えればすぐに吸収した。

わりと懐かれたほうだとは思う。

 

「この聖杯戦争はな…」

 

少女の目が見開かれる。

言葉の意味を理解したのだろうか。

彼女にはまだ難しいはずだ。

 

「だからな、約束してくれ、燈」

 

マスターは不安そうな顔で俺の腕を掴んだ。

酷かもしれない。

魔術の世界で生きるしかなかった彼女を思えば、この約束は残酷であるかもしれない。

分かっていながら、俺はどうしても約束させたかった。

自分らしくないただのエゴだとしても。

 

「絶対に生きてくれ」

 

少女が首を傾げる間もなく、俺は宝具の朱槍を掲げた。

 

「その心臓、貰い受ける―――――」

 

 

 

 

 

*

 

 

 

*

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

「行ったか、雑種…」

 

地面に降りると、その凄まじさが伝わった。

ふと頭を過ったのは、この少女をこのまま生かして良いのか、という疑問だった。

 

「あ…どう、して…らん、さ…?」

 

少女は顔を覆い俯いている。

その姿は血に塗れ…ほとんど返り血だが、普通でないことが分かる。

この少女がやったのか。

この、死屍累々の山を。

地獄絵図を。

傍にいたサーヴァントは消えた直後なのだろう、微量の粒子だけが舞い、やがて消えた。

 

「チッ…どいつもこいつも面白みのない奴よ」

 

ほとほと呆れた。我は呆れたのだ。

憐れみも悲しみもそれよりも早く。

こんな馬鹿げた話があるか。

いい加減にしろ、そう八つ当たりする相手は見るも無残な姿で転がるだけだ。

ならばよし。

もう一度やり直せ。

こんなつまらない結果など望むものか。

 

「我が乖離剣よ…すべてを薙ぎ払え…!」

 

ここではない冬木市内のどこかに潜伏するサーヴァントもすべて、この剣のもとに無に還れ。

王と聖杯の命令をもって、やり直せ。

光が消えてあたりが静まり返ったころ、この地に生きている者など無いかに思われた。

しかしこちらを見上げる者がいた。呼吸をする者が一人だけ、いた。

 

「災難だったな」

 

同情でも哀れみでもなかったが、ただそう言葉をかけた。

偽物のそれが、亜種である聖杯が舞い降りる。

今、聖杯戦争の参加者の中で生きているのは彼女だけ。

こんな小さな少女の前に、穢れた杯は姿を現した。

正直興味本位であった。

すべてを失ったこの少女が何を願うか。

聖杯をどう扱うか。

子どもは時に突拍子もない行動をして見せる。

だから。

最初で最後の気まぐれのつもりだった。

 

「これが…聖杯、」

 

少女は壊れ物に触れるかのように恐る恐る聖杯に手を伸ばした。

”聖杯”とは名ばかりの、それは一言でいえばただの光体だった。

だがそれは確かな魔力を帯びていて、願望器と呼ぶにふさわしかった。

小さな願いであれば何でも叶うくらいの器ではあった。

 

「お前ももう、疲れたであろうな…なんでも好きに願うとよい」

 

涙にぬれた瞳で、少女は我を見た。

初めて、この少女に表情を見た。

初めて涙を見た。

悲しい、心が叫んでいるのを感じた。

そんな感情に気付いてしまった。

だから、少し絆されてしまったのかもしれない。

こんな純粋な悲しみの涙を見たことがなかった。

こんな綺麗なものなのかと、自身の宝にしたいと少しだけ思ってしまったから。

 

「ぜんぶ…ぜんぶ…なくなっちゃえ…それで…私を…」

 

 

どうか私を、殺して。

 

 

少女の消え入りそうな声を皮切りに、聖杯は真っ黒い泥を吐き出した。

起動したのだ。

少女の悲痛な叫びを聞き取って。

チッと舌打ちをして乖離剣を取り出した。

これで最後にしてほしい、と呆れ果てた。

少女にではない。

何度も聖杯を生み出してしまう、魔術師という存在にだ。

 

 

私に罪を償わせて。

 

 

泥に飲み込まれていく少女の最後の声が届いた。

自らの体をその泥に割り込ませる。

ヤキが回ったものだ。

友人でも何でもない、ただの腐れ縁のような奴の約束など、どうして守る必要がある?

…いや、そうじゃない。

ただ、この少女が、この少女の純粋な涙を、綺麗だと思っただけだ。

 

「すまないな…貴様の願いを叶えてやることはできん」

 

腕の中で眠った少女と共に、我も瞳を閉じた。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

*

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

自身の才能に気が付いたのは、小学生の頃だった。

才能といっても、魔術師としてはそこそこで、家系も寺の住職、という体裁を貫いていた。

きっと昔どこかで魔術師と交わったのだろう、その程度の才だった。

 

「利用しないわけにはいかないだろう?俺はチャンスだと思ったんだ」

 

だって、魔術師なのに魔術師じゃない。

そんな好都合な立場が今まであっただろうか。

危険すぎる才能も持っていない。

なにも制限されない環境で、俺だけがその力を磨いていける。

 

「だから…隠していたのか?」

 

俺にはよく回る頭があった。

凡庸な魔術の才を隠しながら磨くことなど容易かった。

周囲を騙し、優秀な人間に取り入る。

彼らに使われたっていい。

結果、それが自身の利益になるからだ。

 

「大した力は持ってないけどな…門下に入ってない魔術師なんてすぐ捕まっちまう」

 

昔はどうあったか知らない。

だが今は度重なる聖杯戦争の影響か、冬木での魔術行使は監視が厳しくなった。

研究所とは名ばかりの観測所もできた。

一匹狼といえば聞こえはいいが、要するにただのはぐれ魔術師。

なんちゃって魔術師だった。

認められる必要もなかった。

 

「だから俺は聖杯がほしい」

 

鏡夜が息をのんだのを見ながら内心ほくそ笑んだ。

小さい頃から此奴を隠れ蓑にしてきた。

それが一番楽だったのだ。

力を持つ者はみな間桐の血に目が行くから。

彼らのような足枷も葛藤も鼻で笑って、俺だけは何にも縛られない自由を武器にして。

 

「何でも持ってるじゃないか…なんで、聖杯を求めるんだ」

 

「欲しいからだろ」

 

何でも持ってるなんて、それは鏡夜の方だろう、そう言おうとしてやめた。

分かり合えるはずないからだ。

彼は今まで分かり合ってきたつもりでいたのかもしれない。

俺は対立する意見も意思も一つも見せやしなかった。

真っ向から食い違う相手に理解を求めるほど無意味なことはない。

 

「欲しがる理由がお前に分かるはずない。お前だって、欲しくないんだろ?」

 

だからそうやって、蟲蔵で見ていればいい。

俺が聖杯を手に入れて笑う様を、そこで眺めてればいい。

その前に最後の仕上げをしようじゃないか。

鏡夜には感謝しなくてはならない。

ここまで俺の代わりに注目を集めてくれたことを。

間桐の後継ぎとして、俺にチャンスを与えてくれたことを。

 

「また生きて会えたらいいなあ、鏡夜」

 

此奴は後悔しているだろうか。

誰かを憎んでいるだろうか。

俺のために生きていたことを、悲しむだろうか。

それとも、九蘭燈に詫びているだろうか。

可哀想な鏡夜。

端から見れば、此奴はくだらない道化であり続けた。

きっと気付いていたはずなのに。

それでも今まで間桐鏡夜を演じ続けた。

一族の罪を背負って、誰かのためだけに生き続けた。

 

「なあ…楽しいか?」

 

そう聞いたのは、ただの憐れみからだった。

彼を憐れむのは、俺より優れた才を持ちながら、俺より劣等な扱いを受けねばならないから。

あとは単純な疑問だった。

なぜ彼は、あえて選んでしまったのだろう。

他の道もあったはずだ。

もっと上手に生きることも出来たはずだ。

どうして彼は、魔術のためにその身を売ることにしたのだろうか。

 

「……」

 

彼は答えなかった。

ただ曖昧に、口元だけで笑って見せた。

とても弱弱しく、しかし後悔などしていないかのように、目には強い光を保ったまま。

 

「そうか…ならいい」

 

答えないならば、もう聞くことはない。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」

 

ずっと相容れない存在だった。

俺らは真逆の存在だった。

 

「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

だからこうなるのも必然だった。

先のことなど考えていない。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

だけど。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、」

 

本当は心のどこかで、俺は—-----

 

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」

 

さあ来い、最高の剣士。

聖杯を取るために、俺はどんな手段も使ってきた。

こうして鏡夜の魔力を借りることも厭わない。

強い風に一瞬目を閉じた後、右手の甲が熱くなった。

先にあったアサシンの令呪と重なる。

ものすごい魔力量に、俺は眩暈を覚えると同時に高笑いしたくなった。

 

「あーあ。やっちゃったなーお前…」

 

その声に思考を遮られた。

召喚円から湧き上がるのは真っ黒い渦。

その向こう側にいたのは鏡夜のサーヴァント、ライダーだった。

 

「本当にすごいと思うよ、そういうとこ」

 

「…何が言いたい?」

 

鏡夜を助けに来たのか、それとも邪魔をしに来たのか。

どちらももう遅い。時期に召喚は終了して鏡夜は息絶える。

酷使しすぎた魔力回路が擦り切れてしまうはずだ。

そう思って思わず笑みがこぼれようとした矢先。

俺の口からは大量の血が溢れ出していた。

最期に見たのは、ただ訳の分からないどす黒い塊だった。

 

 

 

 




どうして自死を願ったのか、どうしてギルが一緒だったのか明らかになる回です。
分かりづらかったらぜひ言ってください。
もう少し細かく、スピンオフか過去偏として書き直すのもいいかな、なんて思っているので。

いつになるか分かりませんが。

今後もよろしくお願いします。
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