Idol meets cars   作:卯月ゆう

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ep19

 #1 Idol meet cars 〜原田美世の場合〜

 

 

 夏も過ぎてだんだん肌寒い頃、今日は平日の富士スピードウェイでDrive weekの撮影…… なんだけど、今日の主役はプロデューサー。

 多分2回目くらいの「悠のDrive week」だ。

 どうしてこうなったかと言えば、ことは夏直前。ちょうどサマーフェスを控えたある日のこと。プロデューサーが仕事帰りに居眠り運転のトラックに突っ込まれたことから始まる。

 納車から1年経ってないパナメーラは全損。プロデューサーも軽いムチウチで最近までギブスを付けて過ごしてるほどでした。

 サマーフェスを終えて落ち着くとプロデューサーは数日間病休扱いできっちり入院。その期間でまさか、プロデューサーは911すら売り払ってしまったんです。

 あのカーキチ(Petrol head)の日比谷プロデューサーが電車通勤をすること1週間。久しぶりのDrive weekのロケが今日、というわけです。

 

 

「去年みたいな特番をやらなかったとはいえ、すごい車ばっかりですね」

「だろ? 今日は俺の次期愛車選びだからな」

「本当に大丈夫ですか? いろんな意味で」

「まぁ、結構キてるけど、いつまでも引きずってらんないからな」

 

 病院で男たちがどんな打ち合わせをしたのか知りませんけど、一応あたしの番組なんだから話くらい通すべきなんじゃないかなぁ?

 今日はプロデューサーの言うとおり、次期愛車選び、とのことだけど、流石にやりすぎなんじゃない? こんなスーパーカーばっかりなんて聞いてないし、車ともっと仲良くなる番組だけど、視聴者置いてけぼりじゃないかな?

 

 

「今日は俺がめっちゃ欲しかったけど4ドアじゃなかったり、色んな事情で買えなかった車を集めてもらった」

「えっ、でも4ドアじゃないと困るからパナメーラ買ったんですよね?」

「その点は抜かりない。普段使い用に中古のA4アバントを買った」

「買ったぁ!?」

 

 留美さん、聞きました? この人もう車買ってますよ! って、多分承諾済なんでしょうね。しかし、パワー厨だと思ってたプロデューサーがSとかRSとかつかない普通のA4だなんて……

 まぁ、そのうち乗ってくるでしょうし、そのときに何か隠された秘密を解き明かすことにして、番組を始めましょうか。

 

 

「この度は皆さんにご心配をおかけしました。SNSで多くのリプライを頂き、励みになりました。ありがとうございます」

 

 番組冒頭はプロデューサーの言葉からスタート。

 もはや一部界隈ではアイドル以上の人気になってしまっている日比谷P。この前、比奈ちゃんに某巨大掲示板の日比谷Pスレを見せられたときには驚いたなぁ。何より、アイドル板にあるのが信じられない。

 後ろにズラッと並んだ欧州のスーパーカー。そう、スーパーカー! をバックにここからはいつもどおりの進行。けど、立場は逆転。

 

 

「今日は2回目の悠のDrive weekですが、どうして私が居るのにこうなってるんですかねぇ? これ一応あたしの番組ですよ?」

「まぁまぁ、番組ホームページのBBS見たか? 俺がメインに立つと車の値段がグッと上がるから盛り上がるんだよ」

「うわぁ……」

「というわけで、今日もたくさん高い車を用意して頂きました!」

「題して、日比谷P次期愛車計画!」

「それでは」

「「Start your engine!」」

 

 

 自分の番組でおじさんたちが勝手に決めたコーナーを進行する虚しさったらないですよ。

 でもまぁ、今度はこっちがドッキリ仕掛ける番ですけどね。

 

 

「改めまして、346プロダクション、プロデューサーの日比谷です」

「原田美世です。今日もいつも通り、ゲストをお呼びしています」

「えっ? 聞いてないぞ」

「ふっふっふ。この番組は私の冠番組。多少の無理は通るのですよ。今日のゲストは和久井留美さんです!」

「げぇっ!」

「ゲストに対して随分なお出迎えね。こんにちは、和久井留美です。今日はよろしくね」

 

 こっちには対日比谷P決戦兵器、留美さんがいるのですよ。今日ズラッと並んだウン千万円のスーパーカーも、これで下手なチョイスはできまいよ。

 

 

「さてさて、コレで日比谷"家"の愛車選びというわけですが、プロデューサー。実際どんな車が欲しいんですか?」

「やっぱり、911の代わりだから、走れる車だな。べらぼうなパワーは要らないけど、やっぱり言うことを聞く車がいい」

「ほほう。では、早速プロデューサーが欲しい車たちに乗っていきましょうか」

 

 

 プロデューサーのチョイスはいかにもな高級高額な車ばかり。国内外の高い車が6台も並んでいる。この中で私が乗ったことあるのは…… 1台だけありました。

 なんだかんだ根は日産党なんですかね? GT-Rも置いてありますし。結構存在感のある車だと思ってましたけど、周りが周りだとなんというか、埋もれるんですねぇ……

 

 

「ところで留美さん。プロデューサーがまた車を買おうとしてますけど、そもそも止めたりしないんですか?」

「止めはしないわ。彼が稼いだお金だし、そもそも止めたところで諦めたりしないでしょうし」

「911も手放したって聞きましたけど、どうしてなんですか?」

「さぁ? でも、彼なりに整理をつけたかったんだと思う。尤も、今回のコレを言い訳に買い換えようって魂胆って可能性もゼロじゃないけど」

 

 うがった見方ですねぇ…… それもプロデューサーのことを分かってるが故でしょうか。

 プロデューサーが勝手に番組を進めている間は私達は休憩。台本を見るに、私達の出番はゲストの愛車紹介コーナーまでありませんし、ソレが終わると日比谷Pセレクトの車も決まってることでしょうから、そのあぶれた車を私が乗り倒します。フフン、完璧ですね。留美さんにはプロデューサーと一緒に最終チェックをしてもらいましょう。

 

 

「おっと、時間ですね。ささっ、留美さん。車に乗せてください!」

「元気ねぇ。M4に乗ったことないの?」

「はい! 事務所のほとんどの方には隣に乗せてもらいましたけど、留美さんはまだですね」

「てっきり彼が乗せてるものだと思ってた。あまり期待はしないでほしいけど……」

 

 表に停めてあるBMWに近づくと留美さんが自然と助手席にエスコートしてくれた。なんだかあまりにも自然すぎてシートに収まってからドキドキしてきちゃったよ……!

 見た目はコテコテにいじってあるものの、インテリアは至ってノーマル。強いて言うならフロアマットがふかふかなものに変わっているくらいかな?

 短いクランキングの後に乾いたエキゾーストノートがゾワッと響くが、アイドリングは予想以上に静か。そのままギアを入れて走り出すと、いかにも高級車然とした乗り心地に思わずうっとりしてしまいそうになる。

 

 

「そろそろ車の話をしましょうか。留美さん、この車のことを教えてもらえますか」

「2015年式のBMW M4クーペ。そこにいろんなエアロに車高調。マフラーとタイヤにホイール。ブレーキはオプションの青いやつ。ソレくらいかしら」

「ソレくらいって…… さっきスタッフさんがパーツ調べてましたけど、すごい顔してましたよ。どうしてこの車に?」

「ショールームにおいてあって、ふと目に止まったの。ああ、かっこいいなぁって思って気がついたら判子押してたわ。それから色々調べていくうちにこの形にね」

「すごいですね…… 当時車に乗ってたりしなかったんですか?」

 

 そう聞いた瞬間、少しだけ留美さんの目が鋭くなったのは気のせいではないでしょう。まずいこと聞いちゃいましたかね。

 

 

「ミニクーパーとワンエイティに乗ってたわ。コレに買い替えたときに両方共売っちゃったけど」

「ミニクーパーはわかりますけど、ワンエイティですか? その、すごく意外です」

「大学生の頃、初めて買った車だったの。親にからのブーイングがひどかったわ」

 

 プロデューサーもワンエイティ乗ってたとか言っていたような…… 留美さんとは大学生の頃に付き合っていたはず……

 はぁ、彼女にスポーツカー買わせるってなかなか居ませんよ? 自分で買って隣に乗せるならまだしも、同じ車買わせますか、普通。

 そういうエピソードを聞いてしまうとやっぱり車絡みは色々とおかしいと言うか、やっぱり馬鹿なんだなぁ、と思っちゃいますね。

 他にもサマーフェスの話やプライベートの話も聞いたりしている間に場内の道路を1周。その間にもロードコースからはいろいろな咆哮が聞こえたりしたし、きっと向こうも順調に進んでいるはず。いやぁ、そんなことないか。絶対迷ってるもんね。

 

 

「プロデューサー、どうです? 絞れました?」

「1台はもう決めてるんだ。911ターボ」

「またポルシェ?」

「んだよ、好きなんだもん」

「もんって……」

 

 

 戻ってきてみれば案の定、腕を組んでウロウロするプロデューサー。絞れたのは1台だけですか……

 前の911はカレラ4S、でも今回はターボ付き。なんだかんだ、この車にしそうだなぁ、なんて思ってたりするのはあたしだけじゃないみたい。留美さんとちょっと視線を合わせて首を傾げると、肩を竦めてかえしてくれた。

 プロデューサーがキープした911以外に今日持ち込んでいるのはGT-R NismoにニュルチャレBキット。それからコルベットコンバーチブル。540cにDB11、そしてウラカン。一番安いのがコルベットという不思議な空間でひたすら首をかしげるプロデューサー。

 そこに鶴の一声が如く、留美さんが一言。

 

 

「オープンカーは嫌。GT-Rも子供っぽくてダメ。アストンマーティンなんて柄じゃないでしょ? 大人しくマクラーレンかランボルギーニにしなさい」

「ハイ」

 

 そしてプロデューサーは独英伊の代表的スーパーカーを選ぶと留美さんを引っ張って(アレはエスコート、なんて上品なもんじゃないです。おもちゃを自慢したい子供ですよ)助手席に乗せると、サーキットではなく、外に飛び出して行きました。

 マクラーレンのV8が快音を響かせて去っていくのを見送ると、監督からそっと1対のフラッグが描かれたキーを渡された。

 

 

「よし、私も楽しみますよ!」

 

 すでにルーフは開けてある紺色のコルベット。長くて重いドアを開け、少しサイドが高めのシートに沈む。

 シートポジションを合わせると、やっぱりスポーツカー然とした低い目線から広いボンネットが広がっていました。

 今回のZ06はオートマチック。けれど、8段もある最新型です。アメ車的な余裕あるドライブができそうだけど、私の遊び場はサーキットだ。

 

 

「おぉ……」

 

 アメリカンな大排気量V8らしい、ドロドロした音はアイドリングから健在。けど、音質的にドロドロとしていても音量はそうでもないかな?

 パドックまでの道路を一般道に見立てて40kphほどのペースで走る分には余裕綽々。やっぱり大柄なボディサイズを感じることもあるけど、慣れればなんとかなると思うし。

 パドックからピットロードに入ると、ゆっくりクリープで進みながらルーフを閉めておく。これからはトップ250kphオーバーの世界が待ってるんだから。

 常識的な速度でピットアウト。1コーナーの内側を小さく回ると立ち上がりから一気に踏み込んでみた。

 

 

「…………!!!」

 

 思わず顔が引きつる。ごうごうと響くエキゾーストノートが嫌でもパワーを感じさせ、世界が後ろに吹き飛んでいく感覚。いやいや、これはまずい。

 シケインの切り返しなど、リズムをつかむとボディサイズが一回りふたまわり小さくなって、くるくると向きを変えるようになる。立ち上がりもパワーを持て余したりすることなく、適切な制御のアシストもあってアスファルトに600馬力を叩き込める。

 3周もするともうお腹いっぱい。というより疲れる。やっぱりあたしの身の丈にあってないんだよね。

 ピットロードに入り、パドックに車を停めるとまだ次のクルマがあたしを睨みつけていた。

 

 

「いやいや、GT-Rは無理だって……」




お待たせしました。ネタ切れでこういう方面に走る傾向、なんとかしたいけどいかんせんネタがない。
すみません

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