Idol meets cars   作:卯月ゆう

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ep4

 #1 Managing Director and Department Manager meet cars 〜美城常務と大西部長の場合〜

 

 週末の勤務後、大黒PAで武内さんといつもの場所でコーヒーを飲んでいた時の事だ。

 グレーのベントレーとオレンジのS30フェアレディZがPAに入ってきて、あろうことか俺ら2人の近くに車を止めた。そして、何よりの問題は降りてきた人だった。

 

 

「ベントレーコンチネンタルとS30ですか、珍しいですね」

「あ、ドライバーさん降りて…… 嘘だろ」

「やぁ、おふたりさん。やっぱりここにいたね」

「今西部長、それに……」

「……美城常務。こんばんは」

「そう堅くなるな。もう勤務時間ではないぞ」

「いえ、ですが……」

「まぁ、仕方ないことか。コーヒーを買ってこようと思いますが、いかがです?」

 

 常務は今西部長に問うと彼は「頼もうかな」と一言答えて常務を送り出した。しかし、ここで駄弁ってるのが上司にバレるってのは気分のいいものじゃない。

 

 

「ふふっ、まるで親に悪事を見られたような顔だね、日比谷君? まぁ、君たちの行動をどうこう言いに来たんじゃない。言うなれば同好の士、だからね?」

「流石に部長や常務が来られて『普段通りにしていい』と言われましても……」

「それもそうだ。ところで、私の言いつけをしっかり守っているようでなによりだ。大人しく乗ってるみたいだね」

「はい、それはもちろん」

「君の事だ、少しくらい言いつけを破るかと思っていたが、本当にどこも変わってない。今度千川くんにリミッターを早めに外すよう言いつけておこう」

「リミッター、ですか?」

「ああ、君には黙っていたがね」

 

 そこでちょうど缶コーヒーを2本持った常務が戻り、ベントレーのフェンダーに寄りかかった。いつも通りのスーツ姿で、若干着崩してはいるが、それでもしっかりサマになるあたりこの人もタダもんじゃない。

 今西部長は缶コーヒーを受け取ると俺のZを見て回り、うんうん、と頷いた。

 

 

「日比谷君は入った頃は若者らしく、活発でよく働いてくれた。アイドル部門を建てる時にも武内君と上手くやってくれたしね。それは今でも変わらないよ。だが、趣味に一途すぎる面があると思ってね。君の事だ、大層車遊びもしただろう?」

「ええ、まぁ……」

「だからね、君にはこっそり給料のリミッターをかけさせて貰っていたよ。もちろん、リミッターだからね、後々還元しようとは思っていたが、そろそろ頃合いなようだ。武内君、君から見た日比谷君はどうだい?」

「日比谷さん、ですか? アイドル達の評価も高く、上手く溶け込んでいるようです。営業では主に雑誌社の方から日比谷さんの名前を聞くことが多いですね」

 

 改めて評価されるとこっぱずかしいが、雑誌社にコネが多いのは確かだ。逆にテレビやラジオにはまぁ、それなりと言ったところか。そこは武内さんの領分だとおもっている。

 

 

「武内君と日比谷君、上手く差別化を図れているんだ。流石に1人であらゆる方面をカバーするのは難しい。2人はよくやってくれているよ」

「ありがとうございます」

 

 常務から褒められるのも恥ずかしい。手元で弄んでいたコーヒーを一気に呷ると、車のドリンクホルダーに空き缶を収めた。

 武内さんも首に手をやっているので恥ずかしいやら、なにやら、と言った様子だ。

 

 

「あまり仕事の話をするのも面白くないだろう。退勤から2時間経っている事だしな。日比谷君はZか、今西さんの勧めか?」

 

 常務、今西部長の事、今西さんって呼んだよな。コーヒーを買ってくるときも敬語だったし……… 余計な詮索はやめておくか。

 

 

「いえ、自分で選んだ車です。今西部長には『大人しく乗るように』と言いつけられているので」

「ふふっ、そうかそうか。だが、Nismoともなれば弄る必要もないか。武内君がGRMNを買ったと聞いたときは驚いたが、ウチにはマニアックな趣味を持つ人間が多いようだな」

「それは僕も含まれてるのかな?」

 

 今西部長がくつくつと笑いながら言うが、彼の愛車であろうオレンジのS30はZ432と呼ばれるDOHCのS20エンジンを搭載したモデルだ。縦に2本のエキゾーストが特徴的で、今でも時折チューニングのモチーフに使われる車でもある。

 そんな50年近く前の車の隣に並ぶのはベントレーコンチネンタルGT スピード。下品ではない厳つさを持ちつつ、馬鹿でかいW12気筒エンジンを乗せて2.2トンの巨体を330km/hオーバーで走らせる。もちろん、お値段も俺のZを10台は買える価格。家一軒建つよ? それを転がしてくる女性はそういないだろう。

 

 

「今西部長は車好きと伺って居ましたが、常務もベントレーにお乗りとは」

「もの好きなんだ。フェラーリやポルシェも良いが、古き良きクラフトマンシップの残る車も素敵だろう?」

「とても縁のない車ですから、なんとも言い難いですね……」

「ははっ、それもそうだね。美城くんは初めて乗ったのがベンツの初代Eだったかな? それ以来外車ばかりだね。海外赴任も理由かもしれないが、どうなんだい?」

「アメリカではずっとCLKに乗ってました。コレを買ったのも日本に戻ってきてからですし、日本車にも乗った事はありますよ」

「教習車のグロリアなんて言わないね?」

 

 ジェネレーションギャップやら経済格差が浮き彫りになる会話についていけず、武内さんと顔を見合わせてから苦笑いする常務をちらりと見て、思わず顔を手で覆ってしまったが、そうしたかったのは武内さんも同じようで、今西部長の「置いてきぼりにしてしまったね」と言う言葉で引き戻されなければ思わず逃げ出していただろう。

 

 

「そうそう、日比谷君、川島くんの事だが……」

「は、はい……」

「彼女と付き合うなら前もって相談してからにしてほしいね? まぁ、君の態度を見ていると彼女が一方的に迫っているようだが」

「は、はぁ」

「アイドルとの恋愛は御法度、なんて古臭いことは言わないが、やはり影響は免れないからね。武内君、君もだよ?」

「私は…… いえ、なんでもありません」

「君たちもいい歳だ、女の一人や二人居ないでどうする?」

「常務……」

 

 常務のキッツい一言はいい歳した男二人に大ダメージを与え、今西部長はそれを見てからからと笑うが、こちとら仕事仕事で彼女作る暇すらないんですけど……

 いい加減この話題から逃げたくなって、改めて今西部長のZに目を向けると、目線に気付いた部長が「女より車か、まだ若いねぇ」と冗談めかして言うので「マイ・フェア・レディですよ」と返してやる。

 

 

「だが、アイドルとプロデューサー。そう考えると車輪の両輪だ。マイ・フェア・レディ(身分違いの恋)ではなかろう?」

「常務まで、勘弁してください」

「まぁ君はまだ若い。だが、武内君、そろそろ焦るべきなんじゃないかな?」

「わ、私は……」

「ふふっ、君が不器用な男なのはしっているさ。なにもあの事を忘れたわけではない。だが、男として決めるときは決める覚悟というのはこれから先、求められると思うが?」

 

 常務が面倒な酔っ払いみたいなことを言うが、素面だ。そもそも、常務とこんなに話したこと自体初めてだし、今西部長がニヤニヤと笑っているのを見るとこれが彼女の本来の姿らしい。

 ってか、常務って今何歳だ? 女性に年齢を聞くのは御法度だが、恋愛を説くからには自身もさぞ経験豊富に違いない。だが、その手の指にはリングが見えない。

 

 

「日比谷君、彼女の弱みを探るのは不可能に近い。なんとなく察しているだろう? 仕事中の冷血ぶり、そして今の君達をからかう姿。彼女もまた不器用なのさ」

「武内さんもそうですけど、何があったんです? 話を組み立てるとまるで部長と俺はバランサーみたいじゃないですか」

「バランサー、いい得て妙だね。僕から言えることは多くない。だけど、ひとつだけ、確実にわかることは『今のバランスを崩してはならない』ってことかな? エンジンからバランサーを外されると変な振動が出るだろう。それはあちこちのボルトを緩め、フレームを侵す。それは長い時間をかけてゆっくりと全体を侵すのさ。346の中でそれだけは起こしちゃならない。しばらくは形を保つかも知れないが、長い目で見たとき、必ず破綻する。だから君も僕も、おとなしく与えられた仕事をこなすことさ」

 

 今西部長の言う事に妙な引っ掛かりを覚えながらも、今は口を閉ざしておく。下手に今を壊すな、おとなしく自分の役目を果たせ。端的にいえば部長の言うのはそういうことだ。

 不器用、と形容される2人だが、傍から見ればどちらも仕事のできる人に違いはないし、人間性に多少の難はあれど、付き合いにくい人ではない。何が2人をあそこまで歪めているのか、俺にはまだ知ることができないみたいだ。

 

 

「あの2人は放って置いてどうだい、少し乗ってみるかい?」

 

 小難しい顔を浮かべていると、目の前で古めかしいキーホルダーの付いたメカニカルキーが揺れた。顔を上げると部長がおもちゃを自慢する子供みたいな笑みを浮かべていた。

 

 

「喜んで」

「難しく考えなくていい。車と同じだよ。"オイシイ"トコロってのが必ずある。それを見つけて上手く使いこなせればいいのさ。僕のZは君のと違ってスイートスポットが広くない。だからそれを探すことから始めようか」

 

 オレンジのZの横に立つと鍵穴にキーを差し込む、というとても普通な動作を求められるが、インテリジェントキーに慣れきった現代っ子としてはこの動作すら珍しいようにも思えた。

 エナメルのような表地のシートに座ると思いの外しっくりくる。ペラペラなシートだからサポート性なんて殆どないと思っていたのに、驚きだ。そして、キーを挿して少し重いブレーキとクラッチを踏んで、ギアをニュートラルに。キーを回すとエンジンが…… かからない。

 

 

「は?」

「ははっ、さすがの君も旧車始動の儀式はわからないか。イグニッションをオンにしたまま少し待つんだ。後付けのメーターがあるだろう?」

「ええ、圧力計ですか?」

「燃圧計だよ。アレが3から4を指したら1,2回アクセルを踏んで、キーを回すんだ」

「儀式ってヤツですか」

「そうだね。これもまた醍醐味さ」

 

 言われたとおり、燃圧計が3を少し超えたあたりで何回かアクセルを踏み、キーをひねると、パァァン! といかにも「爆発してます!」と自己主張する音が響き、即座に今西部長から「それ、煽れ!」と声が飛ぶ。

 言われたとおり、アクセルを煽るとタコメーターをひとしきり暴れさせたあと、おとなしくアイドリングを始めた。その頃には武内さんと常務の恋愛談義も一区切り迎えたようで、隣で同じようにベントレーのドライバーズシートに武内さんが座っていた。もっとも、あっちはスタートボタンをひと押しすれば一発でエンジンスタートだろうが。

 

 

「さて、行こうか。ギアもクラッチも今の車の感覚で乗ると受け付けてくれないぞ」

「みたいですね。ギアがグニョグニョだ」

「レバーも長ければミッションも良くないからね。これでもオーバーホールしたばかりなんだよ? ああ、そうだ、2速のシンクロが弱いからダブルクラッチを使うといい」

 

 少しアクセルを踏んでそろりとクラッチをつなぐとメカニカルノイズを車内に響かせながら俺の2倍近く歳を食ったフェアレディは動き出した。

 早めに2速に上げて合流で3速に。アクセルを踏み込むと心地良いエキゾーストノートを響かせながらスピードを上げる。本線を80km/hほどで走っても聞こえるのは現代の車より比較的高めの回転数で回るエンジンの音、そして後付けされたラジオから流れる深夜のエンタメ番組だ。

 

 

「そのまま本牧、大師、浮島を回っていこう。この流れなら30分もあれば回れるかな」

「ですね。しかし、なんというか、味わい深いですね」

「だろう? 今の車は完璧すぎるんだ。まぁ、その良さもあるけれど、たまにはこう言う車が恋しくなるのさ」

「なるほど。すこし踏みますよ」

「ああ、回さないとエンジンも調子が出ないだろうしね」

 

 淡い光を放つテールライトを追いながらどういう訳か身分不相応な革シートに収まっています。スピードメーターを見ても1/3も回っていません。エンジンは2000rpm弱のアイドリングではないかと思うような低回転で回り、聞こえる音はオーディオから流れるクラシックのみ。風切り音すら聞こえません。

 

 

「どうだ?」

「落ち着きすぎていて落ち着きません。やはり私には縁遠い車ですし」

「君も面白いことを言うな。まぁ黙ってパドルを2度引いてみると良い」

 

 言われたとおり、ハンドルの影にある大きめのパドルを2度引くと、途端に回転数がグッと上がり、W12エンジンが存在感を主張し始めました。

 いつの間にか追越車線でペースを上げたフェアレディを追うつもりでこちらも車線を変えてすこしアクセルを踏み込めばあっという間にテールが間近に迫ります。

 

 

「なんというか、スピード感に欠けますね。もちろん、いい意味ですが」

「気がつくとスピードに乗っているだろう? 例え100キロが200になっても300になってもこの感覚は変わらないだろう」

「どこまでもフラットで、かと言って官能的で無いわけではない」

「求めるものにはその片鱗を見せつける」

「こんな車も、面白いものですね」

 

 

 #2 Idol meets cars 〜安部菜々の場合〜

 

「どうしてこうなった……」

 

 静まり返った車内では目立つ寝息3つを聞きながら高速道路をひた走る。ああ、家がどんどん遠のいて……

 ひとまず楓さんの家で一晩過ごすことは決定。だけど、帰りになにかお酒でも買って帰りたいから…… いやいや、これはドライバーとして呼ばれてお酒が飲めなかったのが残念とかでは無くてですね! って誰に言い訳をしているのやら……

 

 

「にしても、夜中の高速ってなんか、寂しいなぁ」

 

 寝ないように辛いガムを口に放り込むと、次のPAの看板が見えてきた。うーん、すこしくらい休憩しても怒られないよね。明日はオフだし。そう思ってPAに入ると目立たないところに見覚えのある車を見つけた。黒いセダンと白いスポーツカー。見覚えがあるどころか、昼に見たばかりな気がする。隣に止めて、車の中を覗くと、誰も乗っていなかったので、確認はできないけど、おそらくプロデューサー2人の車だと思う。

 

 

「流石に車は疲れるなぁ」

 

 車を降りて一つ伸びをすると関節がパキパキと音を立てた。

 

 

「あったかいお茶欲しいなぁ」

 

 楓さんの足元に転がっているカバンからお財布を取り出して自販機に行こうかというときに、こっちに向かって古いスポーツカーと高そうな外車が見えた。あの古いやつは湾岸ミッド○イトに出てきたZと同じかな?

 ぽけーっと見ているとその2台は私の車の隣に着けた。

 

 

「ありゃ、ナナさん」

「おやおや、こんなところで合うとはね」

「ぷ、プロデューサーと今西部長! こんばんはっ」

「今は安部さんかな? ウサミミ無いし」

「ハッ!」

 

 すぐさま同じカバンからウサミミカチューシャを取り出して装着。ガムを吐き出してゴミ箱に捨てれば完璧。

 

 

「ウサミンパワー、チャージ完了! 愛と――」

「お疲れのようだね」

「安部さん、お疲れ様です」

「ナナさん、ウサミミ前後逆です」

「あわわ…… 常務、武内プロデューサーも、こんばんは」

「安部くんも深夜ドライブ…… というわけではなさそうだね」

 

 私がウサミミをつけ直している間にちらりと車内を覗いたであろう常務が言う。そのとーりです。見事なまでにあっしーですよ。トホホ……

 しかし、車好きと知れ渡っているプロデューサー2人はともかく、常務と部長まで一緒とは、ナナにはわからないしディープな世界が広がっていそうな予感。実際、両サイドのスポーツカーとは見劣りする私のノート……

 

 

「まぁ、何があったかはお察しします……」

「ナナをそんな哀れみの目で見ないでください! 私だけお酒飲めなくて悔しいんですから」

「おや、君は」

「あ、いやっ、お酒なんてとんでもないです。永遠の17歳ですから!」

「17歳が車に乗っているのも……」

「これ以上触れるのは野暮と言うものだろう」

「ナナさん……」

 

 日比谷Pの目線が…… 他の3人も生暖かい目を向けてくるし精神的に辛い。流石に夜中に呼び出されれば幾ら仕事帰りで都内に居たとは言え、辛いものがある。

 

 

「しかし、面倒な大人達を拾っちゃいましたね。武内さん、送ってきますか?」

「そうですね。みなさん明日はオフですし、我々が送っていきましょう。安部さんは高垣さんをお願いします。私は片桐さんを」

「俺は川島さん、ですか……」

「そう、なりますね」

「送り狼でも構わないよ。そのときは話を通してほしいがね」

 

 専務、日比谷Pの笑みが引きつってます。確かに瑞樹さんは日比谷Pにべったりだからなぁ。私もそろそろ真面目に考えないと…… お母さんもうるさいし。

 

 

「日比谷くん、無理なら別に――」

「いえ、大丈夫です。彼女を嫌ってるわけじゃありませんし」

「今日はおひらき、かな。じゃ、武内君、日比谷君、また明日」

「はい、明日はアスタリスクのお二人と現場に行ってから事務所に向かいます」

「日比谷君は朝から事務所かい?」

「そうですね。午後はLMBGを引き連れてテレビ局へ」

「全員揃っての仕事は初めてだったね」

「17人もいたら遠足みたいですね」

「メンバーはその気分らしいので、早く終われば少し遊ばせて帰ろうかと」

「君がサボりたいだけだろう?」

 

 慌てて誤魔化す日比谷Pを部長と常務が笑ってますけど、いま深夜の2時過ぎですよ? 明日というか、今日の業務ですよね。

 ツッコミ損ねて部長と常務は帰ってしまったけど、残されたプロデューサー2人はまだ「仕事」が残っている。

 

 

「んじゃ、お姫様を動かしますかね」

「ですね。安部さん、お二人の荷物をお願いします」

「はいぃ」

 

 プロデューサー達が自分の車のドアを開けてから私の車から楓さんと瑞樹さんをお姫様抱っこで車に移すとシートベルトを締めてから荷物も一緒に載せるとドアを静かに閉めた。

 

 

「では、私たちも帰りましょうか」

「ナナさんは楓さんの家に泊まってくんですか?」

「そのつもりです。さすがにこれから帰るのは辛いので……」

「ですよねぇ。んじゃ、お気をつけて」

「プロデューサーも。武内プロデューサーもおつかれさまです」

「いえ、これも仕事の内です。おふたりも安全運転で」

 

 それぞれ車に乗り込むとエンジンを掛け、走り出す。

 

 

「2人はプロデューサーさんが?」

「あ、起こしちゃいましたか?」

「いえ、ちょうど目が覚めたところです」

「そうですか。早苗さんは武内プロデューサーが、瑞樹さんは日比谷プロデューサーが送って行くって。私は楓さんのトコに泊めてもらいますけど、いいですよね?」

「もちろん。日比谷プロデューサー何もないといいけど」

「部長と常務のお墨付きもありますし、いいんじゃないですか? 二人とも大人ですし、その辺の付き合い方も心得てると思いますよ」

 

 でも、やっぱりお酒が入ってるから怖いなぁ。私としては瑞樹さんの恋も応援したいけど、日比谷Pの気持ちもわかる。いまだって日比谷Pがのらりくらりと躱しているから危ういながらも関係が成り立っているように感じるし、瑞樹さんも理解しているはずだ。

 

 

「日比谷プロデューサー、弱いから」

「え?」

「いえ、なんでも。帰りにコンビニ寄って行きましょう。菜々さんも飲み足りないでしょうし」

「えぇ、もうヘトヘトなんですぐに寝たいんですけど……」

「まぁまぁ、そう言わずに、おちょこにちょこっとで良いですから」

 

 ジャンクションで武内Pの車と別れ、その先で高速から降り、人気のない街中を抜けてコンビニに寄り、少しのお酒とおつまみを買ってしばらく走れば楓さんのマンションだ。近くのコインパーキングに車を止めると携帯が震えた。

 

 

「早苗さん、家に着いたそうですよ。気がついたら自宅のベッドで寝てたって」

「速いですね。時間的には…… まぁ、武内プロデューサーなら納得ですね。瑞樹さんは多摩の方でしたっけ?」

「ええ、日比谷プロデューサーもそっちの方だと聞きましたけど、そうなるともうしばらくかかりそうですね」

 

 そのあと、本当におちょこにちょこっとのお酒ですっかり眠くなって、気がつくと日は登り、楓さんはおつまみの残りをつまみながら録画したドラマを見てました。

 携帯は通知の嵐。嫌な予感しかしなかったので全部未読無視して朝ごはんでも作ることにしましょう。

 

 

「楓さん、朝ごはん作りますけど、何かありますか?」

「冷蔵庫に何かしらはあると思います。あまり期待はしないでほしいですが」

「うわぁ、見事にお酒ばっかり…… とりあえず卵とハムはあるのでハムエッグとトーストですかね?」

「菜々さん、LI○E見ました? 瑞樹さんの」

「見るのも怖いですよ」

 

 ええ、本当に。




車成分が少なくてすまない。

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