Idol meets cars   作:卯月ゆう

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短編集


ep28

 ss1

 

「渋谷さんはトライアドプリムスとニュージェネレーションズの活動と、並行していらっしゃいますが、方向性が大きく違って戸惑ったりしたことなどはありましたか?」

「それはもちろんありました。なんというか、トライアドはひたすらに至高の存在でなければならない、ニュージェネは最高の存在でなければならない。そんな感じかな」

 

 木曜日の夕方、雑誌のインタビューが入っているために都心部のスタジオへ。今日はトライアドプリムスの3人が久しぶりに紙媒体へ出るとあって、個人的には期待半分、不安半分と言ったところ。

 トライアドの3人は基本的に個性が薄い。パフォーマンスのクォリティで言えばプロダクショントップと言っても過言じゃないと思っているが、それを見せられないメディアには弱い一面もある。

 

 

「ニュージェネの3人でレッスンしてるの時々見るけど、なんて言うか、雰囲気が暖かいよね」

「あたしらが冷たいみたいに言うなよ……」

「でも、基本的に合わせて、改善点洗い出して、修正して、の繰り返しだから、ドライっちゃドライじゃん? ニュージェネみたいにワイワイやってるのはちょっと見てて羨ましいかな」

「そう? 卯月と未央の2人と居ると確かに騒がしかったりするし、それでレッスン止まったりする事もあるけど、加蓮と奈緒と居るときはまた別の安心感はあると思ってるよ」

「安心感ねぇ」

 

 夏に控えたサマーフェスに向け、俺の管轄ではクローネからは看板ユニットのトライアドはもちろん、いろんな組合せも考えているから、3人には忙しくしてもらうつもりだ。

 それ以外にも、シンデレラプロジェクトメンバーとのユニットもあるし、1人あたりの持ち曲は3から5と言ったところか。346プロの看板でもあるぶん、その負担は大きい。

 

 

「それに、卯月と未央に大見得を切った手前、立ち止まれない。クローネで冠を戴くのは私なんだから」

「おっ、言うねぇ」

「ユニットっての忘れんなよ? あたしだって置いてかれる気はないからな」

「ここで『みんなで1番』って発想にならないあたりが、私達らしいよね」

「1番になれるのは一人だけ、だから、1番」

 

 

 ss2

 

 

「本日はシンデレラエアライン346便 ウィーン行をご利用くださいまして、ありがとうございます。この便の機長は日比谷、私は客室を担当いたします相馬でございます。まもなく離陸いたします。シートベルトを腰の低い位置でしっかりとお締めください。ウィーンへのフライトはおおよそ12時間を予定しております。ご用の際にはお近くの乗務員に声をおかけください。Good morning ladies and gentlemen. Welcom aboard...」

 

 おお〜、と客席から歓声が上がる。

 飛行機でお馴染みのアナウンスではあるが、目の前で見知った人がやっているのはなんか、こう、すごい。我ながら悲しい語彙力だが、今日は大人の社会科見学と称して夏美、清良さん、瑞樹さん、早苗さんの4人の転職アイドル(言い方は悪いが)に、前職を紹介してもらおうという触れ込みのバラエティ。けれど、大人の、と枕詞がつくから、少しばかり踏み込んだ(見栄えのしない)ところにも突っ込んでいる。例えば

 

 

「午前10時頃、東京都内の交差点で信号待ちをしていた乗用車に居眠り運転のトラックが追突し、乗っていた家族3人が重軽傷を負いました。また、トラックの運転手も軽症で病院に運ばれており、警察は運転手の回復を待って事情を聞く方針です」

「清良ちゃん上手いわ〜! 滑舌もいいし、変な癖もないから向いてるわよ」

 

 なぜか真顔で事故のニュースを伝えたり。

 

 

「早苗さ〜ん、お仕事ないんですか?」

「ないわ〜」

 

 警察署の窓口に座っていたり。

 もちろん、世間一般のイメージするお仕事も冒頭にあったように体験させていただいた訳だが、2/3は後にあるような実務に近い暇な場面。あえて言うなら看護師のお仕事で、昼間の巡回ではアイドルの面目躍如か、喜ばれていたようだが、清良さん曰く、普段はなんでもないリアクションがあるだけのようだ。

 

 

「えーっと、プロダクションに帰ってきましたけど、終わりですか?」

「最後に、プロダクションのお仕事を体験してみよう、って事なんですけど、どういうことでしょう?」

「お手紙どうも。説明するわ。これから私達には番組を撮ってもらいます。監督、ディレクター、カメラが2人。機材係が一人だそうよ」

「普段撮られる側の私達が、一本撮りなさいってことね。それで、どんな番組なの?」

「それが……」

 

 

 ss3

 

 

「アイドルウォッチ365、今夜も始まりました。わたくし秋野空が、アイドルに関わる様々な方をお呼びしてお話を伺いながら、『アイドルになりたい! アイドルを追いかけたい! もっとアイドルを盛り上げたい!』そんなみなさんの気持ちに答える30分。スタートです」

 

 都内のラジオ局、時刻は夜の11時。ブースに入っているのはいまをときめくアイドルの一人、『アイドル追っかけ系アイドル』の秋野空さんと、俺。

 そう、今回の仕事は担当ではなく、俺に向けられた仕事なのだ。もともと、制作側の人間を呼んだりフリーランス色の強い番組だとは思っていたが、まさかプロデューサー、それもパーソナリティーとは別のプロダクションの俺に話が来るとは思わなかった。

 

 

「アイドルウォッチ365、改めまして秋野空です。今夜も、アイドルのバックグラウンドで働く方をお呼びしています。一部の界隈ではもうすっかり有名人ですが、どうぞ!」

「美城プロダクション、アイドル部門 プロデューサーの日比谷悠です。こんばんは」

「自己紹介で噛まないゲストさんは久しぶりですねぇ。というわけで、今日はアイドルを最も近くでサポートするプロデューサーさんにお越しいただきました。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、ラジオ局に来ることはあっても、ブースに入るのは初めてなのでお手柔らかにお願いします」

 

 おう、これに備えてボイスレッスン受けてきたからな。とは言えず、ナチュラルに返す。

 もうすっかりカメラを向けられることには慣れたとはいえ、ラジオは初めての経験だ。それも生放送。いやぁ、今まで出てきたゲストさんは本当に勇気があるなぁとこっちに来て思った。

 

 

「それでは、早速なんですが、まず、アイドルのプロデューサーって一体どんな仕事をされているんですか?」

「簡単に言ってしまえば、アイドルの仕事を取ってきたり、スケジュール管理が主な仕事ですけど、現場に付いていったり企画を作ったりもありますね」

「なるほど、予想通りというか、イメージ通りなんですが、日比谷さんは何人くらいをマネジメントされているんでしょうか?」

「えー、クローネが10人…… あーっと…… あれが…… 大体60人弱ですかね」

「だいぶ数えるのに手間取ってましたけど、そんなにたくさん…… 実際大変でしょう?」

「スケジュール管理はアプリを使っているので楽ですし、私の担当は成人済みの方ばかりなので現場のアテンドも多くはありませんからそこまでではないですね。おかげで番組もやらせていただいてますし」

「そうなんですか? でも、たしかに未成年の子は法律とかいろいろあるので時間の成約もありますしアテンドも必要でしょうからねぇ」

「上司のプロデューサーは大変そうですね。シンデレラは未成年の子ばかりなので。アテンドも増えますし」

 

 

 その他にも、プロデューサーになったきっかけや、裏話も混ぜながら話は進み、20分も話せば番組も終わり際。〆トークに入ってくる。

 秋野さんの話の上手さもあってか、自分は時計を気にしなかった(する余裕もなかった)が、流石プロと言うべきか、俺はうまいこと彼女に乗せられていたようだ。

 

 

「さて、そろそろ終わりのお時間ですし、恒例ですが、最後に日比谷プロデューサーが思う、プロデューサーとは、なんでしょう?」

「そうですね…… アイドルの一番のファンであり、一番の味方であることですかね。月並みですが」

 

 

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