The Outlaw Alternative   作:ゼミル

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アニメ版TE6話7話と水着描写にスタッフ本気出し過ぎである。良いぞもっとやれ(何
カムチャッカ編は戦車の大砲がしっかりと高めの砲声を再現してたのに感動しました。あとラトロワ中佐ハァハァ (*'д`*)


TE編13:ダークブルー(3)

 

 

 

――――発端はオルソン大尉が提案した東西陣営に分かれての対抗戦であった。

 

ボートレースに出る筈のイーニァが急に泣き出し、クリスカが宥めても止まらず、イーニァの代わりに唯依がクリスカとペアを組む事になり、それぞれのペアが乗った原動機無しのゴムボートが折り返し地点である小島まで大分接近した頃。

 

 

「おい、あっち(唯依とクリスカ組)何か様子がおかしくねぇか!?」

 

 

異変に気付いたユウヤはペアを組んでいたヴィンセントに戻って異常を伝えるよう告げてから海に飛び込み、唯依とクリスカが乗るボートへ向け泳ぐ。

 

荒い波を掻き分け息を荒げながらも2人のゴムボートに辿り着いた彼を出迎えたのは、意識を失っているクリスカと傍らに屈み込んで彼女の容体を調べている唯依であった。

 

 

「何があった!」

 

「分からない、急にビャーチェノワ少尉が倒れてっ…!」

 

 

唯依と協力してオールを手に元の海岸へ戻ろうと試みても、風と海流に流されちっとも前に進まない、逆にどんどん小島へ向けて吸い寄せられすらいた。

 

協議における不正対策のため救急キットは積んであっても無線機の類は与えられていない事が仇となり、詳しい状況を外部に伝える術は何1つ見当たらない。

 

そんな彼らに追い打ちをかけるかのように彼方の海から急速に暗雲が近づきつつあり、比例するかのように波風も強さを増していく。下手に身体を持ち上げようものならそのまま呷られて海の中に逆戻りさせられそうな程に波が高くなり出していた。

 

――――勢いを増す波風の音の中に不意に駆動音が聞こえた。焦りに支配されかけていた思考が不意にそれを認識し、唯依と2人ハッとなって音のした方角に顔を向けた。

 

 

「大丈夫かい?ヴィンセントから話は聞いてるよ」

 

「ユーノ!」

 

 

階級差など放り投げて、ユウヤは救援に駆け付けた仲間の名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TE-13:ダークブルー(3)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウヤ達が乗るボートと同タイプの、しかし原動機付きという決定的な違いがあるゴムボートに乗ったユーノが3人の乗るボートのすぐ隣に滑り込んできた。砂漠の中のオアシスを発見した遭難者の様な気分ですぐさま現状報告。

 

 

「ロープはあるけど引っ張っていくには波が強過ぎて転覆の危険性が強すぎる。何とかこっちのボートに乗り移れないかな?」

 

「そうするしかないか」

 

 

波風が激しい最中ではそれもまた難しくはあったが、大波の最中ロープ1本だけで高速巡航するボートに振り回されるよりはまだマシ(ある程度速度を出せなければ海流に逆らい切れず前に進めない)なので、さっそく実行に移す。

 

万が一スクリューに巻き込まないよう原動機を完全に停止させてからユーノが3人の乗るボートの側面に張られているロープを握り締めて接舷し、波による船体の揺れのタイミングを読んでからまずユウヤがユーノのボートに乗り移った。

 

 

「俺がボートを押さえておくからユーノはクリスカをこっちに乗せてやってくれ」

 

「分かったよ。篁少尉、彼女をこっちに」

 

「は、はいっ!」

 

 

クリスカの両脇に腕を突っ込み真正面から抱き締める形で唯依が持ち上げる。脱力し切った身体は幾ら軍人の端くれとはいえ女の細腕には酷く重く感じられた。

 

不安定にも程がある最中、苦労しながらもクリスカをボート越しに身を乗り出して手を伸ばしてくるユーノへと渡す事に成功した。唯依の苦労が嘘のようにユーノは両腕の力だけでクリスカの身体を持ち上げ、ボートの底にそっと横たえてみせた。

 

顔の傷を差し引いても女、それも美女と見間違うほど端正な顔立ちの持ち主でありながら今彼が着込んでいるTシャツのすぐ下には極限まで引き締まったギリシャ彫刻のような鍛えられた肉体が隠れている事を、唯依はこれまでの合同訓練(何せ衛士強化装備は迷惑な程にボディラインが浮き出やすい)を経て実感していた。

 

 

「タカムラ中尉、早く乗り移れ!」

 

「いや、先にサバイバルキットをそちらへ!」

 

唯依側のゴムボートに積まれていた蛍光オレンジのバッグを更にユーノに手渡してからようやく唯依も大きく膨らんだゴムボートの縁に足を乗せた。

 

すると丁度その瞬間、大きめの波によって急に下から船体が押し上げられ唯依側のゴムボートが傾き、結果唯依の身体もユーノ側のボートの方へ前のめりになる形となり、その上縁に乗せた足を滑らせ大きくバランスを崩す。唐突過ぎて唯依は咄嗟に反応出来なかった。

 

 

「きゃあっ!」

 

「ぐおっ!?」

 

 

掬い上げられるかのように身を躍らせる羽目となった唯依は真正面からボートを接舷し続けていたユウヤに激突してしまう。濡れた素肌同士がぶつかり合う感覚。気が付くとユウヤの腕の中に唯依の柔らかく温かい肢体が収まっていた。

 

 

「動けないからとりあえず俺の上からどいてくれ……」

 

「す、すっ、すっ、すまないブリッジス少尉!ワザとでは――――」

 

「分かってるよそれぐらい。けどギリギリだったな。今の波で向こうのボートが転覆しちまった」

 

「乗り移ってる間にも大分流されてる。不本意だけど、この分だと元の浜に戻るよりあそこの島に向かって救援を待った方が安全だね」

 

 

雨粒に濡れた眼鏡越しに半ばシルエットと化した小島を見据えるユーノの意見にユウヤも同意する。他に良い選択肢も思い浮かばないし唯依もまたこの意見に肯定の頷きを返した。その顔はやや赤らんでいたが。

 

 

「そうだな、島に上陸して嵐が収まるまであそこで凌ごう!タカムラ中尉もそれで良いな!?」

 

「分かった、その意見に従おう!」

 

 

エンジン全開。強い波風が丁度進行方向に向かって流れていた為に数分と掛からず目的の島に到着する。

 

移動する間にも更に嵐は勢いを増し、空は今や墨汁を垂らしたかの様な暗雲によって完全に覆われてしまっていた。地平線の彼方から響く遠雷の爆撃音。閃光が一瞬だけユーノ達が上陸した砂浜を照らし出した。

 

ユーノとユウヤ、男手2人でロープを使い唯依とクリスカが乗ったままのゴムボートを引っ張り上げる。

 

 

「私も一緒にっ…!」

 

「中尉はクリスカを見ててくれ。ここは俺とユーノだけで大丈夫だ!」

 

 

ユウヤの言葉を証明するように2人がロープを引く度、ゴムボートは引き波とエンジン付きゴムボート+女性2人分の重量に完全に打ち勝つ形でグイグイと砂浜に引っ張り上げられた。

 

これもゼロス達と関わってから(半ば強制的に)行ってきた激しい鍛錬の賜物である。ゼロス達の生身での訓練は歩兵専門の特殊部隊より苛烈なのだ、自然とこれぐらいの体力は付かなきゃやっていけない。

 

……衛士として何か間違っている気がしないでもないが。歩兵一個分隊相手にガチの殴り合いやって勝てるぐらい強くなっていた時は思わず『何やってんだろう俺』と頭を抱えてしまったのは良い思い出だ。

 

ゼロス?彼なら一個小隊どころか一個旅団相手に勝ちかねない。生身で。

 

――――ユウヤのそんな想像が事実であると知るのは余り遠くないかもしれない。

 

 

あっさりと波打ち際よりも内陸寄りにボート諸共引っ張り上げられた唯依は驚きに目を丸くしていた。だがすぐに気を取り直してクリスカの容体を確かめる。

 

 

「容体は落ち着いているがこの天気だ、体温の低下を防ぐ為にも何処か雨風を凌げる場所を探さないと」

 

「ならあそこの崖の麓に丁度良い洞窟があったからそこに向かおう」

 

 

ユーノが提案。彼が指し示した先には確かに崖があったが、暗雲でしかも激しい雨風のせいで崖の当たりは殆どシルエットしか見えず、詳細など判別できない。

 

唯依だけでなく付き合いのの長いユウヤまでユーノの提案を疑ってしまうのも無理は無かった。

 

 

「本当にあそこに洞窟があるのですか?」

 

「これでも『眼』には自信があってね」

 

 

眼鏡の位置を直しながら、ユーノはこんな時でも変わらず笑顔を貼り付けながら擬似生体製の瞳を悪戯っぽく光らせた。

 

 

 

 

 

 

一同は砂浜沿いに広がる森に僅かに入った砂地にした草の生えた一帯を通って崖の麓を目指して歩いていた。雨に濡れた砂浜や草薮が密集した森の中間地帯に当たるその部分は砂浜や草薮のどちらよりも歩きやすく、体力の消耗や怪我などの危険を抑えられる。

 

未だ意識の戻らないクリスカはユーノが背負い、原動機無しのゴムボートに積んであったサバイバルキットを唯依が、ユウヤはユーノが乗っていたゴムボートに積んであったサバイバルキットを背負って進み続ける。またユーノはクーラーボックスも首からぶら下げていた。元々陸釣りだけに飽き足りずわざわざゴムボートを借りてまで釣りをしに沖合に出ていたのだという。

 

1番負担が大きいのは人1人背負っているユーノの筈なのだが、その足取りに疲れなど全く見受けられない。それにどちらかといえばこういった不整地を歩き慣れているような雰囲気さえ漂わせている。

 

そんなユーノを先頭に出発地点から崖までの中間地点辺りまで差し掛かった所で、トラブルが発生した。

 

 

「っく……!」

 

「おい、どうしたんだよ中尉――――っ!」

 

 

僅かな呻き声、吹き荒ぶ雨風の隙間から耳に届いたそれにユウヤが振り向くと唯依が右足を抱え動きを止めていた。

 

 

「足を痛めてたのか!?何時だ!」

 

「ボートを乗り移る時……バランスを崩した際に捻ってしまったようだ」

 

「あの時か…!」

 

 

忌々しげなユウヤの呟きは自分達を振り回す大自然に対し向けられた言葉だったのだが、自分に対し告げられたものと唯依は受け取ってしまい酷く消沈してしまった。

 

そんな唯依の姿を見せられたユウヤは、よほどの事でもない限り凛とした姿を崩そうとしない彼女が蹲ってしまうほど怪我の具合が悪いのかと彼もまた勘違いしてしまい、慌てて駆け寄る。

 

 

「大丈夫なのかい?」

 

「少し休めば大丈夫です。スクライア中尉はブリッジス少尉と共に先に行って下さい。私に構わず彼女(クリスカ)の方の優先を」

 

 

痛みを堪え毅然とそう告げたものの、ユーノとユウヤは唯依の意見に素直に従わずアイコンタクト。

 

どうする?この場に放置していくのは不味いだろうね。日頃の鍛錬とそれほど肉体を酷使していないお陰で体力的にまだ己に余裕があると判断したユウヤは決断した。

 

 

「いや、俺が運んでやる。アンタはジッとして楽にしてればいい」

 

「んなっ!?だ、だがしかし!」

 

「しかしも菓子もねーんだよ!手は空いてんだ、一々拾いに戻って来るよりこうして運んだ方が逆に手間がかからないだろうが」

 

「けどそれでは少尉の負担が大き過ぎるのでは…」

 

「大丈夫だ、問題ない。これぐらいの事でへばってちゃウチの上官達にゃついてけねーんだよ」

 

「そ、そうなのか……」

 

 

乾いた笑みを浮かべながらそんな事を言われてしまった唯依は額に雨粒以外の水滴を浮かべてから軽く溜息を漏らし、ユウヤに向けて手を伸ばした。

 

 

「なら世話にならせてもらおう。肩を借りるぞ」

 

「ちょっと待ってくれ、少し調節する必要がある」

 

 

ユウヤは唯依が背負っていた分のサバイバルキットを自分が背負っていた分と反対側、負い紐が胸の前で交差するようにたすき掛けに背負った。両手が自由になった所で唯依の元に屈み込む。

 

 

「よっと」

 

「一体何を……きゃあっ!!?」

 

 

問答無用で横抱きに持ち上げられた唯依は間抜け且つ可愛らしい悲鳴を漏らしてしまった。

 

今の唯依は完全無欠の御姫様抱っこ状態。一瞬思考停止した後再起動を果たした唯依の頭は顔面から耳に至るまで赤く染まり、突然のユウヤの暴挙に文句を言おうとしてすぐ目と鼻の先にきりっと引き締めたユウヤの顔が位置している事に気づき再び固まる。

 

背中と膝裏の固く膨れ上がった両腕の感触と意外と分厚い胸板の逞しさが無性に敏感に伝わってきた。女としての本能が否応無しに刺激されて、僅かに胸の奥がキュッとなるのを漠然と自覚しながら、年頃の美女と密着しながらも表情を変えずに前方を見つめるユウヤの横顔に唯依は僅かの間見惚れてしまった

 

……なのでユウヤもユウヤで想像以上に軽くも柔らかい唯依の肢体の感触を出来るだけ無視しようと内心いっぱいいっぱいだった事に、唯依は気付けないのであった。

 

その後唯依は洞窟に到着するまでお姫様抱っこのままユウヤ手ずから運ばれる事となり、その顔は何故か熱湯風呂から出たばかりの様に――――そして何故かユウヤも同様に真っ赤に頬を染めていたとかいなかったとか。真実は定かではない。

 

ただ一部始終を目撃したユーノは仲間達にこの時の出来事を語ってみせる度、独特のアルカイックスマイルを楽しそうに深くするのであった。

 

 

 

 

 

 

小島に辿り着いて既に数時間が経過していた。

 

なるべく風雨に曝されていない薪になりそうな枝木を集め、サバイバルキット内に在った着火剤を使って洞窟内で火を焚くとようやく風雨で冷え切った身体が温もりを取り戻していくのを唯依とユウヤは自覚した。未だクリスカの意識は戻っていない。

 

唯依とクリスカが乗っていたゴムボートに積んであった分のGPS発信機はうんともすんとも作動する様子を見せなかったものの、ユーノのゴムボートに積んであったGPS発信機は正常に作動している。嵐が通り過ぎ日が昇り次第再びゴムボートで海に繰り出し、元の浜に戻ればいい。もしくは出発するより先に救援が駆け付けてくれるだろう。食料や水も一晩過ごす分には十分なので、今の唯依達の間に然程の深刻さは漂っていなかった。

 

一心地付けた途端押し寄せてきた安堵感に思わず嘆息を漏らした唯依は、ユーノがびしょ濡れのTシャツを上に着たままである事に気づいた。ユーノの格好はユウヤの物と似たようなカーゴパンツタイプの水着にやや厚手の無地のTシャツといった格好で、下はともかく上だけでも乾かさねば体力を奪われかねない。

 

 

「スクライア中尉、その濡れた衣服も乾かすべきだ。脱いだ方が良いのでは?」

 

 

唯依の指摘にしかしユーノは首を横に振って拒否する。

 

 

「いや、僕は平気だよ。気にしないでくれて構わないさ」

 

「何言ってるんだ、ユーノも無理してないで脱いで乾かせよ、それ」

 

 

そこにユウヤも唯依の援護に加わると、こちらを見つめて無言の圧力をかけてくる2人の姿にやれやれと頭(かぶり)を振りつつ、観念したかのように苦笑しながらTシャツの裾をまくり上げた。

 

途端、息を呑む音が微かに聞こえた。発生源は唯依。気が付くと唯依は口元に手を当て、傷だらけのユーノの肉体を凝視してしまっていた。

 

彼女の視線の先にある露わにされたユーノの上半身は、大量の古傷に覆われていた。只の傷ではない、極限まで引き締められた筋肉を薄く覆う皮膚一面に爆弾の破片によって生じたあばた状の大小様々な傷痕や明らかに銃創と思しき丸型の古傷が何個も何個も刻まれていた。

 

データ上ではユーノは難民出身の衛士であるとされていたが、このような傷痕の数々はただの難民上がりの兵士が負うようなモノではないと断言できる。

 

強化装備では着色された被膜部分に傷痕が隠されてしまうので、更衣室を共有しているユウヤやヴァレリオ達はともかく唯依達女性陣は彼の傷跡に気付く事が出来なかったのだ。

 

 

 

 

――――彼は一体どのような生涯を送ってきたというのだ?

 

 

 

 

「中尉、その傷は……」

 

「何、どうって事ないさ。単なる過去の古傷だよ」

 

 

軽い口調とは裏腹に、ユーノの声色にはこれ以上触れさせないだけの何かが見え隠れしていた。ユウヤも何を言おうとしない。

 

唯依にはこれ以上問い詰める覚悟が湧いてこなかった。あそこまでの傷、どれだけの修羅場をくぐってきたのか唯依には全く想像もつかない。

 

呆然としている間に脱いだTシャツを熱気が当たり易い位置に広げたユーノは、不意に洞窟の外に顔を向けた。

 

 

「……大分収まってきたみたいだね。ちょっとボートを見てくるよ。忘れ物もしてきちゃったし」

 

「あっ……」

 

 

止める間も無くユーノが洞窟から出て行ってしまう。

 

腰を下ろしていた唯依は足首を痛めているのも忘れて彼を追いかけようと立ち上がりかけたが、ユウヤに肩を押さえられて断念させられた。

 

見てはいけない物を見てしまった錯覚に陥り、縋る子供のように不安定に揺れる唯依の瞳がユウヤを捉えた。

 

 

「ブリッジス少尉、スクライア中尉は一体――――」

 

 

だが唯依の疑問はまたも途中で途切れさせられる。

 

新たな女の呻き声がすぐ傍らで聞こえた。ハッとなって2人が注目すると、クリスカが目を開けてゆっくりと周囲を見回しつつ、緩慢な動作で身体を起こす所だった。。

 

 

「気が付いたのか、ビャーチェノワ少尉」

 

「ここは……私は……?」

 

「ゴムボートで競争やってる最中に急に意識を失ったんだとよ。嵐が来たから近くの島に上陸して嵐を凌いでる」

 

「ユウヤ…ブリッジス?貴様が何故ここに……」

 

 

何でフルネームでしかも呼び捨てなんだ?そう聞きたいのをグッと抑え、ユウヤは現在の状況とここに至るまでの詳細を唯依と共に聞かせていった。

 

 

「今はユーノがボートの様子を見に――――」

 

「ユーノ・スクライア……だと!?」

 

 

急に目を見開き表情を一変させるクリスカ。尋常ではないその反応にユウヤと唯依は疑問を抱かざるを得なかった。

 

そういえば昨夜の交歓会でもイーニァがタリサ共々鉄拳制裁付きの御叱りを受けていたにも関わらず、クリスカはユーノを前にしてまるで蛇に睨まれたカエルの様に凍り付いていたのをユウヤは思い出した。

 

もしやユーノとクリスカの間にはユウヤ達の知らない因縁でもあるというのだろうか?

 

 

「なあ、お前とユーノって一体どういう関係なんだ?どうしてユーノにだけそんなおかしな態度を取るのか、理由を教えてくれ」

 

 

率直なユウヤの問いに対し、クリスカの返答はユウヤを嘲笑うかのような――――だがその裏側に怯えの感情が見え隠れする、僅かに引き攣った笑みだった。

 

 

「何だ貴様、あの男の事に付いて何も知らないのか」

 

「んだと?」

 

 

激昂しかけたユウヤを今度は逆に唯依が彼を手で押さえ止める。

 

 

「良ければ、私にも教えてくれないか。ビャーチェノワ少尉はスクライア中尉について私達の知らない一体何を知っているのだ?」

 

「…………あの男の中にあるのは、闇と死だ」

 

 

少しづつクリスカは白状していく。

 

 

「たくさんの血、たくさんの死――――あの男(ユーノ)の中には大量の『死』と深過ぎて引きずり込まれてしまいそうな程の『闇』しか見えなかった……!!」

 

「何を言ってるんだお前……」

 

「……教えて欲しいのはこちらの方だ、ユウヤ・ブリッジス」

 

 

 

 

あの男は――――あいつらは一体何者(・・・・・・・・・)なんだ?(・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、小島の海岸。

 

 

「こちらハミングバード、イレギュラー(スクライア)を発見。単独の様だ」

 

『…マザーシップよりハミングバード。排除して構わん。死体は誰にも見つからないよう適切に処理しろ。以上』

 

 

ボートが係留されている砂浜近くの森の中に、沖合の海底に潜む潜水艦からSDV(特殊作戦用小型潜水艇)を用いて嵐の海を乗り越え上陸を果たした武装した男達が潜んでいた。

 

潜水艇の定員上たった4人の小規模なチームに過ぎないが、この小島に辿り着いた目標はどれも水着姿で武器の類など全く持ち合わせていないという情報なので然程脅威ではあるまい。むしろ決して証拠を残さず見つからない事により重きを置いて行動していた。

 

彼らが見つめる先には乗ってきたゴムボートに上半身を突っ込み、何かを探している様子のユーノの姿があった。男達がゴムボートの綱を解いて島からの脱出手段を奪おうとしていた丁度その時、ユーノがやって来たので森の中に隠れたのである。

 

幸いにも足跡の大半は打ち寄せる波や雨粒は大分減ったものの未だ強く吹き荒ぶ風によって散らされたのでユーノが気付いた様子は見られない。

 

 

 

 

――――現実には上陸当初から島中にばらまかれていた不可視化されたサーチャーが男達の姿を鮮明に捉え続けていたのだが、『魔法』という存在を与り知らぬ男達に気付けと言うのは酷な話だ。

 

 

 

 

ユーノの背中に消音器(サイレンサー)を取りつけたアサルトライフルの狙いを付けようとした仲間をリーダー格の男が制止する。

 

 

「急所が狙えないし死体に無駄な痕跡を残さない方が良いだろう。静かに忍び寄って素手で仕留めろ」

 

「了解」

 

 

忍び寄る足音は強い波風の音が掻き消してくれる。ナイフすら抜かず男は森から抜け出ると少しづつユーノの背中へとにじり寄っていく。

 

幾ら鍛えているとはいえ相手は衛士、元々人間やBETA相手に生身で戦う事を強いられる歩兵部隊の一員だった男はたかが衛士1人の始末ぐらい簡単な事だと思いつつ、優男の首を捻じり折れるまで残り3mの距離に近づく事に成功した。

 

後は一気に襲い掛かってその細い首に両腕を回せば良いだけの話――――

 

 

 

 

気が付くと銃口を真正面から覗きこんでいた。

 

 

 

 

「えっ」

 

 

最期に見たのはサイレンサー付のファイブセブン自動拳銃を自分に突き付ける優男の笑顔。

 

大部分が抑制された銃声と共に眉間に穴が生じ、後頭部から弾丸と共に中身の破片が飛び出していく。

 

身を起こすと同時に振り返りながら銃を構えたユーノは『仲間が殺された』と男達が理解し1人目の死体が崩れ落ちるよりも早く森に向けて片手で連射。一見無造作に放たれた弾丸はしかし的確に森の中に隠れていた男達の急所を撃ち抜いた。

 

 

「ばか、な」

 

 

それが隊長の遺言となった。

 

 

「殺しの年季が違うんだよ」

 

 

言い返す様にユーノもそう呟いてから後始末を始めた。

 

死体は装備や無線機ごと転移魔法で遥か彼方の海上に投棄すればいいだけの話だ。血痕も雨風が洗い流してくれる。

 

 

 

 

 




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