Idol meets cars   作:卯月ゆう

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ep26

 #1 Idol meets motorcycle 〜和久井留美の場合〜

 

 

 枕元に置いたスマートフォンがアラーム音とヴァイブレーションで頭を揺さぶる。

 画面に指を滑らせてから手に取り、ベッドから抜け出すと、ダイニングへ。キッチンカウンターに置かれたコーヒーメーカーにカブセルを入れると、マグカップを置いてからスイッチを入れた。

 その間にスマートフォンのカレンダーを見て予定を確認すると、コーヒーメーカーが最後の一滴を絞り出した。

 

 

「今日は昼まで……」

 

 都内のカフェで雑誌の取材を受けて帰るだけ。レッスンもなにもない。その雑誌もビジネス誌だから服装も頭を使わず(似合わない可愛いものを身に着けず)に済む。

 頭の中でコーディネートを決めると砂糖も何も入れずに一口。

 それから身支度を済ませると、冷めたコーヒーを流し込んで家を出た。

 ラジオのニュースを聞きながら朝の渋滞に嵌まることなく一般道を行けば、予定の10分前には目的地に着いた。

 

 

「おはようございます」

 

 社長秘書、と言う職歴から、時折受けるこの手の取材。読者層が読者層故に評判はいいらしい。こんな部下がいたらなぁ、と。

 誰かの下で決められた仕事をする、というのは自分に合っていたと思うし、当時の待遇に不満も無かった。それでもふと、違うことがやりたくなった。十分な蓄えはあったし、ふらっと辞職届を出したら引き止められはしたが、最終的には快く送り出してもらった。そして今に至ると。

 

 

「和久井さん、車と一緒にお写真撮らせてもらえませんか」

 

 インタビューが終わると撮影に。カメラマンや、記者さん曰く、ネットを見ていると私のデキる女的なキャラの強化に一役買ってるのがこの車だと言うのだ。

 そんなの、あの番組のファンが騒いでるだけだろうに、と思っても口には出さずに頷いておく。元々考えていたようで、慣れた手付きでナンバーにぴったりのカバーを貼り付けると数枚写真を撮って取材は終わった。

 そのまま出版社の方々と撮影場所のカフェでランチ。その時、ふと顔を上げると、窓の外を一台のバイクが走り去った。

 白に差し色で何色か入ってるように見えたけど、ヘルメットから溢れる亜麻色の髪が靡いてきれいに見えた。

 

 

「いいなぁ」

「どうかしました?」

「いえ、ちょっと気になるものを見つけたので」

 

 そこからまた話が膨らんだりもしたが、帰えると即座にネット検索。バイクはあまり詳しくないからよくわからない。白いバイクだって世の中にはいろいろあるわけだし。

 ここは彼の手を借りるしかなさそう。

 

 

「んー、白いフルカウルねぇ。そんだけじゃなんもわかんねぇぞ」

「差し色が入ってて、黒系の」

「うーん?」

 

 夕食後のテーブルの上で、タブレットをいじる悠がこれかこれかと候補を出してくる。

 カワサキ? こんなにトゲトゲしくなかった。ホンダでもない、スズキ? そもそも青いじゃない。

 動画サイトで海外のバイクを見始めて何本かめでようやくお目当てを見つけられた。

 

 

「これよ、これ。今日見かけてすっごく格好よかったの」

「アグスタねぇ。イタリアのバイクだよ。確かにカッケェな。なんつうか、オシャレだ」

 

 そのままメーカーのサイトを見ると、今年のモデルは色が違っていて、彼いわくバイクは毎年カラーバリエーションを変えることが多いらしい。調べてみると、お目当てのF4と言うバイクも、毎年白と黒というのは変わらず、下半分真っ黒だったり、ヘッドライトの周りが黒かったり、年式によって違うらしい。

 もう一度メーカーのページに戻り、他のカラーも見てみると限定モデルの赤黒や、レースに出てるもののレプリカ。それから、通常モデルの白黒と黒灰、赤銀、白。どうやら、細かいスペック違いもあるらしけれど、よくわからない。とにかく速いというのはわかった。

 その週末、空き時間を作った私はバイク店に向かっていた。ずらりと並んだバイクの中に、お目当てを見つけるとマジマジと眺める。あまりにも熱心に見ていたからか、店員さんから、跨ってみる事を勧められてしまった。

 

 

「足つくかしら……」

「大丈夫だと思いますよ。女性のオーナーさんもいらっしゃいますし」

 

 上半身をタンクに被せるようにすると、足をあまり上げずに済むとのアドバイスに従って跨ってみる。足は…… 着いてる。パンプスだからなんとも言えないけど、つま先は両方。

 店員さんも、これだけついてればあとは靴とかでなんとでもなると言っていたし。これは……

 次のオフ、今度はちゃんとバイクが分かる子を誘って再び同じお店へ。

 

 

「ほほう、MVアグスタですか。渋いですねぇ」

「格好いいなぁ、って思ったらもう欲しくなっちゃって」

「プロデューサーさんには相談したんですか?」

「もちろん。街で見かけたバイク、がわかったのも彼のおかげ」

 

 ほほん、とそっけなく反応するとそれだけで美世ちゃんは視線をバイクに戻すといろんな細かいところを眺めてほーん、とかほぇーとか鳴き声を上げ始めた。

 店員さんの所に行き、一言二言会話をすると、店員さんを引き連れて戻ってきてから店の外に出るように促された。

 

 

「やっぱり一度エンジンかけてみないと。お願いしまーす」

 

 バイクを押しながら出てきた店員さんが、スタンドを立てたバイクにキーを挿してひねればドロロッと音を立ててエンジンが掛かった。

 パイプオルガンのようなエキゾーストは大きな音を立てるし、エンジン周りからはカチカチカンカン音がする。壊れてるの?

 

 

「おー、いい音ですね。まだ暖まってないんで、若干メカノイズ大きい気はしますけど」

「メカノイズって、壊れてたりしないのよね?」

「ええ、車もそうですけど、ヒエヒエの時は意外とこういう音が出てるものですよ。特にイタリア車はヤバ…… 大きめですけど」

 

 一瞬ヤバイっていいかけてなかった?

 美世ちゃんとバイク屋さんの最近のイタ車はそんなに壊れないから。という言葉を信じて成約。

 書類にサインして、頭金をその場で払うとあとは待つだけ。美世ちゃんはそんな、一発サイン…… と友紀ちゃんみたいなことを言っていたけど、普通じゃないの?

 

 

「他のお店とか見なくてよかったんですか? なんなら、中古車も比較的状態良いのが多いですし」

「私はアレが良かったの」

「って、1台しか見てないじゃないですか……」

 

 美世ちゃんを家まで送って帰ると、すぐにバイクを買ったことを報告。すごく気になってたみたいだし。

 

 

「買っちまったか。となると、ウェアとかも揃えないとなぁ」

「昔買ったのがあるし、別にいいでしょ」

「ヘルメットにも使用期限はあるし、ウェアだって流行り廃りがあるんだ。アイドルっぽく気ぃ使えよ」

 

 とおっしゃるプロデューサー()の意のままに、翌日は仕事を早めに切り上げるとウェアの専門店へ。

 なんか、もっと男臭いイメージだったけど、ガラス張りで明るい店内は思ってたよりずっとオシャレ。

 この店舗はレディースウェアでワンフロアあるし、ウェア自体も機能的でありながら、いかにも、なものからシックなものまでいろいろ。黒くて安い革のジャケットは時代遅れにもなるわね。

 いくつかジャケット羽織ってみたり、ヘルメットを被ってみたり、いろいろしている間に店員さんも付いて、フルコーディネートになってしまった。

 バイクに合わせてモノトーンで装備は統一。ヘルメットにはカッティングシートで簡単に装飾を足すことにして、柄物をチョイス。

 さて、道具も揃ったし、あとはバイクを待つだけ。はぁ、この納車を待っている時間は本当に待ち遠しいわ。

 

 

「いや、マジで助かった。ありがとな」

「ありがとう、涼ちゃん」

「いいんだよ。プロデューサーさんにも、留美サンにもお世話になってるし、これくらいお安い御用さ」

 

 数週間後、私と悠で仕事終わりを合わせて一緒にバイク屋さんへ。てっきり彼が送ってくれるものだと思っていたら、涼ちゃんにお願いしていたらしい。

 彼女も一緒にバイク屋へ向かうと店先には白いF4RRと目つきの悪い赤いバイクも隣に並んでいる。

 

 

「イタリアンが並んでるだけでも絶景だな」

「だろ。涼にCBR買ってもらったおかげだよ」

「ねぇ、どういうこと?」

 

 はてさて、旦那は一体何を隠しているのでしょうか。答えは簡単、バイクを買っていました。下取りにアイドルにバイク売りつけて。

 はぁ、妙に機嫌がいいと思ったけど、私もゴキゲンだったせいか、気が付かなかった。道理で今日は背負えるバッグで来たわけだ。

 二人揃って納車の手続きをし、代金を耳揃えて出し、いまさら店員さんに「ご夫婦ですか」と聞かれて短くはい、と答えた彼にどことなく満足感を得たり…… というのはいまはいい。何はともあれ、表に止まっていた赤いのは彼のと言う事だ。はぁ、本当に呆れちゃう。

 

 

「説明は以上になります。なにかご質問などございますか?」

「いえ、特に」

 

 取り扱いの説明を受けると、彼の方をちらりと見て、終わりが近いのを確認すると、持ってきていたヘルメットとグローブをつけた。まだ馴染まない感じはするけど。

 と思っていたら、彼にヘルメットを叩かれた。

 

 

「メット貸して。インカムつけてもらうから」

 

 あとはエンジンかけるだけだったのに。もう。

 その間にどこでガソリン入れるとか、どこでご飯食べるとかを決めると改めて出発。

 彼を先頭に最初の関門、歩道の段差。難なくクリア。それからしばらく走ってスタンドで給油。それからファミレスに入ると涼ちゃんも交えて夕飯に。

 

 

「後ろから見てて羨ましくなったよ。また夏樹とか誘ってツーリング行こうかな」

「人間の慣らしも兼ねて行ってきたらいいんじゃね?」

「悠のバイクなんてどこが壊れてるかわからないし、気をつけたほうがいいわ」

「プロデューサーには厳しいんだな」

 

 今の彼はプロデューサーじゃなくてただの子供だし。でも、またこうして遊べるおもちゃが増えたんだからそれと同じくらい、仕事してもらわないとね。

 

 

「んあー! 難しい! 悠、やって!」

「だから言っただろ、左右対称に貼るの難しいってさ」




たまにはバイクの話
るーみんはSS似合うと思うの。

Pはイタリアの赤いやつ。おわかりですね?
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