Idol meets cars   作:卯月ゆう

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ep32

 #1 Idol meets cars 〜原田美世の場合〜

 

 世界自動車売上高ランキング上位の常連といえば、フォルクスワーゲン、RNMアライアンス(ルノー・日産・三菱)、そしてトヨタ。3社とも1000万台前後の売上を記録し、世界中どこにいてもいずれかのメーカーの車を見ることができます。

 そんな世界規模のメーカーの中で、日本代表とも言えるトヨタが本社を構えるのが、言わずと知れた愛知県豊田市。名古屋から車でおおよそ1時間。愛知県のほぼ中心に位置する豊田市はトヨタの企業城下町として知られ、トヨタグループの部品を供給するメーカーも多く点在しています。

 そのへんを走る車はたいていトヨタグループで、ナンバーまで「豊田」。工場から出てくるトラックは日野だし、スーパーに入っていくおばちゃんの軽はダイハツ、ちょっと立派なビルの駐車場に止まるのはレクサスです。

 

 

「おはようございます、原田美世です。今日はリアシートからのスタートです」

「やんごとなき座り心地がヤバい、プロデューサーの日比谷です」

「以前、番組で乗ったロールスロイスと遜色ないですよ。そんなやんごとなきお車はトヨタセンチュリー」

「今日は、日本が誇る自動車メーカー、トヨタの歴史を追いかけてみようと思います。舞台はもちろん、豊田市です」

 

 名古屋でお迎えのセンチュリーに乗り込み、高速を走ること1時間ほど。豊田駅からすこし南にあるトヨタ自動車本社にやってきました。

 本社の奥にはテストコース、道路を挟んで向かいには本社工場があります。トラックが忙しなく出たり入ったり……

 出迎えてくれた広報さんの案内でまずは本社ビルへ。通された会議室でお茶を頂きつつ、トヨタの歩みを映像で振り返りました。

 

 

「お二人はトヨタ車をお乗りになられた事はございますか?」

「それは、何度も」

「そういう仕事ですしね」

「ああ、そうですよね。では、所有されたことは」

 

 そう聞かれて二人揃って首を振り、困った顔を返される場面もありましたが、トヨタの織機から始まる歴史を資料で振り返ったところでお待ちかねの実物です。

 本社ビルの裏というか奥というか、本社テストコースにやってくるとまず現れたのは黒光りする流線型のボディ。古めかしいストリームラインを纏うのは、有名なトヨダAA型です。

 

 

「これはこれは。博物館で見た車が走ってるぞ……」

「凄いですね。本物見るの初めてなんですよ!」

 

 シンプルな曲線で構成されたストリームラインのボディは、戦前のアメリカ車の影響を強く思わせ、メカニズムも当時ポピュラーだった3.4リッターのストレート6。これはシボレーエンジンのコピー品とされ、インチ規格で設計されていました。

 

 

「観音開きのドアですよ! リアシートも広いですね」

「前はちょっと窮屈だな。そう考えるとタクシーとか、ショーファードリブン向けって言われるのも納得だ」

 

 現代の車とは比べ物にならないほどアバウトな操作感覚に戸惑いながら美世を後ろに乗せて構内を走り回る。

 ふわふわのペダルに、めっちゃ重いハンドル、入りづらいギア。ダブルクラッチや持てる技術を総動員してなんとか走らせると次の車が待っていた。

 

 

「これもトヨタを代表する車だな」

「今でも続く代名詞ですよね。トヨペットクラウン」

 

 AA型と同じく、当時のアメリカ車のデザインに強く影響を受けながらも、メカニズム面で純国産化を図ったトヨペットクラウン。

 観音開きのドアは現代でもトヨタ・オリジンのモチーフとされるなど、現代に通じるトヨタの原点(オリジン)と言えるだろう。

 前輪独立懸架、リアリジッドの足回りは、当時不安視された耐久性をラリーで払拭。タクシーとしても活躍し、商用車として開発されたトヨペットマスターをあっという間に廃盤に追い込んだ。

 

 

「コラムシフトですか……」

「コラムシフト3速マニュアル。リモートコントロール式って呼ばれてたらしいな」

 

 ぶるんぶるんと唸るエンジン。その振動を感じながらクラッチをミートさせると、若干の非力さを感じながらも走り出しました。

 ニュートラルを挟むダブルクラッチで回転数を合わせて2速へ。緊張していたほどギアの扱いは難しくなく、意外とスムーズに入り、更に加速させます。

 

 

「狭いっちゃ狭いんだが、なんか心地良いな。お爺ちゃんの家みたいな」

「実家じゃないんですか?」

「なんつうか、そうじゃなくて田舎のじいちゃん()なんだよなぁ。うまく言葉にできないけど」

 

 バタバタ唸るエンジンにムチを入れ、外周の高速周回路に。アクセルを底まで踏み込みトップへ入れると約70kphほどまで加速したあたりで頭打ち感が出てきました。

 こころなしかハンドルも軽くなって怖いのでアクセルを離してそろそろと減速。ヴィッツより少し長い程度のボディサイズですけど、4輪ドラムブレーキですよ。もちろんABSも無く、少し不安なのでエンブレでゆっくり減速してから構内に戻ると同じように次の車が。これはこれはかわいい車ですね!

 

 

「最初はグー」

「じゃんけんポン!」

「やった! ふふん、プロデューサーさんは隣ですよ!」

 

 待っていた車はトヨタスポーツ800。

 ヨタハチの相性で親しまれるまるっこいシルエットのスポーツカー。当時の大衆車と多くの部品を共有しながら、空力性能に優れる軽量ボディを武器にサーキットで大暴れしました。60年代の車開発には大戦時に航空機の開発に携わっていた人が多く、この角の落ちたスタイルや軽量ボディにもその知見が生きているようです。

 

 

「やっぱ狭いな」

「今の軽自動車よりちっちゃいですからね。けど、結構しっくりくるポジションですよ」

 

 パタパタぷるぷると2気筒特有のビートを刻みながら走らせると、ダイレクトなフィーリングが気持ちいい。なにより軽いから、パワステが無くてもハンドルは適度な重さを伝えてくるし、ヒラヒラと動いてくれる。エンジンの頑張りを感じながらスピードを上げてもクラウンのような不安感はありません。

 

 

「スラローム行きますよ」

「おおっ、うっ、ちょっとホールド性がキツイな」

「けど、大人二人乗ってもこんなに軽く走りますよ。楽しいですね!」

 

 楽しい時間はあっという間、すぐに戻ってくると次の車へ。1車種10分少々で次へと乗り換えるので後ろ髪引かれつつ次の車へ。

 トヨタの伝説的スポーツカーです。

 

 

「…………」

「プロデューサーさん、黙ってると困るんですよね」

「なんというか、コメントに困るんだ。大人になってから見ると違うわ」

 

 トヨタ2000GTといえば、数々の銀幕スターを乗せてスクリーンを駆け抜け、全国のファンを虜にし、耐久レースで日産と激しいバトルを見せ、スピードトライアルで世界記録を打ち立て、とストーリーを上げたらきりがないヒーローだ。

 専用プラットフォームに流麗なボディ。専用のDOHCヘッドに専用のトランスミッション、豪華な内装。当時の車好きは間違いなく夢中になっただろう。

 楽器屋(ヤマハ)らしい美しい木目のインパネ、ハンドル、シフトノブ。細めの仕上がりながら、手を添えれば年代物らしい凄みを感じる。

 

 

「美世、横乗れ」

「う、うん……」

 

 エンジンを掛け、ギアを1速に。インパネの下部に伸びるステッキ式(T字orL字のノブを引くやつ)のサイドブレーキを倒して押し込み開放。

 意外とすんなり繋がるクラッチから足を離せばストレート6の奏でるビートを高めながら道へと繰り出せる。

 

 

「小さい頃にトヨタ博物館に連れてってもらったことがあってな。昔は最新のスポーツカーこそ何よりかっこいいもの。レースカーは神。そんなふうに思ってた」

「小さい頃あるあるですよね。あたしもそうでしたし」

「もちろん2000GTも置いてあったんだ。カッコいいとは思ったさ。スポーツカーだからな。けど、スープラには敵わなかった。今思えばスープラのご先祖様なのに」

 

 日比谷少年はそれくらいの思い出でしかなく、その後に見た某春日部の5歳児の映画に登場したり、時折雑誌やテレビで見かける存在でしかなかったが、歳を取るとクラシックカーの趣味に理解が生まれる。

 自動車文化の歩みを語る上で欠かせない車達。2000GTもその1台なわけだ。イギリスのスポーツカーに憧れた当時の大人たちが、自分たちの手で生み出した1台。ロングノーズショートデッキ、ドライバーを囲むダッシュボードに、計器類。今の車にないアナログ感と、機械の噛み合う感覚を伝えてくる。

 

 

「名残惜しいのはわかりますけど、次の車が待ってますよ」

「もう少し乗っていたいなぁ」

「次は…… ダルマセリカですね。それと、カローラですかね?」

 

 クラシックカーには疎いあたしでもわかったのは、丸目4灯のヘッドライトが目印のダルマセリカこと、初代セリカ。その隣りにあるのは弟分の初代スプリンタートレノです。

 

 

「おぉ、友達がオンボロのトレノ乗ってたなぁ」

「ええっ、これ70年代の車ですよね?」

「おう。たしか72年式だったかな? 軽くてFRだから、ドリフトもできるし、タイヤちっちゃいから安いんだよ」

 

 迷わずトレノに乗り込むプロデューサー。はいはい、あたしはセリカですよ。

 時代の流れを50年代から順番にたどってきて、順当にレザーとファブリックかな? 布地のコンビシートに身を預け、随分と現代に寄ってきた感覚のインパネを眺めてからキーを捻る。

 1.6リッターの4気筒DOHC2T-Gエンジンが小気味いいサウンドを響かせると、60年代の車とは比較にならないほどすんなり入るシフトを1速に入れて、指を降るプロデューサーの先に出ました。

 すごく普通だ!

 パワステはまだですけど、普通にMT車。ばるーん! と元気の良いエンジンに、1トンそこそこの車重、適度なダルさのある5速シフト。乗り味もだいぶ最近の車に近い感じが。

 コースを楽しんでから戻ると、プロデューサーさんも満面の笑み。余程トレノがお気に召したようです。向こうのほうが同じエンジンでもだいぶ軽いんだとか。

 そろそろ知ってる車がくるかなーと思いながら戻れば案の定。80年代のグループAを戦ったこの車。

 

 

「スープラ 2.5GTツインターボRねぇ」

「これでもまだ年上の車ですよ」

「俺もまだ生まれてねぇよ。けど、いまも中古車で見かけるな」

 

 美世が運転席に収まると、俺は隣へ。やっと窮屈な思いをしないで済む車が来たな。

 そろそろ勝手知ったると言わんばかりに、かんたんに掛かるインジェクションのエンジンに火を入れ、長いシフトレバーを1速に。大柄なボディをデカいエンジンで動かすと言うシンプルな理屈を身体で感じよう。

 

 

「背中が張り付くような加速感。パワーですねぇ」

「直6ツインターボだからな。ちょっとブースト上げりゃ簡単に350とか400馬力出せるエンジンだぞ」

「やっぱり大きいエンジンだけあって、頭も長いんですけど、真っ直ぐなデザインなので意外と見切りもいいんですよね」

 

 高速周回路で始めて180キロのリミッターに当てると二人で謎の盛り上がりを見せ、スラロームで大柄なボディを振り回すとハイテンションのまま次の車へ。90年代。やっと俺らが生まれたあとの車が来るか?

 

 

「やっと、やっとあたしより年上の車ですよ!」

「誤差レベルだわ。えっと、資料によると…… 98年10月30日発売だそうだ。2週間お前より年上だな」

「うぐっ、思ったより差がない…… こ、この車は……」

「最終型2005年モデルだな」

 

 がっくりとうなだれる美世を隣りに乗せると、名機3S-GEに火を入れた。2リッター210馬力。VTECもかくやという高出力に、可変バルブタイミング機構を備え、スーパー耐久やワンメイクレースで盛り上がりを見せた。

 チューニングベースとしてはいまいちだったようだが、中古車が流れ始めると走り屋小僧がこぞってドリフトに持ち込み、今でも人気のあるモデルだ。4ドアマニュアルで速い車って殆ど無いからな。

 

 

「やっと現代的な車に乗ってるわ」

「最初に乗ったAA型とは比べ物にならないですね。70年の進化を改めて感じます」

「機械の進歩もそうだが、人間の触れる部分、見る部分の進化も感じるよな」

「デザインもその当時の流行りがわかったりして面白いですね。流線形、ウェッジシェイプ、シャークフィン、色々ありましたね」

 

 快適なドライブを楽しんで戻ると、まだ終わっていない、とばかりに純白を纏う高級車が待っていました。そう、あたしたちはまだ90年代に居たのです。

 

 

「「最初はグー!」」

 

 

「ぐぅ……」と鳴くプロデューサーさんはさておき、甲高いV10の調べ、カーボンとアルミでできたこの車はレクサスLFA。2000GTから続くヤマハエンジンの系譜も集大成。アナログの針が追いつかないレスポンスで回るからメーターがデジタルになった、なんて噂もある程素晴らしいエンジンです。

 

 

「もう、最高…… 2000GTに乗ってたプロデューサーさんの気持ちがわかるかも」

「スーパーカーってのは、その時代の叡智の結集なんだよな」

「00年代の開発だけあって、シフトが今のフェラーリなんかと比べるとやっぱりモッサリしてますしね。それでも十分速いですけど」

 

 地面に寝るように低い着座位置。自分を中心に車を動かす感覚を実現するために、重量物をタイヤの間に押し込んで、なおかつ低く低く置くことでロールセンターはミドシップ車と変わらない低さを実現。もちろん場所はひじの下、地面から450ミリです。

 3000万円の車としてはいささかシンプルな内装はカーボンとアルミ、そして革で覆われ、サラウンドシステムも完備。それでも売るほど赤字と言われた走る宝石は1世代500台で販売を終了。日本には200台ほどしかいないそうです。

 この個体はプロモーション用で、シャシナンバーとボディサイドの"Fバッチ"がほんのりゴールドなのが識別ポイントですが、中身は市販車と変わりません。

 

 

「もう少し乗ってたいですぅ……」

「ほれ、次も特別だから、な?」

 

 次の車は超特別なハイブリッドカー。

 一生に一度乗れない超特別、すんごいレアなモデル。

 乗るのには"ライセンス"が必要で、跳ね上げドアにシーケンシャルミッション。発進の仕方も独特です。

 

 

「クラッチを踏み、HVボタンを…… クラッチクソ重いなオイ!」

 

 クラッチを踏み込んだままHVボタンを押し、アクセルも踏めばモーターパワーで発進。少しスピードを上げたらクラッチを離してエンジンを始動。

 周回路に出たらピットロードリミッターのボタンを押して解除すると、アクセルを更に踏み増し……

 

 

「うおおおおおお!!!!」

 

 暴力。怒涛の加速と怒涛の減速。冷え冷えのブレーキでこの効きなら、熱が入ればどうなるのか。

 俺が今スーツで乗り込んでいるのはTS050ハイブリッド。2016年モデルで、メディアに全部出せるギリギリのラインだという。なのでカウル引っ剥がしたりはできないが、ドライブできる。

 重いハンドルに重いペダル。煩い車内に、信じられないほど多いスイッチ。こんな場所で何時間も戦うレーサーはなんと大変なのだろう!

 スラロームなんてしたら腕がもげる気がするので遠慮して、早々に美世の元へ。

 ハーネスを外し、ハンドルを跳ね上げ、ペダルを奥へ。サイドシルに手をついてそのまま体を引き抜く。降りるだけでひと仕事こなした気分でいると、秋の風が肌を刺す。どうやら知らぬ間に汗をかいていたらしい。そりゃ、一つ一つの動作に力が居るし、運動量も多いんだろう。2時間のレースでごっそり体重が落ちるのも納得だ。

 

 

「緊張しますね……」

 

 当て物をシート…… というかモノコックのくぼみですよね、これ。そこに入れて体を収め、ペダルを限界まで手前に引くとなんとか踏み込める位置に。

 それからシステムの電源を入れて、他にもスイッチをパチパチと。これで準備完了。クラッチ……重っ! ボタンを押してアクセル……!

 走り出せばあとは普通の(?)レースカー。リミッターを入れてアクセルを踏んでいる分には安全に走れます。

 一つ一つの動作に一般車とは比べ物にならないほどの力が求められ、それも丁寧にしないと言うことを聞いてくれません。リミッターを解除してアクセルを踏み増すときにもそう。一応四輪駆動だけど、システム出力は1000馬力とも言われるLMP1マシン、冷えたタイヤも相まって軽くリアが逃げ出す感覚が。

 

 

「うわ、すごっ! すごいですよこれ!」

 

 語彙を失っているけれど、すべての入力に対する応答がシャープで、ダイレクト。リアが逃げる、そう思ってアクセルを戻せばすぐにグリップが戻ってくるのがわかるし、ハンドルを切ってゆけばタイヤが地面にへばりつく感覚が手にとるように伝わってくる。

 プロデューサーは逃げたみたいだけど、高速ターンにも突っ込んで行けるし、シケインに見立てて小さく回ってもしっかりついてくる。それどころかあたしの操作の一歩二歩先を読まれるような感覚すら覚えてしまう。

 道路脇で掲げられたサインボードを見て、拠点となる駐車場に戻ったあともしばらくはハンドルに手を添え、気づかぬ内に荒くなった息を整える事しかできなかった。

 

 

「トヨタの歴史…… というよりスポーツカー史を追いかけて来ましたがいかがでしたでしょうか。あたしはもう、なんと言っても最後、TS050! もう、あれはヤバいです」

「スーパースターに持っていかれた感じはあるが、古い車を外から眺めるだけじゃなくて、短時間でも乗ってみて始めて感じることも多かったな」

「そうですね。なんというか、だんだん混ぜものが増えていくような感じでしたね。電子的に制御されるものが増えたからって言いたくはないですけど」

 

 確かに、美世の言い分もわかる。人間の触る部分すべてが機械的に繋がっていた車から、ゆっくりと電気信号を介する部分が増えてきて、最後にはドライブバイワイヤで機械的な繋がりがすべてなくなってしまう。

 機械的な繋がりをいい車だと言うのは的外れでしか無いが、車を操る楽しみ、味わいと言うのは電気信号にはまだ出来ていない事ではないだろうか。

 

 

「その点、セリカは良かったですね。現代っ子の感覚にもマッチする感じがしました」

「確かに70年代くらいが一番バランスが取れてるかもな。気負わず乗れるし、なんつうか、車してる感じがする」

「古いクルマももちろん良かったですよ。クルマってこうやって走らせるんだな、って今は自動でやってくれることも自分でやるわけじゃないですか。だから、そう言う勉強にもなりましたし」

 

 キャブレターがインジェクションになり、ノンシンクロのギアはツインクラッチて電光石火の変速をする。ドライバーが五感をフルに使って機嫌を伺い、美味しいところを引き出して乗りこなす。そういう難しさ、奥深さが古いクルマにはあったように思います。けれども、純粋に運転が楽しいのは、ある程度気負わずに、それこそ変速時に回転数を合わせたりするくらいの方が楽しいさに振り分ける余裕が増えるのではないでしょうか?

 いいタイヤを履いて、電子制御にある程度任せて車の限界を引き出す。そのときに考えるのはシンプルに走って曲がって止まること。ABSがあれは凍った道でもとりあえずブレーキを底まで踏めば変に加減するより短く止まれますし、TCSやVSCなど、多彩な制御が車の楽しさをより身近にしてくれていると思うと今の車が「楽しい車」なように思えます。

 

 

「いい悪いはさておき、本当にいい勉強になったな」

「そうですね。最近は『自動車ジャーナリスト』扱いされる事も多いので、こうして古いクルマに実際に乗ってみてそのフィーリングを感じてみるのも本当にいい経験になりました」

「さて、あとは東京まで帰るわけだが」

「その言い方はなにかあるって事ですね?」

 

 俺と美世の荷物を持って現れたスタッフからキーを受け取り、それを美世に見せながらニヤリと笑う。

 キーにはLのマーク。レクサスの共通デザインのスマートキーだ。しかし、もちろんLFAではない。

 スーツケースの取っ手を伸ばして引きずると、美世もボストンバッグを担いで着いてきた。

 広い道路のど真ん中に鎮座するのは薄いシャンパンゴールドのセダン。カタログではソニックチタニウムという色のようだが、シャンパンゴールドの方がしっくりくる。なにはともあれ、近づいてトランクリッドに触れれば鍵が開き、そのままトランクを開ければ適当に荷物を放り込んでいざ運転席へ。

 

 

「最後は最新モデルでロングドライブと洒落込もう。どっち周りで帰ろうか」

「中央道で長野あたりから下道にしません?」

「いいな、それで行こう」




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