超次元ゲイムネプテューヌ〜Secret Mission〜   作:絶望危惧種

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新年明けましておめでとうございます。
更新が滞ってしまい、申し訳ないです(´・ω・`)

現在センター試験1週間前ですが、息抜きで投稿させてもらいます 笑
それではどうぞ!


第17話「少女と教祖」

――ケイブside――

 

 

――???――

 

 

「……だろうがァ!!………加減、金だせ……!!」

 

「あなた!!なんで………のよっ!!お願……めてぇ!!」

 

「うるせぇ!!とっと……しろ!!」

 

 

 ああ、まただ。これで何度目だろうか。

 もう既に見慣れた光景だ。

 目の前で繰り広げられる、地獄みたいな日常。

 

 

 2人の男女が、言い争っている。一体、果たして何を言っているのだろう。私には分からなかった。

 

……否、頭では理解していた。ただ、理性がそれを拒絶していた。聞いてしまえば、また壊れてしまうから。

 

 

 男が、女に向かって訳の分からない暴言を吐きつづけ、女はそれを止めようとする。けれど、そんな女の行動で余計に苛立った男は、女に暴力を振るう。

 どこまでも汚く、最低。そしてその矛先は女だけに留まらず、遂には私にまで向けられる。

 

 

「……なぁ……、お前は……のこと、……よな?」

 

「やめて!!……は関係……!!」

 

 

 恐怖なんて感情は、もうとっくに無くなってしまった。あるのは一種の諦めと……失望、だろうか。

 

 

「いつまでも……じゃねぇぞ、なァ!?」

 

 

 男が拳を振り上げる。数秒後にくるであろう痛みを、何をするでも無く、ただ待った。

 

 その時私は、男の姿に元々の彼……記憶の奥に眠っていた、男の過去の姿を重ねてしまった。

 

 あんなに優しかったのに……。変わり果てた姿に、凍りきった心がまた、少しだけ傷ついた。

 

 

 

 

……どうして?お父さん…………。

 

 

 

 

 

 

 

――ネプギアside――

 

 

 

――リーンボックス教会・特命課本部――

 

 

 皆さんこんにちは。またまた私です。

 

 カイトさんがケイブさんにフラれた次の日、カイトさんは魂が抜けたように『燃え尽きたぜ、真っ白にな……』状態になっていました。

 

 誰が何を話しかけても上の空。チカさん曰く、「あれは使い物にならないわね」だそうです。

 

 こんなとき、ケイブさんがいればなぁ……とは思いますが、彼女は今日はお休み。そして何より、この状況を作りだした大きな原因が、他でもない彼女自身であるというのが、なんとも皮肉なものです。

 私達にも、原因はあるんですけどね……。

 

 はぁ……本当に悪い事しちゃったなぁ……。

 

 

「……ネプギア」

 

 

 背後から声をかけられたので振り返ってみると、ユニちゃんが暗い表情で私に話しかけてきました。

 

 

「ねえ……アタシ達、余計なことしちゃったのかな……?」

 

「……私にも分からないよ」

 

 

 カイトさんに聞こえないよう、私達は小声で言葉を交わしました。

 ユニちゃんも私と同じ事を考えていた様です。ここで立って話すのもどうかと思った私達は、教会の食堂に移動してその事についてじっくり話すことにしました。

 

 

 

 

 

――ケイブside――

 

 

 

――ケイブ宅・寝室――

 

 

 

「……またあの夢、か……」

 

 

 ポツリと、そう呟く。

 

 悪夢から開放された私は、はぁ、と短く息を吐くと、まだ気だるさの残った体を起こした。

 

 

 時刻は、午前10時過ぎ。閉めたカーテンからは陽の光が差し込んでいた。いつもならもうとっくに教会へ出勤している頃だ。

 

 けれど、昨日の時点でチカには「今日は休む」と伝えてある。その点については大丈夫だ。

 

 

 それにしても、いつ以来だろうか。再びあの夢をみるのは。

 

 特命課に入ってから、今まで見なかったから忘れかけていたけれど……まさか、こんな形で思い出すなんてね。

 

 

 原因はきっと、昨日のこと。

 

 カイトに、告白されたことだ。

 

 

 

 カイトに告白された、あの時。私は自分の抱いていた感情が、恋と呼ばれるものだとようやく気付いた。その瞬間、胸の中にあったもやもやが一気に晴れた感じがした。

 

 本当に、嬉しかった。今まで生きてきた中で、1番幸せだと感じた。

 誰かを好きになることが、そして、その人から愛してもらえることが、こんなにも心地よいものだったなんて。

 

 

……でも同時に、怖かった。

 

 もう何年も前に、愛なんて捨てたはずだったのに。

 絶対に誰かを好きになったりしないって、決意したはずなのに。

 知らない内に、そんな私の決意さえ変わってしまったことが、恐ろしかった。

 

 

 愛なんて感情、大キライだったのに……。

 

 

 

 何もやる気が出ない……いや、違うわね。何もしたくない。考えたくもない。

 

 

……別に今日くらい、何もしなくたっていいじゃない。

 

 

 その結論にたどり着いた私は、まだ温かい布団に潜り込む。そして再び訪れる睡魔に身をゆだね、深い眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

――カイトside――

 

 

 

――リーンボックス教会・特命課本部――

 

 

『ごめんなさい』

 

 

 昨日、ケイブに告白した時に返ってきた答えが、未だに俺の頭の中で反響していた。

 

 

「ケイブに、フラれた……ケイブに、フラれた……」

 

「くぅぅぅん……」(カイト、だいじょーぶ……?)

 

 

 そして俺は、部屋の片隅で体育座りをしながら、壊れたラジオのように同じフレーズを繰り返し呟いていた。

 近くで仔竜が心配そうに話しかけてくれているが、俺の耳には入ってこなかった。

 

 なにせ、初恋の相手に振られたのだ。皆、絶対に成功すると思っていた。俺もそう思っていただけに、かなりダメージが大きい。

 

 

「……カイト、ちょっといいかしら?」

 

 

 これから、どうすればいいのだろうか。前みたいに遊んだり、話したりすることはもう無いのだろうか。

……当然、か。はあ、つらいなぁ……。

 

 

「あ、アタクシを無視するなんていい度胸じゃない」

 

 

 でも、なんでフラれたのだろう……。自信過剰という訳ではないが、ケイブが俺を好いていたのは確かだ。それなのに、どうして……?

 

 

「……アナタ、人の話を聞きなさいよっ!」

 

 

 と、そこで急に胸倉を捕まれ、現実に引き戻される。目の前にはいつの間にか、チカ様が眉間にシワを寄せて立っていた。

 

 

「わっ、ち、チカ様?」

 

「わっ、じゃないわよ。全く……何回声かけても反応しないからイライラしたわ」

 

 

……全然気付かなかった。何かに夢中になると周りが見えなくなる、俺の悪い癖だ。チカ様には悪いことをしてしまった。

 

 

「す、すみません……」

 

「まあいいわ。話しておきたいことがあるの、ついてきなさい」

 

 

 一体何の話だ……?今は何も話したくはないのだが、まあ、行くだけ行ってみよう。

 

 

「分かりました」

 

 

 一言そう返事して、俺はチカ様についていった。

 

 

 

 

――リーンボックス教会・執務室――

 

 

「さあ、入りなさい」

 

「し、失礼します……」

 

 

 リーンボックス教会の最上階。女神様や教祖様、その他の重役など、ごく一部の者しか入室を許可されない執務室に、俺は恐る恐る足を踏み入れた。

 

 

 部屋の内装を見た瞬間、俺は絶句した。

 

 壁一面に広がる、美形の男達。これだけならアイドルオタクなのかな?で済むかもしれない。問題は、その男達が組んず解れつ、時にはあらぬ姿で、薔薇色の世界を形作っていること……つまり、BL。略さずに言うと、ボーイズラブだ。

 

 執務室にはBLモノのポスターやタペストリーが大量に飾られ、棚や机にもそういう系のフィギュアが所狭しと並べられていた。

 

 

 この時、俺は確信した。この国の女神様……ベール様は重度の、救いようのない腐女子なのだと。

 なるほど、こんな執務室は人には見せられない。だから一部の人間しか入室できないのか……と、チカ様の時と同様、いや、それ以上にベール様の印象がガラリと変わってしまった。

 

 

「何を言いたいかは大体分かるけど、我慢してちょうだい。私も出来ればここで話したくはなかったのよ」

 

 

 そう思うのでしたらちゃんと矯正したらよかったのでは?教祖でしょうあなたは……、とは思うものの、口にする手前でその言葉を飲み込んだ。

 俺と話をするためにここを使わせてもらってるのだ。これ以上ワガママは言えない。

 

 

「……それで、話とは一体?」

 

 

 本題に入ろうとチカ様に問いかけると、チカ様は何かを決心したかのように俺を見据え、口を開いた……と思いきや、急になにかに気がついたらしく、入口をじっと見つめていた。

 

 

「あ、あの……、チカ様?」

 

 

 呼びかけたが無視された……ちょっと悲しい。

 だが、さっき同じことを自分もしていたと思うと、同時に申し訳なく感じた。

 

 

「……盗み聞きだなんて感心しないわね。誰だか知らないけど、特別よ。入りなさい」

 

 

 ドアの向こうでドタドタと音がしたかと思うと、しばらくして二人の少女が部屋の中に入ってきた。

 

 ピンクと紫の中間色の髪の真面目そうな少女と、黒のツインテールの気が強そうな少女……ネプギア様とユニ様が、バツの悪そうな表情でこちらにやって来た。

 

 

「そ、その……ごめんなさい」

 

「別に、盗み聞きするつもりじゃなかったの……」

 

「アナタ達……まあ、丁度いいわ。アナタ達も聞いていきなさい」

 

 

 チカ様もこれには驚いたようで、少し目を見開いて彼女達を見つめていた。だが、すぐに平静を取り戻し、本題に戻った。

 

 

「今から話すのは、今回の件の全ての原因……彼女の過去のことよ」

 

 

 チカ様は静かに、語り始めた。

 

 

 

 

 ✱✱✱✱✱

 

 

 

 

 

――チカside――

 

 

 

 

――あれは、今から十数年前。

 

 私がまだ学生で、見習いの教会職員だった頃よ。

 

……アナタ達、死にたくなければアタクシの歳を探るのはやめる事ね。

 

 

 話が逸れたわね。

 

 あの日は……そうね、雪の降る寒い夜だったわ。

 

 

 アタクシはまだ仕事に慣れていなくて、ヘトヘトになりながら家に帰ろうとしていたの。

 

 

『あぁー、疲れた。教会の仕事って大変ね……。でもでも、いつかベール様にお近づきになれるように頑張らなくちゃ!』

 

 

 そうして教会の外へ出てすぐだったわ。

 

 

『――ふえぇぇぇぇん!!ふえぇぇぇぇん!!』

 

『……えっ?』

 

 

 外は真っ暗。人っ子ひとり見当たらないのに、どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえてきたの。

 

 まさか……そう思って辺りを探してみたの。そしたら……

 

 

『ふえぇぇぇぇん!!ふえぇぇぇぇん!!』

 

『ッッ!?そんな……なんてひどい事を!!』

 

 

 教会の建物の裏の軒下に、ダンボールの中に毛布で包まれていた赤ん坊がいたの。

 一目で、捨てられたって分かったわ。

 

 抱き上げたら、体重が軽すぎるのと体温が冷えきっているのに驚いた。あと少し見つけるのが遅かったら……考えたくもないわね。

 

 

 アタクシはその子を抱えて急いで協会の中に戻った。温かいミルクと毛布を探して教会を走り回ったわ。

 

 それで、次の日先輩にこっぴどく怒られたのよね……でも、その赤ん坊が笑った時に、本当に安心したわ。助けられてよかった……ってね。

 

 

 それからアタクシはその子の親を探そうとした。

 ……なんでこんなことしたのかを聞いて、一発ぶん殴らないと気が済まなかったわ。

 

 

 けれど、情報は全くもって皆無。唯一分かったのは、赤ん坊の名前。

 

 赤ん坊が入れられていたダンボールの中に、1枚の手紙が入っていたの。

 

 

 

『ケイブといいます。どうか、この子をお願いします。』

 

 

 

 書かれていたのは、たったそれだけ。本当に、無責任よね……。

 

……そう。捨てられていた赤ん坊っていうのは、ケイブの事よ。

 

 

 本当に悔しくて、悲しくて……ケイブの両親にどんな事情があったのかは知らないけど、アタクシは顔も知らないその人たちを憎んだわ。今でもそう。許すつもりなんて更々ないわ。

 

 

 結局、ケイブは教会の孤児院で面倒を見てもらうことになったわ。アタクシも仕事の合間にちょくちょく様子を見に行ったりにしたものよ。

 

 

 子供っていうのは成長するのが早くて、3年も経つと、ケイブは孤児院の中でも人1倍活発な、それでいて面倒見のいい、皆のお姉さんのような存在になっていたわ。

 

 アタクシが遊びに来ると、いつも、

 

 

『あーっ!チカがきたーっ!』

 

 

 って言って、パタパタと駆け寄ってくるのがすごく可愛くて………大好きだった。

 

 

『こーら、ケイブ。はしたないっていつも言ってるでしょう?』

 

『えへへっ、ごめんなさいっ』

 

『もう、またこんなに汚して……ふふっ。ほら、おいで?』

 

『はーいっ!』

 

 

 そう言ってケイブの顔を拭いてあげて、抱き上げるのが恒例行事のようになっていたわ。

 

 

……でも、別れは突然やってきた。

 

 

 ケイブたちがいつもみたいに遊んでいた時、孤児院に珍しい来客があったの。

 

 

 その来客っていうのは、2人の30代の夫婦だったわ。

 

 話を聞いてみると、奥さんの方が不妊症みたいで、養子を取ろうってことで、孤児院にきたっていう話だったわ。

 

 

 彼らが養子にしたいって言ってきたのは、ケイブ。

 

 少し寂しかったけれど、それでもケイブに父親と母親が出来ることは、アタクシにとって本当に嬉しかった。

 

 その夫婦もとても優しくて面倒見のいい方たちだったから、不安なんてなかったわ。

 

 

 数日後、正式に養子にする手続きが終わって、ケイブは孤児院を出ていくことになったわ。

 

 あの日、あの子は初めて私の前で泣き顔を見せたの。

 

 

『ぐすっ……チカと、みんなと、はなれたくないよぉっ……ずっと、いっしょにいたいよぉ……』

 

『……大丈夫よ。また、いつでも遊びに来ればいいわ。アタクシも、いつでもあそんであげるから、ね?』

 

『けどぉ……っ!ぐすっ、チカとあえなくなるの、やだぁ……さびしいの、いやだよぉ……!』

 

 

 アタクシも、涙をこらえるので必死だったわ。そんなケイブに、アタクシはひとつ、約束をしたの。

 

 

『……ケイブ、聞いて?これから行く、新しいお家で、たくさんお勉強しなさい。そしたらまたここで、皆とお勉強も、お仕事も出来るようになるわ』

 

 

 アタクシがケイブに教えたのは、アタクシと同じ道……見習いの教会職員になること。

 

 この頃のリーンボックスは実力主義。有能だと判断されれば、どんなに幼くても見習いとして教会に入ることが出来たの。

 

 

『……ホントに?おべんきょうしたら、またみんなと、チカといっしょにいられるの?』

 

『ええ。あなたならきっと大丈夫。今よりずっと素敵なお姉さんになれる。そしたら、アタクシと一緒にお仕事しましょう?もちろん、お勉強も教えてあげるわ』

 

『……うん、わかった!わたし、チカみたいなおねえさんになる!チカといっしょに、たくさんおべんきょうするの!』

 

 

 その話をしたら、ケイブは涙を拭って、できる限りの笑顔を見せてくれたわ。

 見習い教会職員の道は、決して簡単ではない……けれど、ケイブならきっと出来る。そんな確信めいた何かがあった。

 

 

『でも、アタクシは厳しいわよ?お勉強もお仕事も、教える時はビシビシいくわ。ケイブについてこれるかしら?』

 

『えーっ、やさしくしてよーっ。……でも、いいよっ!だってわたし、チカのこと、だぁーいすきだもん!』

 

 

 両手を大きく広げてケイブがそう言ってくれて……アタクシはもう、我慢出来なかった。

 

 

『……チカ、ないてるの?』

 

『……いいえ。目に、少しごみが入っただけよ』

 

 

 もっと一緒にいたい。けれど、別れの時間はどんどん迫ってくる。

 だから、アタクシは最後に、こう言った。

 

 

『じゃあケイブ、最後に……こっちおいで』

 

『……うん』

 

 

 ケイブをそっと包み込んで、そのまま抱き上げる。アタクシとケイブの、毎日の……そして、これが最後のやり取り。いつもより、少し長めに。

 

 

『バイバイはしないよ、チカ。また、いっぱいあそぼうね』

 

『ええ。待ってるわ……ケイブ』

 

 

 そして、ケイブは私たちの元を去っていったわ。

 

 

 

 

 

 

 これで終わってくれれば、どれだけ幸せだったかしら……。

 

 

 

 

 

 

 ケイブがいなくなって、5年の月日が経った。今から10年とちょっと前ね。

 

 アタクシは、いつか必ず来るケイブのお手本になれるよう、そしてベールお姉様のお役に立てるように、精一杯仕事を続けて、いつの間にか次期教祖にまでなっていたわ。

 

 ベールお姉様のお側で、ケイブと一緒に仕事をする……そんな日を夢見ながら、その日もアタクシはいつものように雑務をこなしていたわ。

 

 

 その時、1枚の報告書に目が止まったの。

 

 いつもならサッと目を通して終わりのはずなのに、その報告書が何故か引っ掛かったの。

 

 

 内容は、「教会に対する、一般回線からの悪戯と思しき無言電話」。報告部署は……総務課?

 

 

『……どういうこと?』

 

 

 普通なら、一般回線から教会に電話をかけると、まず総合受付に繋がって、そこから各部署に回線が繋げられる。

 けれど、その件は総合受付じゃなくて、総務課に直接回線が繋がれていたの。不可能っていう訳では無いのだけど、そのためには特殊な番号を打たないといけないし、その番号も、職員しか知らないはずなのだけれど……。

 

 それに、一般人にとって総務課は無縁の場所。総務課は基本、教会内の事務をこなす部署だから、電話をかける意図が掴めない。

 

 

 前はそこで務めていたからすごく気になって、その報告書を詳しく読んでみたの。

 

 どうやら、ことの始まりは一ヶ月前。それも数回に及んでらしいから、総務課も困っているらしい。

 でも、完全に無言って訳でもなくて、時折、女性と思しき息遣いが聞こえたり、か細い声で誰かを呼んでいるような、そんな風にも聞こえるらしい。……まあ、あまりにも音が小さくて判別不能のようだったわ。

 

 

『……この件、アタクシが引き受けようかしら』

 

 

 本当に気まぐれだったわ。今月の雑務はもうほとんど済ませて手持ち無沙汰だったし、何よりこの電話の主に興味が湧いたの。

 

 そして次の日から、謎の電話の件の調査を始めたわ。けれど、なかなか電話がかかって来なくて結構イライラした記憶があるわ。

 

 

 そして、張り込み続けて4日目。とうとう電話がかかってきたの。

 すぐ受付に連絡をとって、総合受付を経由していない事を確認してから、アタクシは受話器を取ったの。

 

 

『はい、こちらリーンボックス教会・総務課ですわ。一体どのようなご要件かしら?』

 

 

 少しわざとらしく、相手にプレッシャーを与えてみた。さて、どう出るか……。

 

 

『……ッ!?……ぁ…………ぁっ………』

 

 

 報告通り、微かに何か聞こえた。更に耳を済ましてみたら。

 

 

『……ぃっ…ヵぁ……っ』

 

 

 とてもか細い、少女の声がしたの。

 これは、何かを伝えようとしてる……?

 その時のアタクシにはそんな風に聞こえたの。それに、どうしてかその声に聞き覚えがある気がしてならなかった。

 

 

『……チ…っ………カぁ…………っ』

 

 

(……!?今、確かにアタクシの名前を!)

 

 

『ええ、そうよ。アタクシは箱崎チカ。要件は何かしら?それと、アナタは誰?』

 

 

 確かな手応えを感じて、更に畳み掛けたわ。そして、やっとその声が聞こえたの。

 

 

『……た……っ…け……て…………チ、ヵぁ……』

 

 

 その時、脳を揺さぶられるぐらいの衝撃に襲われたわ。

 発せられたのは、私たちに対してのSOS。そして、それ以上に驚愕したこと。

 信じたくない。そんなことある訳ない。でも、この声は確かに……

 

 

『アナタまさか……ケイブ……っ!?』

 

 

 

――ガチャン

 

 

 その直後、受話器越しに扉の音が聞こえたわ。そしたら、その子の様子が急変したの。

 

 

『……ひっ…………!?』

 

 

――プツッ……ツー……ツー……

 

 

 急に、なにかに怯えるように電話を切られたの。

 

 

『ッ!?ケイブ?ケイブ!!』

 

 

 彼女の名前を呼んだけど、返事なんてあるはずも無かった。そもそも彼女だという証拠もない。

 けれど、アタクシには分かった。あれは紛れもなく、ケイブ。そんな絶対的な自信があったわ。

 

 

『……そこのアナタ!!今すぐ住民課からケイブという少女の戸籍を!!そこのアナタ達は刑事課と児童相談所に連絡を取りなさい!!……急いで!!』

 

 

 そこからのアタクシの行動は迅速だった。各部署に指示を出して、ケイブの救出にあたったわ。

 

 十中八九、ケイブは何かしらの虐待を受けている。あの怯え方は尋常じゃなかった。一体何をしたらあそこまで人に恐怖を植え付けられるのか……そう感じるほどによ。

 

 

 けど、アタクシ達はケイブを救えなかったの。……いや、違うわね。手が出せなかったの。

 

 

 児童相談所は、虐待されているという裏付けが取れないと動くことができない……悔しいけど、その証拠となるケイブのSOSもアタクシが聞いただけで、確証とはなり得なかった。

 

 

 結局、ケイブを保護できたのはそれから2ヶ月後。

 

 ケイブの家に張り込んでる時に、父親からの虐待の現場を確認して、現行犯で取り押さえたわ。

 

 

 今思えば、電話を受けたあの日に強硬手段を取っておけば良かったのかもしれない。

 

 保護されたケイブの体には、至るところに生々しい傷跡があったわ。本当に、目も当てられないぐらいのね。

 

 でも、もっと酷かったのは精神のほう。

 長い長い虐待の影響で、ケイブは重度の失語症と、極度の疑心暗鬼を併発していたわ。

 

 保護しようとした時も、警官を泣きじゃくりながら拒絶したいたわ。唯一、アタクシだけは認識出来たらしくて、アタクシの姿を見つけた途端。

 

 

『チ、カぁ……う…ぁぁ、うわぁぁぁぁぁぁん!!』

 

 

 

 大泣きしながら、アタクシにすがり付いてきたわ。

 

 本当に……見ていられなかったわ…………。

 

 もちろん父親は即刻逮捕。母親とケイブは病院に搬送されたわ。

 

 

 後日、母親から事件の事情聴取をしたところ、虐待が始まったのは2年前。突然、父親が豹変したとのことらしいの。それからケイブと母親は聞くことすら躊躇うほどの執拗な虐待を受け続けたそうよ。

 

 

 そして、精神的なダメージの大きかったケイブは一旦アタクシたちの元に預けられて、長期のカウンセリングをうけたわ。もちろん、その間はアタクシにつきっきり。絶対に離れようとしなかった。

 

 

 アタクシは、罪悪感に駆られたわ。

 もし、もっと早くに保護できていたら。ケイブと話せていたら……いえ、もっと前。最初から、ケイブと離れてさえいなければ、こんなことにはならなかったのに。

 

 

 結局、それから2年後、母親は心労から自殺。父親は有罪判決が出されて刑務所に入ったわ。

 ケイブはようやく1人で生活出来るまで回復したけれども……感情を失った、いや、殺すようになったわ。

 

 とくに、愛、というものに恐怖を持つようになった。

 

 

……もう、何が言いたいか分かるわね?

 

 

 そう、アナタ達が昨日したこと、その意味が。

 

 

 

……アタクシはアナタ達を責めているわけじゃない。

 

 むしろ、ここからはアタクシの個人的なお願いになるのだけど……聞いてもらえないかしら?

 

 

 

 

 ✱✱✱✱✱

 

 

 

 

 

 

――カイトside――

 

 

 

 

 

……そんな。

 

 ケイブに、そんな過去があったなんて。

 

 

 確かに、ケイブが自分の感情を異常なまでに隠そうとするのは知っていた。けれど、俺はその理由を全く気にしていなかった。

 

 

 こうなる前に、まだやりようはあったんじゃないのか?

 頭の中をぐるぐると後悔と自責の念が渦巻く。

 

 

「……アタクシはアナタ達を責めているわけじゃない。むしろ、ここからはアタクシの個人的なお願いになるのだけど……聞いてもらえないかしら?」

 

 

 チカ様の言葉に、俺は疑問を覚えつつ、頷いた。するとチカ様は俺をじっと見据えながら、こう言った。

 

 

「……どうか、ケイブを救ってあげて。アタクシには出来なかったけど……今のアナタなら、ケイブの過去を断ち切れるかもしれない」

 

 

 そう言うチカ様の表情は、悲痛に溢れていた。

 

 その瞬間、俺の出す答えは決まった。迷うことなんて、何も無かった。

 

 

「分かりました。俺がチカ様の思い、継がせてもらいます」

 

 

 ケイブを助けたいのは、俺だって同じだ。彼女を助けられるなら、何だってする。そんな強い覚悟かあった。

 

 

「……ありがとう」

 

 

 チカ様はうっすらと涙をうかべながら、俺に礼を述べた。

 

 

 俺は軽くお辞儀をして、仔竜を近くにいたユニに預けた。後ろから「え、ちょっ、どうしろっていうのよ!」とか、「くぅぅぅん」と聞こえるが、それどころではなかった。

 

 

 ケイブの元に行かなくては。

 

 

 部屋をあとにしようとすると、再度、チカ様から呼び止められる。

 

 

「カイト……今だけは教祖ではなく、彼女の家族として、お願いするわ……どうか、ケイブをお願い」

 

 

 その声に、俺は背中越しに答えた。

 

 

「……ええ。全部、終わらせてきます」

 

 

 過去の悲しみも、因縁も……ケイブを苦しめる因果、全てを断ち切ってくる。

 

 

「ケイブ……今行くから」

 

 

 俺はその強い意志を胸に、教会を飛び出した。




……文字数が、10000近く(´°д°`)
やりすぎた感がありますが、後悔はしてません。

今回は大分重い話だったような……次回でケイブとカイトのもやもやを終わらせようと思います。

次は……来月かな……。どうか気長にお待ちください。
それでは、感想などよろしくお願いします(*´ω`*)
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