Idol meets cars   作:卯月ゆう

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ep10

 #1 Idols meet cars 〜安部菜々 片桐早苗 高垣楓の場合〜

 

 

「転ばない車」

「あんな写真見せられたら怖くてノート君に乗ってられませんよ!」

 

 プロデューサーに言われるがままにライセンスを取りに行ったサーキット。そこで貰った写真を早苗さんと楓さんがどこか(間違いなく日比谷Pだけど……)で見たらしく、笑いに来たのがついさっき。

 

 

 

「早苗さんにはわからないんです! 車ごと視界が傾く恐怖が!」

「わかりたくもないかなぁ……」

「それで新しい車が欲しいと。それこそ日比谷プロデューサーに相談すればいいんじゃないですか?」

「プロデューサーに相談なんてしたらどんな車を買わされるかわかりませんよ」

「その辺はちゃんとわかってると思うけど」

 

 日比谷プロデューサーには悪いけれど、車を買い替えてから精神年齢がだいぶ逆戻りしてる今では間違いなく高いスポーツカーを勧められるだろう。だけど、ほとんど車に乗らないから、高い車を買っても宝の持ち腐れみたいに思えてしまうのだ。

 

 

「おはようございます、今日は川島さんはいらっしゃらないのですね」

「武内プロデューサー。おはようございます」

「おはよう、プロデューサー」

「おはようございますっ!」

「日比谷プロデューサーがダメなら武内プロデューサーは?」

 

 そして武内プロデューサーを巻き込んで私の愛車選びが始まった。

 武内プロデューサーはこういうの苦手かな、と思っていたけれど、「私で良ければ、お力になります」と言ってくれたので楓さんと早苗さんが巻き込んだのだ。

 

 

「なるほど。先日サーキットで…… 日比谷さんから写真を見せてもらいましたが、確かに怖い経験でしょうね」

「そしたら菜々ちゃんったら買い換える、ってさ」

「ノートは重心も高いですし、そもそもサーキット走行を視野に入れられていませんから、仕方ないかと思います。安部さんは求める条件などはあるんですか?」

「コンパクトカーがいいですね。大きい車はちょっと怖いので。それに、あまり乗ることもないので」

「税金なども安いですしね。今の車とあまり変わらないサイズで候補を上げてみます」

 

 そういったプロデューサーはしばらくタブレットを叩いて、いくつかページを開いてテーブルにおいた。

 隣の早苗さん、向かいの楓さんも揃ってタブレットに視線を向けると、プロデューサーが営業マンのように車の紹介を始めた。

 

 

「まずは現行の日産ノートです。e-Powerと言う電気自動車で有名ですね」

「CMで見たことありますね。菜々さんにそれを?」

「いえ、少しヤンチャな見た目ですが、普通のガソリンエンジンのnismoと言うチューンドモデルを提案します。女性的見た目とは言い難いですが、日常からサーキットまでをカバーできる車だとおもいますよ」

 

 ホームページを見ると、白いボディに黒いエアロパーツ。赤いワンポイントがちょっと派手な(日比谷プロデューサーが前にこんな色の車乗ってなかったかな?)ノートの写真が並ぶ。

 たしかに武内プロデューサーの言うとおり、ヤンチャな見た目で、女の子っぽいとは言い難い。これはちょっとパスかな?

 普通のモデルは正直パッとしないし、ノートは今回ナシかな。

 

 

「あまり派手な見た目はだめですか。予想はしてましたが」

「やっぱりこう、普通というか…… あんまり女の子女の子してるのもアレですけど」

「なるほど。それである程度のサーキット走行にも耐えられるとなると、国産車では難しいですね。輸入車でも難しいですが…… やはり走れる車というのはどうしても男性向けになりがちなので」

「それはわかってはいるんですけど……」

 

 開いていたタブを全部消してから、フォルクスワーゲンのホームページを開いたプロデューサーは、ラインナップから迷うことなく一台を選ぶとページを私に見せてきた。

 

 

「例えば、このフォルクスワーゲンポロですと、車両の値段は国産の同サイズの1.5倍近くなってしまいますが、それなりの質感の高さになると思います」

「この青、きれいな色だね。菜々さんの車も青いし、良いんじゃない?」

「本当。エアロもあまり主張してないし、良いんじゃないかしら」

 

 見た感じは悪くない。あくまで写真の印象だから実車を見たら変わるかもしれないけれど。

 ノートNISMOみたいに「やる気」があるような見た目ではないし、かと言ってチープにも見えない。値段を見て、少し気になりはしたものの、武内プロデューサーの言うとおり、国産車の1.5倍くらいだ。

 その後も楓さんと同じ、ベンツやBMW、アウディなんかも勧められたので、今度楓さんと早苗さんの三人でディーラー巡りに行くことになった。

 早苗さんは今の軽自動車からの買い替えらしい。なんでも「そろそろまともな車に乗らないと、『片桐早苗は貧乏だ』って言われそう」とのこと。

 私もあのボロアパートから引っ越さないとだめかなぁ……

 

 

「菜々さん? ウーサミン?」

「はっ、はいっ!?」

「大丈夫? ぼーっとしてたけど」

「いえ、なんでもありませんよ! ちょっとお引っ越しを考えてただけですから」

「え、菜々ちゃん引っ越すの?」

 

 墓穴掘ったらしい。今度のオフは自動車屋さんに加えて、不動産屋さんまで見に行くことになりそうだ。

 プロデューサーは住宅手当についての資料をどこからともなく取ってくるし、外堀埋まっちゃってますよー!

 ため息をお茶で飲み込んでからカフェのシフトに入るべく席を立った。

 

 それから数日。なんとかオフを被せて楓さんの運転でまずは車屋さん。武内プロデューサーは丁寧に最寄りのディーラーをピックアップしてリストにしてくれていたので、ナビに住所を入力すればあとは楓さんにおまかせだ。

 しかし、ベンツというと高級車のイメージがあったが、こんな小さい車(と言っても3ナンバーだけど)もあったんだ。

 プロデューサーのおすすめリストには無かったけど、結構いい感じだ。

 

 

「菜々さん、そんなにキョロキョロしちゃって。そんなに気になりますか?」

「えぇ、まぁ。今まで何も気にしなかったのに車買おう、って思ったらいろいろ意識しちゃって」

「あー、わかるわかる。普段なら『とりあえず生』って言えるけど、いざ飲もう! って思うと何飲むか悩むよね」

 

 ちょっと違うかな? まぁ、そこまで違わないような気もするけど。

 何はともあれ、とりあえず一軒目。フォルクスワーゲンのディーラーに付くと、若い女性スタッフが駆け寄ってきた。

 きれいなショールームに置かれた車を横目に眺めつつ、「ポロを見に来た」と言うと、テーブルに案内され、カタログを手に話が進んだ。

 

 

「ブルーGTですか。正直に言うとあんまり良い車じゃないんですよ。すこしギクシャクするアクセルとか、硬い乗り心地とか。男性のお客様には一定の人気はあるんですけど」

「はぁ」

「ブルーGTでしたら、ハイラインか、車格は一つ大きくなってしまいますが、ゴルフのコンフォートラインをおすすめしますね」

「ほぅ」

「よろしければポロとゴルフ、ご試乗されますか?」

「はい、お願いします」

 

 店先に用意された車に乗ると、シートとハンドルの位置を合わせていざ出発だ。早苗さんは楓さんとショールームに残って車を見ているらしい。

 5分や10分の試乗とはいえ、実際にあちこち触って、乗ってみるのは大事だとプロデューサーからも言われていたのでナビをいじって(これはオプションらしい)信号待ちからすこし気合を入れた加速をしたりしてみたりした。

 近所を一周してから、今度はゴルフに乗り換える。

 やっぱり大きい分広く感じる。基本的な操作感はあまり変わらないのは同じメーカーだからかな?

 走り出して感じるのは車の重さ。良く言えばどっしりしていて、安定感がある。悪く言えばかったるい。さっきのポロと同じエンジンらしいが、大きくなった分辛くなるのは仕方無い。

 

 

「うーん」

「どうだったの?」

「どっちも悪くないんだけど、なんかこう、ピンと来ないというか……」

「とりあえず見積もりだけもらって次にいきましょうか。今すぐに買わなきゃなくなるわけでもありませんし」

「そうですね」

 

 再び楓さんの運転で次なるディーラーへ。

 フォルクスワーゲンは早苗さんのお眼鏡にも叶わなかったらしく、スマホを見ながらうんうんと唸っている。

 ぼけーっと外を眺めていると、大きな中古車屋さんが見えたので、道路沿いに置いてある車を見ると、私の感性にティンと来る何かを見つけた。

 

 

「楓さん、さっきの中古車屋さんを見たいんですけど」

「え? いいですけど、何か気になる車でもありました?」

「はい!」

 

 ところ狭しと並ぶ車からお目当ての1台を見つけると、早速見て回る。窓についているプライスタグはまだ見ない。

 

 

「左ハンドル……」

「それもマニュアルだね、これ」

「菜々さん免許は」

「普通にMTも乗れます。多分」

 

 白いボディ。雫形のヘッドライトに盾の形をしたフロントグリル。そこに付くエンブレムは十字とよくわかんない蛇っぽいなにか。

 

 

「くあどりふぉりお?」

「四葉のクローバーついてますよ。かわいいですね」

「ちょっとやる気のある感じは否めないけど、どうなの?」

「これくらいなら…… 黒いホイールはアレですけど」

 

 目の前に佇む車はアルファロメオ ジュリエッタと言うらしい。新車価格は400万以上だ。ん? オートマ? 目の前にある車はマニュアルだけど……

 

 

「楓さん、これちょっと見てください」

「メーカーのホームページですか?うわぁ、430万もするんですね」

「そこじゃなくて、これです、これ」

「アルファTCT? なんですか、それ?」

「どうもオートマらしいんです。新車なら」

「武内プロデューサーに聞いてみましょうか」

 

 時間も時間だったので、すこし迷惑かと思いつつ、プロデューサーの携帯にかけると、いつも通りワンコールで出てくれた。

 

 

「おはようございます。今日は車選びのはずでは?」

「その車選びで相談が……」

「そうでしたか。ちょうど日比谷さんも居ますし、スピーカーにしますね」

 

 武内プロデューサーが日比谷プロデューサーを呼ぶ声が聞こえると、外の音が入るようになった。

 

 

「ナナさん、おはようございます、日比谷です。車買うなら言ってくれれば付き合ったのに」

「日比谷プロデューサーは見境なくスポーツカー勧めるでしょう?」

「まさかぁ、ちゃんとその人に合った車を勧めますよ。武内さんに聞きましたけど、コケないコンパクトカー探してるらしいじゃないですか。俺なら武内さんと同じく、ポロのブルーGTを勧めますね」

 

 意外と、と言っては失礼だが、日比谷Pにも良心はあったらしい。さっきのディーラーの店員さんの言うとおり、ブルーGTは男性ウケはいいようだ。

 

 

「さっきフォルクスワーゲンでポロとゴルフに乗ってきたんですけど、ピンと来なくて。それで、今中古車屋さんでアルファロメオを見つけたんです。アルファロメオってどんな車なのかなー、と想って」

 

 アルファロメオ、と言った瞬間。プロデューサー達が電話越しに息を飲んだのが聞こえた。ヒソヒソと「アルファっすよ」とか、「アルファロメオですか……」と話し合うのが聞こえる。

 

 

「安部さん、車名やグレードはわかりますか?」

「えーっと、ジュリエッタ クアドリフォリオ ヴェルデ、です」

「クアドリフォリオ…… その車、オートマですか、マニュアルですか?」

「マニュアルです」

 

 ここで再び、ヒソヒソとプロデューサーが相談し、結論として

 

 

「ナナさん、やめといた方がいい。見た目に惚れたならいい値段するけど新車を買うべきだよ。俺は一度その車に乗ったことあるけど、いい車なのは確かだけど、クセが強すぎる。無理くり右ハンドルにしたからペダルポジションも微妙だしね」

「コレ、左ハンドルなんです……」

「…………」

 

 嫌な沈黙。駆け寄ってきた店員さんも空気を読んだのか、黙って見ている。

 

 

「安部さん、中古車なので試乗は難しいでしょうが、一度運転席に座ってみてください。ポジションを合わせ、クラッチを踏んだり、シフトレバーやスイッチ類に手が届くか、操作しやすいかを見てください。左ハンドルMTのジュリエッタは殆ど数がありませんので、気に入ったのなら、買うべきです」

 

 武内Pの声にライブ前と同等の気迫を感じて、言われたとおりに運転席に座り、シートやハンドルを合わせると、クラッチを踏み込んだ。

 ちょっと重い気がしなくもないが、こんなものだろう。右手を伸ばすと、自然な位置にシフトレバーがある。たぶん、これが「外車は左ハンドルで乗るべきなんだよ」と言う人の伝えたい事だろう。

 日比谷Pが右ハンドルではペダルの位置が悪いと言っていたが、左ハンドルならそんな事はなく(右ハンドルだからどうなるかわからないから比べようがないけど)、足が窮屈だなんて事とは無縁だった。

 

 

「欲しい…… どうしよう」

「偉い人はいいました、迷ったら進めと」

「そこまで惚れたなら、少しくらいの欠点目をつぶれるんじゃないかな?」

 

 楓さんと早苗さんに背中を押され、

 

 

「その車を逃すと、二度と出てこないと思います」

「ナナさん、346インポートクラブでお待ちしております」

 

 プロデューサーに背中を蹴られ。

 

 

「これ、買います」

 

 こちらを見てすこし困った顔をした店員さんに言ったのだ。

 

 それから数週間。慣れない新居の駐車場にエレベーターで降りると、バッグから鍵を取り出してボタンを押す。

 すこし重いドアを開けて、助手席にバッグを置くと、スマートキーのアルファロゴを押して()()()()()から、挿し込んで捻った。

 正直、イマドキの車なのに鍵をひねる、という動作があることが不思議な感じだが、プロデューサー達からすると、鍵をひねることは儀式のようなものらしい。

 よくわからない。

 

 それから、()()()()()()()D()()()()()()()、短いサイドブレーキのレバーを下ろした。

 そう、あの中古車を買ったわけではないのだ。店員さんの困った顔は、車に「売約済み」を貼りに来たら客がガチで知り合いと相談している様子だったから困っていたのだった。

 その結果、現行モデルの左ハンドル、白いボディにキャメルのレザーシートを付けて買ってしまった。

 

 

「けど、いい車なのは間違いないから……」

 

 ノートとは比べ物にならないパワー、安定感、乗り心地。まだ距離を走ってないから、D.N.Aと書かれたスイッチはいじれないが、事務所まで往復すれば今日中にD(Dynamic)モードが解禁されそうだ。

 それから、黒いホイールが気に入らなかったので、シルバーの軽いホイール(マグネシウムらしいです)も一緒に買った。派手な車に乗ってる留美さんに一緒に選んでもらったけれど、高い買い物になってしまった……

 今月だけですごい額を…… 節制生活のクセが抜けずに未だにブルっとしてしまいます。

 けど、なんだかんだ惚れた車だし、ついつい遠回りして帰ろうかな…… なんて思っちゃったり。

 ハッ……! これが沼ですね! ナナは負けませよ!

 

 

「ナナさん、今度留美とあいさんと常務で富士山の方に行こうと思うんですけど、一緒にどうですか?」

「行きます!」




先日、横浜でノートe-Powerとリーフに乗ってきたんですけど、おもしろい車でした。

ノートは駐車場から出すときにアクセルに足おいただけで強めに飛び出したんで驚いちゃいましたけど、なれるとアクセルにピッタリついてくるレスポンスの良さに感動しました。
リーフはノートのチャチなトコ、足回りとかを良くした(リーフの方が先に出た車なので言い方は変ですけど)感じで、路面の継ぎ目でぴょこぴょこするノートに対して、しっとり受け止める感じでしたね。

ノートの方がボディが軽いのもあって、動きがシャープに感じたので、私の好みはノートなんですけど、ハンドルの軽さとか少しネガもあるので、ノートNISMOに乗ってみたいところですね。

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