Fate/veil a life   作:如月龍

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第三者です。
迷った末、ちょっとだけ不穏なタイトルになってしまいました。
でもこれはこれで、主人公が成長していく過程、という風に書いてみました。
stay nightのネタバレになるかもしれないので、未聴未読の方は気を付けてください。



第三章~前途、暗雲~(1)

 

 

話には聞いていたが、世の中にはゴールデンウィークというものがあるらしい。

黄金の休日、と聞くと不意にあの金色の保護者、もとい守護者の姿が思い浮かぶ。

 

「さてー。買うものは決まったし、そろそろ出発しようか」

 

わたしは学生という身分になって、そのゴールデンウィークという休暇にあやかることになった。

はずだったが、前半の休みは一年生だけで研修合宿をするらしい。

そこまではいい。特定の女友人が未だ現れないわたしにも話すことができる相手くらいはいる。

しかし、宿泊行事となるとまた勝手が違った。

そして今日、気が付いた時には合宿準備の買い物というものに巻き込まれることになってしまっていた。

 

「九蘭さんは何か足りないものあった?新都に出ると店たくさんあるから遠慮しないで言ってね」

 

「ありがとう…とりあえず大丈夫かな」

 

新都、というのは同じ市内だがここから離れた開発の進んだ地域のことを言うらしい。

少し前に比べればその差は埋まってきたものの、やはり勝手は違う。

 

「同じ町なのにこうも違うとはね…」

 

昔から冬木に馴染んできただろう人間であっても、その新鮮さには驚かされるようだ。

高校生である彼女らにとっても、新都は憧れのスポットでオシャレな空間なのだ。

 

「うん、必需品が揃うのも早い!」

 

わたしが必要なものは研究所から出ていた。

許可が下りるのと同時に、いつもより多めの生活費も振り込まれていた。

やはり生活力が無いと思われているのかもしれない、その辺の孤児院などと比べてしまうと過保護だ。

慣れていないので不自然な行動をしていないかなどを気にしていたら、あっという間に買い物は済んでしまった。

 

「あ、クレープ食べよう!」

 

今回、進んでリーダーを買って出てくれたのは美綴。

気さくで豪胆な性格なので初めは近付くこともないように思っていたのに、意外な話しやすさと彼女特有のペースに気付けば巻き込まれていた。

きっと皆もそうなのだろう。彼女の周りにはいつも人がいた。

だが、それを鼻にかけることがないのが彼女の良いところ。

特に仲がいいのは和泉。

美綴とは真逆で文学少女のような雰囲気でいるくせに、大人しいばかりではなく、興味に対しては周りを置き去りにしてもどんどん突き進んでいくタイプだ。

この二人組は校内でも既に話題になるほど。

 

「げ、クレープ二個も食べんの、太るじゃん」

 

「生憎、そういう体質じゃないんで。九蘭さんは?もう決まった?」

 

「ええっと…おすすめはある?」

 

正直初めて食べる物にどうしたら良いか決めあぐねていた。

見たことくらいはある。だいたいどんな物か、知ってはいるがこんなにも種類があるとは思わなかった。

 

「苺かバナナかチョコ、どれが好き?」

 

「じゃあ、チョコで…」

 

「じゃあチョコバニラとか……もしかして、食べたことない?」

 

目の前で作られていくクレープに釘付けになっていると、美綴が不思議に思ったのかこちらをのぞき込んできた。

相当前のめりに食いついていたのか、ハッとして恥ずかしくなった。

 

「あ…うん、見たことしかなくて」

 

「まじ!勿体ない!またいつでも来ようよ!」

 

それすらも気にした様子のない和泉の発言に、わたしは思わずその顔を見つめ返してしまった。

何か返事をしなくてはと思い、慌てて「うん!」と返す。

不思議な心地だった。誰かと次を約束する。そんな経験は今までにないことだったから。

しかも美綴や和泉だけでない、複数の人間たちと。

人間に囲まれて育ったくせに、昨日も明日もその先も、不変の生活しか送ってこなかった。

其処には約束など存在しない。決められた毎日に、いつか、やまた明日、など必要なかったのだ。

 

「…おいしい」

 

それはただとても甘かった。

幸せだった。

自分は生きてるだけで幸せなんだと、そう思うようになっていたのに。

甘いものを食べると幸せになれることを知った。

美綴や和泉たちが微笑ましそうに見つめるのも構わず、クレープに噛り付いていた。

 

「九蘭さんは冬木の出身だったっけ?中学校は近くじゃなかったよね?」

 

「みんな噂してるよ、帰国子女だとか、名門のお嬢様だとか」

 

「そんな大した人間じゃないよ…数か月前までは、施設にいたの」

 

この話は、間桐にしかしたことがなかった。

聞かれなかったからだ。

研究所の人間には、施設育ちにしておけと言われていた。

一応、中学校までの経歴はあるのだが、そんなものは嘘っぱちだ。

詐称だらけの改ざんデータだ。

そんなもの、今ここで言いたくない。

 

「だから…分からないことも多いと思う。迷惑かけるかもしれないけど、早く覚えていくようにするから、何かあったら、ごめんね」

 

「いいじゃん、ゆっくりで」

 

誰かが肩を叩いた。友人同士がするような、気軽なボディタッチだった。

頭の中でぼんやり、見たことあるやり取りだな、なんて思っていた。

思考が次第に追いついていく。

 

「別に迷惑なんて思ったことないしな。むしろ今日、ちゃんと話せてよかったよ。買い物楽しかったし」

 

言葉が見つからなかった。

こんな時に何と言えば良いかすら、研究所では教えてくれない。

きっと簡単なことなのだろう。

彼女たちは日常生活で、無意識にこういうことをやって見せる。

その存在は、わたしが犯したであろう罪を忘れさせてくれた。

わたしには何もできない。ちっぽけで、一人では何も出来やしない存在なのだと。

 

「…ありがとう」

 

そう言って笑う、ありきたりの行為が今は精一杯だった。

 

「そういえば、運動神経いいの知ってるよ!部活やってたんじゃない?」

 

「えっ、いや…ちょっとだけジムに通ったりしてただけで」

 

「うそ、体育の時間、足速いの見たし!」

 

先ほどとは別の少女が叫ぶ。

確かにわたしは最初のうち、体育の授業を張り切りすぎてしまった場面があった。

さじ加減が分からなかったというか、力加減が難しいのだ(隠し事をするつもりはないが目立ちたくない)。

かくしてクラス一の足の速さを見せつけて、軽い騒ぎになったことは記憶に新しい。

研究所はそういうところなのだと肝に銘じた出来事だった。

 

「自覚は無かったんだけど、運動を見てくれてた先生が厳しかったみたいだね…」

 

「英才教育かな…」

 

勉強もそれなりにできることは入学後の試験で実証済みだ。

満点でこそなかったものの一位を獲得した。

初めは勝手の違いすぎる学校生活に戸惑うばかりだった。

いかに自身が世間知らずだったか思い知らされた。

大きすぎるギャップに、外に出ないほうが良かったんじゃないかと悩みもした。

しかし、

 

「みんなといろんな経験ができただけで、高校に通ってよかったと思ってるんだ」

 

思わず本音が漏れた。

相変わらずニヤついている美綴に苦笑いを返して、わたしたちは並んで歩いた。

横に並んで歩いてくれる人すら、今までいなかった。

間桐が、隅田さんが、そして美綴たちが今や横に並んでくれる。

不思議と違和感も嫌な気持ちもまるで無かった。

 

「じゃあそろそろここで。暗くなってくるけど一人で大丈夫?」

 

「うん、みんなも危ないから早く帰ったほうがいいよ」

 

「ゴールデンウィーク、楽しみだね」

 

その言葉に心が少し軽くなる。

家まで距離があろうが、ギルガメッシュがいるので何の心配もない。

むしろ彼女たちのほうが危ないような気がする。

 

「まだ例の通り魔、捕まってないみたいだよ」

 

通り魔という言葉を聞くと、あの黒いフードの男が頭を過った。

そんなはずはない。無差別に一般人を襲うなど、あってはならない。

わたしだけを狙っているならまだしも、被害が拡大しては後味が悪い。

 

「…怖いね」

 

「新情報はあるみたいだけど」

 

その言葉を残し、友人たちは解散していった。

一人になって、思考を止めたように重くなった頭を邪念を払うように振る。

今帰って行った彼女たちが通り魔に遭う確率はどれくらいなのだろうか。

いや、そんなことを考えるのは良くない。不吉だと言われてしまう。

 

「ギル…」

 

「なんだ燈よ」

 

ずっと暇をしていたのか、いつものようにあまり機嫌のよくなさそうな声色に少しホッとする。

ああ日常だ。彼女たちとの時間はとても楽しく有意義だ。

でも、ずっと気を張っていたのか、慣れない環境から戻ったことで少しだけ疲れも感じていた。

彼女たちにとっては日常の出来事も、きっとわたしにとっては何処までも非日常なのだ。

ギルガメッシュと二人で過ごして、いつも誰かに見張られている窮屈な監視の中で生きていく。

それだけがわたしの日常だった。

 

「…怪我は痛まぬか」

 

「うん。もう運動しても全然痛くない」

 

血の量からも深く刻まれたかと思った傷跡も、一週間もすれば塞がった。

あの暗殺者の攻撃をその程度で防げたのは奇跡だと思う。

想像したくはないが、腕がこの身を離れていたかもしれないのだ。

それもマシなほうで、死んでいた可能性だって否めない。

 

「全く。致命傷を躱したことは誉めてやろう」

 

ギルガメッシュがあの気配に気付かなかったのは、もしかしたらわたしだけに向けられていた殺気だったからかもしれない。

手練れの暗殺者がそれくらいやってのけることは承知済みだ。

少なくともあの異様な空気には気が付いていた。

敵の出方を窺っていたことは確かである。

 

「あれ…?」

 

ふと違和感を覚えて立ち止まる。

朝この道を通った時と、何かが違った。

周囲は民家で、ちょうどここは長らく無人だというお屋敷の前。

市街地とは違って街灯の少ない道、庭に茂る背の高い木、誰もいない一本道。

 

「何をしている。早く帰るぞ」

 

「待って、ちょっと待って…」

 

どうにかこの違和感の正体を知りたい。

その時のわたしはなぜそう思ったのか、きっと後になっても説明できない。

でも、見過ごしてはいけない何かがあることを、その場所が訴えていた。

 

「此処に何があるというのだ。さっさと足を動かさぬか」

 

ギルガメッシュが珍しく急かす。

そりゃあ、この前のように誰かに襲われては適わない。

例の通り魔だって出るかもしれない。

 

「…ギル。なんか知ってるの?」

 

そうだ。ギルは急かしているだけじゃない。

此処。この場所から早く離れようとしている。そんな気がした。

その証拠に、いつもは少し気になったことを立ち止まって問いかけてみても、彼は怒ったりしない。

仕方ないなという風に相手してくれるのだ。

だが今回は。視線は目の前の屋敷から離さない。

しかも何処か睨むような、射殺すような、そんな強い光の灯った目をしていたのだ。

 

「こんな屋敷など覚えがない…仮に何処かの我が知っていたとしても、お前には関係ないであろう」

 

何処かのギルガメッシュ、つまり何処か昔の世界で召喚された彼のことを指しているのだろう。

その、何処かの彼が知っているかもしれないという、この無人の屋敷。

それだけでわたしは、この家がただの空き家に見えなくなってしまった。

 

「得体が知れんな。だから早く離れたほうが良いと言っているのだ」

 

「だめ…この家、なんか訴えてる。中まで行かなきゃ、ちゃんと聞こえない」

 

「罠かもしれんだろうが!」

 

ギルガメッシュに腕を引っ張られるが、わたしは引けなかった。

例え罠だとしてもこの家はわたしを呼んでいるのだ。

答えられるのはわたしだけ。そんな気がしていた。

 

「ギル。お願い、なんかあったら、護ってほしい…」

 

それは都合のいい命令かもしれない。

自ら渦中に飛び込んでいく主人など言語道断、護るほうの身にもなれと言われても仕方ない。

最悪見捨てられても文句は言えない。

わたしはギルガメッシュと利害の一致で契約した覚えはない。従わない可能性も充分にある。

しかし、わたしは確信していた。彼が残ってくれることを。

 

「…貴様、あとで覚えておけよ」

 

凄んだ声を出され、わたしは目の前の謎より彼の方がよっぽど怖いと思った。

それは内緒だが。

渋々ついてくるギルガメッシュとなるべく離れないようにしながら、屋敷の門扉をくぐった。

 

「鍵もない…?」

 

驚いたのは鍵がなかったことではない。

屋敷自体はずいぶん古い建物なのか、屋根も壁も朽ちていて崩れそうなくらいだった。

それなのに。庭の雑草や木々はまるで手入れがされているかのように整っていた。

気のせいかとも思ったが、奥にある蔵を見て確信した。石造りのその蔵だけは、まるで作られたばかりかのように、ひび割れ一つない状態でそこに佇んでいた。

古い空き家の庭に後から蔵だけを運んだかのようにミスマッチだ。

 

「あそこだ」

 

「…おい、燈」

 

近付いてみれば、やはり此処だった。

明らかに怪しい雰囲気に、わたしは初めて罠の可能性を疑った。

しかしここまで来たらやすやすと逃がしてくれるはずもない。

一歩踏み入れた時から、もう抗戦するしか道はなかったのだ。

 

「だれか…いるの?」

 

蔵は簡単に開いた。まるで導かれたかのようだった。

中に光るものを感じて思わず息を呑む。

心が凪いだ。

その表現が妥当かは分からないが、とにかく安らぎを感じたのだ。

緊張感から鳴り響いていた鼓動が、一瞬にして収まった。

本能的に危険性はないと判断した体は勝手に動き、思わず手を伸ばす。

 

「縛えよ」

 

「させぬわ」

 

突然あたりが眩しくなった。

おさまった時には、そこに二人の人間の姿があった。

 

「暗殺者…!」

 

「もはや貴様なんぞ暗殺者でもないわ。」

 

例の黒いフードの男と、見たことのない長身の男。

すぐに気付いた。これは罠などではない。

彼らも、この不思議な光を感知してやってきたのだ。

今のが何の魔術かは分からないが、ギルガメッシュは予想していたようだ。

やすやすと鎖に弾かれる。

 

「燈!その遺物をとれ!」

 

「奪え!」

 

そこからはただ必死だった。

奪われてはいけない、まるで自身の命のように大切なものだと感じていた。

光に近付くとその形が徐々にはっきりと輪郭を成してくる。

わたしは知らないはずだった。これを、何処でも見たことがないはずだった。

 

「それをやる訳には…っ」

 

焦ったような声が聞こえた気がした。

刹那、彼の構える刃がわたしの体を貫いた。

感触もあったが、わたしはそれでも止まらなかった。

命と引き換えでも構わない。そう感じていた。

遅れてやってくる痛みに負けそうになりながら、その遺物をやっと掴んだ。

ひと際強く輝いたそれのお陰で、初めてフードに隠されていた男の顔がはっきりと見えた。

 

「燈…!」

 

やがて力の入らなくなった体が地面に倒れ伏すと、ギルガメッシュの声が届いた。

確保したよ、という風に自慢げに笑って見せる。

 

「よくやった…怪我ももう心配はない。」

 

「…?」

 

「それは…、お前が言っていたモノか?」

 

「そうだ。あれは、彼の王の」

 

受けたダメージに反比例して体はどんどん軽くなる。

不思議な感覚に包まれながら、ついには自力で立ち上がることさえ容易かった。

そう、つまり、フードの男に負わされた致命傷は瞬く間に回復の兆しを見せ、傷を塞いでしまったのだった。

 

「…お前の抱えている其れは、すべて遠き理想郷…其れこそが、ブリテンの王が所持したエクスカリバーの鞘。アヴァロンだ」

 

頭の中にデータが流れ込んでくる。

空っぽの頭を何かで埋めようと片っ端から書物を手にしていたあの頃。

アーサー王物語に出てくる幻の遺物。

そして、第四次や第五次で姿を現したとされる伝説の鞘。

永遠に失われたとされるその鞘は、確かアインツベルンという家の人が採掘したのではなかったか。

 

「じゃあ、この治癒力は」

 

「例えそのアヴァロンを使ったとしてもそれほどの回復力を見せるとは、我がマスターの魔力も捨てたものではないな」

 

上機嫌に語ったギルガメッシュが視線を鋭くして敵を睨みつける。

そうだ、彼らはこれを狙っていたに違いない。

これほどの力をもつ遺物ならば悪用される訳にはいかない。

研究所に渡すか、それとも。

 

「これは我がマスターが手にしたもの。奪いたいなら、良いぞ。相手してやろう」

 

「……!!」

 

ギルガメッシャの赤い目が細く鋭くなった。

さすが最古の王、勝てるわけがない。

そう思わせる風格がある。

 

「それを渡せ少女よ。お前の身には余る代物…それを渡せば、貴様に構う必要もなくなったようなものだ。そうだな、学校を襲う必要も、だ」

 

その言葉に一瞬決心が揺らいだ。

自分だけじゃなくて他の人も助かる。

それはわたしの判断力を鈍らせるのに充分な時間だった。

気付けばすぐそこにフードの男の刃が迫っていた。

 

「貴様、我を出し抜けるとでも思ったか?」

 

「ちっ…やはりそう甘くはないな…英雄王」

 

またもギルガメッシュに護られ難を逃れる。

いけない、こんなことじゃだめだ。

これは幻の鞘。聖なる遺物。

そう簡単に此奴らに渡して悪用される訳にはいかないのだ。

改めて彼らを睨み返し、アヴァロンを抱え直した。

 

「これは我が預かる。宝物庫にでも放り込んでおいてやる」

 

ひょいっと軽く音がしそうなくらいの勢いでわたしからそれを奪ったギルガメッシュは、背後の空間にそれを文字通り放り込んだ。

そうなってしまえば、もう手出しなど出来なかった。

仕組みはどうなっているか分からないが、いわゆる固有結界なのだろう。

本人の意思がなくてはどうしようもない。

 

「貴様がそれを手にするということは…どういうことか分かっているのか?」

 

「…」

 

長身の男に尋ねられる。

どういうことか。そんなこと分からない。

今どうすることが最善の道なのか、わたしは自分で判断したに過ぎない。

それが真に正しいかどうかなんてわたしには想像もつかない。

 

「幾多の災厄が降りかかろうと、貴様はそれを手放さないと誓えるのか?それがあれば、世界をも征服できる力を得る代わりに、何もかも失うのだぞ」

 

「…大丈夫。わたしには何もなかったから」

 

わたしには失うものはない。

何も怖くない、と言ったら嘘になる。

折角できた友達を手放すことを、さみしくないと言ったら嘘になる。

 

「でも…わたしの一番は、ここまで一緒にいてくれた彼だから」

 

ギルガメッシュが望むのなら、アヴァロンだって何だって守って見せようと思う。

世界の何処に背を向けたとしても、彼にだけは背を向けたくない。

それが、私の出した答えだった。

 

「……」

 

もう両者とも何も言わなかった。

引き際と判断したのか、ギルガメッシュはわたしを巻き込みその場から移動した。

残されたのは長身の男と、フードの暗殺者。アヴァロンが顕現した石の蔵をもう一度調査する。

 

「この魔方陣は…そうか、だからあの遺物が」

 

「此処はそもそもあの、第五次聖杯戦争の折、ブリテンの騎士王を召喚した場所なんだ」

 

フードの男は何かを懐かしむようにそう言った。

長身の男は魔術の痕跡を調べ上げながらそれを聞いている。

 

「君の言うとおりだ。やはり依頼して良かったよ。もう一つの目的は、果たせそうだ」

 

「…ご希望に添えたのなら…よかった」

 

本心からなのかまるで分らないような無表情でフードの男は呟く。

今まで表情がなかったはずの瞳には、悲哀のような、憐れむような、はたまた慈しむような、ない交ぜになった感情の波が見え隠れしていた。

知ってか知らずか、長身の男は続ける。

 

「あの少女があれを持ち出したことで、状況はだいぶ変ったよ。始まった…いや、再開した、かな?」

 

少女の何も知らないところで、ずっと動き続けていたそれは、確信に変わった。

隠蔽していたそれも、詐称していたそれも、全てが白日に晒され開示されてしまうのを待っている。

そしてそれは、彼女の周りだけずっと止まっていた時間が、静かに再び動き始める合図となった。

 




ここから先は急展開を迎えます。
ずっと日常を書いていたかったしもうちょっと引き延ばしたかったんですけど…
話があまりにも進まないので第三章は一気に書き上げることにしました。
起承転結でいうところの承のあたりにさしかかていると思っていただければ大丈夫です。
事件が多発します。
何が怖いって、ストーリーの時間軸ではまだ4月なんです…ええ(超時空)
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