Idol meets cars   作:卯月ゆう

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大変長らくお待たせしました。
モーターショー前から書いてたはずなのに、気がつけば12月です。


ep20

 #1 Idol meets car ~原田美世の場合~

 

 

「この先の企画、どーします?」

「なんか、この前日比谷さんの車撮ってたらもう完全燃焼ですわ。いい車にいい女、最高じゃねぇか」

「おだてても何も出ませんよー?」

 

 346プロの一室、ミーティングルーム7と書かれた札がドアにくっつくこの部屋こそ、美世のDrive week制作陣の城。コの字に並んだ長テーブルにはミニカーがグリッドに付くように並べられ、壁際の書類棚には雑誌のバックナンバーと、武内Pと日比谷Pがラリーに出たときの盾が写真と共に飾ってある。

 あれ以来、346レーシングの活動は不定期に行われてはいるが、モータースポーツの結果はプロデューサーたちのクラス2位、というのがベスト。

 当初の目的だったロードスターのメディア対抗レースも、我らがTeam Drive weekは下から5番目という不甲斐ない結果に終わっていました。

 と、言うのはさておき、監督さんも、ディレクターさんもネタ切れ気味の我が番組。ネタ切れ、というのも単純に呼べるアイドルはたいてい呼んだのと、乗りたい車がなくなったのです。

 欲にまみれた制作陣ですから、プロデューサーや私を筆頭に「あの車乗りてぇな」と言えばオジサンたちがどこからともなく企画を立ち上げてその車ピッタリの企画が決まるのですが……

 

 

「美世ちゃん、なんかこう、ねぇかな」

「そんなこと言われても……」

 

 うーん、とこの場にいない日比谷Pを除いた制作陣3人の声が広くない会議室に響きました。

 

 

「どうせ日比谷は新車買ってホクホクなんだろ? 俺らにゃ買えねぇからなぁ」

「とか言いつつAMG GTの見積もりもらってきたって聞いてますよ」

「ギクゥ!」

「え、監督マジっすか!」

 

 と、話が四方八方に飛ぶなか、ふと思ったことがありました。 

 

 

「最近、車が高すぎません?」

「ん? 確かに、4桁万円の車ばっかだな」

「確かにそうですね」

「もっとこう、身近な、それこそ軽とかでブリーフテストみたいなの、やりませんか?」

「「それだ!」」

 

 

「今週も始まりました、美世のDrive week。今日はですね、初心に帰って軽自動車で遊びたいと思います!」

「東京は八王子を舞台に、夕飯のお買い物やウインターシーズンへの準備などなど、全てにおいて普通に使える車なのか、確かめます」

「それでは始めましょう! 美世のDrive week」

『Start your engine!』

 

 今日の舞台は八王子。東京の西、神奈川との県境に位置する多摩地域最大級の市町村です。盆地に位置するため、低いところには市街地が広がり、山の方に向かうと住宅街が増えてくる地理要件を持ち、人口は鳥取県並みの60万人ほど。自動車の普及率も都内では高めです。

 

 

「改めまして、原田美世です」

「プロデューサーの日比谷です。さて、美世。今日の企画は美世が考えたって聞いたけど、どういう風の吹き回しだ?」

「いや、最近番組で取り上げる車、めっちゃ高いじゃないですか。なので、初心に返って軽自動車で遊ぼうかと」

 

 ですが、今回は"実用的な"という枕詞付き。S660や、ケータハムみたいな軽らしくない軽は除外です。許せてもAGSのアルトワークスでしょう。

 ですが、プロデューサーはおもったよりまともな車を選んで来ていました。

 

 

「お互いの選んだ車は初めて見てるわけだけど、なんというか、普通だな」

「そっくりそのままお返ししますよ。てっきりアルトワークスとかそういう車を持ってくると思ってたのに」

「俺だってガキじゃねえし、たまには企画の趣旨に則った車を選ぶさ。ムーヴカスタムだ」

 

 プロデューサーが借りてきたのはムーヴカスタムRS ハイパーSAIII、それも紫色の派手なヤツ。

 夏頃にマイナーチェンジして、最新のドライバーアシスト機能を手に入れました。LEDの燈火類は最近の標準装備ですね。

 

 

「うわぁ、押しが強いっていうか、凄いですね」

「だろ? このボディカラーはワンランクもツーランクも上の車と遜色ないし、ここまで乗ってきただけでも良い車だぞ。んで、美世のチョイスは?」

「私はモデルチェンジしたばかりのN-BOXですよ! 標準グレードの最上位モデルをお借りできました」

 

 N-BOX G EXターボ ホンダセンシング、とひたすら長いグレード名の新型N-BOX。見た目はほとんど変わりませんが、エンジンやボディ、全て刷新されています。

 今回お借りしたのはノーマルモデルだから、見た目もキュート(ギョロッとした目は好みが分かれそうだけど……)だし、座ってみても広々とした車内はトールワゴンらしく、目線も高いし乗りやすかったです…… と番組外で乗った話をしても仕方ないので、早速、企画に移りましょう。

 

 

「今日は最新の軽自動車で普通に使って普通に評価をしよう、という普通の企画です!」

「んな胸張って言うことか、それ?」

「はい! 最近はずっと『美世、新型LSに乗りにLAに行く』とか、『日比谷P、新車を買う』とか、『ウサミン、新型ジュリア クアドリフォリオでサーキット体験』とか、そんなのばっかりじゃないですか」

「まぁ、そうだな」

「なので! 今日は軽自動車でお買い物に行って、お家に帰って、明日はお出かけしましょう。とこういうわけですよ」

 

 今日のルートは集合場所の高尾山口駅から神奈川との県境に近い南大沢のアウトレットパークへ。それからスーパーに寄って、市北部の住宅展示場にあるモデルルームに帰ってきます。

 もちろん、ただ買い物をするだけではつまらないので、それぞれ決められた物を買ってからゴールのモデルルームで集合です。

 

 

「それじゃ、早速出発しましょう!」

「だな」

 

 それぞれの車に乗り込み、早速撮影を始めましょう。と言っても、結局一発撮り。事故ったりしない限りは撮影続行なので、気負わなくてもいい感じ。

 大きくて薄いドアを開けると、アイポイント高めのシートに収まりました。

 なんでも、アイポイントの高さはステップワゴンとほぼ同等。それにより、細いAピラーや、立ったウィンドウも相まって広々とした視界を確保しています。見切りもいいから運転しやすいですね。

 高尾山口駅から国道20号、高尾駅までは片側一車線。工事もしていたりして、舗装はあまりきれいではありませんが、継ぎ目を踏んでも箱が歪む感じはすくなく、不快な突き上げも控えめで思ったりよりもずっといい。

 

 

「プロデューサー、あたしのN-BOXは至極快適ですけど、そっちはどうですか?」

「んー? やっぱ時々自分の慣れた感覚とは違うから合わせんのが難しいな。でも、思ってたよりずっと乗用車してるわ」

 

 悪いが、俺の軽自動車のイメージって言うと、免許取りたての頃に乗ってた母の車だ。パワーがなくて、足もぐにゃぐにゃ。継ぎ目を踏むたびにボディが軋んで耳障りなノイズが車内を満たす。そんな感じ。

 でも、不思議と「どこまででも行けるんじゃないか」って思わせてくれる相棒で、正直、その後買ったワンエイティより街乗りなら楽だった。

 けど、真新しいムーヴと来たら、どうだ。頭のいいCVTとターボエンジンで、64馬力とは思えないパワー感。踏めばそれだけ進むし、ハンドルも軽く回るが、ある程度の手応えも残ってるから、ちゃんとタイヤと繋がってる感じが残っている。

 翼を広げるようなデザインのインパネも10年前のものとは比べ物にならないクオリティだ。それに、ナビもついてるしな。

 

 

「なぁ、美世。今日の買い物リスト、もらってるか?」

「いえ、てっきりプロデューサーさんから渡されるものだと思ってたんですけど……」

「今回のゲストのスケジュールは俺じゃないぞ」

「えっ? ってことは……」

 

 未成年組の誰か、ってことですかね?

 今回は私からも誰にも頼んでないので、この前みたくプロデューサーの知らぬうちに誰かが、なんてことはないはずです。

 頭の片隅でゲストの予想をしているうちに最初の目的地であるアウトレットパークについてしまいました。

 平日なのでそこまで混んでいるわけでもない駐車場を進み、撮影の為にパイロンで囲われた一角に車を入れるとひとまず車を降りました。

 

 

「さて、着いたが……」

「なにそんなにビビってるんですか、プロデューサー」

「いや、唐突に「がおー!」うわぁっ!?」

 

 ってなるから嫌なんだよ! 大人げないビビり方をしてから振り向くと、今日はきぐるみではない(と言ってもパーカーのフードから耳が生えてるが)仁奈と、駆け込んできて肩で息をする前川……もといみく。今日のゲストはこの二人で決定らしい。

 

 

「飴玉のおじさんに呼ばれて来たですよ!」

「番組プロデューサーから、武内Pを、ぜぇ、回ってお話が来たの、はぁ…… にゃ……」

「いや、仁奈は元気が有り余ってるようでよろしいが、前川、一旦休もうか」

 

 さすがにみくにゃんのイメージ崩壊(ただでさえイジられ要員と化しているのに……)しかねないので、一旦休憩を取ると、改めて番組を再開しよう。

 

 

「また仁奈ちゃんとお買い物ですよ!」

「また美世おねーさんとお買い物でごぜーます!」

「元気だにゃあ……」

「全くだ。それで、買い物リストは持ってきてくれたのか?」

「それなら、飴玉のおじさんからもらってきたですよ」

 

 仁奈の水色のリュックサックから取り出されたのは、少しクシャッとした金色の折り紙。それを広げて手渡してくれたのを受け取ると、その内容を読み上げる。

 

 

「これから冬本番。レジャーに帰省に、車を使う機会も増えるでしょう。そこで、最新のスキー、スノーボードウェア一式と4日分の荷物を積んでみてください。だそうだ」

「ウェアって、結構かさばるんですよねぇ」

「スキーに行くですか!?」

「今回は準備編、ってとこかにゃ? それはまたプロデューサーにお願いすれば、きっとお仕事取ってきてくれるから、終わったらプロデューサーのとこ行こ?」

 

 武内さんには彼女らの期待に応えてもらうべく頑張って頂くとして、元気が更に増した仁奈を先頭に、ウェアから順に揃えていこう。

 可愛いウェアが嵩張ることを覚悟しつつ、数時間で買い物を終えるとウェアや小物、それから冬物の服がいっぱいに詰まった袋を両手に下げて駐車場まで戻ってきた。

 綺麗にパッキングしてないから、なおのこと膨らんで見える袋たちを前に、美世は自信ありげな表情だ。

 

 

「N-BOXならこれくらいは余裕ですよ。ね、仁奈ちゃん」

「余裕ぶっこいてるとこ悪いが、仁奈はジュニアシートだ。リアシートは仁奈の専用席だぞ?」

「ふふん。そこはシートアレンジ次第。仁奈ちゃんともっと仲良くなれますからね!」

 

 とてて〜、っと走って監督からジュニアシートを受け取った仁奈をそのまま車内に案内した美世を横目に思案しよう。

 こっちはみくを助手席に乗せられるからリアシートを全部倒せば余裕だ。ただ、そうなるとこのあとスーパーで買うものを積むスペースが怪しくなる。何を買わされるかわからない以上、リアシートを片方は開けておきたい。

 

 

「さて、積むぞ。後ろを片方倒すから、テキトーにな」

「テキトーに、って、本当にテキトーだにゃ…」

 

 ムーヴと言えば、リアゲートが横に開くってイメージだったが、普通に上に開ける様になったらしい。大きな開口部だが、軽の宿命として、リアシートまでの奥行きは皆無に等しい。リアシートを片方倒して奥行きを確保すると、テキトーにウェアから何から奥から並べると大きなリアゲートを閉めて終了だ。

 美世の方を見ると同じようにリアシートを片方倒して開いた助手席後ろのシートに仁奈を乗せるらしい。

 

 

「よし、先に行って夕飯の材料もさっさと買っちまおう。なんか食いたいもんあるか?」

「それなら、さっきおつかいメモをもらったにゃ。なになに、どれどれ…… これは……!」

「ん? 嫌いなもんでも入ってたか?」

「違うもん! 今日の夜はハンバーグにゃ!」

 

 向こうは向こうで楽しそうだなー、とチラリと日比谷Pとみくちゃんを見てから荷物の積み込みをしてくれる仁奈ちゃんに視線を戻すと、偶然にも目があって。

 

 

「美世おねーさんのぶんはもうねーですよ」

 

 とあっさりお仕事終了宣言。綺麗に積まれた荷物を見てから大きなリアゲートを閉めると仁奈ちゃんのシートへご案内。左側の前後シートを最大まで前に出すと斜めの導線が生まれ、自然と距離感も縮まるのが新型N-BOXのいいところ。

 早々と駐車場から出ていった2人の車を見送ってからこっちも車内で作戦会議と行きましょう。

 

 

「仁奈ちゃん、夜ごはんは何が食べたい?」

「んー、いろいろあって迷うですねぇ」

「ねぇ、仁奈ちゃん。ポケットから出てるの、なにかな?」

「あっ! あめだまのおじさんからお買い物リストもらってたですよ!」

 

 仁奈ちゃんが買い物リストを読み上げるのを聞いて、なんとなくメニューを思い浮かべると、食材の調達を考えないといけません。

 彼らがどこで夕飯の食材を調達するのか知らないけど、土地勘も何もない私達はおとなしく……

 

 

「近くにスーパーあってよかったでやがりますね」

「そうだね。いくらナビがあっても迷子は嫌だもんね」

 

 車から降りてアウトレットから3分のところにあるスーパーを使うことにしました。

 仁奈ちゃんのおやつも買えば(スタッフ総出で貢ごうとするのはなんなんですか?)道中も楽しくなりますね。

 

 

「みくを乗せんのは初めてか?」

「前にのあにゃんの車に一緒に乗ったことはあったけど、Pの運転は初めてかも。意外と安全運転なんだにゃぁ」

「そりゃ、仕事柄車に乗れないのはまずいしな。それに、俺が外に出るようになったからにはなおさら気をつけないと」

「ふふん、Pにもアイドルとしての自覚が出てきたんだにゃ」

「ちげーわ」

 

 みく曰く、ポルシェだのベンツだの、いかにもな高い車(もちろん、のあのテスラも含まれている)は流石に緊張するが、軽なら気負わずに乗っていられるから良いらしい。

 ゴキゲンなみくとともに買い物も無事に済ませ、あとは美世と競争だ。悪いが、八王子は俺の地元。地の利はこっちにある。

 

 

「~♪ ~~~♫」

「美世おねーさん、さすがでやがりますね!」

「ふふん、たまにはアイドルっぽいとこ見せないとね」

「いつも友紀おねーさんと、茄子おねーさんと一緒に練習してるのみるですよ」

 

 こっちは車内でカラオケ大会。もとはと言えば、5時のチャイムで『夕焼け小焼け』が流れたのが始まり。そこから仁奈ちゃんが歌いだしたので一緒に歌っていたら気がつけば一緒にいろんな歌を歌っていました。

 一番驚いたのは仁奈ちゃんの歌う毒茸伝説。あれはやばいですよ、いろいろと。

 車内で歌っていれば目的地に到着。既に紫色のムーヴは止まっているのが悔しいところです。

 

 

「プロデューサー! みくおねーさーん!」

「仁奈ちゃん、手洗って!」

 

 玄関から即座にダッシュを決めた仁奈ちゃんが、ちょうどみくちゃんにタックルをキメ、ふわりと香るのはお肉の匂い。これはハンバーグですかね?




モーターショーには行きましたが、いまいちネタになる車もなかったので、書きませんし、書けません。楽しみにしていた方には申し訳ありません。

今後も不定期にがんばります。
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